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第2話

時は流れ、第一王子のリチャード様は儚い命を散らせてしまわれた。ヴィクトル様は名実ともに第一王位継承者。私は17歳。シルヴィは16歳になった。シルヴィのデビュタントの日。シルヴィは美しい水色のドレスを仕立てて薄化粧をした。私はパステルパープルの少し控えめなドレスだ。私は去年デビュタントを終えている。エスコートはトリスタ兄様がしてくれた。トリスタ兄様は両親の教育もあってチャラ男ではなく礼儀正しいフェミニストに育った。ヴィクトル殿下の洗脳きょういくは上手くいかなかった。私がいくら厳しい事を言っても王妃様が甘やかすんだもんなー。ヴィクトル王子殿下はすっかり私のことが苦手になって、王城でも私が一緒にいる時にはシルヴィに近寄らない。小さい頃の性格のまま大きくなった我儘、幼稚野郎である。顔だけは一人前であるが、頭も残念な悪さである。

シルヴィは可憐に成長した。もとより白百合のような美貌であるのに勉学、礼儀作法、ダンス、外国語と素晴らしい成績を上げている。外国語に至っては私と同じく6ヶ国語を流暢に話す事が出来る。読み書きも完璧だ。アホ王子なんてなんとか話せるのは2ヶ国語。文字を読み書きできるのは母国語のみだと言うのに。

王家から迎えの馬車が来てシルヴィが乗り込む。私はトリスタ兄様とフローレン・ニルカ嬢と一緒の馬車で行く。フローレン様はニルカ侯爵家次女にして、トリスタ兄様の婚約者である。トリスタ兄様と同い年の18歳で紅薔薇のような赤毛に翡翠の瞳をしている、ボンキュッボンな妖艶な美女である。因みに配色を伝えておくとトリスタ兄様は私と同じミルクティー色の髪に、シルヴィと同じアクアマリンの瞳だ。中々の美男子で、おおいにモテている。フローレン様一筋だが。でもトリスタ兄様ってヒロインの攻略対象なんだよねえ。今後フローレン様からヒロインに心変わり、ということもあり得る。ヒロインがビッチでない事を祈る。切に。

今日ヒロインはシルヴィと同じくデビュタントを迎えるのだ。王城で開かれる舞踏会にて。

因みにシルヴィのエスコートはアホ王子がするが、私は特にエスコートなしだ。婚活の場にされるくらいだから、出会いのない独り者の男女は多い。こっそり入れば咎められたりもしないし、後ろ指も指されない。

王城はにぎわっていた。今日は年頃の子どもたちがデビュタントを迎える、若い層向けの舞踏会である。こういった催しで婚約者のいないものは婚約相手を見つけるのだ。因みに私も婚約者はいない。シルヴィとアホ王子にかまけてたらいつの間にか17歳になっていたのだ。ちくせう。


「皆の者。よく集まってくれた。今宵、良き若者たちの門出として若草祭を始める。大いに楽しんでくれ。」


王の開会宣言と同時に舞踏会が始まる。シルヴィのファーストダンスは勿論アホ王子だ。アホ王子もダンスと剣だけは板についている。二人とも見事なステップを披露している。因みに勿論シルヴィはアホ王子になんか惚れていない。王家の勅令だから仕方なく結婚するだけだ。恋物語などを眺めては羨ましそうに溜息をついている。


「お嬢さん。私と一曲お願いできますか?」


私もダンスに誘われ、踊る。青年はノイマン・ワット侯爵子息のようだ。ダンスは下手だが印象は悪くない。焦げ茶の瞳が優しそうである。

一曲踊ってまた壁の花になる。アホ王子を見ているとアホ王子がとあるご令嬢にダンスを申し込まれたようだ。通常、こう言った舞踏会では男性が女性にダンスを申し込むものであり、女性から男性にダンスを申し込むことはない。

ダンスを申し込んできた女性は淡い金髪にぱっちりとした菫色の目をした小動物のようなイメージの可憐なご令嬢だ。アホ王子を見てぱっと花が咲くように笑う。コイツこそヒロインであるペティル・セレス男爵令嬢である。お決まりの市井で育った男爵家庶子という境遇である。どうやって誘ったんだか知らないが、なんとこの男爵令嬢、アホ王子と3回も踊った。通常2回以上同じ相手と踊る場合はその相手こそ本命という証である。シルヴィはちらっと見ただけで興味なさげに視線を逸らしたが、普通の婚約者だったら怒髪天の状況だ。

ペティル嬢はアホ王子とダンスを踊ったあと、トリスタ兄様にもダンスを申し込んでいた。フェミニストなトリスタ兄様が女性からダンスを申し込まれて断るはずもなく、一緒に踊っている。

うーん、我が家にはあまり関わってほしくないんだけど。トリスタ兄様は流石に2回目のダンスは断ったようだ。節度ある兄でよかった。

それからも騎士団団長子息のディレンツ・エッセイやら、宰相子息のサイード・エスリーなどの攻略対象にダンスを申し込んで踊っているようだ。因みにゲームではディレンツ様がワイルド担当。サイード様がインテリ担当だ。アホ王子が俺様担当で、トリスタ兄様がチャラ男担当。他にも隠しキャラが1人いるが、そいつはお色気担当だ。

私はワインで少々口を湿らせてから外に出た。王宮の庭園が広がっている。2つの真ん丸な月に照らされていて夜道も結構明るい。庭園の噴水の縁に腰掛ける見慣れた姿を発見した。月夜にも眩しく輝く黄金の髪に上等なエメラルドを嵌めこんだかのような瞳。背丈はまだ私よりほんの少し低いくらい。整った、それでいてあどけない顔立ち。


「クリス様。」


第三王子であるクリストファー殿下だった。


「あ、ロッテ嬢。お散歩ですか?」


にこりと微笑む可愛らしい顔。今14歳だっけか。クリストファー殿下はアホ王子と血が繋がっているとは思えないほど素直に育っている。しかも大変聡明。剣の腕前こそまだアホ王子に及ばないが、それ以外の全てにおいてアホ王子に優っている。


「ええ。少し人に当てられてしまったから星でも見ようかと。」

「そうですか。でもこんなに月が明るいんじゃ星はよく見えませんね。」

「まあ、月も嫌いではないです。クリス様はどうしてここに?」

「舞踏会の夜って何となくわくわくしてしまって。ここなら会場から遠くないので音楽もかすかに聞こえるし。人知れず楽しんでいたのです。」


ちょっと照れたように笑っている。クリス様は年がまだ若すぎるので舞踏会には参加していない。


「クリス様が社交界デビューしたら一曲踊っていただきたいですわ。」

「それも良いんですけど……今、一曲踊ってくださいませんか?」

「え?」

「ロッテ嬢と踊りたいです。」


3歳で出会った頃からずっと変わらずクリス様は私がお気に入りだ。純真な目で慕われるのは中々に面映ゆい。


「では一曲お願い致します。」


会場から漏れ出てくる音楽を頼りに二人でステップを踏んだ。クリス様はダンスもお上手。一緒に踊るのは心地よい。エメラルドの瞳がそっと熱を乗せて私を見る。抱かれている身体が熱いような気がする。ダンスの魔法にかけられて、まるでクリス様がこの上もなく素敵な男性に思えてしまう。ドキドキと胸が高鳴る。

綺麗に一曲踊り終えて身体を離した。


「ありがとうございます。ロッテ嬢。とても楽しかったです。」

「こちらこそ。」


ドキドキはゆっくりと治まっていき、安定。無邪気な笑顔に癒される。わんこのようだ。

二人で噴水の縁に座ってお喋りする。最近のドレスの流行のこと、最近読んだ軍記のこと、スターフィア王国からいらっしゃった外交官のこと、シルヴィのこと。話題は尽きない。

すっかり話しこんでしまった。


「クリス様、もうお休みになりませんと。」

「まだ眠くないですよ。」

「夜更かししていると背が伸びませんわよ?」

「う。それは困ります……ロッテ嬢も背の高い男性が好きですか?」

「そうですね。自分より高いと良いですね。」

「そうですか…名残惜しいですが本日はもう休みましょう。おやすみなさい、ロッテ嬢。夢でもあなたにお会いしたいです。」

「おやすみなさい、クリス様。わたくしも夢でもクリス様とお会いしたいですわ。夢でお会いできたらまた踊りましょう。」

「はい。」


クリス様はニコニコ微笑んで去って行った。私もそろそろ帰りたいなあ。帰りはまたトリスタ兄様とフローレン様とご一緒だから二人に合わせないとな。



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