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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第7章 生命の樹と闇の魔導士(ダーク・ソーサラー)
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第八話「予想外の依頼」

フィオナの言葉がその場にいる者の思考を停止させているかのように、しばらく誰も微動だにしなかった。


最初に我を取り戻して言葉を発したのはラルフだった。


「…フィオナさん…今、【アールブの魔女】様って言いました…?」


驚愕に目を見開いたラルフをチラリと見たフィオナは、椅子に座りなおすと腕を組み、


「あぁ、そう言ったよ」


と答えて椅子に深く体を預けた。


「…えっ!?…だって、【アールブの魔女】様と言えば物語とかでもよく出てくるけど、そもそも伝説上の人物で、実在したかどうかも怪しいでしょう!?」


フィオナの言葉を受けたラルフは焦ったように言葉を続けた。


初めは面食らっていたエルミアも、手を顎に当てて思案顔になると、


「確かに、そんな人、実在するの?って話よね。名前は私も聞いたことはあるけど、伝説上の人物でしょう?私もラルフと同じで、どちらかというとおとぎ話の登場人物で、想像上の人物っていう印象なんだけど…」


2人の反論を受けたフィオナだが、特に慌てた様子も見せず、話始めた。


「今でも里の皆は、自分からはあまりあたしに近寄ってこないのはさっき言った通りなんだけど、それでも数人の仲のいい連中はいるのさ。その中の一人である里の古老に聞いたんだけど、【アールブの魔女】様は確かにいたし、その人の話だと、あたしは小さい時に何度か会っているらしいんだよ。もっとも、あたしはその事をまったく覚えてないんだけどね」


そう話すフィオナの言葉を聞いていたアリスは、それとなく自身の主たる黒猫へ視線を向けるが、タロは短く首を横に振った。


フィオナの告白を聞いた他の面々はかなりの衝撃を受けていたようだが、それはネガティブな印象ではなく、むしろおとぎ話と思っていたことが実は事実だったのかという興奮によるものだったらしく、ラルフが突然立ち上がって叫びをあげる。


「すげー!!【アールブの魔女】様も実在したとか、俺、今、すげー興奮してます!!!」


ラルフのテンションはおかしなものとしても、アリスと黒猫を除く他の面々にも衝撃を与えたようであった。


とは言え、話の本筋はまだこれからである。


「話はまだ途中だよ!大人しく座りな!!」


興奮しているラルフに「まったく!」と言いながら一喝をくれると、大人しく席に戻るラルフを待ってフィオナの話が再開された。


「さっき、エルフの大問題があると言っただろう?それは世界樹に関する事なんだよ」


世界樹と聞いて再び叫びそうになったラルフは、フィオナのひと睨みで振りかぶりそうになった手をゆっくりと下し、次の言葉を待った。




フィオナによって語られた内容は、先にエルフ全体に知らされた世界樹の危機的状況だった。


話を聞いた一同は一様に驚きを隠さなかったし、この森に入ったばかりのところでゴブリンの集団に襲われた理由も得心がいったとエルミアは考えた。


しかし、それと【アールブの魔女】を探すことにどのような関係があるのかはまだ判然としなかったが、そこにフィオナが回答を与えた。


「それで、その仲がいい古老から何とか聞きだしたところだと、何でもあたしがまだ小さい頃にまったく同じことが起こったけど、それを収めたのが【アールブの魔女】様だっていうのさ。」


だからもしかしたら今回の解決に協力してもらえないか、もしくは解決のための方法を教えてもらえないかと考えたとフィオナは言った。


「でも、この話を聞きだすのには苦労したよ。普段は歯に衣着せぬ物言いのはずなのに、何だか奥歯にものの挟まったような煮え切らない態度で全然教えてくれないしさ、まったく、何だってんだろうね!?」


そう言ってフィオナは知り合いだという古老への不満を口にしたが、一連の話を聞いたアリスが再び目線を黒猫にやると、彼女の主人は短く頷いて見せた。


その場にいた面々はフィオナの話で事情は理解したが、どうしても腑に落ちないことがあった。


エルミアがその事をフィオナに尋ねる。


「話は分かったけど、それ、なんで母さんがやってるの?だって、これ、冒険者ギルドへの依頼も母さんがしてるよね?こんな大事なら、そもそも氏族国から協力要請とか出るんじゃないの?」


エルミアの言ったことはもっともな事で、いくら高位の冒険者とはいえ、国家を揺るがす事態に個人として依頼を出すというはあまりに不自然だった。


通常であれば国家を上げて対処すべき事と思われたし、実際そうなのである。


しかし、エルミアの問いかけに対するフィオナの答えはシンプルだった。


「この事に国は動かない。だからあたしがやる。それだけだよ」


あっけに取られた顔をするエルミアに顔を向けながら、フィオナは言葉を続ける。


「そもそもだよ、あんただってエルフのこの国のやり方は知ってるだろう?国の頭があんなじゃ、いつまで経っても何かが決まるはずないさね。違うかい?」


母にそう言われれば、エルミアも得心するしかない。


ある意味諦めた表情を浮かべたエルミアは、今一つ理解の及んでいない他のメンバーへ簡単にあらましを説明する。






このエルフ氏族国に王族は存在しないため、各氏族の代表による合議で物事は決定される。


代表はもちろん族長なのだが、その決定にはある種のお墨付きが求められた。


そのお墨付きを与えるのは、各氏族の長老で構成される長老会議である。


つまり、この国では、族長会議で決定された物事に対して、更に長老会議でも了承を得る事が必要となるのである。


加えて、エルフは長命種族である。


一般的に500歳前後が寿命とされ、圧倒的に長いその人生の中で短期的に物事を決めるという意識は希薄になっていく。


畢竟、物事が決定されるのに要する時間は普通に数年単位となる事はざらで、場合によっては数十年かかる懸案事項もある。


更に言うならば、24もの氏族に分かれている現状、意見を取りまとめるのも簡単ではなく、更に時間を必要とする原因となっていた。


そのため、今回のように緊急で対応を考えなければならない時に身動きが出来なくなり、ただ事態の悪化を放置するだけという悪弊も出てくるのである。


エルフは元々変化を好まないからね、等とフィオナは付け加えながらエルミアの言葉を補足していく。


「世界樹は聖なる森の中心にあるから、本来ならハイエルフの方々が対処するんだけど、ハイエルフの方々もお手上げ状態だと通達があったんだとさ」


ハイエルフはエルフの上位種族であるが、見た目はエルフと変わらない。


ただし、聖なる森の中から出る事はなく、生涯、世界樹の管理をしながら、聖なる森で生きていくのだと言われていた。


同じエルフ氏族国の中に生きるものの、ある種の治外法権的な存在で、エルフとハイエルフが直接まみえる事はほぼ無かった。


「分ったかい?だからあたしがやるんだよ」


長い話を終え、フィオナは最後に決意表明のようにそう告げた。


あまりの話の大きさにラルフを含む3人のB級パーティーメンバーは茫然自失の体であったが、エルミアとアリスはそれぞれに何かを思案している風であった。


「…それで、どうしますか?このまま【アールブの魔女】さまの行方を捜しますか?」


そう切り出したのはアリスである。


アリスの言葉を聞いたフィオナも考え込むような表情を見せると、


「あの方もあの時でだいぶお年を召してらっしゃったらしいからね。いくらエルフと言っても永遠に生きられるわけじゃないし、やっぱり、もうあの方はいらっしゃらないのかねぇ…」


と言いつつ中空を眺めた。


数舜思案したフィオナは、


「まぁ、砂漠で針を見つけるような運任せの事をするよりも、現実的にやれる事を探した方が良さそうだね」


そう言って表情を引き締めた。


改めてその場に集また面々の過去を眺めすると、


「明日、聖なる森に向かうよ。話でしか伝わっていないし、実際にどういう状況になっているのか見てみない事にはどうにも対処の方法も分からないからね」


フィオナはそう告げたが、即座にエルミアから疑問が投げかけられる。


「ちょっと待って!…聖なる森はエルフでも禁足地でしょう?入る許可とか貰えるの??ましてや人間が入れるの??」


「何言ってんだい!許可なんか出るわけないだろう!忍び込むに決まってるじゃないか!」


差も当たり前と言わんばかりの顔でニヤリと笑うフィオナに、エルミアがかみつく。


「なっ!?…何、言ってるか分かってる??それ、私たちの事がバレたら、普通に国際問題になるのよ!!」


「世界樹を救えば、エルフの国の英雄に成れるじゃないか!そうすれば国際問題になんかなるはずないじゃないかね!」


「無茶苦茶言わないで!!」


ギャンギャンとヒートアップする親子喧嘩をしり目に、アリスは席を立つと思案顔で部屋の隅へとそれとなく移動する。


いつの間にかアリスの肩口にその体を預けた黒猫の主人に話しかけた。


「あの時の少女は確かにおばば様に会いましたね。と言うか、彼女の救出自体もおばば様に頼まれたものでしたし。」


『そうだな。その話は合っている。』


先ほどのフィオナの語った内容を反芻しながら、アリスと黒猫は互いの記憶をすり合わせる。


「でも変ですね。あの時の事を多少なりとも覚えているのかと思いましたが、あの様子だとフィオナさんは小さい頃の記憶が思い出せないようですが、私たち、何かしましたっけ?」


『いや、何も。おばばに引き渡した後は俺たちは会わなかったし、そもそも記憶操作系の魔法は闇属性だからあまり使えないんだが?』


「そうでしたね、一通りなんでも扱えるので、つい忘れてしまいますね。では、何故なんでしょうね?」


『さあ…?』


未だヒートアップする二人の親子げんかを眺めて、互いに顔を見合わせる。


今日はまだ始まったばかりである。

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