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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第7章 生命の樹と闇の魔導士(ダーク・ソーサラー)
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第三話「世界樹」

「ハアァー!!」


ダンッ!!


「グギャァー!!」


裂ぱくの気合を込めてラルフが剣を振り下ろすと、ゴブリンリーダーは断末魔の悲鳴を上げてその場に倒れた。


「エルミアさん。これで粗方片付いたと思いますが…」


「そうね。こちらも終わったわ」


一行はようやくにエルフの森の中に入ってきたのだが、早々にゴブリンの集団と遭遇する不幸に見舞われた。もっとも、この場合の不幸はどちらであったのか。


単体ならEランクの魔物であるゴブリンだが、上位種であるゴブリンリーダーを要する集団であればCランクをつけられる事もある厄介な存在だ。


しかし、その集団をしても元Aランク冒険者と現役Bランク冒険者を含む混合パーティーと対峙するという事が歓迎すべからざる事態であることは推して知るべしである。


結果、総数40程のゴブリンの群れは、たった4人の冒険者と1人の少女との戦闘で全滅の憂き目にあった。


「こんな所でゴブリンの集団に出くわすなんて、ちょっとした椿事ね」


全ての戦闘が終了し、後始末にかかった所でエルミアがぼそりと呟いた。


それを聞いたラルフは、討伐証明部位である右耳を削ぎ落としながら怪訝な顔をしてエルミアに問いかけた。


「え?何でですか?ゴブリンなんて、繁殖力も高いし、一番遭遇する確率が高いじゃないですか」


ゴブリンの生態はよく知られているところではあるが、種族関係なく雌をさらって苗床とし繁殖を繰り返すと云われている。


魔物の中でも群を抜いて繁殖力が高く放っておけば甚大な被害を出しかねないので、常時討伐対象として依頼の有無に関係なく報奨金が出る事になっていた。


その為、駆け出しの冒険者にとっては格好の飯の種となっていたのであるが、そのゴブリンとの遭遇戦をエルミアが椿事と呼んだ事にラルフは違和感を覚えたのであった。


「あまり人の社会では知られていないのだけど、エルフの森には低レベルの魔物は居ないのよ、基本的にね」


ラルフの疑問に答える形でエルミアはそう答えたが、当のラルフはますますクエスチョンマークが頭の周りに湧いてきた。


その時、ラルフとエルミアの背後から少女の声が飛ぶ。


「世界樹の加護があるから…ですよね?」


そう言いながら近づいて来たアリスの言葉にエルミアは軽い驚きを覚えた。


「よく知ってるわね。それ、エルフの秘事だから人族で知ってる者は殆どいないのよ?」


エルミアの言葉に軽く微笑を返したアリスは、


「無駄に知識が豊富な知り合いがいるんです」


と答えた。


『無駄にって酷くない!?』


その知識の源泉はディスられた事に抗議の声をあげたが、軽くスルーされた。


そんなエルミアとアリスのやり取りを横で聞いていたラルフは、


「えっ!?世界樹ってあの物語とかに出てくる世界樹ですか??ホントにあるんですか!?」


と少し興奮気味に二人に問いかけた。


「ええ、あるわよ。まぁ、私も実物は見た事ないけど、森の深奥部でハイエルフの方々が守ってるって話よ」


そう答えるエルミアの言葉にラルフは、


「世界樹にハイエルフって、ホントに物語の世界ですね!」


と興奮しきりであった。


その様子を見てエルミアが、


「…あなた、意外に本なんか読んでるのね?」


と問いかけると、


「ばあちゃんが熱心な人だったんで、小さい頃は読んでましたよ。まぁ、本は高いんで同じ本を何回も読んだんですけどね」


そう言って苦笑した。


「すっごく意外ね」


エルミアがそう言うと、


「あ!今、俺の事をバカにしたでしょう?これでも読み書きもバッチリなんですよ!」


と少しムクれた感じでラルフが抗議する。


「その割にはあなた、依頼書の字が読めないって受付の若い子に聞いてることあるじゃない?」


そう疑問を投げられたラルフはゆっくりエルミアから視線を外すと、しばらく間をおいて


「…たまに知らない言葉があるのは聞いてます」


と言って視線を泳がせた。


その答えを聞いたエルミアは、ラルフを半眼で見つめると、


「…あなた、うちの職員に悪さして無いでしょうね?」


と問い詰める。


「いやいや!?そんな事はして無いです!!…ただ…」


「ただ?」


次第に圧力を増すエルミアの視線に耐えかねたラルフは、しおしおと項垂れると、


「女の子と話してるのは楽しいなぁ〜と…」


と、か細い声で答えを返した。


それを聞いたエルミアは深い溜息をつくと、


「あなた、全然懲りてないでしょう?もし、うちの職員に悪さしてるのが分かったら、冒険者資格剥奪だから覚えておきなさい!」


そう言ってラルフに人差し指を突き付けた。


「えぇ~!?そんな…俺、ホントに何もやってないですよ~…」


「それなら問題無いから良いじゃない。今後もそのようにお願いしますね」


実際のところ、ラルフには心に決めた目標があるので女の子を口説いている場合では無かったが、その目標たる少女がいる場でそのような事を言われ、テンションダダ下がりである。


当のアリスはもちろん特に興味を持つ話でもなかったのでエルミアとラルフの会話はそのままスルーしただけだったが、ラルフの心情としてはポイントを更に下げまくる材料になったと意気消沈したのは言うまでもない。


そんなやり取りをしていると、


「随分楽しそうですね?」


そう言いながらイオンとクラークが馬車を挟んで反対側からやってきた。


「イオン、そちらはどうだった?」


「特に問題ないです」


エルミアの問いかけにも表情を変えること無く淡々と答えるイオンだったが、イオンと一緒に戦ったクラークは


「いやあ、やっぱりイオンの魔法はすごいですよ!ゴブリンがまとめてあっという間に消し炭ですからね!」


と大絶賛であった。イオンは表面上クールに見えるが、そこはまだ14歳の”少女”と言っていい年齢である。


褒められるとうれしいのか若干頬に赤みが差し、鼻がピクピクして来る事を暫く共に活動しているラルフとクラークは知っていた。


一方のイオンはクラークからの賛辞を謙遜し、


「いえ、クラークさんが敵を抑えて詠唱の時間を取ってくれるからですよ」


と当たり障りのない返しを口にした。


逆にアリスに対しては異常に対抗心を燃やしているのか、どうだと言わんばかりにどや顔を見せつけるものの、アリスにしてみれば何ら興味のない事柄なので特に反応も見せず、その無反応にイリスのこめかみがピクピクと痙攣していた。


その様子を見ていたラルフとクラークは苦笑浮かべるのみであった。


「ところで、さっきの話の続きを教えてもらえませんか?」


やり取りがひと段落したところで、ラルフはエルミアに再び問いかけた。


「続き?」


エルミアはとっさに内容が思い出せず、ラルフに問い返す。


「世界樹の加護ってヤツです」


「ああ。それはね…」


エルミアの語ったところによると、世界樹はこの世界の安定のために神が植えた神樹であるという。


その齢は万年に達した時に本来の力を発して世界を覆う加護を与え、魔物をはじめとした闇の力に属するものを打ち払うのだと言われているそうな。


ただ、その世界樹はまだその樹齢が三千年をようやく超えて来たところで、まだ本来の力を出すことはできないのだとか。


それでもこのエルフの森全体を覆う程度の加護は与えられているらしく、低位の魔物はエルフの森では生息できないということだった。


「だからね、本来であればこんな所でゴブリンなんかに襲われるはずはないのよ」


そう言って、今自分が言ったことを反芻する様に考えに沈みそうだったエルミアに、


「ここで悩んでも仕方ないので、取り敢えず先に進みませんか?」


と促したのは話を黙って聞いていたアリスだった。


「そうね。余計な道草を食ったわ。先を急ぎましょう」


アリスの言葉に現実に引き戻されたエルミアは、急ぎ出立する旨を告げると他の面々も馬車に乗り込んだ。


⦅なぁ?⦆


そんな中、念話でタロの声がアリスに届く


⦅何ですか?⦆


⦅前にもこんな事、無かったっけ?⦆


⦅ありましたね…三百年…と少し前だったでしょうか?⦆


⦅あぁ、あれね⦆


アリスの回答に自分の記憶が結びついたタロは暫く考えを巡らせると、


《あの時は確か、危うく世界樹が枯れるところまでいってたな。再生が間に合って良かったが…》


そう言いながら当時を回想する主にアリスも答える。


《そうですね。正直、あの時、私たちがいなければ間違いなく世界樹は枯れ果てていましたね》


《そんな事になったら、おちおち旅も続けられんからな。》


最悪の状況を思い浮かべて身震いした黒猫は、ふと思いついて従者に尋ねる。


⦅…結局、あの時の黒幕は誰だったんだっけ?⦆


主に従者もまた記憶を手繰り寄せながら答える。


⦅そうですね。確かあの時は、一つの氏族の族長の独断でという事でしたが、その後その氏族自体が森から追放になったと聞いたと思いますよ⦆


⦅…そう言えばそうだったな⦆


アリスとの会話で次第に当時の事が思い起こされてきたタロに再び従者から情報がもたらされる。


⦅タロ様。あの時、経緯は良く分かりませんが、おばば様が連座で森を追放になったと思います⦆


⦅おばば様?⦆


⦅【アールブの魔女】様ですよ⦆


自分の告げた情報にピンと来ていない主にやれやれとため息をつきながら最後のピースを与える。


ただ、その情報を主は知らなかったらしく、タロは大いに驚いた。


⦅えっ!?あいつ、追放されたの??…エルフの連中、頭は大丈夫なのか…?⦆


タロがそう言う程に、【アールブの魔女】の力は偉大であったし、その事を知らぬエルフもいなかった。


なのに、その偉大な力を手放した事に大きな違和感を覚えたタロは、更に考えを巡らす。


《なあ、アリス…》


《…》


《アリス?》


《…》


『なんで答えないんだよ!?』


何度かの念話での呼びかけに答えないアリスに、タロは思わず叫んでしまったが、周りにはには少し大きめの「にゃーん」が聞こえただけで、特に誰も聞きとがめる者はいなかった。


「…あ、魔力、切れてますね」


主人の問いかけに一瞬何事かと思ったが、魔力タンクが空になっている事に気づいたアリスは小声でその事実を伝えた。


『思ったより魔力が持たんな…しかし、今はこれ以上のものは見つからんし、本当に緊急時用に取っておかないと、役に立たんな』


とりあえず夜にでも魔力は充填することとして、この場所であまり深い話をアリスとするわけにもいかない為、タロは先ほどまでの話を頭の中で整理にかかった。


自分の思考に埋没していったタロは、誰にという事もなく、


『…いずれにしても、この状況はまたぞろ誰かが世界樹に悪さをしているのかもしれんが…』


という言葉が口をついて出たが、どうしたものかと頭を悩ます黒猫の主を横目で見ていた従者は、読んでいた本を再び開きながら周りの他の者には聞き取れないほどの声音で言葉を零す。


「ほら、やっぱり。そうやって、いろんな所に首を突っ込もうとするから、結果、トラブルに巻き込まれるのですよ。」


『ぐっ!?…』


従者の真っ当すぎる指摘が黒猫の心を串刺しにしたところで、馬車は再び走り出した。


旅の目的地まではもうあと僅かではあるが、この道行がどう転ぶかを見通せるものは、未だここには存在しなかった。

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