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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第四章 神々の邂逅と偽りの錬金術師(アルケミスト)
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第一話「等価交換」

 二人がその話を聞いたのは偶然に過ぎなかった。


 次の行き先をどこにするか決めるため、小さな宿場町へやって来た一人と一匹。


 この町には不似合いな美少女を、道行く人々が振り返りその後姿を追う。黒を基調としたフリルやリボンをあしらったメイド服を身にまとった銀髪の美少女ことアリスは、そういった周りの視線を一切気にすることなく、肩に乗せた黒猫に何事か話しかけている。少女の肩に乗った黒猫は異様に長いしっぽを揺らしながら少女の言葉に応えているように見える。


 傍から見れば、少女が一方的に話しかけ、それに応えてニャーニャーと鳴く猫にしか見えないが、黒猫は少女の言葉を理解し、少女は黒猫の言葉を理解できる。この二つはそんなふうにできている。

 

『次の行先は俺が決めるからな』


「別に構いませんが、いつぞやみたいな、あまり突飛な場所はやめてくださいね」


 アリスの言葉に怪訝な表情を浮かべて黒猫…少女の主人であるタロは問いかけた。


『どこの話だよ、突飛な場所って?』


「この前行った港町、幼い少年を男娼に仕立てて外貨を稼いでいるそうですね?まさか、ご主人様にそのような趣味があったとは、私もうかつでした」


 思いもかけない爆弾を落とされ驚愕の表情を浮かべるご主人様を一瞥し、意味深な笑みを浮かべる従者である。


 その港町での些細な事件が脳裏をよぎったタロは、大いにうろたえた。


『なっ!?それは俺の知らない情報だぞ!どこでそんな話を!?』


「そういう事にしておきましょうか。大丈夫ですよ。ご主人様があまり人には言えないような趣味を持っていらしても、私は見捨てませんから」


 そう言うとアリスは、もう話は済んだとばかりに目の前に近づいてきた馬車乗り場へと視線を移す。


『ちょっと待て。誤解のないように言っておくが、俺にはそんな趣味は無いからな?』


「はいはい、分かってますよ」


『それ、絶対わかってないやつだよね!?』


 そんなどうでもいい会話を続けながら、二人は乗合馬車が屯する乗り場へとたどり着いた。


 それぞれの馬車の行先を訪ねようとしたその時、二人の耳に男の素っ頓狂な声が飛び込んできた。


「何だって?道端の石ころを金塊に変える男がいる?」


 そのセリフを聞いた瞬間、二人の表情は一気に真剣なものへと変わった。


 見すぼらしい恰好をした件の男は、先ほどの話の続きを仲間と思しき男女数名と話しているようだった


「馬鹿言え。そんな事が出来るわけがないじゃないか。そんな事が出来るなら、今頃そいつは大金持ちだろう」


 男の話を聞いていた別の男が、はなから話にならんとばかりに手を振って話に終止符を打つ素振りを見せる。


「そうだよ。聞けばその男は、随分小汚い恰好をしていたそうじゃないか。あんた達、その男に一杯食わされたのさ」


 一緒に話を聞いていた年配の女性もデタラメだと決めつけたらしく、男の話を切り捨てた。


 初めにその話を振ったらしい男は自分の話を信じようとしない男たちに食い下がって、


「そうは言うが、道端にあった石を拾って目の前でその石を金に変えるところを見たやつがいるんだよ!」と言ったが、自分が聞いた話が本当のことだと信じてやまない男の事を別の男がバカにしたように眺めて言葉を投げた。


「お前自身が見たわけじゃないんだろ?なら、お前が担がれたって方に俺は銀貨1枚かけても良いぜ」

そう返された男は少しムッとした表情を浮かべ、自分に言葉を投げた男にこう答えた。


「言ってろ。銀貨どころか銅貨を持ってるかすら怪しいくせしやがって!」


「何を!」


「何だ?やろってのか!?」


「あのう・・・・・・」


 次第に剣呑なやり取りをしだした男達に声をかけあぐねたアリスに気づいた年配の女性が、


「どうした、お嬢ちゃん。あぁ、この人達なら気にしなくていいよ。いつものやり取りだからさ」

と声をかけてくれた。


「いえ、お伺いしたいのは、今話に出ていた石を金に変える男の事です」


「何だい、お嬢ちゃんもそんな与太話を聞きたいのかい?こいつらの話を聞く時は眉に唾塗って聞かないとダメだからね。」


 そう助言をくれる女性に曖昧に笑みを返し、初めにこの話を振ったと思しき人物に話しかける。


「石を金に変えるというのはどんな男なのですか?」


 自分の話に興味を持ってくれた、しかもどうみても絶世の美少女が、という事実にあっという間に有頂天になった件の男は、若干どもりながら答えた。


「み、身なりは見すぼらしかったが、ま、まだ若い男って事だったよ。金髪って話だったが…」

それを聞いたアリスは、更に男に問いかける。


「その人の名前はわかりますか?」


「いや、名前は聞いてねぇ。何でも、その石を変える術を見せた後に、これから自分がやる仕事の手伝いをしてくれたら、この術のやり方を教えるとか言ったそうだ。」


「術…ですか?」


 男の話を聞いていたアリスとタロの表情が次第に険しいものに変わっていったが、男はその事には気づかず話を続けた。


「あぁ、なんか……レン何とか術って言ったかなぁ?」


 そう聞いた瞬間、アリスはすかさず問いを重ねた。


「ひょっとして錬金術ですか?」


「あぁ、そうそう。そのレンキ術って奴だ。お嬢ちゃん、よくそんな言葉知ってたなぁ?」


 自分達の予想が悪い形で当たった事にやるせなさを感じる二人だったが、そんな内心を隠しながら、


「昔、物知りの知り合いに教えてもらっただけですよ。それで、その男に誰かついて行ったのですか?」

と話の経緯を確認した。


「4〜5人ついて行ったって事だったよ。俺のツレもだいぶ悩んだらしいんだが、結局悩んでる間にそいつらは行ってしまったらしいよ」


「そのついて行った人たちは今どうしているんですか?」


「それがよぅ、誰も帰ってきてないらしいんだよ。ついてった奴の中には、俺のツレの知り合いもいたらしいんだが、その後、行き方知れずになってるって話なんだ」


 大方、予想通りの展開になっている事を知った二人の行動は早かった。


「その町の名前を教えてもらえませんか?」


 そう言いながら銀貨を1枚手渡すと、男は満面の笑みで町の名前をアリスに告げた。

男から情報を得た銀髪の少女は礼もそこそこに、今聞いた町へ行く馬車を求めて馬車乗り場へと移動して行くのであった。


 最初にその話をしていた男女の集団は、それらのやり取りを黙って見ていたが、少女が居なくなるや、

「あいつ!うまいことやったね!あんな与太話で銀貨1枚もせしめやがったよ!」と、アリスに声をかけた年配の女性が驚きの声を上げた。


「あの嬢ちゃんの様子、尋常じゃ無かったが一体何だったんだ?」


 男の事を馬鹿にしていた男は、アリスの只ならぬ雰囲気を察してか、若干緊張気味に言葉をこぼす。

と、そこでその集団はある事に気づく。


「あれ?さっきの男はどこに行った?あの石を金にって話を最初にしだしたヤツだよ」

ふと、一人が辺りを見回し声をあげた。


「さっきまでそこにいたと思ったけど。あんた、知り合いじゃなかったのかい?」

年配の女性は、最初に男にダメ出しをした男に尋ねた。


「いや、急に話しかけられてよぉ、石ころが金に変わるって話聞かされたもんだから興奮しちまって……」


「何だい、知り合いでも何でもなかったのかい?」


 呆れながらそういった女性は、しかし若干訝しげに


「一体、誰だったんだろうねぇ?……」


 と呟いた。その後、その人物がそこに現れることは二度と無かった。


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