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第4話

ペティル様はビッチ型ヒロインだった。ヴィクトル様、ディレンツ様、サイード様、隠しキャラのペティル様の血の繋がらない兄のジャレッド様、を攻略せしめた。トリスタお兄様は相変わらずフローレン様一筋で、いくらペティル様に懐かれても、表面的な紳士の仮面を崩さない。我が兄ながら完璧だ。ペティル様はそれが不満らしく頻繁にトリスタお兄様にアタックしている。トリスタお兄様はフェミニストなので、迷惑そうなお顔はなさらないが、内心はどう思っているかはわからない。

お兄様以外の攻略対象は骨抜きのデレデレだ。競い合うようにペティル様に貢ぎ合い、寵愛を得ようとしている。既に誰それとは身体の関係を持ったとか持たないとか醜聞まで流れている。各攻略対象には婚約者がいる男性もいて、攻略対象の婚約者たちはお通夜ムードである。

あともう二つ噂が流れている。

1つ目は、ヴィクトル様の寵愛を盗られたシルヴィが、嫉妬に狂ってペティル様を苛め始めているという噂。的外れもいいところだ。ヴィクトル様のことなど毛筋ほども好いていないシルヴィがペティル様の何に嫉妬するというのだろう。容色、教養も比べるまでもなくシルヴィの方が勝っているのに。しかしシルヴィはこの噂には心を痛めているようだ。濡れ衣を着せられて、周囲の人々が自分を非難しているように感じてしまうという。シルヴィの心を傷つけるなど、許しがたい噂である。出所は多分ペティル様自身だと思われる。

2つ目は、素行と成績の芳しくないヴィクトル様を排してクリストファー様が王位に就かれるのではないか、という噂。確かにはっきり言うとヴィクトル様は無能に近い。その分クリストファー様はうんと優秀で品行方正だ。どちらを王に戴きたいかと言われたら…癒着などとは無縁の貴族家なら断然クリストファー様を推すだろう。密かにクリストファー派閥が出来始めていたりする。我が家は中立だけど。気持ち的には家族全体がクリストファー様を推したいのだが、ヴィクトル様とシルヴィの婚約がそれを許してくれないのだ。ただ、この噂、出所がイマイチはっきりしない。気がつけば人々の口に上るようになっていた。ヴィクトル様は相当動揺なさって、焦れ始めていると聞くが…焦れてまともに学ぶ気にでもなれば有り難くはあるけど。


「クリストファー殿下は王位に就かれるおつもりなのでしょうか。ロッテお姉様は何か聞いていて?親しくなさってるのでしょう?」

「どうしても欲しいものがあって、それを手に入れるためなら王位につくことも厭わない、と仰っておりましたわ。進んで王位に就きたいわけではないようなのですけれど。」


なんだか、クリストファー様は少し凛々しくなられた気がする。私もそう思うが、周囲もそう感じるらしく、クリストファー様はますます支持を集めている。


「シルヴィはエルヴィス様とは…」


シルヴィは悲しげに首を振った。


「まさか恋文を差し上げるわけにはいきませんし…想いはすれど没交渉ですわ。お顔を、お声を、思い出すだけで涙が出そうですの。自分の中に、こんなに熱い気持ちがあるなんて知りませんでしたわ。」

「そう…」

「ロッテお姉様は?」

「え?」

「クリストファー殿下のことがお好きなのでしょう?」

「そ、そんなことは…」


私がクリストファー様を?確かにお可愛らしくて素敵な殿方だとは思いますけど、恋はしてない…と思う。愛玩?まるで子犬のように愛らしいと思う。クリストファー様を想ってドキドキとかしないし。なんとなく一緒にいると安堵してしまうけれど。あ、でもクリス様が私に懐くように他の女性に懐いていたらなんか嫌かも。ムカムカっとする。これって独占欲?なんで?可愛い弟をとられて嫌な気持ちになったのかな?


「わたくしさえ存在しなければ、ロッテお姉様はクリストファー殿下と結ばれることが出来たのに…」

「シルヴィ、そんな悲しいこと言わないで頂戴。わたくしはシルヴィがいてくれて嬉しいわ。シルヴィの姉として生まれて幸せなの。」

「ロッテお姉様…」


私とシルヴィはそっと抱き合った。



***

ペティル様がとうとうトリスタお兄様を陥落した。という噂が社交界に走った。フローレン様が泣き崩れたとか崩れていないとか…

確かにお兄様はペティル様の逆ハーレムに加わってしまったようだ。夜会でもペティル様のハーレムの片隅で穏やかに微笑んでいる。


「どういうつもりですの。トリスタお兄様。」


早速家でお兄様を問い詰めた。


「やあ、ロッテ。今、会いに行こうと思ってたんだよ。」

「なんですの?」

「この封筒全てにクリストファー様宛ての宛名を、いつもロッテがクリストファー様に宛てた手紙を送るときと同じように書いて欲しいんだ。差出人はロッテで。」


トリスタお兄様が封筒の束を出してきた。淡い桃色の封筒で右隅にぽつんと紫の薔薇が描かれている封筒だ。


「随分堂々とした手紙偽装ですのね。」

「あはは。僕が文字を似せて書くよりも、本人に描いてもらった方が自然な感じになると思ってね。封蝋とかどうしてる?」

「私用の封蝋を使用していますわ。お貸しいたしますか?」

「頼むよ。しばらく頻繁に借りに来ると思うけど。」

「何を企んでいらっしゃるの?」

「幸せ未来計画。」


幸せ家族計画みたいな感じで言われても…

トリスタお兄様は、水色の封筒に左隅に紫の薔薇の描かれた手紙は開封せずに自分に回してくれるようにと仰っていた。


「ペティル様のハーレムに加わってるのは何か考えあってのことですの?」

「そうだよ。フローレンも承知の上だ。フローレンはしばらく悲しみに暮れる演技をすると思うから、同情する感じで宜しく。外では派手に僕と喧嘩するのとかもいいね。あんまり家の外では僕と仲良くしないでね。まあ、しばらくのことだからぐっと我慢だよ。」


トリスタお兄様は本当に陥落させられてしまったわけではなく、何か企んでいるようだ。クリス様も一枚噛んでいるようだが、何を企んでるんだか……聞いてみたが「知らない方がかえって自然な素振りが出来るから」と言って教えてくれなかった。除け者にされてるみたいで、あまり面白くない。

トリスタお兄様はヴィクトル様に便乗して外で時々シルヴィと私に暴言を吐くようになった。でも家に帰るとその分甘々で「本当はそんなこと思ってないからね?ゴメンね?」と謝ってくる。許すことは許すんだけど、外で冷たい演技をしているトリスタお兄様が意外と怖くって、素で怯えてしまう。家に帰った時の甘々具合との落差がすごい。


「トリスタお兄様って役者の才能があるのかしら…」


シルヴィは変な感心をしている。


「中々怖いですわよね。あれが本心だったらきっともっと怖かったですわ。」

「本当に。」


私たちは怯え合っている。フローレン様もかなり演技上手だ。トリスタお兄様に涙ながらに取り縋って、振り払われて、号泣する演技などをしている。私は素で傷ついていらっしゃるのではないかと駆けよって本気で心配したけれど、ペティル様一行が目の前から去ると俯いたままにやっと笑われたので演技だったのだと気付いた。二人して演技が上手すぎる。フローレン様は会心の演技が決まると心なしか嬉しそうなので、捨てられる演技を中々楽しんでいるようだ。

お父様とお母様はトリスタお兄様に話を聞かされているらしく、心配そうにはしているが、外でのトリスタお兄様の態度を咎めたりはしていない。



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