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【番外編】お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第4話 礼名とお兄ちゃんの百万円狂想曲!
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第4話 礼名とお兄ちゃんの百万円狂想曲!(えぴろーぐ)

「お父さん、喜んでくれたね」

「うん。礼名のお陰だよ」

「そんなことないよ。お兄ちゃんがピアノ買ってくれたからだよ。礼名も幸せだよ…… あっ、そうだ。ご飯にしなくちゃ!」


 わたしはサラダの用意をすると冷蔵庫から出して置いた大きいステーキ肉に塩胡椒を掛ける。勿論牛肉。お兄ちゃんは350gのサーロイン、わたしはその半分だ。


「苦節一年と八ヶ月、やっとこの日が来たか!」


 感慨深げに台所を覗き込むお兄ちゃん。

 今までお兄ちゃんには牛肉を食べるチャンスが幾度となくあった。夏の温泉、聖應院との交流会、わたしが焼肉屋さんを予約したこともあった。だけど何だかんだと妨害されて結局一口も食べていない。


「不思議な因果だよね」


 わたしの言葉にお兄ちゃんは肯く。


「夢の中でさえ食べる直前に決まって目が醒めるんだ……」


 牛肉のステーキが夢にまで出てくる貧乏な生活。

 そんなわたしたちの周りはお金持ちだらけだ。お母さんの実家は資産家の桂小路だし、お兄ちゃんの実のお父さんは日本を代表する財閥の首領だし。お友達も有力な代議士の娘やら大友財閥の御曹司やら仏壇チェーンの御曹司やら凄い人ばっかし。それでもわたしたちはこの生活を守り抜いてきた。貧乏でもいい、お兄ちゃんとふたりの笑顔溢れる毎日を。


 フライパンの油が踊り始めたらお肉を焼く。強火で両面しっかり焼いていく。さあフランベだわ。この日のために買ってきた赤ワインの小瓶を手に持ってお肉に振りかける。


「すっごい贅沢だな」

「多分、日本の一般的な家庭レベルだと思うよ。お肉もオージービーフだし」


 本当は国産ブランド牛の霜降りも買えた。倉成壮一郎さんに預かったお金もまだ残っていたし。だけどこれが貧乏性というものかな、どうしても手が出せなかった。お兄ちゃんも同じ事を言った。安い方が心おきなく安心して食べられるなって。


 わたしはそんな毎日が大好き。普通でいい。貧乏過ぎると苦労も付いてくるけどお金持ちじゃなくてもいい、特別でなくてもいいんだ。普通の生活の中に平凡な幸せを積み重ねていきたい。それがわたしの希望、わたしが想い描く理想の日々。


 もういいかしら。

 ミディアムくらいに火を通したお肉をお皿に盛ってっと……


「さあ、お兄ちゃんの悲しいジンクスが破られるときが来たよ!」

「わあっ、すげえ美味しそうっ!」


 フライパンで肉汁と合わせたソースを掛けるとお兄ちゃんの前に置く。エプロンを外すと買ったばかりのちょっと短いスカートが現れる。


「長い道のりだったね、お兄ちゃんっ!」


 精一杯の笑顔を向けると、お兄ちゃんは変なことを言い出した。


「そうだね。だけど、何となく新たなジンクスが生まれてるような気がする。一番美味しいものは食べられないっていう……」

「えっ? お肉の他に何かあった?」

「あ、いや、あはは。今のは独り言。忘れてよ」


 なんだか口ごもるお兄ちゃん。ちょっと不満だったけどナイフとフォークをテーブルに並べるとわたしも食卓に着いた。


「ステーキ食べて栄養付いたら次は礼名を食べていいんだよっ! デザートにプリンもあるけれど、礼名もきっと甘くて美味しいよっ!」

「よせ、そんなこと言うときっとまた……」



 チャンチャンチャン チャチャチャ

 チャッチャチャチャチャ!!



 けたたましく鳴り響く携帯の着メロ、発信元は決まっている。

 電話を取ったお兄ちゃんは開口一番。


「なあ麻美華、この家のどこかに隠しカメラとか盗聴器とかつけてないか?」

「ほ~ほっほっほっ! それは秘密ですわっ!」


 漏れ聞こえる声にお兄ちゃんの携帯を奪い取る。


「ちょっと麻美華姉さん! お父さんとお母さんの寝室の鍵を隠したでしょう! どこに隠したんですか! どうしてわたしたちの恋路の邪魔をするんですかっ!」

「あら、礼名ちゃんも約束したでしょ、バージンロードを駆け抜けるその日まで純潔を守るって」

「それはお兄ちゃんへの約束であって麻美華姉さんは関係ありませんっ!」

「あるわっ! 私でさえまだ守っているのに、先に大人の階段を昇るなんて絶対許せませんっ!」

「そんなの単なるひがみですっ! わたしたちの知ったことじゃありませんっ!」

「あら、礼っちの望みはみんなに祝福される結婚じゃなかったのかしら? 倉成を敵に回すおつもり?」

「ひどいです、お姉さまは信じていたのにっ!」

「どさくさに紛れてお姉さまって言うなっ!」

「いいえ、これは既成事実なんですっ!」


 心配顔のお兄ちゃんにわたしは安心してねと笑顔を向けながら……


 ああ、いつになったら大好きなお兄ちゃんと結ばれる?


 だけど。

 これでいいのかな。

 純白のドレスに包まれて、お兄ちゃんとふたりバージンロードを全力で駆け抜けるその日まで。




 番外編 完




 あとがき


 最後までお読み戴きありがとうございました。作者の日々一陽です。

 高田さん、桜ノ宮綾音、倉成麻美華、そして礼名の視点で書かれた番外編、いかがでしたか? 本編はお兄ちゃん・神代悠也が語り部になっているので、この番外編でまた違う彼女たちの一面が伝わったとしたら嬉しい限りです。


 さて、「お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法」、この物語は明るく元気でお兄ちゃんへの好意を隠さないブラコン妹・礼名の活躍を描きたくて書きました。

 普通に考えると不遇な境遇の悠也と礼名。しかし礼名を心底大切に思う悠也といつも笑顔を絶やさない礼名は常に自分たちが信じた道を前に進んでいく。そんなふたりの信愛が上手く伝わったら嬉しいです。

 

 書くに当たって、最初に苦労したのはタイトルです。

 僕は話を一度ワープロソフトに書いてからアップするんですが、書き始めの頃のデータを見ると、連載前にタイトルに苦心していた形跡が残っていました。


 恥ずかしいですけど丸ごとコピペしますね、当初のタイトル案。




 お兄ちゃんと一緒だからお金がなくても幸せすぎるよっ!


 貧乏だけどお兄ちゃんと一緒だから幸せだよねっ


 お兄ちゃんさえいれば、お金がなくてもパラダイスだよっ!


 お兄ちゃん、お金がなくても幸福すぎるよ、絶対離れないっ!


 わたしとお兄ちゃんの慎ましくも楽しい貧乏ライフを邪魔するものは、この礼名、命に代えても排除します!


 パンツは見せるためにあるんじゃないの、覗かれるためにあるのよ。




 こうしてみると、採用したタイトルがホントに一番相応しかったのか今でも悩ましいです。

 ちなみに最後の一行は「このギャグどこかで使おう」とメモしていたものですが、使うの忘れてました。てへっ。


 ともあれ、そんな自信のないタイトルでスタートした本作ですが、なんと千名を超えるブクマを戴き、どこに頭を向けて眠ればいいのやらわからない嬉しさです。

 一年以上も書き続けた物語、作者としても凄く思い入れがある作品になりましたが、後ろ髪を引かれつつここで筆を置きたいと思います。


 お読みくださって本当にありがとうございました。

 最敬礼っ!!!




 さて、ここからは宣伝です。

 次回作


  ぶんげい? ~わたしのきらきらなJKライフが文芸部なんかにあるわけない~


 の連載を始めました。

 このお話は個性的な女子が揃う高校文芸部の日常を描く学園ものラブコメとなっております。ちなみに文芸部員は全て女子で、語り部もJK。今まで僕が描いてきた構造、即ち主人公が可愛いヒロインと結ばれるストーリーではなく、ちょっとだけ複雑な構成になって、ちょっとだけタネと仕掛けがあります。  ちょっとだけですけど。


 オープニングは百合展開みたいになってますが、たぶん正統なラブコメになります。

 こちらも是非お楽しみいただければ嬉しいです。


 それでは。

 最後にもう一度

 ありがとうございましたっ!! (by 悠也&礼名)

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