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黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】  作者: あもんよん
第六章 大海の王者と魔導白書(グリモワール)
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第十五話「E’sのゲーム」

エゴイストにある歓楽街の中でも、主にギャンブルが盛んなエリアがある。


富が枯渇した者。

富を持て余す者。


立場は違えど、金の魔力に取りつかれた者たちが一夜の夢を求めて集まってくる場所である。


そんなエリアの表通りに面していない小道の先に、その入り口はあった。


小さな建物の入り口には二人の屈強な男が番をしている。

多少の知恵が回ればこの2人を相手に事を起こし、強引に入り口を開けようとは思わないだろう。


この2人が守る建物は周りの建物に比べ質素ではあれど何らかの頑丈な素材で作られており、誰の目から見ても異質な存在であるのは明らかだった。


だがごく少数ではあるがその建物を訪れる者がいる。


来訪者は小屋の門番へ短く何かを伝え、それを聞いた門番は簡単な身体検査を行い、それをパスした者がドアの奥へ通される。


チェックというにはあまりに簡易すぎて気抜けするが、それは来訪者がこの質素な建物にふさわしくない身なりであることから、ある程度の礼を欠くわけにはいかない事情であることは想像がつく。


過度な詮索は上得意客の機嫌を損ねるためか、何かが起こったとしてもその建物内であればどの様にも対処が出来るという自信の表れなのか。


秘密の言葉から身体チェックまでそう時間はかけられていなかった。


そうしてドアの中に入った来客者は、まずその部屋の暗さに躊躇する。

門番の案内で通された場所は地下へと続く階段であり、簡素なたいまつが足元を照らしていた。


驚くほど長く深い階段を下りる。

一段、一段降りるたびに暗くなるはずの階段に光が差し込んでくる。


降りきった階段の先には、目を覆いたくなる程の光が溢れ、目を凝らすとそこが入り口からは想像できない程の空間が広がっているのが分かる。



数百人は入るだろうその空間はすり鉢状になっており、中央の一番凹んだ場所にはゲーム用のテーブルが一つ設置されていた。


闘技場を思わせるこの会場には既に多くの客が集まっており、世紀の瞬間を心待ちにしている。


一部の者にしか招待状は届かない。


仮にその事を耳にした者がいたとしてもキーワードが無ければ足を踏み入れることを許されていない。


それが“女王のゲーム”


そう呼ばれたこのゲームには女王の特別な許しが無いと参加することは出来ない。

シンプルかつ最も参加が困難なギャンブル。


過去、何度か行われたゲームでの“景品”はどれも稀少価値が高く、例えば国一つ買えるほどの値が付く物から、国一つ傾くほどの危険な物まで存在した。


毎回、景品については極秘であったが、今回は一つの噂がこの街内外へ広がった。



“グリモワール”



神の御業が源流となる“魔法”の全てが記された魔導書。


この書に記された魔法は、いかなる者でも扱うことが出来る。

これまで一部の熟練者のみが扱えた魔法が特別でなくなる。


これが噂通りならば、各国の力関係は瞬く間に崩れ世界のバランスが崩壊する。


その力を列強諸国に売りつけ巨万の富を得ることも、まさに神に代わって世界を手に入れる事も可能と言われる。


それがこのグリモワールであった。



それに加え、このゲームに参加するものはそれぞれが掛けに必要な品物を持ち寄る。


女王に参加を認めさせるための景品は、それだけでも世界を変えるほどの珍品奇品がそろう。


このゲームは、一夜にして征服者を誕生させかねない危険なゲームでもあった。



観客はこの世の珍品を一目見ようと集まった物好きから、世界を変える力を有する者を召し抱えようとする者など、様々な思惑を持った者が集まるこの空間で、今まさに世界が変わってしまうかもしれないゲームが行われる。




突然、部屋の明かりが消される。




ざわつく場内。


間もなくして中央のテーブルにスポットライトがあたる。


そこには真っ黒なタキシードに身を包み、白髪交じりの長い髪を後ろで束ねた初老の男性が現れた。





「ではゲームのルールを確認しましょう」


初老の男性は特に挨拶もなく唐突に本題へ話を進める。



「各プレイヤーに配られるカードは2枚。そこに描かれている人物ごとに強さが異なります」


その言葉に追随するように4枚の垂れ幕にスポットがあたる。

それぞれの幕には絵が描かれている。


槍を持ち敵と勇敢に戦うジャック。

美しさと神秘さを秘めたクイーン。

気高さと誇りを冠に持つキング。

そして狂気と狡猾を象徴するジョーカー。



「ジャックよりクイーンが強く、クイーンよりキングが強い。ジョーカーはクイーンやキングには強いがジャックには勝てません」


「1人に二枚づつカードを配り。ベット(賭ける)かドロー(降りる)か選択していただきます。ベットする方は一枚目を開けていただき、一番弱いカードを持った方がルーズ(負け)です」


「続いて二枚目を開いていただきウィナー(勝者)を決めます」


「ご存知の通り、この四枚のカードはそれぞれ天敵がいます。己の運と駆け引きが勝負の別れ目となるのです!」





〈ガチャ〉





説明が終わるや否や、扉を開く音が聞こえ一人の男が姿を現した。


葉巻の煙をたゆらせ古びたテンガロンハットを被った男は荒々しくテーブルにつくと足を乱暴にのせ再び葉巻の煙を吐き出す。



「おいおい……何にもねぇ見窄らしい部屋じゃねーか。美味い酒ぐらい準備があるんだろうなあ」


無作法な男の襲来に会場はざわついたが、頭を垂れ手を胸に当てた初老の言葉に静まり返る。


「ネームをお願いいたします」



“ネーム”とは。


esがこのゲームに参加するために渡したキーワードである。


参加する為にはesが認めた景品を持ち寄る事。

そしてキーとなるネームを与えられる。

2つが揃って初めてゲームのプレイヤーとして認められる。



「ヴィラン!」


男は高々にネームを宣言し最初の歓声が起こった。


「あの男は大富豪、貿易商キース・ツェッペリン!」


「世界中に土地や商館、国家間のパイプをもつ男!」



そしてこの歓声に誘われる様に続いてプレイヤーが部屋に集まる。


次に現れたのはロングの黒髪を後ろにアップした男装の麗人が現れた。

その整った顔立ちと潤んだ瞳は見る者をくぎ付けにし、男装はその体のラインからあふれ出る色気を隠しきれていない。


「ライアー」


その口元からこぼれた言葉すら観客を魅了する。


美男とも美女とも形容しがたい中性的な顔立ちと長い手足。

この部屋に集まった観客は男のみならず女ですら頬を赤らめた。


本人も自らの魅力を理解しているのだろう、観客の反応をその目にすると満足気に席へ着いた。


続けて恐ろしく線の細い男が入場してきた。


頬まで裂けた赤い口、左目には涙。右目の周りには光が書き込まれている。

病的に白い肌がそれらを彩らせ、派手な顔とは裏腹に表情は無そのものだった。


それが化粧なのかタトゥーなのかは本人のみぞ知る。


「……クラウン……」


聞き取りにくい声が細々と告げられ、ふらふらと歩く。

視点は定まっておらず、時折あらぬ方向に曲がる首はゾンビの様だった。


会場からは小さく悲鳴も聞こえ、会場は一転異様な空気に支配された。



そして最後に会場に現れたのは少女であった。



白いレースが装飾してあるメイド服。

黒が基調の服に映える長く美しい銀髪。


相当場違いな少女が静かに中央へ歩み寄る。


「……ドール」


呆気に取られる観客を置いて少女はテーブルへ着く。


プレイヤー4人が揃ったところで、再び初老の紳士が声を上げる。


「これより今回のゲームに参加されるプレイヤーの皆さまの品を紹介させていただきます」


まずはヴィランがテーブルの上に一枚の羊皮紙を置いた。


「ヴィラン様は所有の商業権、土地建物、資産の権利、身の回りの女性たちとなっております」


その一声と同時に会場が大きな歓声に包まれる。


「すげぇあの男の総資産なら国が一つ買えるぞ」


「資産だけじゃない。各国の大臣クラスとのパイプがでかい。相当な市場を手に入れたも同然だ」


観客の興奮を耳にしたヴィランは相変わらずの品のなさで大笑いする。


「がっはっはっは。勝負に勝てば明日から俺にとって変われるわけだ。まあ存続できるかはそいつの力量によるがな」


続いて先端の尖った螺旋状の筒が差し出される。


「ライアー様からはユニコーンの角となっております」


観客からは先ほどと異なった歓声があげられる。


「あの死や呪いからも復活できる奇跡の薬や伝説の武器に用いられるユニコーンの角か!」


「ユニコーンの角で作られた槍はドラゴンの皮膚をも貫くと言うぞ?」


「清らかな乙女にしか近寄らぬと言われるユニコーン……え?じゃああいつ女?……しかも?」


ざわつく会場を他所に景品のお披露目は続く。

ここで出された珍品に会場はこれまで以上の盛り上がりを見せる。


「クラウン様の品は小人の頭でございます」


会場が一斉にどよめく。


「あれはギャンブル狂なら誰もが喉から手が出る……」


「ああ、一寸先を見通す、未来を照らすランタンと言われた……」


「それじゃあ、この勝負あいつの一人勝ちじゃないのか?」


会場の雰囲気を察した紳士は咳払いの後高らかに宣言した。


「ご静粛に。もちろん今回、この品々は使用不可となっております」


会場は徐々にボルテージを上げ、もはや最高潮に達しようとしていた。

そして最後の景品を紳士は会場中に告げる。


「最後はドール様。賭けていただく品は……御自身でございます」



「………………」



会場が静まり返る。



「え?あの小娘が商品?」


「あの貧相な子供が?」


「あんなの貰ってどうするんだ?賭けが成立しないだろう!」



これまでの興奮した歓声とは別に、非難と侮蔑の声が上がる。


〈ドン‼️〉


ヴィランと呼ばれた男がテーブルを殴りつける。

文句がある奴はかかってこいと言わんばかりに。


「今回の品はどれもes様が自ら選んだもの。どの品も甲乙つけ難い物ばかりでございます」


あのesが選んだ品。

この言葉は何よりも説得力があった。


「あの船長が選んだってことは……むしろどんな秘密か興味が湧いてきたぜ」


「きっとガキに化けてるだけで絶世の美女なんだろ!」


「いやいや実は美しい妖精か何かであらゆる奇跡を可能にするんだ」


「どっちにしても今のなりじゃ話にならねーしな」


 一見無表情を装っていた少女は、内心魔法が使えればこの場にいる全員消し炭にしてやろうと物騒な事を考えていた。


仮にそんな事態になろうとも、今は止める主人がいない。



「では、各々方はよろしいかな」



興奮もひと段落し、場の空気を読んだ紳士はゲームの開始を告げる。


そしてエゴイストの歴史で最後となるゲームは幕を開けた。

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