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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
寄り道Ⅵ「勇者パーティをクビになった黒猫と美少女占い師」
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第三話 解雇決定

それまで魔法使いの後ろでずっと怯えた様子だった僧侶は、忍ばせていた短剣についた血を眺め愉悦に浸っていた。


「どうしてって……こんなクソ女、生かしておく必要ないでしょう?」


 短剣を投げ捨て両手を広げた僧侶は旋律を奏でるように指先をフワフワと揺らす、何かの攻撃かと思われたが魔力の発動は確認出来ず恐らく本当に楽しさから浮かれている様に見えた。先程アリスに向けられていた杖先の宝石が無ければ同一人物とは思えない程、表情が豹変している。穏やかだった瞳は切れ長の冷酷な目に、いやらしく釣り上がった口角はどこか人を見下した印象を与える。


「せっかく仲間になったアリスさんを魔法で攻撃するなんて……ねぇ?」


「その仲間だった魔法使い様を殺したあなたに言われたくはありませんが……ね?」


 双方が間合いを図る。


 聖職者とはいえ攻撃の魔法が無いわけではない。更に明らかに何かを隠していた素振りから、魔法以外の攻撃も考えられる。手の内を秘めた相手に致命傷となりかねない間合いに入るわけにはいかない。


「ただの占い師なんて、私達を欺いて酷い方。そしてアンチマジックを持つ相手に許容を超えた高出力の重複魔法。あなた何者?」


「申し訳ありません、私達にも事情がありまして……」


 足が止まり、互いの視線が交わる。


「事情?」


「ええ、ザオウ村のリミア様、ご存知ですよね?」


 僧侶の笑みが消える。眼光はそのまま鋭くアリスを捉え、聞こえた言葉へ明らかな反応が見えた。


「私達が本来受けたクエストはリミア様……僧侶様の姉君から捜索依頼でした……探すのに苦労しましたが、まさかこんなことになるとは」



 黒猫と従者はとある村を訪れた際に、そこの宝珠である石の話を聞いた。しかしその石はすでに村人に持ち去られてしまっており、リミアと呼ばれた女性はその犯人が自分の妹であることを告げ、村に連れて戻るようにと説得を依頼されていた。


「その杖の先端にある石……本来、聖職者や魔法使いが使用する物は魔力の増幅や魔法の呼水にするための物ですが……姉君のお話では少し違っていました。何やらよからぬ者を封じていたとか……」


 僧侶は石に触れ、その絹の様な若肌に頬擦りしながら語り始まる。


「この石はね、あの村にずっと縛り付けられていたの。とても強い力を持ちながらその力を発揮することもなくね。ひどいと思わない?」


「それで持ち出したと?」


「解放したのよ」


 アリスを縛った光の輪が僧侶の眼前に浮かび上がる。それは三つにそして更に六つに増幅し一斉にアリスへ襲いかかる。アリスは後方へ飛び幾つかの輪をかわす。が、時間差で軌道を変えた二つの輪がアリスを捉えた。


「もう、コピーということもないでしょうね、どんな手品を使ったか分からないけれど複製魔法に無詠唱の炎の槍、どんな高価なアイテムを使ったのやら」


 無抵抗となったアリスへとどめの詠唱を行う僧侶を前に、動けるはずのないアリスが軽く目を閉じた瞬間に光の輪はいとも簡単に砕け散った。


「ばかな!だがもう遅い‼︎私が手に入れた闇の力で魂を食われてしまえ!」


 僧侶からは聖職者にあるまじき闇の魔法が放たれる。石の力が上空にドス黒い雲を呼び、渦巻く中央から髑髏の姿をした炎がアリスを襲う。黒猫はそれをぼんやりと見つめながら溜息をついた。


『またこれは……汚い手品だな』


 アリスは呪いの言葉を吐きながらこちらへ向かってくる髑髏の炎に向かって手を差し伸ばす、白く細い指先から白い光が現れ徐々に大きく光度を増して広がる。やがてそれは髑髏を断末魔ごと包みやがて光ごと消えてしまった。


「な、な」


 僧侶は言葉にならず立ちすくむ。


「こーんな感じでしたっけ?」

『まあ、及第点』


「アンチマジックってあまり好きじゃないです」

『なら何が好きなんだ?』


「言わなくてもお分かりでしょうに、羞恥プレイですか?」

『プレイではなく質疑応答です』


 一人と一匹のやり取りの間に、再度上空には禍々しい雲が現れ、その口から髑髏の炎が吐き出される。


「わたしの闇魔法を破るなど!ありえない、あってはいけない!」


 再度開かれた黒い雲からは、更に多くの髑髏を吐き出し、ぐるぐると渦巻くと巨大な腕と肋骨を持つ上半身だけの骸骨が姿を見せた。


「この大きさならお前の手品も通用しまい?だがその技、殺すのは惜しい!どうだ?私と組まないか?この古城にある財宝も山分だ」


 頭上には、エサをおあずけされている犬の如く巨大な骸骨がアリスを飲み込まんと構えている。僧侶の一言でそれは実行されるのだが、黒猫を方に乗せた少女は微動だにしなかった。


「ククク、さすがに恐怖で動く事も出来……」


「お断りいたします」


 勝利を確信した僧侶の口上は遮られる。


「姉君を説得するのは大変でしたので……お約束は守らないといけません」


 アリスの真横に青白い魔法陣が現れる。その中に手を入れゆっくりと引き抜ぬくと一本の剣が姿を見せる。光を吸い怪しく輝く刀身は反り、持ち手は紅紐で装飾され鍔には金飾り拵えてある。東方の刀と呼ばれた剣を少女は右手で持ち手の先を握り、刀身を左手の親指と人差し指の間に通し僧侶の持つ杖先の石に狙いを定める。


「狙いはコレか。残念だがこの石はすでに……」


 刹那、僧侶にはアリスの姿が消え黒猫のみが残った、様に見えた。目の前の石が砕け後方よりアリスの声が聞こえた時には上半身は下半身から滑り落ち地面に落ちる。


「石はすでに、いえ石に潜んだ魂はすでに僧侶様を乗っ取っている……ですか?」


「ぐ、ぐぅ……な、なぜ」


「その石はそもそも、ザオウ村を襲った邪悪なものを封じたと聞いております。姉君……まああなたには赤の他人ですが、その方は僧侶様に帰ってきて欲しいということですが、まあ無理だと思いまして」


「では……約束とは」


「妹を奪った憎いあなたの消滅……ですよ。説得が大変でした」


 僧侶は血が噴き出る口で笑いながら両手を使いアリスから距離をとる。


「バレていたならば仕方ない。だが私は転移の秘宝を操る者……この体が使えなければ他のものに乗り移るだけよ……例えばこの猫畜生とかなあ!」


 僧侶の半身から石に封じられていた悪しき魂が放たれる、その姿は黒い霧が人の形を模し凶悪な目と口が邪悪に開いている。素早く地を這うように黒い霧は黒猫を狙い進む。


『畜生とは失礼な』


 霧が黒猫を飲み込まんとする間際、上空から巨大な髑髏の口が落下し霧を飲み込む。中で踠きながら絶叫と共に悪しき存在は霧散し、召喚主を無くした髑髏も小さな木の葉のように崩れ去っていった。



「ご無事ですか、タロ様」


『ああ、後は石の残骸を持ち帰ってクエスト終了だな。城内の宝とやらも持ち帰ろう』


 アリスは凄惨な形で解散となった、かつてのパーティを一瞥する。


「タロ様が取り憑かれてしまわないかヒヤヒヤしていました」


『その割には黙って見てた様な……』


 ジト目の主人を従者はそっと両手で抱き抱える。


「切れ味をもう一度味わいたくて……」


『……囮にするなよ』





 ここはとある冒険者ギルド


 夜がふけ、他の職員が帰った後も仕事に明け暮れる者はどの職場でも存在する。もちろん複数人。


「ね〜センパーイ〜」


 ランタンに灯火された光だけで黙々と作業する職員に、猫撫で声で擦り寄る存在に先輩と呼ばれた女性は邪魔だとばかりにため息で答える。


 眼鏡の奥に光る目は知性を滲ませ、黒髪の長髪から表情が見えにくく取っ付きにくさを醸し出している。そんな先輩に甘えるように擦り寄る所謂「後輩」は癖っ毛のショートカットに愛くるしい大きな瞳の女性、頼りなさそうな困り眉と小さな背丈が実年齢と異なる幼さを目立たせる。


「もうずっと残業続きでしんどいですー、なんでこんなにクエスト完了の報告が多いんですかぁ」


 先輩は再度溜息をついてメガネ外し作業中の机に置く。


「これが私達の仕事なんだから仕方ないでしょ?」

 

「でもでも〜どれも小さなクエストばかりでつまらないですよ〜それなのに数が多いっていうか……」


「はい、これ。ちゃんと読んでないの?」 



〈勇者システム〉


世界が統治され侵略や内乱は減少したが、傭兵や元軍人が行き場を失い暴徒化・蛮族化の一途を辿る状況を打破すべく、それらを冒険者として定義し特別クエストとして架空の「魔王討伐」とそれに準ずる大小のクエストを設定することにより、世界を救済する勇者パーティーの設立を行うこととする。


各地の自治内でギルド長のロールプレイによりシナリオが作成され、大小様々な難易度のダンジョンやモンスター、アイテムの設置を行い、その攻略を持って先程述べた勇者およびパーティーメンバー(元傭兵・同軍人)の犯罪の撲滅と増加する冒険者数のバランスを保つ目的を持つ。




「……あー何かありましたね〜。適当な世界の危機を謳って犯罪者予備軍を勇者パーティーに仕立てて仕事を与えるってやつー。でも結局私達の仕事は増えましたし、犯罪件数も目に見えては減っていないし、ギルド長もクエストの作成と準備でてんてこ舞いじゃないですか〜」


「……まあね。勇者である理由付のために伝説の剣っていうものを準備するのもお金のかかることだと聞くし……まあ、ごく稀に女性の流浪鍛治師が伝説級の武器を作ったという話もあるけど……どちらにしても企画倒れ感は否めないわね」


 そう言うともたれかかる後輩をひょいと膝の上に抱え、先輩は後輩の頬をか細い指でなぞる。


「でもね、これも私達のお仕事なんだから最後までやりましょ?……終わったらご褒美あ・げ・る・か・ら」


「ひゃ、ひゃい〜//////」


 ギルドの建物は数刻後に灯りが消えてしまうが、二人の職員が帰宅の路につくことはなかったという。






「ところでタロ様?」


『ん?』


「まおうって……何でしょう」


『さあ?』




END


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