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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第7章 生命の樹と闇の魔導士(ダーク・ソーサラー)
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第二話「予期せぬ再会」

事の始まりは10日前。


その時タロとアリスは、十六国連邦を構成国する国の一つである【オトラント王国】の交易港湾都市・ベルゲンにいた。


【オトラント王国】は【十六国連邦】の北西部に位置する国で、【十六国連邦】の中で唯一【エルフ氏族国】と国境を接しており、エルフとは良好な関係を築いていた。その為か他国で見られるような、いわゆる“亜人蔑視”のような風潮もこの国においては皆無と言って良かった。


また、ここベルゲンも【エルフ氏族国】に最も近い都市という事に加え、大陸有数のの交易都市の一つと謳われる聖王国の都市・サンドラの海の窓口としての役割を担い、毎日多くの人と物資が行き交う賑わいを見せていた。




なぜタロ達がベルゲンにいたかと言うと、単に「たまには海産物を堪能しましょう!」という実に自分の欲望に忠実な従者の我儘によるものだった。


とは言え、旅の目的はあって無いようなもの。特にタロに否やは無かった。


そしてベルゲンに着いた主従がさて何から食べようかと思案しながら街を散策しているところに運命の出会いが待っていた。


「あれ?…アリスさんじゃないですか!!」


不意にそう声をかけられ、そちらの方を向くと、そこにはパッと見チャラい若い男と、やたらデカイおっさんと、まだ幼さの残る少女の三人組が立っていた。


「?…スミマセン、どちら様ですか?」


こんな三人組には会った記憶が無かったアリスはそう問いかけたのだが、


「えぇーっ!?…アリスさん、そりゃないっすよ〜…」


と返され、思わず困惑の表情を浮かべた。


すると、アリスの肩口に乗っていたタロが何かを思い出したように『あっ!』と小さく声を上げた。


三人に気づかれないよう


「何ですか?」


と短く主人に問うた従者に


『モリーユのCランク冒険者じゃないか?』


そうタロは返した。


アリスはしばし黙考したところでタロの言った人物に思い当たり、成る程と手を叩くと、


「あぁ、あの下衆いナンパ男二人組!」


と比較的大きな声で返した。ここは町中の繁華街も近い通りである。周りを歩いていた通行人もアリスの声に反応し、二人に視線を向ける。


「ちょっ!?…もう勘弁してくださいよ~…」


アリスの言動に動揺を隠せないモリーユの元Cランク冒険者ラルフとクラーク…例のスタンピード騒動の折にダンジョン調査隊に参加し、アリスとはキマイラ戦を含め共に戦った二人の若き冒険者である。


元Cランクが示す通り、その後の働きが認められ、多少の紆余曲折はあったものの、先日めでたくBランク冒険者への昇進を果たしたのであった。


もっとも、アリスとは最悪の出会い方であったし、アリスの言った事は概ね間違っていないので反論しづらい所が二人の辛い所であった。


とその時、後ろからその様子を見ていたラフルとクラークの連れと思われる少女が話に割って入った。


「ちょっと!あなた、何言ってるのよ!誰かと勘違いしてるんじゃないの!?二人も言い返してくださいよ!!」


自分の連れが侮辱されたと思ったものか、その少女はアリスを睨みつけると二人に反論するよう急き立てた。


しかし当の本人たちは、


「いやぁ〜、それはちょっと…」


「何ですか!?言われっぱなしで良いですか!?そもそもこの女、誰なんですか!?」


と煮え切らない態度を見せた事で、更に少女はヒートアップしていく気配であった。


アリスはこんな事で足止めを食ってはかなわないと思い、再び二人に話しかける。


「あぁ、失礼しました。ラルフさんとクラークさんでしたね。暫く見ない間に雰囲気が変わられて気づかず失礼しました。お元気そうで何よりです」


そう言ってアリスは二人にニッコリ笑いかけた。


その笑顔を見たタロは思わず、


『うわぁ〜、あざとい笑顔…』


と口に出して言ってしまったが、反射的に従者から向けられた氷点下の視線に即座に長い尻尾で口をふさいだ。


アリスに忘れられていたわけでは無い事に安堵した二人は、


「いや、こっちこそいきなりスミマセンでした。アリスさんはいつからこの街にいるんですか?」


と普通に世間話を始める気配であった。


すると件の少女が再び話に割って入った。


「ちょっと!私を無視して話を進めないでくれます!?」


そう言われて改めて少女を見たタロとアリスは、内心ほうと思った。


まだあどけなさが残る幼い面立ちだが、勝気な印象を与える目元から鼻筋にかけての造形はいずれ美しく成長するであろう事を容易に想像させたし、その内面から湧き上がるように感じる魔力は通常の人族のそれを大きく凌駕していると感じられたからだ。


「…あの、この方は?」


「あ、この子は最近自分らとパーティーを組んでいるイオンって子なんですよ。まだ若いんですけど、なかなか才能のある魔法使いなんです」


そうラルフに紹介されると、先程までの激高ぶりが嘘のようなニヤけた表情を浮かべ少女…イオンははにかんで見せた。


「ラルフさん、そんな、才能があるなんてほめ過ぎですよ。まぁ、他の人より少しは魔法が得意、ではありますけどね」


そう言いながらキラキラした視線をラルフに送る少女を見て、何となく先ほどまでの激高の理由が分かったアリスとタロは「『ああ、なるほどね…』」とお互いに納得したのだった。


ひとしきりラルフに色目を使ったイオンは、先程までのきつい視線を再びアリスに浴びせ、


「だいたい、この人、誰なんですか?」


と再びラルフに聞いた。ちなみに、クラークも先ほどから近くにいるのだが、イオンは一切クラークには話しかけていない。タロはそんなクラークに内心エールを送る。


(ドンマイ、クラーク)


そしてアリスは話の腰を折ってくれたイオンにほくそ笑みながらこの場からの離脱を図った。


「この人はね…」


「あの、私、忙しいので行きますね。それじゃ」


そう言ってその場を離れようとしたアリスをラルフは咄嗟に引き止める。


「えっ?いや、あの、ま、待ってください!お願いがあるので、少しそこまで一緒に来てください!」


「え??私、忙しいんですけど…」


ラルフとしてもアリスを引き止めたのは咄嗟の反応だったが、よくよく考えればこれは天の助けかも知れないと思えた。


「そんなに時間取りませんから!すぐ済みますから!お願いします!!」


そう言ってラルフが深々と頭を下げたのを見て、クラークもそれに倣った。


一人イオンは展開について行けず、置いてけぼりを食って呆然としていたが、ここは中心地の通りである。大の男二人が一人の少女に頭を下げ続けている光景は多分に人目を引いた。


あまり目立つ事をしたくないアリスとその主人は、内心の舌打ちを押し殺す様にしてアリスが二人に言葉をかけた


「…はぁ…二人とも顔をあげてください。じゃ、少しだけですよ?」


そう言って渋々同行を了承した。


「はい!!ありがとうございます!!」


アリスの言葉を聞いたイオンを除く二人は


満面の笑みを浮かべて


「じゃ、こちらへお願いします」


と下へも置かぬ対応でアリスを誘導した。


「何でこんな女を…」


その後ろから明らかな不満と憤懣やる方ないと言った風情で付き随うイオンの姿があった。




二人に連れてこられたのは一軒の宿だった。こういった所は一階が食堂のような造りになっており、そこにラルフ達がアリスを連れてきた理由の人物がいた。


「アリスじゃない!!久しぶりね!」


そう声をかけてきたのは、モリーユの冒険者ギルドサブギルドマスターであるエルミアだった。


「エルミアさん!?どうしてこんな所にるんですか??」


しばらく前、タロとアリスはモリーユという山間の町で起こったダンジョンでの騒動に関わっており、その原因を作ったのが目の前にいるエルミアその人だった。


とは言え、知り合って数年経つこの女性の事を好ましく思っているアリスにとって、頼まれれば中々嫌とは言い難いのも事実であったが…。


「ちょっと事情があって、私の母の所に行く途中なのよ」


「はぁ、エルミアさんのお母さんのところですか…それでラルフさん。私が呼ばれた理由は…?」


エルミアの事情は分かったが、それと自分が呼ばれた理由が結びつかない。


嫌な予感を感じつつラルフにそう問いかけるのに被せるようにエルミアが叫んだ。


「でかしたわ!ラルフ!アリスがいれば鬼に金棒よ!これぞ神の采配ね!」


エルミアのテンションに若干引きつつアリスは当のエルミアに話の矛先を向ける。


「スミマセン、エルミアさん。話が見えないんですけど…?」


するとエルミアは、はっしとアリスの両手を握り上目遣いで懇願の表情を浮かべこう言った。


「お願い!アリス!私たちを助けて!!」


エルミアのセリフを聞いたアリスは数瞬の間を置いてエルミアの手からの自らの手を引き抜くと、


「…じゃ、私は忙しいのでこれで…」


と言ってその場を立ち去ろうとした。その様子を察したエルミアは重ねてアリスに懇願した。


「ちょっと!アリス!少しは話ぐらい聞いてくれてもいいじゃない!?」


「…話を聞くだけでいいですか?」


「話を聞いたら当然、手伝ってくれるわよね?」


そう言って満面の笑みをアリスに向けた。


その顔を見たアリスは、盛大なため息をつくとガックリうなだれた後、顔を持ち上げて恨みがましい視線をエルミアに向けた。


「…エルミアさん、ずるい…」


アリスの様子に若干申し訳なさそうな表情を浮かべたエルミアは、


「ホントにアリスには悪いと思ってるわ。だから、謝礼もちゃんと払うからお願い!協力して!」


そう言って顔の前で両手を合わせて頭を下げた。


ここまでエルミアにされてはアリスに断れるはずもなく、致し方なくエルミアの頼みを聞き入れる事にした。


「…分かりました。エルミアさんの頼みなら仕方ないです」


アリスの答えを聞いたエルミアは笑顔で顔を上げるとアリスを抱きしめてこう言った。


「ありがとう!アリス!恩に着るわ!じゃ、すぐに出発しましょうか!」


思いがけないエルミアの言葉に思わず目が点になってしまったアリスは、しかしすぐに立ち直ってエルミアの腕から抜け出すと、


「えっ?すぐに出発って、どこに行くんですか!?そもそも話は!?」


とエルミアを詰問した。


「ゴメンなさい、アリス。実はあまり時間が無いの。この街に立ち寄ったのも、ここである人物と会う必要があったからで、本当はこんな寄り道してる時間も惜しいのよ」


申し訳なさそうに答えるエルミアの姿にアリスは落胆の表情を浮かべる。


「えぇ~…私、ここには海産物を堪能するために来たんですよね…」


そこで自分の欲望を満たすための最後の抵抗を試みたアリスだったが、


「それについては本当にごめんなさい。いずれその件については埋め合わせをするから!ねっ?お願い!」


再び顔の前で両手を合わせ懇願するエルミアを見るとそれ以上の抵抗を諦めた。


「…はぁ~、もう、分かりました。じゃ、行きましょう!」


「ありがとう!アリスならそう言ってくれると思ってたわ!」


エルミアは再びアリスをひとしきり抱きしめると、


「じゃ、みんな!出発よ!」


そう言って宿のチェックアウトに向かった。


『お前、エルミアには甘いな』


ニヤリと笑った顔を向けて話しかけてくる主人から顔を背け、


「ほっといてください」


そう不機嫌そうに呟く従者を見つめ、理由が分からないでもないタロであった。


なお、エルミアとアリスの一連のやり取りを唖然として見ていたイオンには誰も触れる事は無かった。




「イオンと言います。14歳です。魔法使いしてます」


エルミアの取り成しもあって出発して直ぐに改めて自己紹介をしたアリスとイオンだったが、若さゆえかまだわだかまりの取れないイオンの棒読み自己紹介を聞きながら、いろいろ面倒くさそうなのであまり関わるまいとアリスは心に決めた。


こうして波乱の旅は幕を開けたのだった。

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