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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第四章 神々の邂逅と偽りの錬金術師(アルケミスト)
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第十六話「二冊の本」

街に戻った二人は、宿の自分達の部屋へ戻ると、食事を取ることも無く、そのままベッドへと倒れこんだ。


タロが目を覚ましたのはお昼近くになってからであったが、アリスは既に目覚めていたらしく、自身の主が目を覚ますと、


「おはようございます、タロ様」

とにこやかに朝の挨拶を述べた。


「……おはよう、アリス」


 昨夜の事など微塵も感じさせない普段通りのやり取りをしながらタロは、


(あれだけ怒り狂ってたのに朝には何事も無かったように振る舞うこの姿。あの幼かったアリスも大人の女になったんだな……)


等とアリスの成長に感慨深いもの感じていた。


 そんなタロの様子を見ていたアリスは、その顔に笑顔を張り付かせたまま若干黒いオーラを醸し出して、


「……タロ様?何か失礼な事を考えていませんか?」


主人の顔を覗き込みながら問いかけた。


 タロは笑顔の従者が一瞬だけ見せた鋭い眼光に気づかぬふりをしながら、


『……夕べから何も食ってなくて腹が減ったな、と思ってるところだよ』


 そう当たり障りのない返答を返した。


 もっとも、その内心は要らぬ事は考えぬようにしようという自戒であった事はタロ以外知らぬ事である。


 遅い朝食を取るべく主従が階下の食堂に姿を現すと、五十がらみの宿の主人からアリスに声がかかった。


「おう!嬢ちゃん。昨日は帰りが遅かったから渡さなかったが、アンタに預かりもんがあるよ」


「預かりものですか?」


 そう怪訝な顔で問いかけるアリスの声を背中に聞きながら、宿の主はカウンター後ろの棚からゴソゴソと包みを一つ取り出しアリスに手渡した。さほど大きくは無い長方形の紙の包みだったが、見た目に比して若干重量を感じた。


「これは誰から?」


 アリスがそう問うと、宿の主は若干眉間に皺を寄せてアリスの問いに答えた。


「嬢ちゃんの知り合いだと言うとったが、嬢ちゃん、あんな軽薄そうな男と付き合っとるのか?ありゃダメだ。止めといた方がいい。嬢ちゃんが泣きを見る目に遭うぞ?」


 何となく誰なのか想像はついたが、念のため


「もしかして、赤毛の若い男でしたか?」

とアリスが確認すると、


「やっぱりそうなのか?悪いことは言わん。あんな男とは縁を切った方が良い」

そう宿の主人から返答が帰って来た。


 特に主人が心配するような関係では無いのだが、まるで娘を諭すように熱く語るその主人を見ているうちに思わず笑みがこぼれたアリスは、


「心配してくださってありがとうございます。あの方とは単なる知り合いで特に深いおつきあいはありませんから大丈夫ですよ」


 そう言って宿の主人に笑いかけた。


 一方の主人の方は、こんな美少女に笑いかけられる事など無かったのか、一気に顔が赤くなり、


「いや、まぁ、それならいいんだ。あんな軽薄そうな男に嬢ちゃんは勿体ないって思ってな……あぁ、朝飯だよな?いや、もう昼飯か?まぁいいや、すぐに準備するから!」


等と若干しどろもどろになりながら厨房へと姿を消した。


『宿の主人ってのは純情なのが多いのか?』


 以前もアリスと接して顔を赤らめた宿の主人がいた事を思い出し何気に感想を口にしたタロだったが、


『それはさて置き、その包みを調べるか』


「はい、タロ様」


 そう言って、アリスと二人一番奥まったテーブルに納まると、先ほどの包みに改めて目を向けた。


『アリス、触った感じはどうだ?』


 そう問われたアリスは、手に持つその包みを少し振ったりもしてみたが、特に変わった様子は無かった。


「振っても音はしませんし、箱に何かが入っている感じでもありませんね。開けてみますか?」


『このまま考えを巡らせていても始まらんし、取りあえず開けてみようか』


 意を決した主従が包みを開けると、そこから出てきたのは二冊の本だった。


 少し拍子抜けした二人だったが、そこに書かれた作者名を見て目を見開いた。



《ニコラ・フラメル》



 改めて本のタイトルを見ると、【賢者の術概要】と【象形寓意図の書】と書かれていた。


『これはもしや……』


 そう呟いてタロがアリスに本の中を見せるように告げると、アリスは【象形寓意図の書】と書かれた本を手に取ってページをめくった。


 中には意味の良く分からない絵や図画が多く描かれ、その横に説明をする文章が付随していたのだが、その文章も今一つ意味が分からないものだった。


 別の一冊はほぼ文章で構成されていたが、こちらも普通に読んでいては何のことだかさっぱり分からない内容であった。


 両方を見たタロは深いため息をつき


『なるほど』

と呟いた。


「タロ様。これは一体……?」

そう問うた従者にタロは種明かしをする。


『これは、どちらも錬金術の教本だ』


「えっ!?これがですか??でも、読んでいても何が何だかさっぱりですが……?」


『まぁ、そうだろうな。ここに書かれているのは、隠語のようなもので錬金術の仕組みを説明しているのさ。普通の人間が読んでもさっぱりだろうが、もしこの裏に隠されたものに気づく人間がいれば、錬金術の秘術を手に入れられるかもしれん……』


 そう言うとタロは少し目をつぶって何かを考えている風であった。


「これを私たちに送ったのは何故でしょう?」


暫く瞑目していたタロは、アリスのその問いかけに閉じていた目を開けて答える。


『……恐らく、錬金術に関するあの取り決めは無効だ、という事なんだろうな』


「えっ?どういうことですか?」


 主の発言に驚きと疑問で答える従者に黒猫が解答を出す。


『もうこの本が出回っている、という事なんだろう。普通の人間にはさっぱりな内容だが、聡い者の中にはここに隠された意味を見出すものがいるかも知れない』


 そう話す主の顔を見ながら、おやっとアリスは思った。


 先程まで何かを深く考えて沈んでいるように見えたタロだったが、今はいつものタロの様子に戻っていると感じたのだ。


「何かお分かりになったのですか?」


 長く主と共にあるとは言え、主のすべての考えが分かるわけでもない。自分の敬愛する主は、その姿は獣になったものの、その頭脳は自分では到底及びもつかない深謀遠慮を巡らせている事を知っているアリスは、主が見ているであろう景色をいずれ自分も一緒に見ていたいという思いから、事ある毎に主にその見識の披露を求めた。


 また、タロも従者のその願望を知ってか知らずか、アリスにも分かるように自分の考えを披露していた。


『あいつが何を考えているのかは分からん。だが、俺達は少し考えすぎていたのかもしれん。』


「それは……?」


『確かに錬金術は禁忌に触れる可能性がある。だが、初めから可能性があると言うだけで、すべてを排除していたら、何も残らん。それを持って身の破滅を招くかどうかは人間次第という事だろう』


 そう言ったタロはニヤリと笑って『それに……』と付け加えた。


『そもそも人間はそんな方法を使わなくても、自然の摂理で人間を生み出すんだから結果は同じことだろう?』


 そう言って笑った。


 一瞬、主が何を言ったのか分からなかったが、その意味する所に気づいて顔が赤くなるのを感じたアリスは、


「もう!下ネタ禁止です!」


 そう言ってタロをジト目で睨んだ。


 従者の視線を受けて


『下ネタではない。真面目な話さ』


 苦笑しながらそう答えるタロだったが、まじめな表情を作ると、


『どちらにしろ、一度開示されてしまった情報はもう完全に隠すことは出来んのだ。後はどうなるのか見守るだけなんだよ』


 そう言ってテーブルに置かれた二冊の本を見た。


「そうですね」


 アリスも主の言葉に同意すると、同じように手元の本に視線を落とした。


 その後、間を置かずに運ばれた朝食兼昼食を食べたタロとアリスの主従は、一つの気がかりはあるものの、大方自分達の目的は果たされたのでこの町を離れる事を決め、宿の主に引き払う旨を伝えた。

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