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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第三章 鍛冶場の鋼と火事場の蝶(インゴット&イグニート)
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第四話「需要と供給」

「あっはっはっは、驚かせたようで本当に申し訳ない」


 街中を歩く三人と一匹のうち男装の少女は豪快に笑い、距離を取ろうとするアリスの肩にさりげなく手を回す。


 素材屋に突如現れた双子は、栗色のショートカットで男装の少女。

 栗色のロングを左側で結んだワンピース姿の少年。


 要するに、漢女おとめと男のおとこのこの双子であった。


「自己紹介が遅れて申し訳ありません。私は双子の姉で名前はライン」


 ワンピースのスカートをひらつかせながら、すでに意識が飛んでいる黒猫を抱いたままの男の娘は自己紹介を始める。


「僕の名はライラ、双子の兄の方さ。ぜひお見知りおきを」


 すでにわけが分からなくなっていた従者と意識をはるか遠くに飛ばされた主人は、とりあえず性別の話はしないようにすることを暗黙の中で一致した。


「コホン、私の名はアリス。こちらは黒猫のタロ。占いを生業としながら旅を続けています」


 このまま、このへんた・・・・・・双子に会話を支配されるのはまずいと察したアリスは一先ず自己紹介を行い話を本題に戻そうとする。


 気が付くとライラとラインの双子は共にアリスの手を取り好奇心と羨望の眼差しを向けてきた。


「うらないー!すごーい!私の王子様はどこにいるか占ってもらいたいー!」


「ははっ、なんて素敵なんだ。でも僕とアリスの間に占いなんか無用さ……いずれ相思相愛になる、だろ?」


 もちろん話は戻せなかった。

 この、とことん空気を読まない双子に、さすがのアリスも気おされっぱなしだった。


 双子のラインとライラは素材収集のトレジャーハンターだ。

 ダンジョンに潜りモンスターから素材をはぎ取ったり、珍しい鉱石や遺物などを回収する……という花形仕事ばかりではない、鍛冶師や錬金術師から依頼された鉱石や植物などのお使いのような仕事がほとんどだそうだ。


「それでも危険は付きまとう、僕らもそれなりに戦えるんだぜ?」

とはライラの言葉。


 そしてこの街は近く“鍛冶神の祭り”が開催されるという。

 鍛冶師たちは日頃の感謝と更なる腕の向上を願い、山の祠に自らが打った最高傑作を奉納する。

 その為この時期にはトレジャーハントの依頼が殺到するため、二人も仕事の成果を届けるために訪れたのだった。


 その説明中、アリスはずっと手を握られ、腕を組まれたままの拘束状態にされていた。

 いい加減歩きにくいのと恥ずかしさと話を戻したいのとで強硬手段に出る。


「コホン!で、私共が手に入れた素材を買い取ってくれる方とは?」


 アリスは二人の手を跳ね除け話を本題に移すと、同じくラインの腕からも強引に主人を奪い返す。


 ああん、と声を上げた“少年”のラインは、その感触を惜しみながらもこれから尋ねる場所を指さす。


「あのレンガ建ての建物があるでしょう?あそこに私たちが専属にしている鍛冶師がいます。かなり変わった武器を作るのでひょっとするとその素材にも興味を持つかもしれませんよ?」


 どうやら双子の知己に鍛冶師がおり、普段扱わない素材を扱い武器を作る事があるとの事だった。


 鍛冶師にはそれぞれ“専属”が付いていることが多い。

 自分のスタイルに合わせて武具を発注してくれる買い手ももちろんだが、取得が難しいものや急ぎ必要な物を揃えてもらうには、少々無理が通る専属を付けるのが通例だった。

 トレジャーハンターにしても定期的に仕事の発注がある専属は喉から手が出るほど欲しい存在であり、この双子にとってこれから向かう先の鍛冶師がそうであるらしい。


 街の大通りから少し離れた場所にそのレンガ建ての工房は立っていた。

 

 他の工房の様に店舗を兼ねている様子はなく、ただ作業をするだけの質素なものになっている、建物の周りには火を焚くための薪木や井戸などがある程度、赤レンガの建物は全ての窓が閉められていた。


「作業中は少しおっかないけど、勘弁してあげてね?」


 ラインはそう言って舌を出し、工房の扉を開ける。

 男という現実以外はどこをどう見てもただの美少女なのだが、何故にこうも神の気まぐれは度を過ぎるのか改めて主人に聞いてみたくなるアリスだった。


「姉御~おじゃましますよーと」


 窓を閉め切った工房には、赤々と燃え上がる炎とそれに従うかのように赤く熱された鉄、それらが唯一部屋を照らしている。

 力強い槌の音は心臓の鼓動の如く一定のリズムを刻んでいる。

 槌の根の主は炎の光に照らされ一心不乱に鉄を打っていた。


 宝物を見せるかのように自慢げに微笑む双子。

 その光景はアリスと黒猫の視線をくぎ付けにしていた。


 しなやかな腕は鉄を扱うのに適した量の筋肉を纏い、その長さで鞭のようにしなって槌を振るう。

 打ち付けるたびに鉄から飛び出す火花は、鍛冶師の顔を照らし真剣に見つめる眼差しが職人としての気質を浮かばせる。

 頭に巻いた布から溢れた赤髪は、汗ばんだ顔に張り付き、流れ落ちる汗がさらしでは隠しきれない豊満な胸の谷間に留まり何とも言えない色気を醸し出している。


『美しいな……』


 黒猫はそう呟くとアリスも静かにうなずいた。

 神であった時代、時折従者とはこうして美しいものを見て共に感じていた。


「私の美しさとはまた別の美しさですがね……私が夜空に浮かぶ壮大な星々の美しさだとしたら、あの美しさは……」


「アリス、もういい」


 黒猫はそう呟くとアリスを止めた。

 神であった時代より、従者とはだいたいこんな感じで過ごしていた。


 しばらくして槌の音が止まると熱された鉄は水で冷やされ、急激に温度が下がる音でアリスと黒猫は我に返る。


「誰だ?」


 鉄が冷えると共に、荒れていた呼吸を整える鍛冶師はこちらを睨みつける。


「ははっ、相変わらずだな姉御」


 ライラは壁に寄り添い、挨拶のジャスチャーを二本指で行い正体を告げる。

 予想通りの鍛冶師のご機嫌に初見のアリスが引かないようにワザとらしくキザなポーズで空気を変えた。


「お前たちか、何の用だ?」


 見知った顔の来訪であっても作業への集中を解かない鍛冶師に要件だけを端的に伝える。


「お客様ですよ、姉御」


 鍛冶師は黒猫を肩に乗せた銀髪の少女を一瞥し、また作業に没頭し始めた。


 ライラは肩をすくめて軽く両手を見せ、薄笑いを浮かべながら頭を左右に振った。


「ごめんなさいアリスさん。姉御の作業が終わるまでもう少しお待ちいただけますか?」


 ラインはそっと扉を閉じアリスを近くのカフェに誘った。


 工房には再び、槌が鉄を打ち付ける音が響き始めた。

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