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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第7章 生命の樹と闇の魔導士(ダーク・ソーサラー)
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第七話「フィオナ」

「みんな、昨日はよく眠れたかしら?」


翌日、昼近くに起きだした皆の前に満面の笑みでフィオナが現れたが、その背後からエルミアの平坦な声がかかる。


「母さん。昨夜の醜態で全部ばれたから、そのキャラクター、もう意味ないわよ?」


暫しの沈黙ののち、表情を一変させ不機嫌さを露わにしたフィオナは、右手でガシガシと頭をかくと、身近にあった椅子にどっかと体を預けた。


「…まったく、一生の不覚だわ。せっかくあんたの為に猫を何重にもかぶってたのにね!」


そう言って、不機嫌なままの視線を自身の娘に向けたが、


「お酒飲もうとか言い出したの、自分じゃない!自業自得よ!」


と、敢え無く反撃を受ける事となった。


「かぁー!まったくこの子は!誰に似たんだか口が減らないねぇー!」


そう悪態をつく母親の横顔を見ながら、当の娘は、


「そりゃ、母さんの娘だから?」


とイタズラっぽい笑みを浮かべる。


その表情を不機嫌な表情のまま暫く眺めたフィオナは、やがて深いため息をついて苦笑を浮かべると、


「…違いない」


と言って肩をすくめた。




昨日とは打って変わり、完全に下町のおばちゃんとなったフィオナとエルミアのやり取りを傍で聞いていたアリスを含む他の面々もそのやり取りをあっけに取られて眺めていたが、特に驚きに固まっていたのは前夜の騒動から一人取り残されていたイオンである。


「フィオナさん…なんか、昨日と印象が違うのですが…」


イオンの言葉に顔を見合わせた親子だったが、あの時既にイオンが撃沈していた事をエルミアが思い出し苦笑を浮かべる。


「あぁ、イオン。ごめんなさい、これが母さんの素なの。慣れてね。」






「でも、ホントに目の前で見てると違和感が半端ないですね。エルフ自体のイメージが根底から崩れ落ちそうです。」


そう感想を述べるアリスの言葉にフィオナが視線を向けながら応える。


「アリスちゃんも言うねぇ〜…まぁ、そう言う気持ちも分かるよ。あたしはこの中では異端児だからね。」


そう言ってフィオナは自嘲気味に笑うと、簡単にそうなった経緯を語る。




小さい頃からお転婆だったフィオナだったが、フィオナの両親はそんな娘を窘めるでもなく、伸び伸びと育ててくれたのだとか。


ただ、フィオナの家族が属するトゥーヤ氏族の他のエルフからはフィオナ達家族は少し距離を置かれていたという。


会えば話もするし、普通に付き合いはあるものの、どこか腫物を扱うような、妙な余所余所しさを感じていたとフィオナは語った。


疑問に思って両親にその事を尋ねても、曖昧に笑うだけで特に答えてはくれなかったという。


そんな状況に息苦しさを感じていたフィオナは、長ずるにつれて、冒険者になって森を出ようを考え始めたが、はじめて両親にその事を話した時は大反対されたと言った。


何回も話し合ったがまったく折り合える様子も無かったことから、15歳の誕生日を迎えて成人した暁には、家を飛び出してやろうと心に決めたフィオナ。


15歳になれば成人。誰に何を言われることも無い。そう思って15歳になる日を待ったという。


そして、晴れて15歳になる日の早朝。


まだ世も明けやらぬ朝方に起きだしたフィオナは、両親に気づかれないように戸口を目指して居間に入ったところ、明かりも点けぬ部屋に何故か両親が待ち構えていたのだとか。


焦ったフィオナは一瞬パニックに陥ったが、父親から席に着くように促され、しぶしぶと席に着いたところで、父から再びどうしても冒険者になりたいのかと問われたという。


覚悟を決めたフィオナは、自分の思いのたけをその場で吐き出すと、このまま出て行って冒険者になると両親に突き付けたと語った。


しばらく無言で娘を見ていた彼女の父親は、一言「分かった」というと、自身の妻に目くばせをして何かを娘の前に置かせた。


そこには新しく用意された防具一式とショートソード、そして使い込まれた弓と矢の入った矢筒、一つの革袋が置かれた。


事態が良く呑み込めない娘に対して、


「冒険者になるなら、ちゃんとそれなりの準備をしろ。…そしてこれは、お前の成人の祝いの品だ」


そう言って彼女の父親は優しい笑顔を娘に向けたのだとか。


ちなみに、革袋の中には人間社会で使うお金がその当時の金貨で20枚入っていたとフィオナは言った。


その当時はこのエルフ氏族国に冒険者ギルドは無かったため、冒険者にになるなら人間社会に出る必要があったが、その時点でフィオナに人間社会の常識は無かった。


当然、お金の意味も使い方も分からない。


「今でもそうだけど、エルフって、物々交換でやり取りするからお金って必要なかったし、その時初めて金貨ってものを見たよ」


娘の状況を彼女の両親は分かっていたものか、もう冒険者になる事は反対しないから、ちゃんと人間社会でやっていくためのレクチャーを受けてから行きなさいという話になり、結果、1週間ほど両親から人間社会で生きていくための様々は知識を詰め込まれたのだと言った。


「ありゃ、辛かったね。普段は、どちらかと言うとのんびりした両親だったけど、鬼気迫る感じでしこたま怒られた。でも、その教えはちゃんと役に立ったよ」


そう言って懐かしむように部屋の一角に置かれた素描に視線を向けた。


そこには簡単なタッチで描かれた2人の人物の姿が描かれていた。


「エルフにも酔狂な奴がいてね。あたしの両親の絵を描いてくれたんだよ。」


そう言って、フィオナは微笑んでみせた。


両親の教えを受けて、いざ冒険者になるべく人間の街へその身を投じたフィオナだったが、最初は苦労の連続だったと言った。


まさに生き馬の目を抜くような世界で、両親からの教えが無ければ、とても15歳の少女が生き抜けるはずもなく、あっという間に身ぐるみ剝がされて奴隷落ちだったかもしれないとフィオナは苦笑した。


何とか初期の依頼をこなしながら技術を身に着け、冒険者としての実力を身に着けていったという。


また、初めはエルフである事を隠して冒険者を始めたが、ある程度経験を積むと、エルフである事を公にして仲間を募り、より難度の高い依頼もこなして冒険者のランクを上げていったそうだ。


その頃、常宿にしていた宿屋のおかみさんが大層豪傑で、肝っ玉母ちゃんを地で行くような人だったとか。


そのおかみさんの励ましやサポートのおかげもあり、信頼できる仲間に恵まれた事もあって、異例の速さでフィオナはAランク冒険者になったと語った。


「その時にお世話になってたおかみさんのが、たぶん移ったんだろうね。たまには顔見せろって言ってた両親が、顔見せるたびに嘆いていたよ。こんなはずじゃなかったとか言ってさ。だっはっはっ」


そう言って豪快に笑う見た目エルフの豪快なおばさんに、皆、引き攣った笑いで応えるしか出来なかった。




「まぁ、もうバレちゃったのなら気にしても仕方ないね。」


そう言って改めて皆と机を囲むと、フィオナからエルミアに確認が入る。


「それで、頼んでた件はどうだったんだい?」


「駄目ね。全然手掛かりすら見つからなかったって」


フィオナの問いかけに首を横に振って応じるエルミアの答えは芳しく無いものだった。


「…まぁ、しょうがないかねぇ~。あわよくばと思ったけど、そう都合よくは物事は運ばないねぇ。」


そう言いながら思案顔になったフィオナにアリスが問いかける。


「あの、フィオナさん。私は途中から加わったので詳しい話を聞いていないのですが、誰か、人を探していると言う話でしたか?」


その事を聞いたフィオナはエルミアの方へ顔を向けると


「あんた、アリスちゃんには詳しい話はしてないのかい?」


と問いただした。


だが、問われた当のエルミアも眉根を寄せると、


「いやいや、私もホントの所の話はちゃんとしてもらって無いんだけど?母さんがどこそこの誰と会って情報を貰ってこいっていう話と、何か困ったことが起こっているから助けてっていう話ぐらいしか聞いてないわよ!」


と逆に問いただされた。


「あら?そうだったかねぇ~…この年になると物忘れがひどくてねぇ~」


エルミアにそう返されたフィオナは明後日の方を向きながらそう嘯いた。


エルミアが額を押さえながら、だいたいわざわざモリーユの冒険者ギルドに持ち込まなくても近くに他の支部があるでしょうと言えば、多少無茶な事でも娘なら聞いてくれるだろうと思って、などと好き勝手なことを言い始め、2人が立ち上がって親子喧嘩に発展しそうになったところで、再びアリスの声がかかる。


「分かりました!…で、そもそも今回の依頼は何なんですか?」


今にも言い合いを始めんばかりの勢いだったが、フィオナとエルミアは同時にアリスに視線を移した後、互いに顔を見合わせると、静かに自分の席に座り直した。


軽く咳ばらいをしたフィオナは


「手紙書いて誰かに読まれでもしちゃマズいと思ってね。口頭で伝えるつもりではあったんだよ」


と前置きしたうえでこう話した。


「目的は人を見つける事ではないけど、その人が見つかれば問題解決の糸口にたどり着けるんじゃないかと思っているのさ。」


「その問題と言うのは大きな問題なのですか?」


フィオナの言葉を受けてアリスが再び疑問を口にする。


「あぁ、大問題だ。エルフ全体にかかわる問題だよ」


先ほどまでの少し茶化したような雰囲気はなく、静かに、そして真摯にアリスの疑問に答えるフィオナ。


僅かに沈黙が支配したその場で、再びアリスが問う。


「…それで、誰を探しているんですか?」


そう問われたフィオナはその場にいる全員の顔を見渡すと、最後にアリスに向き直りこう告げた。


「【アールブの魔女】様だよ。」

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