ちょっくら行って
A子 「ねぇねぇ。ちょっと異世界へ行って魔王を倒してきてくれない?」
B男 「ちょっとで出来ることじゃないよね、それ!?」
A子 「実はこの前、異世界への入口を見つけちゃってさ」
B男 「何をサラッと見つけてくれてんだ!?」
A子 「で、赴いてみたら『魔王を倒してくれ』と」
B男 「異世界からやって来た勇者が魔王を倒すとか、よくあるからな」
A子 「で、『面倒くさいんですみません』と」
B男 「断り方が根も葉もない! それ、飲み会とかでもへこむ断り方!」
A子 「でも、困ってるみたいだから、あなたが代わりに倒してきて」
B男 「面倒くさいことを押し付けるな!」
A子 「その代わり、面倒くさくないことは押し付けないから」
B男 「当たり前だね!? お前が何ひとつ苦労をしていないね!」
A子 「困っている異世界の人を見殺しにするというのか!?」
B男 「お前が言うな!」
A子 「おぉ、勇者よ。なんと情けない」
B男 「王様みたいな発言をするな! で、誰が勇者か!?」
A子 「大丈夫。書道4級のあなたなら出来る!」
B男 「書道関係ないよね!? で、4級って低いし! そもそも俺、書道してないから4級も持ってないし!」
A子 「4級持ってないの!? ……まずいかもしれないね」
B男 「そんなに重要、書道4級!?」
A子 「魔王の弱点が書道なの」
B男 「小学生の苦手な科目じゃないんだから! 書道が弱点ってなんだよ!?」
A子 「『まだ芸術の域には達していないけど、基本はきっちり押さえた』みたいな字を見ると、魔王は苦しみ出すの」
B男 「まるで意味の分からない魔王だな!?」
A子 「特に『ちからこぶ』っていう文字の時は効果絶大」
B男 「その魔王はちからこぶにどんなトラウマを持ってるんだ!?」
A子 「そんなわけで、よろしく頼むぞ、勇者ちからこぶよ」
B男 「誰が勇者ちからこぶだ!?」
A子 「ちからこんぶ」
B男 「昆布になっちゃってんじゃん!?」
A子 「ちゃっちゃと魔王を倒してきなさいよ!」
B男 「そんな簡単に倒せるか!」
A子 「町の人がどうなってもいいの!?」
B男 「俺に言われても困るっつうのに!」
A子 「言う通りにしないと、町の人の命はないわよ!?」
B男 「お前が人質に取ってるみたいになってるけど!?」
A子 「ついでに、このカバンに3千万ゴールド入れなさい!」
B男 「強盗になってる! しかも単価が異世界風!」
A子 「重い! こんなカバンが持てるか!」
B男 「言う通りにしたのに、その仕打ちか!?」
A子 「えぇい、忌々しい人間どもめ! 私の魔法で滅ぼしてくれるわ!」
B男 「お前が魔王になってるよ!?」
A子 「うわぁ、ちからこぶという文字がぁ……!」
B男 「ちからこぶって字で苦しむな!」
A子 「まだ芸術の域には達していないけど、基本はきっちり押さえてあるぅ……!」
B男 「なに、それは魔王の伝統なの!? みんなそうなっちゃうの!?」
A子 「おのれ勇者力こんぶめ!」
B男 「だから俺、勇者力こんぶじゃないからね!?」
A子 「言い忘れていたけれど、『よくぞここまでたどり着いたな、勇者よ!』」
B男 「それ真っ先に魔王が言うセリフじゃん!? 何言い忘れてんの!?」
A子 「私に歯向かおうなど、無駄なことはやめておけ。私は無敵だ」
B男 「思いっきりちからこぶって字で苦しんでたじゃねぇか!?」
A子 「お前のかーちゃんでべそ」
B男 「普通に悪口挟んでくるな!」
A子 「どうしても私と戦うというのか?」
B男 「っていうか、お前が魔王ってことでいいのか? そんな感じで話進んでるけど?」
A子 「では見せてやろう、魔王最大の魔法、機関銃!」
B男 「それ魔法じゃねぇよ!」
A子 「お前にかわせるかな!?」
B男 「絶対無理だよ!」
A子 「おろかな勇者め、書道4級でも取得して出直してくるんだな!」
B男 「だから書道は何の関係もないだろうって!? もういいよ」




