『 いい日、旅立ち! 』 夜逃げともいう。
猿夜叉君は、ヘタレです。
とりあえず逃げます。
夏休みの宿題は、9月になってからやるタイプです。
天文7年(1538年12歳)
今年も新年のご挨拶に、献金20貫と折々に必要な品々。
米、塩、お酒、お茶、塩乾物、果物を献上した。
もはや恒例行事となりました。
ついに、側室深雪に長女が生まれました。
可愛いです、パパとして頑張らねばと決意を新たにします。
『阿久琵』姫(のどか姫)と名付けました。
史実の名前を生かしつつも、親ばかで「うんうん悩んで」命名しました。
俺が初めて顔を覗いた時に、呑気にあくびをしていたから、“アクビちゃん”と字をあてました。
『阿久姫』よりは可愛いでしょう。
直経に、『阿久堕ち』させません、いや『あくびオチ』って、NTRな予感が?むむむ。
無邪気にお乳を飲む姿が、とても愛らしいです。
幸せになって欲しいです。
それはそうと、何やらずいぶんとキナくさいです。
乳呑み児もいるのに、とばっちりは勘弁して欲しいです。
これから戦火が激しくなりそうなので、家族、家臣と共に敦賀に避難する事にしました。
子持ちとはいえ、まだ12歳。元服もしていませんし、今、死にたくないです!
小谷落城を見越し、貴重品は山中の秘密基地に隠しておきました。
跡取りではないとはいえ、逃げるのは格好が付かないので、あさくらちゃんとの連絡要員(敦賀駐在)ということにします。
『狡いけど、これって戦争なんだよねっ!』
ついでに、この機会を利用し、「他国の現状を見て回る」という名目で、旅に出ましょう!
近習:雨森弥兵衛清貞、磯野員昌と、
小姓:阿閉貞征、遠藤喜助、海北有松を引き連れ、船に乗り北陸を巡る『視察』の旅です。
一応の体裁は、『北陸の視察団』と、いうことにしました。
日本海側の各地を寄港する予定です。
……というか、現在、旅をしています。
~国元の様子を伝える敦賀の店からの報告~
越前の視察 6月 鎌刃城の戦いで佐和山城を失う
能登の視察 7月はにらみ合いがつづいた。
越中の視察 8月には太尾山城を攻略される
越後の視察 9月には国友河原の戦いに敗れて殿(亮政)は小谷城に立て籠もった。
ついには篭城に耐えられず小谷城を退散、江北は六角定頼の手に落ちた。
まさに連戦連敗、亮政にとって伝統勢力六角氏の壁は厚かった。
とまあ、視察中は悪い知らせばかり届きます。
ハッキリ言って、六角強すぎ~半端ねえ。
相手が悪すぎる。
勝てる気がしない。
とはいえ、度重なる敗戦を被ったものの、亮政は、なんとか江北の国人衆を掌握したようで、
六角勢が帰陣すると旧力を回復したらしい。
「ほとんどゲリラだね。よく勢力を保ったものだ。」
やれやれ、越前、能登、越中の視察を終えた俺は、気を取り直して、越後は春日山城下へ出掛けたところだった。
「もはや、帰る気がしないくらいにズタボロじゃないか?」
まあ気を取り直そう!!クヨクヨしても始まらない。
という訳で……。
やって来ましたよ、ご隠居、越後です。
「そうだ、本物の『謙信』を見て見たい。」
これが事の始まりだ。
俺も良くは知らんのだが……、
長尾為景の子、虎千代(後の軍神様)は、なぜだか父に疎まれていたらしい。
殆ど逃げるように、城下の林泉寺とかいうお寺に強制入門させられたと聞く。
たしかそこで、住職の『天室光育』の教えを受けたといわれている。
謙信の母親はとても信心深かった影響からか、虎千代も信仰に興味を示したそうなのだが。
師匠の天室光育からは、教養や兵学を学んだらしい。
何を考えているのかね、この住職!
聞いた話によると、虎千代は2畳ほどもある『お城の模型』を用いた『城攻めのごっこ遊び』が大好きらしい。
兵の駒を動かしたり鉄砲や道具を用いたりして、とても熱中したという。
(ひとりぼっちで、ジオラマ戦争ごっこか?)
この時の遊びが、後に用兵術を身に付ける素地になったという、オタクのいい訳じみた逸話がある。
引きこもりが罹患しがちな『高尚な趣味』のため、寺での修行をめっちゃ疎かにするようになり、寺から見限られそうだとか。
(おいおい重症だな!何となく親近感が…)
面白そうだ、『オタク気質』があるかも知れん。
趣味友として、『謙信』と仲良くできないものかな?
俄然興味が湧いてきました。
リアル謙信どんな子かな……ワクワク、8歳だろう?
今なら俺でも軍神様に勝てそうだ。
まずは、友達から始めよう。
そして、ピンチになったら謙信君に助けてもらおう。
楽しい無双に浸りながら、目的地へ向かいます。
鬱蒼とした森をくぐり抜け、寺を目指す。
到着!
なかなかの建前である。
其れなりに名のある寺なのだろうな。
「御免下され」 磯野員昌を従えて林泉寺を訪ねた。
「はい、どちら様でしょう?」
若い僧が出迎えてくれた。
「ご住職にお取り次ぎいただきたい」
門の前で取り次ぎを待っていると……、
いきなり背後から襲われた、”おいおい刺客かよ。”
殺気を感じて身を躱すと……そこには、木刀を構えた子供がいた。
あれ、スゴイ殺気だったのに、子供? しかも木刀かよ。
実際スゴイ気魄で迫ってきたので、俺は一瞬だけあわてた。
素速く足をかけて転ばし、そのまま地面に叩き付けて押さえ込み、悪ガキから木刀を取り上げた。
このときばかりは、鬼教官の渡辺の訓練に感謝した。
体が勝手に動いてくれたような気がしたもんな~。
「悪さをした子は、折檻だ!!」
悪ガキを膝に抱え上げ、小袖の裾を捲りおしりを出して、おもいっきり叩いてやった。
白い桃尻が可愛いので、感触を楽しみつつ、パシ~ンパシ~ンと何回もはたいてやった。
あわてて、中から住職が出てきた。
血相を変えていた。「虎千代様~」
え、虎千代?
(うわっ、マジやべっ。)
まあ、いきなり襲った虎千代の方が悪いという事で、場が収まりました。
(ありがたや~)
騒ぎの状況を説明している間、冷や汗が出たよ。
知らぬ事とはいえ領主の息子を叩いたんだもんな。
まあ、俺も領主の跡取りだから、おあいこ以上だけれども、それはまあ、今は秘密だ。
俺が襲われたのを知って、磯野がそれこそ鬼のような顔をしているのが怖すぎだ。
住職びびってた。
「まあまあ員昌、所詮はただの木刀だ大事ない」
虎千代は員昌にビビりながらも、何故か俺を睨んでいた。
まあ和尚にはいろいろ兵学、軍法や兵法の教えを教わった。
面白いマニアックな坊主だった。
なんだかんだで、一月ほど滞在させてもらった。
俺も、暇な時には虎千代に稽古を付けてやった。
なんだか弟が出来たみたいで嬉しい。
― いや実際に弟がいるのだけど、これがまた訳ありで~おれの実母に性懲りもなく又孕ませたらしい。
「なにやってんだかなあ!浅井の血はおそろしいぜ。」
かく言う俺も、やっちまったし、本当に血すじなんだろうな? ―
オレの指導もあるが、虎千代はとても筋が良くてメキメキと力を付けた…
…が、お寺の小坊主が木刀振り回しても良いのかねぇ?この寺変?
いや、もともと天室光育がおかしいんだな。
そんなこんなで楽しい一月を過ごした。
虎千代とは、ずいぶんと仲良くなったものだ。
お別れなので、秘蔵の蜂蜜漬けをプレゼントした。
まあ、毘沙門天様と文通するのも悪くないだろう。
俺は帰りぎわ、正体を明かし再会を約束して寺を後にした。
未練たらしくいつまでも手を振る虎千代が、本当に『謙信』なのか?と、想いつつ、越後を後にした。
この時代の旅は呑気なもんだ、基本歩きでじっくり時間をかけるのが普通なんだろうな。
リフレッシュ出来た。
ご隠居さんといえば…越後ですよね?
この主人公、なんだかんだですべてを済ませる、強者です。