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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
寄り道Ⅲ(ノーコンティニュー)
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第世話「異世界へ転生したチートの独白 Ⅱ」

 ここは次の街に向かう為に選んだ参道。人通りもそこそこあり、旅の冒険者や商人と気軽に挨拶を交わしながら歩いてきた。

 それが急に人通りが無くなり、気が付けば俺たちは道を塞がれている。


「何よ、あなたたち!私たちに何か用!?」


 すかさずイチカが先頭に立ち正体不明な五人を警戒する。



「オー!威勢の良いお嬢さんですネェ。私たちは怪しいものではありませんヨゥ?」


 スッと進み出てきたのは、ひどく痩せてて変な頭の形をしている。たしかアフロっていうんだあの髪型。終始口角が上がったままの口元にまん丸サングラス、手には聖書らしきものを抱えている何故かカタコトの男。



「うえっへっへ、ちょっとまじビビってんじゃねーの?こいつら?ちょーうける!」


 コンビニの前でカップ麺食べてそうな格好で座る男はひどく下品な笑い方でこっちを挑発している。

無造作に伸びた髪から覗く目はギラギラと鋭く、常に人を見下した様な笑い方をしている。正直一生関わりたくないタイプだ。



「もーだめだよー、この子たち完全に警戒してるじゃーん。カインは目が怖いしー、フランシスは笑顔がキモイんだよー。モスちゃんも何か言ってあげてー?」


 豪華な金髪を揺らし、鎧の上からでも分かる超絶ボディの持ち主は、すさまじくバカっぽい喋り方で先の二人をdisする。

 一見、陽気なお姉さん風の女性だが、さっきから両手でナイフをクルクル回していてキ〇ガイの雰囲気がぷんぷんしてる。



「……」


 話を振られたにも関わらず一切喋らないモスと呼ばれた奴は、いつか見たトロールばりにデカい男だった。人間か?あいつ。



「んだよソフィア。お前みたいなバカに言われる筋合いはねーわ。そんでモス、お前ちょっとはしゃべれなー?」


 カインと呼ばれた男は手の平をヒラヒラさせて相変わらず人を馬鹿にしたような喋り方をしてる。


「イエス!そうですヨ、バ……ミスソフィア?笑顔は全世界共通のラブ&ピースでーすヨ?ねぇハイネ?」


 サングラスアフロの問いかけに、それまで沈黙を貫き四人の様子を見ていたメガネの男は俺の前に出てきてこう言った。



「ハナビシ カナタ。カリプソ王国のオルファ姫誘拐と反逆の罪で拘束させてもらう」




「「「「「「!?」」」」」」



 俺たち全員驚きを隠せなかった。

 俺が……誘拐?どういうことだよ?オルファは花嫁修行を兼ねて俺たちの冒険に同行した。父親である王様だって承知の上だ。

 

 しかも反逆?


「カナタくんねー、オルファちゃんを誘拐したって告発されてるよー?」


「ヤー!そしてカリプソ王国に対して故意に情報を流し内乱を誘発させた疑いをかけられてマース」



 ちがう!どうなってんだ?


 たしかにオルファのいた国は王位について揉めていた。でも、それは権力を我が物にしようとした摂政が起こした反乱で……ってまさか?


「あなた方、教会騎士団ですね?」


 エミーナは三角帽子から注意深く五人の様子を伺っている。


 教会騎士団ってあの教国にある中央教会所属の騎士団!たしかオルファの国の争いに加担した時に何度か話には聞いていたけど……なぜ今頃になって突然?



「ひゃっひゃっひゃ、もうバレてやんのマジダサくね?まぁ馬鹿みたいに全員この“雷”付けてっからそりゃバレるわってな」



「お待ちください!私はこの方に誘拐などされておりません。それは国王であるお父様もご存じなはずです!」


 オルファは進んで前に出て、俺たちの状況を説明してくれている。

何の間違いがあったか知らないが、当のお姫様が説明してくれるなら納得してくれるだろうと期待した。


 でも一通りオルファの説明を聞いたメガネは、軽く溜息をついて衝撃的な一言を放ちやがった。


「そのお父様である国王様から依頼があったのです。王女をかどわかし、王国で無用な争いを起こさせた張本人を罰してほしい……と」


「そんなバカな!お父様が、そんな……」


「公的な書状もありますよ?王女様でしたらこの筆跡がご本人の物だとお分かりになるかと思いますが?」


 メガネが投げてよこした書状をオルファは慌てて読む、そして読み進めると共に顔色が徐々に青ざめていき、ついには書状を手から離してしまった。


「どうなの?オルファ?間違いないの?」


 イチカが膝から崩れ落ちるオルファに詰め寄り真偽を確認する。パクパクと口を開くオルファの呟きを聞いたイチカも顔を伏せてしまった。


「イチカどうなんだよ?何かの間違いだろ?」


 俺は自分の心を支配しつつある悪い予感ってやつを必死に抑え込みながら叫んでいた。そしてその悪い予感は無情にも心から溢れ出す勢いで俺を支配した。


「……筆跡、王印共に……間違いないとのことです……」


 イチカはうつむいたまま俺にそう説明した。



 何がどうなってるっていうんだ?


 オルファの国を救った時、国を挙げて感謝された。祝賀会だって開いてくれた。そこでオルファのお父さんに約束したんだ、「必ず理想の国を作ってみせる」って。


 オルファを、アイネを、イチカを、ウルオネを、エミーナを、みんなを幸せにするって……。


「何かおかしいわね」


 信じられない事態に一同が意気消沈している中、ウルオ姉が口を開く。


「その書状が本物だとして、なんで十六国協議会が来ないのよ?あんたら中央の教会がでしゃばって来るのは筋違いじゃないの?」


 確かにそうだ、オルファのお父さんが俺たちの事を疑っているなら、協議会が動いてくるはずだ。

十六国協議会はこの大陸の中央に位置する大小様々な国の集合体で、国政、貿易、伝統全てを含めて共同で運営していくスタイルをとっている。

 内乱の時もそうだったけど、一国の王女が誘拐されたとなれば彼らが動かないわけがない。


 それなのにこいつらが中央の教会から来たってことは……。


「君たちの力は聞いている。これは一介の騎士や傭兵が何とか出来る問題ではない。それにこれは国王からだけの依頼ではないものでね」


 男はメガネを上げて、こちらに近づいてくる。


「摂政からも依頼を受けている。もちろん君たちの情報も提供してもらった」



「!?」



 その瞬間、俺たち全員が今の状況を理解した。


 摂政!国王に背き、カリプソ王国に内乱を起こさせた張本人!

 争いに負け、命乞いをした隙に逃がしてしまったけど、こんな手に出てくるなんて……マジ最悪だなあいつ!


「ということは、あなた方はあの摂政の差し金なのですね!教会の使徒ともあろう方が!」


 引っ込み思案のアイネが声を荒げる。それも仕方ない。摂政は言葉巧みに神の意を語り、オルファの国に攻撃を仕掛けた。もちろん犠牲者もたくさん出た。

 そのことに一番怒っていたのもアイネだったからだ。


「うひゃひゃ、何かチョーマジになってっとこ悪いんだけどさー?俺らはそこの王女様とヒョロガキを連れて帰ればいいわけよ」


「イエス、これも神が定められた事デス。大人しくしててくれれば危害はくわえまセーン」


 誰の企みかは充分に分かった。あの摂政を逃がしたのも元はといえば俺たちの責任だ。

 どんな手を使ったかは知らないが、今頃あの王様も大変な目にあっているに違いない。


 俺たちは全員で戦闘態勢をとる。

 エミーナは魔法の詠唱を始め、ウルオネはナイフでいつでも遠距離射撃を行える体制を取っている。

 俺とイチカはいつでも相手の懐へ飛び出せる準備を整えていた。オルファも気持ちを切り替え、王家に伝わる補助の魔法を唱え始めている。

 さすが百戦錬磨のチーム対応が早い。アイネの回復薬もたっぷりある。俺たちはいつだってこうやって戦い、勝ってきたんだ。


「みんな行くぞ、相手も五人!まったくの互角だ!」


 俺は皆の中心的存在、みんなも俺を頼りにしている。

 全員の士気を高めるため、思いっきり声を出した。


 するとメガネの目付きが鋭くなり、こちらに明らかな殺意をぶつけてきやがった。


「互角?それは戦力差の事を言ったのかね?」



《ズブリ》



 メガネが喋り終わるかどうかってタイミングで恐ろしく嫌な音が後ろの方で聞こえた。


「あはん」


 俺は後ろを振り返る前に、金髪の女が両手に持っていたはずのナイフが一本だけになっているのを確認した。


「カナタさん!アイネが!!」


 その声に俺は慌てて振り返る。

 そこには額にナイフが深く刺さり目を見開いて倒れているアイネの姿があった。


「アイネ!!」


 俺の中にこれまで感じたことのない黒い憎悪が沸き上がる。


 感情の爆発と共にテレポートに入り攻撃しようとした瞬間。


「うわぁぁぁ!!」


 ウルオネの体中にどこからか生えて来たか分からない棘のついた植物の弦が絡まっている。


 この世の物とは思えない紫の色をした弦はその太さでは引きちぎることも敵わず、徐々にウルオネの四肢を締め付ける。


「バット!動かないでって言いましたよネ?聞いてました?」


 アフロはその手に持った聖書を読み上げ、その詠唱ごとにウルオネへの締め付けが激しくなる。


「ウルオ姉を離しなさい!」


 エミーナは高めた魔力を収縮して前へ出る。


「集へ強者、一陣の風、切り裂く刃 “ホワール・ウインド”!!」


 エミーナの詠唱後、たちまち周りに強風が吹き荒れる。そしてその風は意思を持つかのようにアフロへ襲い掛かり、無数の鞭で打たれたかのように本や服が切り刻まれていく。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 ウルオネの絶叫と共に、俺たちの周りに血しぶきが飛び舞う。

 絶命の雄たけびを上げた主は頭だけになって俺の足元に転がる。


そして後を追う様に、綺麗な舞を踊っていたしなやかな手足が散らばっていった。


「アウチ!何をするんデース?せっかく加減してあげてたのに、痛くて力が入ってしまいマーシタ!オゥ?バラバラじゃないデースカ!」


 目を見開いたまま、エミーナが膝を落とす。


「貴様ーーーーーー!」


 絶叫と共にアフロに襲い掛かるイチカの一太刀。俺のテレポーテーションに勝るとも劣らない“瞬動”。

 俺とイチカの二人で編み出した必殺の体動術。これを躱せる者なんか……。


 だがイチカの剣がアフロの届く前に、何者かによってその動きを完全に止められた。高速同士がぶつかる衝撃で周りに風圧が起こる。


「そんな……まさか」


「うぇ~い残念でしたぁ。こっから先は通さないよ~ん」


 卑下た笑いと鋭い目は変わらず、その男はイチカの動きに寸分変わらずついてくる。

 この男は剣も持っていなければ、魔法を使う様子もない。純粋な格闘のみでイチカの攻撃をかわしている。


「くっ!私の剣戟についてこれるとは!!」


「あぁ~ん?これでも苦労してんだぜ?」


 その瞬間、ガシっとイチカの剣が止まる。高速の突きをかわしきった男は、最後の一撃をわざと左脇に通し腕と胸で固める。


「だから苦労してるんだって。あんまり遅すぎてさぁ」


 そう言うと男はゆっくりと人差し指をイチカの胸に当てる。


「くっ何を!」


「ドカン」


イチカの体は大きく揺れ、目や口といった場所から血が噴水の様に吹き上がる。ぐしゃりと崩れ落ちたイチカには最早俺たちの知っている剣士では……もう人の姿ですらなかった。


「うぇぇぇ」


 あまりに悲惨な光景にオルファがうずくまる。恐らくこれまでに無い程の恐怖なのだろう。

 確かにこれまで出会ったどんな魔物よりも、どんな軍隊よりもこいつらは異質で強い。


「宵闇の夜明け、不浄なる者の咎、今清めたらん、大いなる光の渦の中……」


 絶望で動くことが出来ない俺たちの中で、ゆっくりとそして静かにエミーナ詠唱が聞こえる。


「エミーナ……それは四段階詠唱」


 限られた者しか使えない魔法の中で更に高位の魔法……今のエミーナにはそんな力は……。


 その時、エミーナはマントの下から石が赤く光るネックレスを取り出す。


「そ、それは」


 エミーナは力なく笑う。


「これはカナタくんと一緒にダンジョンへ潜った時に倒した魔物のコアです。これがあれば私の魔力が一瞬でも拡大できる……」


 あれは確か、死者の王の心臓エルダーリッチコア!以前、地下墓地で戦闘で倒したリッチのコアだ!

 確かにあれは魔法を使う者には絶大な力を与えるという、でもエミーナの体はその力の負荷には耐えられない!それを知ってて……。


 エミーナはこちらの様子を見て、力なく笑った。


「カナタくんオルファちゃんを……お願いしますね」


 エミーナを包む光が収縮し一つの塊となって大きくなる。光の神が使う清浄の光!広範囲のホーリーマジック!


「消え去れ!外道の者!ホーリー……」


 光の玉がますます大きく、そして赤い石がそれに呼応する。

 輝く二つの塊が一つになろうとしたとき、それを大きな口が呑み込む……口が!?呑み込む!!!???


 俺もエミーナも突然の出来事に呆気に取られていた。彼女の命を懸けた決死の魔法が、アイテム共々食われた!?


 呆然とするエミーナの前には今まで微動だにしなかったトロールが突っ立っていた。

 そのまま光の玉を飲み込んだそいつは大きなゲップをし、その後腹の中で何かが爆発し倒れた。


「そ……そんな、魔法を食べるだなんて……」


 まるで信じられない物を見る目で眼前の巨漢を見下ろす。何もかもを失ったエミーナに俺は声をかけることが出来ない。

 さっきからあり得ない事の連発で俺の頭はパニックしっぱなしだった。


「ほーんと、モスちゃん何でも食べるんだからさー、っと!」



 アイネにナイフを投げつけた女は、あっという間にエミーナを抱え上げ羽交い絞めにした。


「えーっと、カナタくんは動いちゃダメだよー。っと、えへへへーこの子、下穿いてないんだー?」


 バカ女はもがくエミーナのマントの下をまさぐり、その手は下腹部まで及んだ。


「あぁぁぁぁ!!!」


「あっれー?こんな格好してるくせに、コッチはまだだったんだー?なーに?カナタくんしてあげてなかったのー?」


 そして、痛みと体の内部をまさぐられる嫌悪感に身もだえるエミーナの動きが止まり全身ががっくりと落ちる。

 それは下腹部に突き立てられたナイフがエミーナの命を奪った事だと俺たちに絶望を告げた。


「あーあ、最初に挿れられたモノが冷たいナイフだったなんてカワイソー。カナタくんのカイショー無しー」


 頭に肩に、重々しく黒い何かがのしかかってくる。足が石のように固まって動かない。思考が機能しない。


 あまりの衝撃に俺は本来の力を失ったかのようだった。

 目の前に広がる惨劇、アイネが、イチカが、ウルオネが、エミーナが……無残な姿で地面に転がっている。


 さっきまで、ついさっきまで笑顔で旅をしていたんだ。


 ウルオネが必要以上にスキンシップをして、それをイチカが怒る、アイネが突込み、エミーナが呆れて、オルファが満面の笑みを浮かべる。

 そんな毎日が続いていたんだ。これからも続くって、そんなふうに思っていたのに……。


 いや、まだだ、俺にはとっておきがある。 


 俺は絶望に贖うべく、剣を抜いて五人の前に出たんだ。

 



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