0-0:五百年前
我々の父の父のそのまた父よりも昔。
世界が安寧を紡いでいた時代を混乱と破滅に陥れた十人の悪魔がいた。
赤の悪魔バルトロメは荒れ狂う炎で大地を焼き尽くし
青の悪魔サザナミは二つの凶刃で罪なき人々を斬り尽くし
黄の悪魔ジルベルトは万物に魂を与え自らの手駒とし
緑の悪魔グスタフは竜や猛獣を使役して人間を蹂躙し
黒の悪魔ホルマトは影のように闇に紛れて人を殺し
白の悪魔アイザックは緑豊かな台地を白く凍てつくし
紫の悪魔トレイシーは二丁の拳銃で老若男女を問わず穿ち
金の悪魔クブラは人を紙屑のように潰し、丸め、引き裂き
銀の悪魔ガンウーは鋼の身体と研ぎ澄まされた武の力で人を廃し
無の悪魔セロは全ての事象を取り込んで虚無を造り出し
この広大な世界を絶望の底へと突き落とした。
安寧の糸はほつれ、平和は破れ去った。
人々は未来を亡くし、希望を亡くし、光のない洞穴の中。
そこに一人の男が立ち上がった。
後に悠帝と崇められる男の名はアルゼート。
強く正しき魔導の使い手は十人の悪魔を倒し、平和と安寧を取り戻す。
世界を救った報奨に永遠の命を手に入れたアルゼートは、人々をまとめ、広大な帝国を造って、200年にも及ぶ平和な時代を築いた。
そうして201年後、彼は帝国を解体し、この世界のどこかへと身を潜めた。
滅せなかった悪魔たちの魂が、再び目を覚ますその時に備えて。
タナキア著『世界史大書 第19巻』