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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)
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第八話「Aランクの実力」

アリスと五人の間には僅かばかりの距離があったが、初めに動いたのはジャックだった。


「コイツにAランクってのがどういうもんか教えてやるからよ。お前ら、手を出すなよ!」


平静を装ってはいるが、その内面にはアリスの言葉に対する怒りが渦巻いており、嬲ってやる気満々の気配が感じ取れた。


他の三名は、特に動く素振りも見せず、仲間が仕事を終えるのを待った。


ラスキンは先程の懸念を払しょく出来てはいなかったが、普通に考えればAランク冒険者に敵うものがそうそういるわけもなく、特にジャックの攻撃力は群を抜いている事から、このまま静観することにした。


だが、ゴサロは実際に対峙した時の記憶から、そんな四人の態度に危機感を表した。


「おい!お前たち!全員でかからないのか?!」


ゴサロの言葉を聞いたラスキンは、


「教会騎士団や同じAランク冒険者ならともかく、普通の人間は俺たちに太刀打ちなんか出来ないんだよ。あんたも大人しく見てるんだな」


そう言って再びジャックとアリスを見た。


ジャックはアリスとの距離をゆっくり半分ほど詰めると一気に加速してアリスの側面へ回り込んで死角から肉薄した。


不敵な笑みを浮かべて手にした長剣をアリスに振り下ろすジャック。


加速してからここまでの動作を一瞬で行なったジャックは、やはりさすがAランクの名に恥じぬ力を持っていると言え、仲間の三人はともかく、ゴサロはジャックの動きをまるで追う事が出来なかった。


イリスを含むその場の誰もがアリスの敗北を確信した瞬間、ジャックの剣はアリスの残像を切り裂いた。


「なっ!?」


目の前の黒服メイドが実態の無い残像だとジャックが気づいた瞬間、男は背後から声をかけられた。


「随分とノンビリなんですね?」


「なにっ?!」


声に反応して横っ飛びしながら振り向いたジャックの鳩尾にアリスの前蹴りがヒットし、地面に転がされるジャック。


「グワッ!!」


だが、ジャックも地面を受け身を取って低い姿勢で体勢を整えるとアリスに吠えた。


「クソがー!!何しやがった!!」


一連の攻防を目にした三人の仲間は一瞬呆気に取られたが、直ぐに気を取り直してラスキンが声を上げた。


「おい!全員でかかるぞ!ジャーック!!」


その声で全てを理解したのか、ジャックが体勢を立て直す。


イリーナは背中に抱えた弓を構えて矢を番えると、同時に三本の矢を放った。


カドモスは僅かに後方に下がると魔法の詠唱を開始した。


そしてラスキンは手にした二枚の盾を押したててアリスに突進してきた。


三人のフォローを受けてジャックは再びアリスの死角に回り込もうと動いた。


一方のアリスが虚空に手をかざすと、アリス目掛けて飛んでいた三本の矢がその場で静止し、次々に地面へと落ちた。


「なっ?!」


その様子を見たイリーナは言葉を失い、その場に呆然と立ち尽くした。


「なんだと!?」


他の三人もその事に気づいて驚愕の表情を浮かべ、ジャックは一瞬気を取られた。


「よそ見をしていていいんですか?」


ジャックは耳元に甘い声を聞いた瞬間、背筋を怖気が走る感覚を味わい、反射的に剣を振るったがその剣は虚空を切り裂くだけだった。


盾を前面に突進するラスキンを闘牛士ばりに軽くいなすと、アリスはその巨大なハルバートを振りかぶりジャックへ振り下ろした。


ジャックは大型武器を使った後の隙を狙い、素早くアリスの側面へ回り込もうとした。


「そんなデカイ得物がそうそう当たるかよ!!」


「そうですか?」


「えっ?!」


避けたと思ったハルバートはいつの間にか目の前から迫り、斧の側面部分で殴打され、ジャックはゴムまりのように地面を転がった。


「ジャックー!!」


信じられない光景に我を忘れたイリーナはジャックに駆け寄ろうとするが、いつの間にか隣接したアリスの冷えた笑いに一瞬硬直した後に、ジャック同様ハルバートで殴打され地面に転がった。


この時、後方で魔法の詠唱を行なっていたカドモスが動いた。


「調子に乗るなよ!小娘ぇー!!」


目の前に展開した魔法陣が一際輝いた瞬間、カドモスは特大魔法を放った。


「喰らえー!!メガフレイムランス!!」


上級攻撃魔法の一つの名前をカドモスが叫ぶと、無数の炎の槍が出現し次々にアリスに向かって飛び出した。


命中したと思われる炎の槍は大爆発を立て続けに起こし、辺りはモウモウと立ち昇る煙に包まれる。


「アリスー!!」


保護膜の中で様子を見ていたイリスは立ち上がってアリスの側へ走って行こうとした。だが、前回は何の抵抗もなく腕を出す事も出来たのに、今回は外へ出る事はおろか、腕を出す事も出来なかった。


「なんで?!なんで今日は出れないんだよ!!」


イリスが目の前の膜にどんなに腕を叩きつけても、足で蹴り上げても、優しく跳ね返されるだけだった。絶望感に打ちのめされたイリスはその場に膝を落とすと、


「アリス・・・ゴメンよ・・・ゴメンよ・・・」


と言いながら大粒の涙を流した。


一方のカドモスは、自身の魔法が上手く相手を倒したと見て、


「この爆裂魔法はオーガも爆散させる。跡形も残ってないよ」


そう言って一息ついた。その様子を見てラスキンも緊張を解いた。


地面に転がったジャックとイリーナも何とか身体を起こしてお互いを見やった。


一連の戦闘を間近に見ていたゴサロは信じられないものを見た思いで放心していたが、目下の障害が取り除かれた事に安堵と悔恨の入り混じったため息を漏らした。


だが、弛緩した空気が流れ始めたところに空気を読まない声が響いた。


「ふ〜ん、Aランク冒険者の魔法はこの程度ですか」


その場にいた全員が戦慄の表情を浮かべ、イリスは呆けた表情で声のした方へと顔を巡らせた。


先程まで辺りに立ち込めていた煙が晴れてくると、自身の目の前にガラスのように透明な防壁を展開させたアリスが無傷で姿を現した。


「ば、バカな!最強の爆裂魔法だぞ!!今まで、どんな魔物も一発で沈めた魔法を食らって無傷だとー!!ありえん!!!」


カドモスはそう叫ぶと、詠唱破棄した低位の攻撃魔法をいくつか連続で放ったが、上級魔法に耐えた防壁には何の効果も無かった。


抗う事の出来ない強大な力を前に足掻くカドモスの姿を見ながら、アリスは口元を手で隠すと欠伸を噛み殺した。


一方、自分の魔法の効果が無いと知ったカドモスは顔面蒼白となり、ガタガタと震え始めた。


その様子を見ていたアリスは、欠伸で出た涙を手で拭いながら、


「終わりましたか?」


と穏やかな声音でカドモスに聞いた。


あまりのショックに声も出ない男の返答を了と受け取ったアリスは、


「では、次はこちらの番ですね」


そう言って目の前の防壁を消失させると、新たな魔方陣を展開した。


それを見た元冒険者四人がアリスの魔法への対処を試みようとしたが、アリスの魔法発動の方がはるかに速かった。


「サンダーボルト」


アリスの言葉が紡がれた瞬間、四つの青白い塊が瞬時に四人を捉えた。


「ギャッ!」「うわぁー!!」「キャッ!!」「がぁー!!」


命を奪う程の魔力は込められてはいなかったが、元Aランク冒険者の四人はその場でうずくまり、動くことが出来なくなった。


「そ・・・そんな、バカな・・・」


「俺たちはAランクなんだ・・・こんなバカなことが・・・」


ラスキンとジャックはかろうじて声を発する事が出来たが、残りの二人は息も絶え絶えで声を発する事も出来なかった。


ゴサロは目の前で何が起こったのか理解できず、ただ茫然と立ち尽くした。


暫く呆けていたイリスは、アリスが勝った事に気付くと、喜びの雄たけびを上げた。


「やったー!!アリス!・・・ほんとうに良かった・・・」


喜ぶイリスの目元には、先程と違う涙が少し流れた。


イリスはアリスの近くに行こうとしたが、先程と同じように防御膜に阻まれ外へは出られなかった。


「アリスー!!ここから出してよ!!もういいんでしょう?」


イリスは少し離れたアリスに声をかけたが、戦いに勝利したはずのアリスは、先程までと打って変わって厳しい表情でまた森を見つめていた。


「イリス、もう少しそこにいてください。お客さんはまだ残っているようです」


アリスにそう言われたイリスは、戦に参加していなかったゴサロの事を指しているのかと思ったが、アリスはゴサロとは違う場所をじっと見つめていた。


「時間の無駄なので、さっさと出てきてもらえません?」


アリスはそういうと、右手を森に向けると一言だけ呟いた。


「フレイムランス」


先程カドモスが唱えた攻撃魔法の下位魔法の名前をアリスが唱えると、無数の炎の槍が出現し、森へ向かって飛び始めた。


程なく森に着弾しようとした時、森から飛び出す三つの影があった。


その影は、アリスの魔法で生まれた炎の槍を、その手に持った剣で横一線に切り裂いた。


切り裂かれた炎の槍は、その場で雲散霧消した。アリスが放った炎の槍は、全てフードの人物達によって切り裂かれ、爆発することは無かった。


「やれやれ、もう少し使えると思ったが、使えん連中だな」


「ここまで来た以上、我々で処分せずばなるまい」


「この連中も用済みだな」


新たに現れた怪しげな三人を見たイリスは驚きの表情を浮かべ、元冒険者達は苦しげな中に困惑の表情を浮かべた。


「な、なんだ、コイツら・・・」


ラスキンは辛うじて疑問を声にしたが、その言葉を聞いたゴサロは驚きの表情でラスキン達を見た。


「お前ら、コイツらに雇われたんじゃないのか?!」


それを聞いたラスキンは、


「違う。俺たちはこんなヤツら見た事も無い」


と、辛うじて答えた。


その言葉を聞いたゴサロは理解できないという表情を浮かべて、フードの集団を見た。


「我々が直接手駒に会う事は無い」


「我々が姿を見せるのは、失敗した連中を処分する時とそれに付随する後始末の時だけだ」


「それが組織の掟だ」


それを聞いたゴサロは慌てて叫んだ。


「おい、お前ら!、早く逃げろ!!殺されるぞ!!」


だが、未だアリスの魔法で受けたダメージが残る四人は満足に動くことが出来ず、ゴサロの叫びを聞いた後も、何とかその場を離れようとしていたが、その試みはまるで上手くいかなかった。


「取りあえず、邪魔なものは排除するとしよう」


そう言った一人が腕を振ると、小刀が音を立ててジャックに迫った。


ジャックも満足に動くことが出来ず、誰もが為すすべ無くその光景を見やった。


「「ジャーック!!」」


ラスキンの叫びが、イリーナの叫びが響く。カドモスは声を上げることも出来ない。


僅かな時間でジャックの命が刈り取られようとする刹那・・・


キンッ!


いつの間にかジャックの近くに移動していたアリスが、手にしたハルバートで小刀を防いだ。


「私を置いて話を進めるのは止めてもらえません?」


先程までの厳しい表情は一転、今は蠱惑的な笑みを浮かべてフードの人物たちを見ていた。


「娘。どういうつもりだ?慌てずともすぐに相手をしてやる」


フードの一人がそう言った事に対し、


「せっかく、私が殺さずにいてあげてるのを、あなた方の蛮行を黙って見てると思いますか?それに、あなた方には聞きたいことがあるんです」


アリスはそう言って、フードの三人を見た。


「聞きたいこと?」


目前の誰かが訝し気な声を発するのを聞いたアリスはその笑みを深くして、


「先程、組織の掟、とおっしゃいましたね?あなた方、【闇ギルド】の方々ですね?」


そう言ってその笑顔を黒いものへと変えた。


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