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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)
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第十二話「ダンジョン~雷鳴~」

 次の挙動に移っているアリスには回避する術は無く、そのまま毒蛇の餌食になるかと思われたその刹那……。


 ドンッ!


 アリスは何かに突き飛ばされ、地面に倒れこんだ。


 慌てて振り返ったアリスが目にしたものは、毒蛇の一撃を受けて崩折れるラルフの姿だった。


「ラルフー!!」

 

 倒れたラルフに駆け寄ろうとするクラークへ、キマイラの攻撃が加えられ、クラークも吹き飛ばされる。


「ぐはっ!」


 鋭い鉤爪を打ち付けられたクラークも背中を切り裂かれ、少なくない出血を起こした。持ち前のタフさでヨロヨロと立ち上がるが、既に戦える余力はあるようには見えなかった。


 いち早くラルフのもとへ駆け寄ったレイシャが治癒魔法をかけているが、


「ダメ!ハイキュアもハイヒールも効かない!このままじゃ、ラルフが死んじゃうわ!!」


 それを聞いたアリスは、

「エルミアさん!申し訳ないんですが、少しだけ時間を稼いでください!」

と、少し離れたところでキマイラをけん制しているエルミアに叫びながら、ラルフの元へ駆け出した。


「あんまり頑張れないから、急いで!」


 アリスの動きを察知したキマイラの気を引くため、エルミアがサンダーランスを打ち込みながら展開する。


ラルフの元にたどり着いたアリスは、

「少しどいてください」

 とレイシャと入れ替わり、ラルフの胸に手をかざした。ラルフの顔色はどんどん青ざめていくようだった。


 アリスの手が触れたところから一瞬眩い光が溢れたが、それはすぐに収束した。


「レイシャさん、もう一度ハイヒールをお願いします」


 そう言われたレイシャはすぐにハイヒールをラルフにかけた。すると、まるで死人のように白い顔をしていたラルフの顔に、わずかながら生気が戻った。


「体に入った毒性はとりあえず消えたはずです。ただ、まわりの早い毒だったようです。今のところは大丈夫ですが、早めに高位の治癒魔法をかけないと危険です」


「あたしは中級のハイヒールまでしか使えないから、急いで町まで戻らないとまずいって事ね」


 状況を正しく理解したレイシャは表情を引き締めると、

「とにかく、あいつを何とかしないとどうにもならない!アリスちゃん、何か方法は無いの?」

 そう言ってアリスを見たレイシャだったが、次の瞬間、言葉を失った。


 これまで見てきたアリスと明らかに雰囲気が違う事に気づいたのだ。


「クラークさんの様子も見ておいてください。」


 そう言ったアリスは、レイシャに近づくと耳元で何事か囁いた。


「……分かった。何とかやってみる」


「お願いしますよ」


 アリスはおもむろに立ち上がると、エルミアの近くへ移動した。キマイラは、先ほどから翼を使って、中空に浮いていた。


「ラルフの様子は?」


 キマイラを睨みつけながらエルミアはアリスに聞いた。


「あまり芳しくありません。とりあえず、早めに高位の治癒魔法をかける必要があります。」

 そう言うアリスもキマイラを睨みながら、


「少し耳を貸してください」

 と言うと、エルミアに近づき小声で何かを話した。


 それを聞いたエルミアは驚いた表情を浮かべたが、次の瞬間には表情を引き締め、

「分かった。アリスに任せるよ」


 そう言って、アリスから距離を取った。


 自分への明らかな敵意を強くしたアリスに対して、キマイラは地上に降り、睥睨するようにアリスをねめつけた。そのアリスの肩口にタロが飛び乗った。


『どうやるんだ?』


 聞いた主人に、


「昔、タロ様に聞いた方法を使おうかと思います。」


 アリスはそう答えた。それを聞いたタロは、


『そうか、だが危険だぞ。十分注意しろよ』


 そう言って再び地面へと飛び降り、後方へ飛び退った。


 タロが肩口に乗っていた際に魔力を受け取ったアリスは、その両手にファイアボールを作り出していた。キマイラは特に気にした様子も見せず、アリスの方へ近づいた。次の瞬間、アリスは作り出したファイアボールをキマイラにでは無く目の前の地面に向かって投げつけた。爆発が起こり、当たりには白い煙が立ち上った。キマイラが自分を見失っている隙に側面からの攻撃をしようと、目の前の煙を迂回するように右に回ったアリスだったが、魔物もそれを読んだように出現地点で迎え、獲物が自身の目の前に現れるやブレスを吐くために口を大きく開けた。


 その瞬間。


「今です!」


「分かってるよ!」


 叫んだアリスに呼応するように、アリスの背後からレイシャが渾身の力で投げたショートソードがキマイラの顔めがけて飛んだ。


 アリスが陰になって気づくのが遅れたキマイラの口に深々とショートソードが突き刺さった。


「グルァァァァ!」


 叫び声をあげるキマイラを横目にアリスが叫びをあげる。


「エルミアさん!」


「サンダーボルト!」


 その声に合わせ、エルミアが詠唱を終わらせていた魔法を発動する。サンダーボルトは中級雷系魔法だが、その特徴はふたつ。ひとつは、速さ。発動して目標への到達速度は全魔法中最速と言って良かった。


 そしてもうひとつは、込める魔力で威力を調節できる事だった。少ない魔力で発動すれば、相手も痺れさせることも可能だが、多くの魔力を込めることで、相手をまさに黒焦げにする事も可能だった。数ある攻撃系魔法の中で唯一そのような特性を持った魔法を、かつてのエルミアは自身の戦いの切り札として使っていた。そして今、サンダーボルトはまごうかたなくキマイラに突き刺さったショートソードに命中し、その威力を魔物の体内へと送り込んだ。エルミアの今持てる最大魔力を込めた攻撃を。


「ギャァァァ!!……」


 断末魔の叫びをあげたキマイラは、大きな音と共にその場にその体を倒し、その後動くことは無かった。


「やっ……た?」


 しばしの沈黙の後、レイシャの呟きを聞いた面々は、ようやく魔物を倒した事を知った。


 死闘を制した面々だったが、その場で休息する時間は無かった。


 ラルフの容体は一刻を争う状況だったうえに、クラークも重傷を負い、エルミアやレイシャにも疲労の色は濃かった。


 少しでも早く地上に出て、町を目指す必要のあった調査隊の面々は、アリスがクラークに肩を貸し、エルミアとレイシャがラルフを抱える形で、転移魔法陣のある次の部屋へ移動するのだった。


 魔法陣のある場所は、次の16階層へ向かう通路の途中だったのだが、地上へ向かう為の魔力をレイシャが流した刹那、エルミア、レイシャ、アリス、タロはそれを目にした。自分たちを見つめる無数の赤い目が遠く16階層から自分たちを見ている事を。その光景にエルミアは、一刻も早く討伐隊を編成しなければならないと決意し、地上へと帰還した。


 地上へ帰還したエルミアは、早速その場にいたギルド職員に急ぎのメッセージを渡し、一足先にレイモンドへの報告に走らせていた。また、ラルフの為にも早く町に戻る必要があるため、馬車の手配を急がせていた。


 そんな中、アリスはここでまた旅に戻る事をエルミアとレイシャに伝えたのだった。


「この後は、本格的な討伐ですよね?さすがにそれには参加できませんし、かえってお邪魔になるといけませんから、今年はこれで失礼します」


 そう言うアリスに聞きたいことが山のようにあるエルミアではあったが、アリスの事は詮索しないと約束した手前、ぐっと飲みこむのであった。そしてこう告げた。


「アリスがいてくれて本当に良かった。私たちが生きて帰ってこられたのも、アリスのおかげだわ。本当に感謝している」


 そう告げられたアリスもまた、エルミアに言葉を返した。


「いえ、こちらこそありがとうございました。特にラルフさんには助けられました。感謝していたと伝えてください」


「わかった、伝えておくわ」


 そう言って、馬車に眠る若者に二人は視線を送った。


「次に会った時には、あたしの訓練に付き合ってよね?約束だよ、アリスちゃん!」


 そう笑いながらレイシャも馬車に乗り込んでいき、またクラークも自分の未熟さを知ったと言い、次に会う時までにはもっと自分を高めていくと誓っていた。


 想像以上に過酷な調査となったが、その結果は十分に意義のあるものになると実感できるものだった。

その成果を取りこぼさないようにするためにも、今は急ぎ町へ戻るエルミア達を一匹と一人は、その馬車が見えなくなるまで見送った。

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