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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)
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第七話「ゴサロの復讐」

森の中の獣道や少し開けた田舎道を通って黒猫主従とイリスは北上を続けた。


下手に田舎の住人にアリスのような美少女が子供と猫だけを連れて旅をしている事が知れると無用の軋轢を生む可能性もあるため、近くに村があってもここ数日は野宿を続けていた。幸い近くには川も流れており、汗や汚れは適度に流す事が出来たのでさほどの不便は感じなかった。


アリスが目指している北部の国家はその名をクノッソス都市国家連合と言った。


10の都市国家が集まり連合国家を形成しているのだが、その内のある都市国家にとても珍しい珍味があると聞いたアリスがそこに行こうとしていたのだ。


「アリスってさ、そんなに食いしん坊なの?そんなに細いのに?」


たかだか食い物の事でそんな距離を旅しようと思わないイリスは、旅の目的を聞いて呆れる反面、その行動力に尊敬の念を抱いたようだった。


「食べ物はとても大事なんです。いいですか、イリス。お金をいっぱい稼ぐことに血道をあげる人がいますが、稼いだお金を何に使うかが大事なんです。豊かな食生活は豊かな人間性を育てるのです。あなや疎かにしてはいけませんよ」


両肩を掴まれ真剣な表情で自分に自説を語るアリスの姿にただ頷くしかないイリス。


そんなイリスの後ろに佇んでいたタロは、


『お前、自分の行動をそいつに正当なものだと認識させようとしてるだけだろ?単に食いしん坊なだけなのに』


やれやれといった苦笑交じりに呟いたが、異様な雰囲気にハッとしてアリスに目を向けると感情の抜け落ちた視線でアリスがタロを見つめていた。


タロは長い尻尾でゆっくりと自分の口をふさぐと、右手を挙げてお口にチャックのポーズを取った。


その様子を見ていたアリスは無言で頷くと再びイリスに視線を戻した。


「ありす・・・その、どうかした?すんげー怖いんだけど・・・?」


そう言われたアリスは視線の種類が先程のタロに向けていたそれと変わっていない事に気づき、イリスを掴んでいた手を慌てて放すと、


「いえ、何もありませんよ。取りあえず夕食の準備をしましょうか」


そう言ってそそくさとその場を離れた。その際、タロへ必殺の視線を送る事も忘れなかった。人睨みされたタロは、その場でしばらく塩の柱の如く動かなかったのだった。



動きがあったのは、アリス達が森に入って4日目の事だった。


そこは近くに村もなく、しばらく無人の開けた高地が広がる場所だったが、アリスはその高地をしばらく進むと突然立ち止まった。


「?アリス、どうしたの??」


アリスの横を歩いていたイリスは、立ち止まったアリスを振り返って声をかけた。だが、黒服メイドはその声には答えず、後ろを振り返って誰もいないはずの場所へ向かって声をかけた。


「この辺りなら邪魔も入らないでしょうから、そろそろ姿を現したらどうですか?」


その言葉を聞いたイリスは、体をビクッと跳ねさせると、アリスの後ろに体を隠した。


「ア、アリス!また変な連中がいるの?!」


イリスの問いかけに応える事無く、後方への視線を外さないアリス。


暫く待ったが誰も出てくる気配が無かった為、イリスはホッとため息をつきながら、


「もう!アリス!やめてくれよ、脅すのはさ~・・・」


と言ってその陰から体を出そうとした。その時、


「来ますよ、イリス」


そう言っていつの間にか手にしたハルバートの巨大な斧の部分を盾のようにイリスの前に差し出した。


カンッ!


キンッ!


続けざまに二つの金属音が鳴り響くと、二本の矢が地面に転がった。


「うっ!?えぇー!?」


身近に鳴り響いたその音と、足元に転がった矢を見て、イリスは驚きの声を上げると再びアリスの陰に隠れた。


その様子を森の中から見ていたものか、数人の男女が姿を現した。


「へぇー。意外とやるな。実際、そこまでのもんとは思ってなかったよ」


がっしりとした体格の男が感嘆の声を上げる。だがそれも、あくまでも格下が思ってたよりはやるという事実を確認しただけの小馬鹿にした感じの賛辞だった。


他の面々もニヤニヤ笑いを顔に張り付け、面白そうにアリス達を見ていた。


「なんだ、そのでっかいハルバート!ほんとに実戦で振り回せんのかよ?」


アリスの体に比してあまりに大きな得物を手にしている姿はある意味滑稽で、意表をつくコケ脅しには最良と言えたが、実際の戦闘でその大きさの武器を振り回すなど考えられなかったため、その男女は特に気にする風でも無かった。


その男女の後ろから、ひと際大きな体をした男が前に出てくるとアリスに向かって吠えた。


「この前はよくもやってくれたな!今日はこの前の様にはいかんぞ!!」


だが、その叫びを聞いたアリスは頭の上にクエスチョンマークを複数浮かべて首を捻ると、疑問をそのまま口にした。


「・・・あなた、どなたですか?」


それを聞いたゴサロは唖然としたのち顔を紅潮させた。


周りにいた他の面々は、一瞬ハトが豆鉄砲を食らったようにキョトンとしたが、次の瞬間には爆笑した。


「あっはっは!!ゴサロさん、あんた認識すらされてないじゃん!!」


「受ける!!こんな小娘にいいように言われて、アンタ本当に人攫いの頭目だったの??」


自分を嘲笑する周りの男女を一頻り睨み返したが、笑い声が収まるだけで顔に貼り付いたニヤニヤ笑いやクスクス笑いは収まらなかった。


ゴサロは改めてアリスに向き直ると、


「その連れてるお嬢ちゃんの件でやられた分を今日は返しに来たぜ!」


そう啖呵を切った。


ゴサロのその言葉を聞いたアリスは、何かに閃いたかのようにポンと手を打つと、


「あぁ、あの木偶の坊さんですね」


そう言って納得した。


アリスの言葉は再び爆笑を誘い、中には悶絶している者が二名程いた。


「あっはーっ、はーっ・・・俺達を笑わせて悶絶死させようって腹じゃないよな・・・くっくっく・・・勘弁してくれよ」


ようやく笑いの収まったゴサロの連れの様子を能面のような表情で見ていたアリスは、


「この前連れていた方々とは違うようですが、あの方達はいないんですか?」


そう目の前の巨軀に問いかけた。


ゴサロの心にはチクリと突き刺さるものがあったが、


「お前には関係ない話だ」


と抑えた声音で返すに留めた。


無表情のアリスは目の前の集団を見回すと、


「じゃ、誰から来るんですか?全員まとめてでもいいですよ?」


と興味なさそうに告げてイリスから少し離れた。


イリスはと見れば、既に前回同様保護膜を展開されており、イリスはそこに座り込んでいた。前回と違う点は、支柱となる部分が今回は4箇所になっており、四角錐の膜が被さっている状態となっている事だった。


もっとも、この事が分かるのは保護されているイリスとアリスと黒猫の三人(?)のみであった。


アリスの言葉を聞いたゴサロ以外の面々は、ニヤついていた顔からスッと表情を消すと、初めに言葉を発した男が、


「おいおい、小娘。口の利き方には気をつけろよ?お前がこの前相手した連中と同じで考えてると大火傷負うぞ?」


そうアリスに凄んでみせた。


「お前には分からんだろうが、俺たちは元々Aランク冒険者のパーティだ。お前が逆立ちしても敵う相手じゃねーんだよ!!」


最後にそう叫ぶと再びニヤついた厭らしい笑いを顔に浮かべて、アリスの姿を上から下まで舐め回すように見回した。


その行動が気に入らなかったのか、男の隣に立っていた女冒険者は少しむくれた表情を見せた後、何かを思いようにニタリと笑って男にこう言った。


「ねぇねぇ、アイツの顔、あたし切り刻んでいい?あんな人形みたいな顔してる奴が泣き叫ぶ声を聞きたいなぁ~」


だが、女の言葉を聞いた男は、眉間に皺を寄せると女の提案を却下した。


「はぁ!?馬鹿かお前は!あんな上玉、何もせずに殺すとかあり得ねぇーだろうが!!」


「あんたそう言って、ちょっときれいな子いるとすぐに手出すじゃないさ!!いい加減にあたしの事も考えてよ!!」


「うるせー!!」


その男と女は付き合っているのか、女の発言を聞いた男がキレだして痴話げんかを始める始末だった。


ゴサロは正直腹立たしい気持ちで怒声が喉まで出かかったが、先程の「元Aランク冒険者」の言葉が脳裏をかすめ、寸での所で踏みとどまった。


元傭兵のゴサロをして抗う事の難しい力を持っているという事が、Aランクたる所以と言えた。


今回ゴサロに同行した元冒険者は全部で4名いたが、残り二名のうちの一人がいつまでも痴話喧嘩の終わらないバカップルに喝を入れる。


「いい加減にせんかー!!」


その怒声に、言い合いを続けていた男女の元冒険者はしばしにらみ合いを続けた後に声を発した仲間に顔を向けると、


「悪かったよ、ラスキン」


と不貞腐れたように謝罪の言葉を述べた。


ラスキンと呼ばれた男はゴサロほど体躯はでかくないが、巌のようなその体は戦士職かタンク職を思わせ、それを裏付けるかのように通常の盾よりも大きな盾が両の手に1枚づつ握られていた。


「ジャックとイリーナもいい加減にしなよ。先方さんもお待ちかねみたいだよ?」


そして、少し後方に控えていた細身の男が仲間に近寄りながら言葉をかけた。


その男の手には杖が握られており、明らかに魔法を使うことが伺われた。


「お前たちも目的を忘れるなよ」


ようやく落ち着いたとみてゴサロが四人に注意を促すが、元冒険者たちはチラッとゴサロを見ただけで、特に声を発する事は無かった。


「・・・それで、お話は終わったんですか?」


目の前の茶番が終わった事に気付いたアリスは、あくびを噛み殺しながら目の前の集団に話しかけた。


「まぁ、俺たち四人でいっぺんに相手することも無いとは思うが、さっさと終わらせてこんなお楽しみの無い場所からはおさらばしようぜ」


先程ジャックと呼ばれた男が面白くも無さそうに仲間に言った。その言葉を受けてイリーナも、


「賛成。あたし、早くお風呂のある所に行きたい」


等と自分勝手な話をしていた。


イリーナはジャックの方を振り向くと、先程まで喧嘩をしていたとは思えない様子で、


「ねぇ、ジャック。こんな山の中に入ってもう3日もしてないじゃん!早く宿に戻って楽しいことしようよ。あたし、何でもするからさ・・・」


そう言って艶めかしい視線をジャックに送ると、一方のジャックも、


「あぁ、速攻で終わらせてやる。お前、今夜は寝かさないからな」


そう言ってイリーナを引き寄せると濃厚なキスをした。


唇を離したイリーナは、


「あたしのジャックはものすごく強いんだから、あんな奴、瞬殺してね」


とおねだりするような声音でジャックに話しかける。


「まぁ、イリーナの頼みじゃしょうがないな」


男はそう言って再びイリーナの唇を塞いだ。


その様子を見ていたラスキンはお手上げだというように肩をすくめた。


だが、杖の男はしばらくイリスを見つめた後、おずおずと二人に声をかけた。


「あー、イチャついているところ悪いんだけど、少し厄介かも・・・」


「カドモス、どういうことだ?」


ラスキンは杖の男をカドモスと呼び、その言葉の真意を問うた。バカップル二人も唇を離してカドモスに視線を送る。


「あの小娘、魔法を使うって話だったけど、どうも防御魔法の類のようだね。みんなには見えないと思うけど、ターゲットは魔法の防御陣のようなもので守られてるみたいだ」


カドモスのその言葉を受けて、元冒険者集団は一斉にイリスを見た。


当のイリスは全員の視線が自分に向いた事から「ヒッ」と小さく叫びをあげてガタガタと震えた。


「なんだよ!簡単に片付くと思ったのに、無駄に面倒だな!」


ジャックは頭をガシガシとかいて一頻り文句をたれると、


「じゃ、さっさとやろうぜ」


そう言ってアリスに向き直り、他の面々もそれに倣った。


その時、目に映ったアリスの姿にラスキンは言い知れぬ違和感を覚えた。


目の前の黒服メイドは、自分達が話をしている間も特に逃げ出そうとはせず、ただ自分たちを無表情に眺めているだけだった。普通なら少しでも自分達から注意が逸れれば逃げにかかるはずだったが、この娘に関してはそういった素振りすら見せなかった。しかも、メイドの肩には、何故か黒猫が乗っていた。


ラスキンの元Aランクの勘が嫌な汗を背中に流させた。


そんな僅かな沈黙の後、アリスが口を開いた。


「”井の中の蛙”、という言葉をご存じですか?」


アリスが何を口走ったか理解出来なかったジャックが、


「あ?なんだ、そりゃ?」


と返すと、アリスは表情を変えず、イリスに話しかけた。


「イリス。先日、食は大事だという話をしましたが、知識も同じぐらい大切です。正しく知識を身に付けないと、この目の前のおバカさんたちのように身を滅ぼします。ちゃんと、本を読むのですよ」


突然そんな事を言われたイリスも当惑したが、明らかに馬鹿にされたと気づいたジャックは、


「あぁー!?なんだと、コラッ!!」


と怒りを吐き出した。


アリスはジャックの様子に頓着したところも見せず言葉を続けた。


「”井の中の蛙、大海を知らず”。自分だけの狭い世界では王様だけど、世界はまだまだ広くて、そこには自分よりも強者がいるという事を知らない、といったような意味です。あなたのようにね」


そう言って、アリスは口の端をゆっくりとつり上げた。


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