君の瞳に
A子 「ねぇねぇ。今、大流行してるトレンディドラマを見たんだけど」
B男 「今トレンディドラマなんか流行ってるか!?」
A子 「その中で、『君の瞳に乾杯』ってセリフがあってさ」
B男 「確実に80年代のドラマだよね!?」
A子 「『君の瞳に乾杯』っていうのは、『この紋所が目に入らぬか!』っていうのと同じ意味で間違いない?」
B男 「間違いあるな! 完全に大間違いだな!」
A子 「なんで? どっちも瞳の中に異物をムリヤリ押し込もうとする様でしょ?」
B男 「どっちも実際には入れないからね!」
A子 「だって、『君の瞳に乾杯』だよ? 目玉めがけてビールジョッキが近付いてくるわけでしょ?」
B男 「こねぇよ!」
A子 「瞳にビールジョッキがぶつかった後、『一気一気一気!』って」
B男 「痛くてそんなテンション上げられるか!」
A子 「ビールジョッキで乾杯した後は一気でしょう!?」
B男 「あのさ、『君の瞳に乾杯』的なセリフの時にビールジョッキはないんじゃないか? もっとオシャレなもんだろう、ワイングラスとかカクテルグラスとか」
A子 「居酒屋で『君の瞳に乾杯』って言うと、店員さんが『よろこんでー!』って」
B男 「参加してくんなよ、店員! そういうセリフは、もっとオシャレな店で言うんだよ。静かなバーとかで」
A子 「静かなバーで『よろこんでー!』」
B男 「そっちじゃない! いつの間にかセリフが変わっちゃってる!」
A子 「あぁ! 『この紋所が目に入らぬか!』」
B男 「違うわ! なんで静かなバーで御老公にひれ伏さなきゃならんのだ!? 『君の瞳に乾杯』だよ!」
A子 「ぷぷ、そんなこと言ってんの?」
B男 「言ってねぇよ! お前が見た今大流行のトレンディドラマの話だろうが!」
A子 「水戸黄門ね」
B男 「水戸黄門のどこがトレンディだ!?」
A子 「格さんは全身DCブランドに身を包み」
B男 「バブル期に大流行したファッションだね!」
A子 「助さんはワンレンボディコンでお立ち台に上る」
B男 「おかしいだろ!?」
A子 「同じ時代じゃない!」
B男 「その時代でも、いい歳したおっさんは着てなかったよ、ボディコン! せめてお銀に着させろ!」
A子 「水戸黄門の世界観をぶち壊す気!?」
B男 「格さんの時点でもう壊れとるわ!」
A子 「ご隠居は静かなバーで『君の瞳に乾杯』」
B男 「誰を口説いてるんだご隠居!?」
A子 「『ご覧、この印籠。綺麗だろ? でもね、もっと綺麗なものがあるんだよ、それはね、君さ』」
B男 「印籠と比べられても嬉しくともなんともなかろう!?」
A子 「『皆のもの頭が高い! でもね、もっと頭が高いものがいるんだよ。それはね、君さ』」
B男 「ついにボケ始めたか、ご隠居!?」
A子 「『日本で最初にラーメンを食べたのはね、僕さ』」
B男 「そうらしいね! 昔テレビでやってたよ!」
A子 「そうこうしてるウチに、悪者はみんな退治されてて」
B男 「その退治するところを見たかったよ! ご隠居のお戯れよりもな!」
A子 「そんな、大流行のドラマ」
B男 「絶対流行ってないだろ!?」
A子 「セリフがうまいんだよねぇ」
B男 「『君の瞳に乾杯』がか!?」
A子 「放送の翌日、お店からビールジョッキが消えたらしいよ」
B男 「みんな乾杯されたいんだ!? 翌日店から消えるのはダイエットにいい食材だけかと思ったよ!」
A子 「今みんなやってるよ。やってみたら?」
B男 「やんねぇよ! 俺別に、ナウなヤングになるつもりないし!」
A子 「そんなわけで、タナボタで居酒屋大繁盛」
B男 「なんで『君の瞳に乾杯』をやるために居酒屋行くかな?」
A子 「『君の瞳に乾杯』『よろこんでー!』」
B男 「ほら、絶対参加してくるじゃん店員!」
A子 「その流れでプロポーズ! 『ボクと結婚してください』『よろこんでー!』」
B男 「お前じゃねぇよ!」
A子 「かと思ったら、彼女がいきなり『この紋所が目に入らぬか!』」
B男 「何者だよ、その彼女!? 先の副将軍か!?」
A子 「『頭が高い、控えおろー!』『よろこんでー!』」
B男 「喜んでんじゃねぇよ!」
A子 「コレが今流行のプロポーズ」
B男 「そんなもんが流行ってたまるか!」
A子 「俗に言う『よろこんで結婚』ってヤツよ」
B男 「メイン店員の方になってんじゃん! もういいよ」