第三話 出会い
昨日は仕事疲れで死んでました……
ロープを使い上手く着地した覆面の侵入者たちはこちらを見て驚く。
「ふう。到着。……ん? おい、氷空! 人がいるぞ!」
声からして男だろう。がたいのいい侵入者がこっちを指差す。
すると一人奥の方で着地に失敗していたらしい小さい侵入者が来る。
「いたたた……。え? 何、人間? どうしてまた」
ソラと呼ばれてた小さい少女は腰を抑えながらこちらへと来る。
見たところセカイと同じくらいか、それよりも年下だ。
「知るかよ、で、どうする? 殺すか? それとも、連れてくか?」
「そうね……。あれ? ちょっと待って。さっきの驚いた声って君?」
そう言いつつセカイの傍に寄るソラと呼ばれていた侵入者。
「そりゃ、誰だってあんな風に登場されたら驚きますよ」
更に近づき鼻と鼻がぶつかりそうな距離まで来る。
しばらくセカイの顔を眺めると離れて後ろのがたいのいい男の方を向く。
「ふ~ん……。ねえ、ここの地域の担当者って誰だっけ?」
「確か麗奈だったはずだ」
「麗奈か……。そりゃあ、『感情』持った奴が一人くらいいるはずだ」
ソラはそう言いつつ頭の後ろを掻く。
そしてセカイの持っている本に気付くと奪い取る。
「……ねぇ、君」
「何ですか?」
「この本、どこで手に入れたの?」
「どこって、そこの棚に置いてあったんですよ」
それを聞いてソラは思い切り驚きの声を上げる。
「はぁ!? これって、機密レベルSよ!? どうしてそんなものがこんな所に……。まあ良いわ。ガトー、これの保管お願い」
そう言ってセカイから取り上げた本をガトーと呼ばれた先程のがたいのいい男に渡す。
「へえ、そんなに危険なものだったんですね、これ。道理で色々と知らない事が載ってたはずですよ」
セカイがその様子を冷静に見て、冷静に話し出す。
これを見てむしろ覆面の侵入者たちが驚く。
「あなた、全然驚かないのね……」
「ここに住んでたら嫌ってほど「感情」をコントロールしてきたものでね。これくらいはすぐに落ち着けますよ」
「ほお。中々肝が据わってるじゃねえか。なあ、氷空。やっぱ、こいつ持って帰ろうぜ」
「う~ん……。確かにこの子レベルの「感情」持ちは欲しいところだけど、麗奈の権限が無いと勝手に判断も出来ないし……。ねえ、取りあえずあなたの名前。えっと、IDを教えてくれる?」
「僕ですか? 僕はIDナンバー111512。コードネームはセカイです」
「ふうん。セカイね。了解。私は氷空よ。氷る空と書いて氷空。私たちの間では名前には特に縛りはいれて無いから珍しいと思う名前もあるけど、そこは慣れてね。あと、私には敬語は使わなくていいわ。多分、私の方が年下だし。で、このデカいのがガトーね」
するとガトーと呼ばれた男が覆面を外し握手を求める。
「よろしくな、セカイ」
「どうも」
氷空はセカイとガトーの挨拶が済んだのを確認して本題に入る。
「じゃあ、取りあえず私たちに付いて来て貰っても良いかしら?」
覆面を外し、セカイにそう尋ねる氷空。
セカイは氷空とガトーの顔を交互に見る。
(別にこのままここにいても何も無いしな。それに他にも「感情」がある人にも会ってみたいし、別に良いか)
「別に良いよ。僕自身今の生活に飽きてもいたし」
「まぁ、そんないきなりこんな事言われて断るのもしょうがな……。って、えぇ!? 良いの!?」
「いや、だから良いって――」
「本当にセカイは動じないのね……」
そう言ってセカイを化け物でも見たような表情で見つめる氷空。
「そんな顔で見られると気分悪くなるんだけど……」
「あ、ごめん! えっと、それじゃあいきなりで悪いけどセカイは銃を扱ったことはあるかしら?」
そう言って腰のホルスターからハンドガンを取り出す氷空。
もちろん鉄製のリストバンド付きだ。
「いや、使ったことはないけど、使い方ならさっきの本で見たから」
そう言って氷空からハンドガンを受け取るセカイ。
「まあ、使い方を知ったからと言ってすぐに出来ると言うわけでもないし、後ろの方で見物させて貰うね。ある程度の援護は出来ると思うし」
受け取ったハンドガンを眺めながら話すセカイ。
「それにしても、イタリア製のM9か。よく組み立てていたから軽く好きなんだよ、これ」
そして、セカイはM9のリストバンドを付ける。
「セカイって、本当に動じないのね……。それに結構銃に詳しいようだし」
半驚き、半感心の声で言う氷空。
それに対してセカイは年の割には落ち着きすぎている様子で――と言うよりも、普段と変わらない様子で話し始める。
「さっきも言ったけどこんな所にいたら嫌でも「感情」なんて抑えることが出来るようになるよ。それに、銃に詳しいのは良くここに通っていたのと、僕の仕事が銃の組み立てだからだよ」
そのセカイの反応に対しガトーは笑って言う。
「ハハハ! 良いぜ、セカイ! お前の事気に入った!」
そう言ってガトーはセカイの背中を叩く。
「痛いですって、ガトーさん」
「さんなんていらねえよ! 男同士なんだ。気軽に呼べや、話せや!」
「了解。というより、痛い」
そう言うとガトーはセカイを叩くのを止める。
「おっと、わりぃな。さ、自己紹介はこれくらいにしてもうそろ移動しないと警備隊が駆けつけてくるぞ」
「そうね。全く予想してない事態が起きたけど仲間が一人増えた事だし良いとしましょうか。さ、皆移動の準備を――」
氷空の声は他の隊員からの声で遮られる。
「氷空隊長! レーダーに反応有り! 上です!」
すると屋根が爆発する。
「皆避けて!」
セカイと氷空はガトーに抱えられ何とか回避に成功する。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
「良いって事よ。おい、お前ら無事か!」
すると煙の向こうで返事が返って来る。
「みんな無事そうね。良かったわ。でも、こんなに早く来るなんて」
「ああ。俺も驚きだ。時に氷空よ」
「ん? 何、ガトー?」
「お前、セカイより重くねえか?」
すると氷空はガトーの腕から抜け出し無言でガトーの脛に対し蹴りを出す。
だが、脛当てをつけていたガトーにはダメージは無い。
(うわ、痛そう)
セカイはガトーに抱えられながらそう思いつつ眺めていた。
すると煙の中から銃を持った集団が現れる。
「おっと、敵さんのお出ましだ。氷空、足は大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ、これくらい! さ、これから私たちが戦い方を教えるからセカイはそこで見ててね」
「えっと、了解」
そして氷空とガトーは武器を構えるが、ガトーは、
「俺たちは良いからセカイに銃の詳しい説明をしてやってくれ」
氷空にそう言うとガトーは近くにあった倒れた本棚を盾に銃撃戦を始めた。
ガトーが撃った弾が敵に命中すると敵は血を流すことなくその場に倒れる。
それ以外の敵味方お互いが撃つ弾は壁に当たるがどこも破損はしない。
(どうなってるんだ? 何で物が壊れないんだ?)
「おっけー。しばらく任せたわよ」
ガトーにそう言うと氷空は姿勢を低くしながらセカイの所へやってくる。
「えっと、セカイ。これから私たちが使う武器の説明をするわ。まず、私たちがこの弾に込めるのは『感情』。今はあいつらを殺す必要は無いから動きを止めたいという『感情』を込めるの。そうすると、このリストバンドがそれを読み取り、中にある薬莢にエレルギーとして送り込む。そして、薬莢内でエネルギーとして固定された弾が出来上がる。これは一瞬だから連射も可能。だけど、長く念じれば念じる程威力は上がるから覚えておいてね。じゃあ、ちゃんと隠れていてね」
一通りの説明を終えると氷空はセカイの反応を待たずにガトーの所へ戻ってしまう。
だが、現状は押され気味だったので急いでいたのだろう。
「あ、ちょっ!」
よく見ると先程バラバラになった人たちも隊列を戻すために戻って来ているようだ。
(凄いな、これが戦いなのか。でも、あれだけの説明で僕に出来るのか?)
セカイは試しに本棚の影から銃を構え敵に向けて「対象の動きを止めたい」という事を念じ、引き金を引く。
……カチン
手元の銃から鳴ったのは発砲音では無くエネルギーが溜まっていないという合図の乾いた音であった。
「何でだ? もう一回」
セカイはもう一度念じ引き金を引く。
だが、今度も弾は出ない。
「これ、壊れてるのか? それとも……」
だが、それから先を考えるのを止め、もう一度念じ引き金を引く。
何度も何度も。
だが、弾は一度も出ない。
「何で? 何で出ないんだ?」
セカイは焦っていた。
目の前で初めて会った「感情」を持った仲間が、戦い、傷付いているのに、自分だけ何も出来ない事に。
今もこうしている間に仲間は撃たれ、穴の開いた天井からは敵の救援が駆けつけていた。
「クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソッ!」
セカイはただ無駄に引き金を引く事しか出来なかった。
イラついて銃を床に向かい投げようとした時、手の中の銃からザザッっと音が鳴り、声が聞こえる。
どうやら無線機能が付いているらしい。
『おっと、今それを手放しちゃいかんよ』
声からして女性の声だろう。
「――っ!? 誰だ!!」
『誰だ? まあ、今は私の正体が誰かだなんてのはどうでも良いことだ。今お前はその銃が撃てずに困ってる。そうだろ? ナンバー342112。セカイ』
「何で、僕の名前を?」
『おっと、それも今はどうでも良い。お前はある「感情」以外ではこの時代の銃を撃つ事は出来ない。今からそれを教えてやる。お前に死なれても困るんでね』
セカイはただ手元の銃から発せられる言葉の続きの言葉を待った。
『お前が弾を撃つのに必要な「感情」は「殺意」。ただそれだけだ』
「……「殺意」だって?」
セカイはその言葉が信じられなかった。何故なら今までに一度も誰かを殺そうと思った事など無いからだ。
「僕にはあの人たちに対する殺意なんて無い。それこそ出来ない」
『それは本当か? お前は今までこの世界の住人が怖かったんじゃないか? いつか見返してやりたいと思ってたんじゃないか? 私はずっと見てたぞ。お前が悩んでいた事も全部知っているぞお前は本当は心の奥底ではあいつら「人形」の事を殺したいと思ってたんだよ』
「そ、そんな……こと」
セカイはこの時珍しく動揺していた。
いや、『感情』を持ちつつここまで冷静であったのがむしろおかしいくらいであった。
だが、そんなセカイでさえ動揺する出来事であった。
本当は人の事を殺していたいと思っていたなんて。
「いや、そんなことあるはずがない! 僕に人を殺す事なんて出来るはずが無い!」
『いやいや、出来るんだよ。悩んでる暇はないぞ? 今もこうしてる間に敵は少しずつ増え、お前の味方は次々と減っていく。残りはガトーと氷空と……。後は覆面しててわからねーな。ほら、良いのか? こんな所で悩んでいて。助けなくて。今心を鬼にして殺しに行かなきゃせっかく出会えた仲間が死んじゃうぞ?』
「みんなが、さっき会ったばかりの僕を仲間と呼んでくれた皆が……死ぬ?」
だが、セカイには一つ引っかかるものがあった。
(けど、実際は今日初めて会ったような人たちだ。このまま逃げるという手も……)
だが、そんな彼の考えてることが分かってると言いたげな答えが返って来る。
『ちなみに、そのまま逃げたとしても外にはあの人形たちが沢山いるからな? それでも戦わずに逃げると言うのなら私が今ここでお前を撃つよ。さあ、どうするんだ! もう時間は無い! 仲間がただ殺されるのをそこで見ているのか! 考えるな! 迷わずに『殺意』を込めて引き金を引け! 奴らは『人』でない! 動く『人形』だ!』
セカイは頭の中で彼女の声が何度も反響するのを感じ、口に出す。
「味方を守る……ため。あいつらは『人形』? ただの動く『人形』。……そう。『人形』だ。心なんて無い。平気で人殺しも出来るような命令で動く『人形』だ。助けなきゃ。『人間』である氷空とガトーを。込めるのは『殺意』の『感情』。いや、『破壊』だ!」
セカイが一気に目標を破壊するという『感情』を込めるとそれに応じるように銃も明るい光を発していたが次第に黒い光を発する。
『クハハ! 良いね! 良いよ、セカイ! やっぱりお前は私の――』
そこから先はセカイの言葉により掻き消される。
「あれは人形。僕達にとって害ある人形。壊す、壊しつくしてやる!」
セカイは先程とは別人のような口調で引き金を引く。
銃から飛び出した黒く、ただ黒く、最早それを見ただけで意識を持って行かれそうなほど黒く、恐ろしいエネルギー弾が発射され、敵を貫く。
その弾に貫かれた敵…。『人形』は傷口から黒い瘴気が溢れ、次第に傷口を中心に皮膚が膨れ上がり、爆発する。
二日分ため込んでの更新なんで思ったより長くなっちゃいました。