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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)
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第九話「【闇ギルド】の刺客」

ギルドとは同業者の互助組織であり、様々な職種でそれぞれギルドは存在した。


冒険者ギルド然り、海運ギルド然り、その他有りとあらゆる事にギルドは存在したが、その中には表にはその姿や存在を出さず秘密結社化するものも存在した。


【闇ギルド】もその一つと言われているが、その存在を裏付ける証拠は何も無く、そこに所属するという人間も確認された事は無かった。


だが、様々な犯罪や事件の裏には常に【闇ギルド】の存在が実しやかに囁かれ、ほとんど都市伝説化した組織であった。


その幻のような組織の一端が、目の前に存在しているとアリスは言ったのだ。


アリスの言葉を聞いたフードの集団は黙して語らなかったが、ゴサロや他の四人は様子が違った。


「【闇ギルド】だと?!・・・俺たちはそんなヤバい仕事に首を突っ込んでるのか??・・・」


「・・・あたしたち、どうなっちゃうの??・・・」


「・・・そんな・・・そんなバカな・・・」


後ろ暗い仕事もこなしてきたであろう面々は、一般人と違いその組織の存在を感じ取る事はあったようで、噂として流れる組織の掟も朧気ながら耳にしていた。


自分たちの運命を悟ったラスキン達は四人は慌てて動こうとするが、いまだ自由に体を動かすことは出来なかった。


中級魔法であるサンダーボルトを受けただけだが、この魔法の特徴は込める魔力量によってその効力を変化させる事が出来る点であった。


元とはいえAランク冒険者への攻撃として、アリスはホンの少しだけ強めに魔力を込めたのである。彼らの体の自由を奪っているのはその結果と言えた。


『アリス。あのフードの連中、殺すなよ。話が聞きたい』


「はい。タロ様」


肩越しに小さな主人と短く言葉のやり取りをしたアリスは、視線をフードの集団から外すことなく横に差し出していたハルバートの石突を地面に突き立てた。


沈黙を守っていたフードの集団のうちの一人が少し前に進み出てアリスを睥睨する仕草を見せた後に口を開いた。


「娘。お前が何を知っているか知らんが、我々が語ることは何もない。お前も含め、ここにいる全員が死ぬのだからな」


その声を聞いたアリス以外の面々は顔面を蒼白にしたが、アリスは先程と何も変わりのない気楽な口調で一言呟いた。


「”ブルートルマリン”、という名に聞き覚えは?」


その言葉を聞いた瞬間、フードの集団に明らかな動揺が走った。


「貴様!何故その名を知っている?!」


後ろに控えていた一人が叫んだが、前に出ていた人物が舌打ちをするのが聞こえると、ハッとした様子を見せて黙った。


僅かな沈黙の後、そのグループのリーダーと思しきアリスに対峙している人物は、静かに言葉を発した。


「それで?その名が何か?」


明らかに今更ではあったが、その人物はアリスの問いをとぼけて見せた。


だが、その後に続くアリスの言葉を聞き流す事は出来なかった。


「その方の最期の言葉、知りたくはありませんか?」


アリスの発した言葉が耳朶に届いた刹那、一気に憎悪の感情がフードの集団を包んだ。


「娘ぇー!楽に死ねると思うなよ!!」


「貴様の知っている事を残らず喋ってもらうぞ!!」


後ろの二人が感情を露わに叫ぶ事を、今回は誰も咎めなかった。そしてアリスの目の前に立つ男は腰に佩いた剣を引き抜くと、


「貴様、一体何者だ?」


とアリスに問うた。


「あなたが知る必要はない事です」


アリスは顔に貼り付けた黒い笑顔を消す事なく問いに答える。


『珍しく定型じゃない答えを言ったな』


どうでもいい事に感心している肩口のタロをひと睨みして黙らせると、アリスはハルバートを

手放した。


ハルバートはすぐさまその姿を光の粒子に変えると程なく消え去ったが、アリスの手には逆手に握られた双剣が握られていた。


「なっ!?」


未だ自由の利かぬ身体で何とかこの場から遠ざかろうとしていた元冒険者集団は、アリスの武器変換を見て言葉を失った。


だが、フードの人物は特に動揺は見せず、珍しいものを見たという雰囲気で、


「なかなか器用な事だな。手品師か?」


などと呟いた。


「旅の美少女占い師ですが、何か?」


と返したアリスの言葉に、


「なるほど・・・」


とうなづきながら行動を開始した。


先ほどまでのAランク集団との戦闘など比べるべくも無いハイレベルな攻防が繰り広げられたが、その動きを完全に追えるものは当事者達しか居らず、元冒険者四人組は言葉を失って目の前の次元の違う戦闘を眺める事しか出来なかった。


フードの集団は全員が男らしく、時折フードの隙間からその姿が垣間見えた。


三人は淀みの無い連携で連続攻撃を仕掛けたが、対するアリスもまるで舞うような動きで攻撃をかわすと、返す刀で連携のほんの小さな隙を突いて攻撃を繰り出した。


四人の攻防は拮抗しているように見えたが、フードの集団の攻撃に次第に綻びが見え始めた。


リーダーの男と他二名はどうやら技量的に僅かに差があるらしく、次第に連携に乱れが見られるようになってきたのである。


次第に押されている事を感じ取ったリーダーの男は、不意にピィーっという笛のような音を立てると後方へ飛び退った。他の二名も一瞬行動が遅れたが、それに倣った。


アリスとの間に少し距離を取って態勢を整えながら、リーダーの男はアリスに話しかけた。


「娘。なかなかやるではないか・・・名を何と言ったかな?」


「アリス」


男達の動作に気を払いつつ、アリスはその問いに端的に答えた。


「アリス・・・いい名だ。ところでアリス。お前に聞きたい」


「・・・」


「我々の仲間になる気はないか?」


思いもかけぬ男の言葉に、その場にいたアリスを除く全ての人間が一様に驚きを表した。特に仲間の二人は納得がいかないらしく、リーダーに食ってかかった。


「ちょっと待ってください!どういうつもりですか?!コイツは明らかにあの方の事を知っている!ひょっとすると仇かもしれない!!納得できません!!」


「その通りです!コイツには相応の報いをくれてやるべきです!!」


声の雰囲気からおそらくまだ年若いと思われる二人は、自分の思いの丈を目の前の人物にぶつけていたが、リーダーが氷のような声音で、


「黙れ」


と一言言うと、それまでの激昂がウソのように収まり、大人しくリーダーの後ろに控えた。


その様子を確認すると、リーダーの男は何事も無かったかのように話を続けた。


「お前のその技量、並大抵のものではないが、今のままではその力を活かす場もあるまい。我々の仲間になれば、いくらでもその場を与えてやれる。そして富も、ひょっとするとアリスが望んでいる我々の秘密も・・・」


男の最期の言葉に、後ろに控えている二人は一瞬ピクリと反応したが、特に言葉を発する事はなかった。


アリスの様子を伺うような素振りを見せながら、男は再度そして強くアリスに働きかけた。


「我々の仲間になれ、アリス。そうすればお前は思いのままに生きられる」


まるで幼い子を諭すように語りかけた言葉を聞いていたアリスはいつの間にか顔を伏せており、その面を伺うことは出来なかったが、よく響く声音で男に問いかけた。


「その提案をわたしが受け入れたらどうしますか?」


「まず、お前は我々と共に生きてこの場を離れる。他の連中は皆殺しだ。子供は連れて行くが、抵抗するなら殺して連れて行く。生死は問わんと言われているからな」


疑問をそのまま口にしたような素直な問いかけに、男も普通の返答を返す、内容はともかく・・・。


その答えを聞いたアリスは別の質問を投げかける。


「では、それを断ったら?」


アリスの問いかけを聞いたリーダーの男は、「ふっはっはっは」とひと際大きな声で笑うと、それとはまったく違う冷えた声音で、


「それはバカのすることだ」


と答えた。


アリスが逡巡していると感じたのか、男は言葉に力を込めて説得にかかった。


「よく考えろ。今の戦いはお前が押しているように見えているが、我々にはまだ切り札がある。その力を解放すれば、どの道お前に勝ち目はない。よく考えるのだ!」


暫しの静寂の後、ゆっくりと顔を上げたアリスはニッコリと笑って答えを口にした。


「そうですか・・・では、やはりお断りさせていただきましょう」


アリスの様子から自分の方へ靡いている感触があったと感じていた男は、あからさまに落胆を現し、


「何故拒む?!」


とアリスに問いかけた。


一方のアリスは笑顔を浮かべたまま、


「あなた方の組織、好きになれそうにありませんので」


と軽い調子で返したものだった。


アリスの雰囲気からまったく相手にされていなかった事に気付いた男は、深くため息を吐くと、


「コイツも馬鹿の類か・・・」


と言って表情を改めた。


「では、死んで己の不明を恥じろ!!」


男はそう叫ぶとフードの中から二本の透明な液体の入った細い棒のような何かを取り出して、後ろに控える自身の仲間に徐ろに突き刺した。どんな構造になっているのかはアリスたちにも分からなかったが、中に入っていた液体はすぐに空になった。


その刹那・・・


「ガァー!!」「グワァー!!」


男の仲間二人は苦しみの雄叫びをあげてその場に倒れ込み、のたうち回った。その場にいる誰もが、何が起こっているのか分からず、ただ恐怖に慄いた・・・男とアリスを除いては。


男のフードはいつの間にかはだけてその相貌が明らかになっていたが、そこには頭髪から眉毛、まつ毛に至るまで全ての体毛が処理された無毛の男がいた。


男の目の周りは隈取りのように黒く太く縁取られ、無毛も相まって不気味な異相がそこにはあった。よく見れば、その隈取は化粧ではなく、刺青の様であり、その異様さが更に男の不気味さを後押しした。


『なんだ?アイツ。気色悪っ!』


タロは男を一目見るなり一言毒を吐いて、アリスとともに地面でのたうち回る2体の生き物を見ていた。


『さてさて、何が出てくるのかな?』


「あまり愉快な仲間たちではないようですね」


黒猫主従は気楽な感じでボソボソと話をしていたが、その場にいるその他の面々は半分恐慌状態に陥っていた。


「な、なんだ、アイツら?!体が・・・」


先程までのたうっていた、二人は既に動きを止めておりゆっくりと体を起こし始めていた。そして、その体は次第に膨れ上がってきはじめ、体を包んでいたフードは既にはじけ飛んでいた。


異様に盛り上がった筋肉とゴワゴワと体を覆う体毛が増殖していき、普通の大人程の大きさだった背丈は既に2mを超え3mに届こうというところだった。


また、その腕は異様に膨れ上がり、他に比してあからさまにに太い2本の腕を持つモノに変化していった。そして、全ての変化が終わったその姿を見たラスキンは絶望の表情で叫んだ。


「げぇー!?ギガントエイプだと??!!なんでこんな所に?!?!」


その声を聞いたジャック他の元Aランク冒険者達も恐怖に表情を引きつらせてその魔物たちを凝視した。


「なんで特Aランクの魔物が2体もいるんだよ!!」


ジャックの叫びも空しく、件の魔物二体は動き始めようとしていた。


一方、ゴサロは、先程のラスキンとジャックの叫びを聞いて、目の前の魔物が噂に聞く超危険な魔物である事を知り、絶望に打ちひしがれた。


特Aランクの魔物とは、Aランク冒険者のパーティが数チーム組んで討伐するほどの強力な魔物である。それが同時に2体も現れたが、こちらには元Aランク冒険者が4人と自分、そして黒服メイドだけである。


黒服メイドは確かに強かったが、普通に考えてあの特Aランクには敵うまいと思われた。


自分の最後を覚悟したゴサロは、腰に佩いた剣を引き抜くと、最後のあがきを試みようとした。


一方、無毛の男は仲間が魔物に変じ終えたのを確認すると、


「分かったようだな。これがこちらの切り札だ。このギガントエイプは、特Aランクの魔物だ」


と誇らしげに語った。その目には狂気が浮かび、再びアリスに視線を向けると面白そうにアリスへ言葉を投げた。


「バカな娘よ。せっかく助けてやろうとしたのに。こいつらを解放したからには、もうお前たちに生き残る術はない。せいぜい苦しめ」


そう言ってまた、ピィーっという音を発した。


その音を聞いたギガントエイプと呼ばれた二体の魔物は、同時にアリスに向かって走り寄った。


その隆々と盛り上がった腕の筋肉は尋常ではない膂力を感じさせたし、実際にギガントエイプは腕の力だけで馬を引きちぎる事も出来ると言われていた。


他の者には目もくれず、わずかな距離を疾駆する2体の魔物はあっという間にアリスへ肉薄する。


その丸太のような太い腕を振り上げた一体がその腕をアリスへと振り下ろすと、続けざまにもう一体が渾身のパンチを同じくアリスの居た場所へ打ち込んだ。その攻撃のスピードは、先程まで繰り広げられていたアリスとフードの男たちのそれと遜色のないものであり、その威力たるや想像を絶するものだった。


誰もがアリスの姿を確認することは出来ず、先程の攻撃で潰されてしまったものと思い始めた時、


ズルッ


という音とともに、一体のギガントエイプの頭が体からずれ落ちて地面に転がり、続けてその体が地面に崩れ落ちた。


「なっ?!」


無毛の男が何が起きたか理解できないでいると、もう一体のギガントエイプも間を置かずにその首を落として絶命した。


「ば、バカな!?あ、あり得ん!!」


男が状況を理解できずに叫びをあげたところへ、


「何か言いましたか?」


と言うアリスの涼しい声が聞こえてきた。


その場にいた全員が呆気に取られて声を方へ視線を向けると、そこには先程のまでの双剣やハルバートではない武器を肩に担げたアリスの姿を認めた。


その手に”斬馬刀”と呼ばれる巨大な両刃剣が握られていた。


「なんだ!その巨大な剣は?!それでギガントエイプの首を落としたとでも言うのか?!?!あり得るかー!!」


男は半狂乱になりながらそう叫んだが、それは無理もない事だった。


ギガントエイプが特Aランクに属する理由は、攻撃力の高さもさる事ながら、その防御力の高さが際立っている事が主な要因となっていた。


ギガントエイプの体毛には魔法の威力を軽減する効果があり、低級から中級の攻撃魔法はほぼ効かなかった。加えて物理攻撃への圧倒的な耐性の高さもあり、この魔物を倒す事は非常に困難を極めた。まして首を切り落とすなどという事は、ほぼ不可能だった。


不可能だったのだが・・・


虎の子の切り札をあっさりと倒された無毛の男は、しばし茫然とした後、怒りのこもった視線をアリスに投げた。


「おのれ!!アリス、貴様、本当に何者だ!?これほどの力と魔法を操るものを私は知らん!!それだけの力があれば、いくらでも栄達は可能だろうが!!貴様の目的はなんだ?!」


「美味しいものを食べて、のんびり暮らす?というところでしょうか・・・あと、本をゆっくり読む時間が取れれば文句ありません」


アリスは男に近づきながら自分の理想の生活を口にする。


男はアリスの言葉を聞いて、呆気に取られると、未知の生物でも見るような目でアリスを見つめた。


「それ程の力を持ちながら栄達を望まんとは・・・」


それは、アリスと男の価値観の違いからくるものだったが、根差すところも目指すところも違えば理解することは不可能だった。


男の近くまで歩を進めたアリスは少し離れた場所に立ち止まると、


「では、【闇ギルド】の事を話してもらいましょうか」


そう言って男に笑いかけた。


アリスの問いを聞いた男は、厳しい表情を更に厳しくさせ、言葉を吐いた。


「貴様が何を求めているかは知らんが、組織の中心にたどり着く事は出来んよ。全ては夢幻の如く、実体のない霞のように目の前にあってもつかむ事は出来ない。虚実の入り混じった世界を理解することが出来るのは、その世界に身を置くものだけだと知れ」


男はそういうと、しばし瞑目して何かを呟いた。


アリスは少し訝しみながら、男にもう一つの問いを訪ねた。


「ところで、あなたの名前を教えていただけますか?あなたも色と宝石を組み合わせたお名前をお持ちなんでしょう?」


アリスの問いを聞いた男は閉じていた眼を見開き、じっとアリスを見ると、不敵な笑みを浮かべてこう言った。


「残念だが、その希望は叶えられん。さらばだ」


男がその言葉を吐いた瞬間、男を中心に急激な魔力の高まりがある事にアリスは瞬時に気付いた。


「みんな、伏せてー!!!」


アリスがそう叫ぶのと、男の体が強い光を発して爆発を起こすのはほぼ同時だった。


その爆発は、半径およそ100mにもおよぶ大爆発だった。


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