第零話「プロローグ」
そこは暗い場所だった。
暗く、まるですべてのよどみが澱のように堆積した場所……。
人が足を決して踏み入れるべきでない場所……。
そこに、ひとりの男が立っていた。
灰色のロ-ブを頭からすっぽりと被り、見る者もいないその場所ですら、すべてからその身を隠すように……。
男の手には1本の錫杖が握られている。
禍々しいオーラを放ちながら、それでいて、その器物の本来の持つ神々しさを感じさせるように。
そして男は、やおら手に持った錫杖を地面へと突き立てた。
「とりあえず、これでちゃんと機能するはずなんだけどな。まぁ、ここまで入ってこられる人間はいないと思うけど、念のために保険はかけとくか」
男はそう言うと、いくつかの作業を行い、満足げに辺りを見渡した。
「さて、どうなるかね。あとは、騒ぎが始まってからのお楽しみって事かな。しかし、あいつ、人使いが荒すぎだろーがよぉ」
そう呟いた男の姿は、次の瞬間にはその場から消え失せていた。
先ほど男が突き立てた錫杖も、いつの間にかどこにも見つけることは出来なかった。
澱んだ空気が漂う空間には、先ほどと同じ静寂が戻っていた。
いや、先ほどまでと違うことが一つだけ……。
どこからともなく禍々しいオーラが溶け出し、その澱んだ空気と一体になって辺りに漂っていた。




