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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
寄り道Ⅵ「勇者パーティをクビになった黒猫と美少女占い師」
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第一話 解雇通告

「と、いうわけでキミにはパーティを抜けてもらう」


 中規模の都市内にあるギルドの建物は一階が冒険者の登録やクエストの受付を行うフロア、そして二階は小スペースながら談話が出来る部屋が複数並んでいる。


低めの長テーブルに二人がけのソファー、椅子が数脚の簡素な部屋だが、冒険者パーティーが作戦を練ったり宝の分配を行うなど、つまり内々の話を行うには丁度良い広さの部屋が準備されていて、今まさにその内々の話を黒猫と従者は聞いていた。


「クビ……という事でしょうか?」


 そう宣告された少女はあまり驚いた様子も見せず、表情ひとつ変えずに事実確認程度の返しが期待はずれだったのか、正面椅子に腰掛ける青年は物足りないといった表情を浮かべる。


 青年に限らずこの部屋にいるパーティーは解雇された少女以外、それぞれが何かしら不服そうな表情をしていて中には今にも噛みつきそうな程に怒りの表情をしている者もいる。


 少女から見て正面から右には女性の魔法使いが足を組んでいて絵に描いた様な怒り心頭の顔をしている。左手側にはその体の大きさからか少し距離を空けじっとこちらを睨んでいる男が重厚な鎧を脱ぎもせず椅子に跨っている。


 明らかに好意的ではない表情を向けるかつての仲間の中で、窓際に立ち終始困った顔で見つめている女性の僧侶は困った様子でこちらを見ていた。


 要するに四人の冒険者が、ソファーに一人座る少女に相対す構図になっている。とても生死を共にした仲とは思えない程に。


「急にクビだなんて、とても生死を共にした仲とは思えないです」


『地の文そのまま言うな』


 先程まで我身の理不尽さに主張すらしなかった少女が、ようやく発した言葉に隣の黒猫が思わずつっこむ。


〈バン‼︎〉


 そんな聞こえるはずのない黒猫のツッコミへ反応する様に魔法使いがテーブルを叩く。


「何が生死よ!ろくに戦闘に参加もしないで!まったくの役立たずだったじゃない!」


 息が上がる程の剣幕でまくしたてた魔法使いは、そのまま少女を睨みつつ飲み物で喉のざらつきを流し込む。


「ですので私このパーティーに誘われた際、戦いは出来ないとハッキリ申し上げたと思うのですが……」


 時は遡る……


 訪れた街でいつもの様に水晶占いを生業として日銭を稼いでいた所にある青年が尋ねてきた。


 青年は自らを「勇者」と名乗った。


 それからその勇者は、少女の占いは評判が良い事、そして自分達のパーティーはいかに世の中の為になる活動をしているかという事。いずれは魔王を倒し世界に平和をもたらす事を、高々と謳いあげた。


 少女は多少の疑問を抱きつつも自称勇者の青年が語る話を聞きながら、エールが飲みたいななどと思っていた矢先、突然の告白と共にパーティーに誘われた。


「君が欲しい!どうか我々の仲間になってくれないか?」


 多少、いやだいぶ怪しみながらも、ただ待つだけの占いより実入りの良い冒険者のクエストに惹かれたのと、了承するまで帰らなそうな勇者に困り引き受ける事になった。


 だが占い師に出来る事は占い。


 冒険では魔物の探知やダンジョンでのトラップ回避、要するに斥候の役割しか出来ないと念を押した。流石に勇者以外のパーティーはそんな少女を厄介者扱いの目で見ていたが、気まぐれに行った占いがことごとく的中したのを見て、結局は仲間に入れる事を承諾した。


魔法使いは訝しげに

戦士は興味深く

僧侶は柔かに


 それぞれ思惑はあれど、攻守バランスの取れた「王道」のパーティー編成に敢えて斥候を加える事で、ダンジョンでの生還率を上げようと試みた勇者の判断は正しかった。


 事実、少女の占い……正確には微量の魔力を飛ばして反応を探るというコウモリの音波を模した方法で魔物や罠を察知するという斥候は効果が高く、クエストで潜ったダンジョンでは魔物の奇襲や罠をことごとく回避し成果をあげていた。


 要するに


 立ち向かうべき強敵も、試行錯誤すべきトラップも、全てショートカットして成果だけを手に入れた結果、このパーティーの評判は短期間で異例の上昇を見せた。


 成果(金)が得られれば、力(装備)も上がる。


 魔法使いはより高位のスクロールやポーション、戦士は有名鍛治師の装備を得た。勇者は「伝説の剣」にこだわりがあるらしく武器は変えず、僧侶は戒律があるとかで高価なものは買い揃える事は無かった。


 少女はただ淡々と役目をこなし、報酬を受け取っていたが、当初の契約通り戦闘にはまったく参加しなかった。


そして今に至る……。


「に、したってまったく戦わないってどういうことなのよ!」


 一度吐き出した怒りは冷たい飲み物でも流し込めず、魔法使いは相も変わらずの責め句をを並べ立てている。あの時のダンジョンではどうだっただの、あの時のクエストではどうだっただの、特に彼女がもっとも怒れるポイントだったのは。


「あんた私がドラゴンに食べられそうになった時も、見捨てて逃げたでしょ!」


 とあるクエストで潜ったダンジョンは宝石収集家の依頼で極レアな宝玉を持ち帰るというものだった。宝玉はその美しさだけではなく、中には魔力を秘めている物や魔法そのものを発動できるものも希少だが存在する。このパーティーにアテがあったわけではなかったが、ドラゴンが宝石を収集する習性があることに着眼し、隠し場所なら恐らくその宝玉もあるだろうという算段だった。当然屈強のドラゴンと遭遇、戦闘になる可能性も捨てきれないが少女の探索力と最悪逃げ切れるという過信がこのクエストを強行させた。


 そういえば、そのクエストを受けた際の説明時も少女は占いで良くない結果が出ていると強行を止めたが、パーティーからは散々反対され半ば臆病者扱いを受けてクエストに参加したのだった事を少女は思い出していた。探索力で魔物を回避してたことがいつの間にか自分たちのレベルアップになったと過信し「ドラゴンの住むダンジョンから宝玉を盗む」という蛮行に出たのを少女は多少自分にも責任があると感じてはいたのだった。


「確かに仲間を見殺しにする行為は棄ておけるものではない」


 少女の正面に座る勇者はこちらを真っ直ぐな目で見つめ訴えてくる、「良心」に「良識」に「人の心」を問うてくる。勇者と名乗る程ではあるので、心正しく正義感熱く、そんな何だか人間の「善し」とされているものを鍋に入れて煮詰めた様な存在なのだろうが、相手がこの少女では相手が悪かった。


『だから、ちょっとはアリスも手伝えばよかったのに』


「戦うなって釘を刺したのはタロ様ですよ?」


 あくまで他人の耳には届かないレベルでやり取りをする一人と一匹。アリスと呼ばれた銀髪にメイド姿の少女と異様に尾の長い黒猫は以心伝心とは違う、テレパシーとも違う、この二つはそんな風になっている。


「銀髪にメイド姿の“美”少女ですよ?」


『だから地の文にまで突っ込むな』


……そんな風になっている。


「確かに戦闘は出来ないと聞いてはいたが、多少役に立ちたいとか、助けたいとかそんな姿勢が欲しかったんだ……分かって欲しい」


 とても辛い現実を伝えていると言わんばかりの表情でクビを宣告する勇者とその一行に、アリスは諦めのため息をついてこの事態を収束させようとした。


「かしこまりました、多少意に沿わないご意見をとはいえ、皆様の総意かつ雇われの身である私に拒否も否定もする権利はございません」


 女魔法使いはアリスに多少の感情の起伏がないことに呆れつつもここぞとばかりの“口撃“を続ける。


「大体私は最初からこの女の参加は反対だったのよ、流しの占い師が私たち崇高な使命を持つ勇者パーティーに参加するだなんて。結局ただの役立たず、ドラゴンからも逃げ出す卑怯者じゃない」


 そもそも戦闘は契約内容に無かった点はそこまで主張しようが受け入れられないのと、これまでのダンジョン攻略はアリスの魔力探知のおかげなのも気付いていない、仮にそう主張しようとも信じてはもらえないだろうとアリスは沈黙を保った。


「戦士も何か言ってやりなさいよ、この役立たずに」


 それまでアリスをじっと見つめたまま微動だにしなかった重装備の戦士はチラリと魔法使いに視線を寄せた後再びアリスを見つめる。


「俺は最初から戦闘能力は期待していなっかった。まぁ若い女がいれば旅もちょっと楽しくなるかと思ったが……その貧相な体じゃあな」


ーーー。


 瞬間、それまで我関せずと決め込んでいた黒猫の目が開きアリスから距離をとった。恐らく誰も気付かない速さで、気付き様がない距離で。


『おいアリス、今私の魔力を使って何をしようとした⁉︎』


「ちょっとこの大男を消し炭にしようかと……」


『この街が消し炭になるレベルの魔法を使おうとしただろ!』


 悲劇は何がきっかけで起こるか分からない。寸前でこの街の危機は免れた。


「あのぅ……」


 先程から窓辺で終始困り顔をしていた僧侶がようやく口を開く。ただその声は何かに怯える様に心細く、微かに室内で届く大きさだった。


「アリスさんにも事情があったわけでしょうし、あまり責めるのは……」


「あんたは黙ってて!!」


 僧侶は何とかこの空気を変えようとアリスを擁護する発言をするが、それを勇者及とアリスが止める間もなく魔法使いの更なる怒りに触れ撃沈してしまった。


 この魔法使い、魔法より口撃の方がよっぽど強い……と思った黒猫は、同じ事を口に出そうとした従者に圧をかけて止めた。


 場の空気が乱れるばかりか収拾がつかない状況に、そこは自らの役割とばかりに勇者が本題を話し始める。


「アリス、互いに認識の齟齬があったとはいえ、パーティーの危険に身をもって答える事が出来ない者と行動を共にすることは出来ない」


 勇者は先程まで膝に両肘を立て前屈みに話していた姿勢を崩し、ソファーの背もたれに身を任せ窓を眺めた。


「だけど、このまま喧嘩別れになるのも忍びない。ひょっとするとこの話しを誰かが耳にして、良からぬ噂を立てないとも限らない」


 ギルドの個室で行われている話をどこの誰が耳にするのか、仮に悪評が立つのならばパーティーの誰かが流したものであろうに「ひょっとすると」も何もない。この手の言い分には続きがあり。


『そういう時は決まって』


「お互いの信頼を取り戻すべく、最後のクエストに同行してくれないか」


『タチの悪い要求がくるものだ』


 と黒猫は呟いた。


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