フューチャーの夢
A子 「ねぇねぇ。小学生のころに書いた将来の夢の作文が出てきたんだけど」
B男 「なんて書いてあるんだ?」
A子 「『誰かに追われているのに、体が思うように動かなくてとても焦っている夢』」
B男 「本当に夢のこと書いてんじゃん!?」
A子 「先生のコメント。『あるある』」
B男 「『あるある』じゃねぇよ、先生!」
A子 「夢診断の先生のコメント。『何かから逃げる夢は、今の自分に満足していない表れ』」
B男 「なんで夢診断の先生にコメント貰ってんの!?」
A子 「校長先生のコメント。『私が二十歳のころは、ちょうど高度成長期でね、私は毎日我武者羅に働いていた。おりしも日本は……』」
B男 「校長先生、話長い! で、多分どうでもいい! 」
A子 「教頭先生のコメント。『ふ~ん。で?』」
B男 「興味持って、生徒にもう少し!」
A子 「『まぁ、私の方がもっと凄い夢見てますけどね』」
B男 「張り合うなよ!? なに、子供嫌いなの、教頭先生!?」
A子 「クラス委員のコメント。『凄いなぁ、って思いました』」
B男 「文章が小学生丸出しだね!? で、クラスのヤツのコメントとかいらないから!」
A子 「誰一人として、『夢ってそっちじゃないから』と突っ込まない」
B男 「そうだよね!? まずはそこを指摘するべきだよね!? よかった、一瞬俺が間違ってんのかと思っちゃったよ!」
A子 「一年生のころに書いたのがこんな有様だったので、二年生のころには手法を変えてみた」
B男 「一年生のころに書いた作文だったの!? そこにビックリだよ!」
A子 「二年生のころのは割とまともだよ」
B男 「どんなこと書いたんだ?」
A子 「『きっと、私が大人になるころにはデフレの影響をもろに食らって、夢とか言っていられなくなっていると思います』」
B男 「小学二年生だよね!?」
A子 「先生のコメント。『あるある』」
B男 「だから、『あるある』じゃねぇって、先生!」
A子 「夢診断の先生のコメント。『デフレの夢は……』」
B男 「これは夢の話じゃないから!」
A子 「校長先生のコメント。『私が二十歳のころは、ちょうど高度成長期で……』」
B男 「聞いたよ、その話!」
A子 「教頭先生のコメント。『ふ~ん。で?』」
B男 「相変わらず子供嫌いだね!?」
A子 「『まぁ、私の方がもっとデフレですけどね』」
B男 「だから張り合うなって! もはや意味わかんないし!」
A子 「クラス委員のコメント。『凄いなぁ、って思いました』」
B男 「お前も一緒だな!? でも、小学二年生ってこれくらいの文章力だったよね!? 俺、こんなもんだった気がするし!」
A子 「誰一人として、『夢見ろよ』と突っ込まない」
B男 「そうだよね!? 将来の夢って作文なのにね!?」
A子 「仕方ないので三年生」
B男 「毎年書いてたのか、作文!? で、なんて書いたんだよ?」
A子 「『ケーキ屋さん』」
B男 「なんで!? なんで三年生にして子供っぽい夢を書いたの!?」
A子 「小学三年生って、そういうもんでしょ?」
B男 「そうなんだけど、一、二年生のころがああだったからさ!?」
A子 「先生のコメント。『ないわぁ』」
B男 「いや、あるだろう!? なに、普通の夢だとダメなの!?」
A子 「夢診断の先生のコメント。『ケーキ屋の夢は……』」
B男 「その人、毎回聞かなきゃいけないの!? 部外者だよね!?」
A子 「校長先生のコメント。『つーか、マジやばくね、それ?』」
B男 「あれ、校長変わった!? 何か随分チャラいけども!?」
A子 「教頭先生のコメント。『大変子供らしくて、好感の持てる夢だと思います』」
B男 「あ、教頭先生はこういうのを求めてたわけだね」
A子 「『まぁ、私の方がもっとケーキ屋ですけどね』」
B男 「でもやっぱり張り合うのか!?」
A子 「クラス委員のコメント。『凄いなぁ、って思いました』」
B男 「ずっと同じヤツだろう、クラス委員!? いい加減断れよ、書くことないなら!」
A子 「そんなわけで、私は長年の夢だった教師になりました」
B男 「出てこなかったよね、その夢!?」
A子 「今では教頭の地位に就き、生徒の作文と張り合う毎日」
B男 「だからなんで張り合ってんだって、教頭!? もういいよ」