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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第7章 生命の樹と闇の魔導士(ダーク・ソーサラー)
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第五話「親子」

「母さん!」


エルミアは突如現れたエルフにそう呼びかける。


母と呼ばれたその人物はエルミアに顔を向けると、エルミアとそっくりな笑顔を浮かべて、


「エルミア!久しぶりね。元気にしてた?」


そう娘に問いかけた。


「ご覧のとおりよ。そっちも変わりないようね…でも、少し困ってるかな」


母の問いかけに素直に返したエルミアは、苦笑を浮かべて助けを求めた。


軽くうなずいたエルミアの母は、表情を改めて再び目の前のエルドラに向き直ると、


「で、あたしの客になんであんたが勝手に帰れなんて言うのか説明してほしいんだけど!」


先ほどのエルドラの恫喝とも取れる通告に勝るとも劣らない声音で再び馬車を囲む集団に凄んで見せた。


エルドラは突然の闖入者にも動揺を見せず、その手に引き絞られた弓もそのまま、今度はエルミアの母に向けられる形となった。


暫しの沈黙と睨み合いののち、エルドラが構えていた弓を下げると、それに合わせて周りのエルフたちもその弓を下した。


「…我々は不審な侵入者が勝手に森に入ってこないように監視しているに過ぎない。特に害意はない」


エルドラはそう淡々と告げた。


「この子達はあたしが呼んだ。それもちゃんと冒険者ギルドを通して依頼として呼んだの。次からは勝手な事しないで」


エルミアの母がそう言うと、エルドラは苦々しい表情でエルミアを一瞥し、無言でその場から立ち去った。


他のエルフたちもそれに追従するようにその場から消え去った。


辺りには再び静寂が戻ったが、とりあえず危機を脱した事にエルミアは安堵した。


まさに一触即発の状況から解放されて気が抜けた反動か、エルミアの心に沸々と怒りにも似た気持ちが湧いてきた。


「…もう~、なんなの、あいつ!昔からいけ好かない奴だったけど、更におかしな事になってるじゃない!!」


「…まぁ、あいつも悪い奴ではないのよ。ただ、古い考えに凝り固まっているっていう感じかなぁ…」


エルミアは暫しうっ憤を吐き出すと、ようやく気持ちを落ち着けて同乗者たちを呼び寄せた。




「私がエルミアの母のフィオナよ。冒険者をしているわ。」


そう自分を紹介したフィオナだが、軽装の革防具とエルフの代名詞と言える弓の他には腰にショートソードを佩いており、経験豊かな冒険者という雰囲気を醸し出していた。

アリスの受けた印象としては、母というより歳の近いお姉さんという雰囲気で、背格好もエルミアによく似たきれいなエルフの女性であった。


ただ、1点だけ、フィオナとエルミアの体型には決定的な違いがあった。

一般的にはエルフは細身で知られておりエルミアもその特徴を受け継いでいたが、フィオナについてはその革防具の上からでも分かる程に豊かな胸元が見て取れた。

今回同行している男性陣の目が一瞬釘付けとなり、エルミアの咳払いで我を取り戻した二人が慌てて視線を外す一幕もあったが、ラフルとクラークはこの件によってしばらくエルミアから冷たい視線を送られる事となった。


「母さんは長くA級冒険者を続けていて、今は特にパーティには入っていなくてソロで活動しているのよ」


エルミアの言葉に頷いたアリスは、自身も名乗る事とする。


「アリスといいます。旅の美少女占い師をしています」


「確かに美少女だと思うけど、自分で言っちゃうんだ?」


「間違ってませんよ?」


「ふふ、確かにね」


そう言って面白そうに笑うフィオナに思わずアリスの表情も綻ぶのを感じた。

それぞれが自己紹介を済ませると、改めてアリスは二人の親子を見て感想を述べる。


「そうやって並んでみても、全然親子には見えませんね?普通に姉妹で通りますよ」


アリスの言葉に満更でもない表情を浮かべるフィオナだが、


「ありがとう。一応、これでもエルフだからね。でも、あたしもいい年になって来たのよ」


と、苦笑を浮かべた。


「そうなんですか?ちなみに、フィオナさん、おいくつなんですか?」

「そうね、エルミアを生んだのが250歳ぐらいの時だったから…そろそろ340歳ぐらいになるかしらね」

「ちょっと!?母さん!何気にあたしの年をバラすの止めてくれない!?」


突然の母親の暴露話に慌ててエルミアが介入するものの、時すでに遅くアリスは驚愕の眼差しでエルミアを見た。


「えっ!?…エルミアさん、90さ…」

「ちょっと!アリス!年を口に出して言うのは止めて!」


エルフなのだからそういう事もあるとは頭では分かっていても、まだまだ20台後半でいけそうな見た目年齢と実年齢とのギャップで思わずその事を口にしそうになるアリスの言葉を必死に止めるエルミア。


「あ…失礼しました」


そんな娘の姿を見ていたフィオナは深いため息を吐くと、


「エルミアもハーフエルフなんだから、普通の人族より長生きするのよ。そんなに年の事を気にしてどうするの」


と苦言を呈したが、


「それは個人の問題!ほっといてよ!」


と、そっぽを向かれてしまった。


フィオナは、軽く肩を竦めるとアリスに向き直り、


「はいはい…ところで、アリスちゃん。あなたとはどこかで会ったような気がするんだけど、気のせいかしら?」


と、アリスに問うた。


当のアリスは困惑の表情を浮かべ、


「私は初めましてですよ?」


と返した。


「…そうよね。何だか、すごく昔に会ったような気がしたんだけど…。まぁ、そんな訳ないわね。ごめんね、変な事を聞いて」


フィオナも苦笑を浮かべてアリスに謝罪すると、アリスも

「いえ、大丈夫ですよ」

と笑顔で応じた。


「ありがとう。それで、エルミア。あなたの処のハゲは元気なの?」


再びエルミアに向き直ったフィオナがエルミアに問いかける。


「ハゲって!?酷い事言わないで!それにハゲじゃないから!!…元気にしてるわよ。今だって少し前にあった騒ぎの後始末でいろいろ大変なんだから」


「あら?そうなの。じゃ、キアラも連れてくれば良かったじゃない。そんなに忙しいんじゃ、世話するのにも手が回らないでしょうに」


「連れてこれるわけないじゃない!まだ4歳なのよ?大丈夫。普段からお願いしているお手伝いさんにお願いしてるから問題ないわ」


「久しぶりにキアラの顔を見れるかと思って楽しみにしてたのに…」


「自分が偶には会いに出てくればいいじゃない!」


何だか家族の会話だと思っていたものの、会話の内容が今一つの見込めず、思わずアリスは質問を投げかける。


「…あの、スミマセン。先ほどから何の話をしてるんですか?」


アリスのその言葉を聞いたフィオナはきょとんとした表情を浮かべ、アリスに答える。


「何のって、この子の旦那様と子供の話よ?」


「そうなんですか…って、えぇー!!エルミアさん、結婚してたんですか?…っていうか、子供??」


フィオナの言葉の意味を理解したアリスは珍しく取り乱して叫び声をあげた。


アリスの反応を不思議そうに見ていたフィオナは娘に疑問を投げかける。


「あなた、アリスちゃんに結婚してる事を言ってなかったの?」


そう言われたエルミアも疑問を表情に浮かべ、


「あれ??言ってなかったっけ??」


と悩む素振りを見せた。


「聞いてませんよ!!」


アリスはエルミアに抗議の声を上げたが、


「あ~、それは…ゴメンね」


と苦笑いで謝られ、ため息をついて諦めた。


「…まぁ、いいですけど…それで、旦那さんってどんな人なんですか?」

「どんなって、いつも会ってるじゃない?」

「え?」


一体、いつ会ったのかとアリスが記憶の回廊をこじ開けようとしたところで、ラルフから助け舟が入る。


「…アリスさん。エルミアさんの旦那さんって僕のおじさんです」

「えっ?…えぇー!!レイモンドさんが!?」


今日、これで何度驚いたか知れない、とアリスは思った。

それほど、衝撃的な事実が矢継ぎ早に飛び込んできて、アリスは頭を抱えた。


「何?その驚き方。何かおかしいかしら?」


しかし、そんなアリスの反応を見て訝しげな表情を浮かべるエルミアと目が遭ったアリスは、慌ててフォローする。


「あ、いえいえ、おかしい訳じゃないんですが…普段のやり取りを見てると全く夫婦とは思えなくて…」

「そりゃ公私の区別はちゃんとつけないとね」


エルミアのいう事はもっともであるが、しかし…


「じゃ、だいぶ年下の旦那さんを…」

「ア・リ・ス?」

「…失礼しました」


思わず先ほどの年齢の事を蒸し返して危うく逆鱗に触れるところだったアリスは、寸でのところで生き延びた。


「今更だけど、こんな所で立ち話も何だし、取りあえず私の家まで行きましょうか。話はそれからで」


話がひと段落したと見たのか、フィオナが移動を促し、一同もそれに同意してその場を動くことになった。


その時、それまで幌の上で様子を見ていたタロは、頃合いを見計らって地面に飛び降りた。


地上に降り立ったタロは

『エルミアの母親という事だったが、エルミアもあの豊かなモノを受け継がなかったのは残念だったな』

などと軽口を叩いたが、その時アリスの視線が鋭くなった事には気づかなかった。


それまでタロの事に気づいていなったフィオナは突然現れた黒猫に驚くと、


「この猫はなんなの?」


と誰にともなく問いかけたが、それにアリスが答える。


「あ、その黒猫、きれいなお姉さんにはマーキングに行くので気を付けてくださいね。オスなので。」

「えっ!?そうなの?エッチな猫ちゃんね」


特に前後の説明もなく、ましてやアリスの旅の同行者という事も言わずにそれだけしか説明しない従者にタロは抗議の声を上げるが、


『ちょっと待て!それはいくら何でも「男にスリスリしますか?」絶対にしない!』


と、不利な言質を取られて思わず沈黙してしまった。


「…ほら、やっぱり」

『…いや、じゃなくてね、猫の行動学としての行為であって…』

「…で?」

『…もういいです。』


タロは自身の不憫な身の上を思って心で泣いた。


知らないうちに地雷を踏み抜いたタロがその事に思い当たる事は無かった。


ともあれ、一行は一路、フィオナの自宅へ向かって移動を開始したのであった。

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