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第零話「プロローグ」
それは小さな恋の物語。
幼き日の約束を胸に生きてきた少女の夢は、ある日唐突に砕かれた。
どんなに抗おうとしても、抗うことの出来ない現実が、彼女を絶望へと誘う。
家族のために自らの気持ちにふたをして生きる事を一度は決意した少女だったが、
幼かった恋心は会えない年月を経て真の愛へと変わっていた。
その事に気付いた時、彼女は自分を偽る事が出来なくなった。
彼女にできる唯一の事は、自分の姿をこの地から永遠に遠ざけること。
自らの信じた愛に殉じるため、ひっそりとこの場から姿を消す事だった。
誰にも何も告げず、お互いの名すら交わさなかった愛しい人に別れを告げることも出来ず
ただ、彼女は慣れ親しんだ場所を離れた。
後にはただ、謝罪をしたためた両親への言葉と自分の思いのたけを表した宛名の無い恋文。
それは小さな恋の物語・・・そして真の愛の物語。




