たったひとつ
A子 「ねぇねぇ。もしあなたが無人島に行くとして、たった一つだけ、好きな漫画の4巻を持って行けるとしたら、何を選ぶ?」
B男 「マンガ要らなくね!?」
A子 「寂しい夜もあるでしょうに!?」
B男 「なら、なんで4巻だけなんだよ!?」
A子 「だいたい、最初の一段落が終わって新しい展開が始まりつつも、『これから盛り上がっていくんだろうなぁ』っていう凄い中途半端なところで終わるイメージ」
B男 「だからこそ、なんで4巻だけなんだって!?」
A子 「知ってる? 無人島には、本棚とか、無いんだよ?」
B男 「無人島に連れて行かれて、本の保存状態とか気にしてる余裕ねぇわ!」
A子 「初版だよ!?」
B男 「プレミアとか知らんけど! だったら無人島になんか持ってくんじゃねぇよって話だよね!?」
A子 「つまり、手ぶらで無人島へ行きたいと?」
B男 「他の物を持っていきたいかな!?」
A子 「ラケット?」
B男 「なんの役にも立たねぇ!?」
A子 「素振りが出来るよ」
B男 「してる場合じゃないんだわ!? 分かるよね!?」
A子 「いいえ、まったく」
B男 「分かれよ! こっちは命がかかってんの!」
A子 「何に? 炊き立てのご飯?」
B男 「ふりかけか、俺の命!?」
A子 「え? おかか味なの?」
B男 「味とかないから!」
A子 「栄養素のみ?」
B男 「ふりかけじゃないんだ!」
A子 「じゃあ、何にかけてるの? かた焼きそば?」
B男 「俺の命、とろみついてないから!」
A子 「ハンガーラック?」
B男 「外着か!? かかってるって、そうじゃなくて! 無人島に一人で連れて行かれるなら、使える道具を持っていかないと危険だろってことだよ!」
A子 「ちょっと待って。サバイバル少年ルシファーの4巻読み返して確認するから」
B男 「マンガの4巻持ってきちゃってるね!? しかも、タイトルの意味がよく分からないヤツ!? ルシファーってなんだよ?」
A子 「主人公(小学五年生)の名前。大天使って書いてルシファー」
B男 「キラキラネーム!? 漫画の世界にも進出したのか!?」
A子 「この漫画によれば、サバイバルナイフとか必要だって書いてあるね」
B男 「サバイバルマンガだと、無人島での生活に役立つ情報とか載ってるかもしれないな」
A子 「前回の続きと、肝心なところで次回に続くで終わるけどね」
B男 「重要なところごっそり抜けてそうだね!? 準備と肝心な部分が!」
A子 「でも、この漫画の4巻には、くじけそうな心を奮い立たせる名言が書かれてるんだよ」
B男 「名場面ってヤツだな。なんてセリフなんだ?」
A子 「『ま、そんな時もあるよ』」
B男 「奮い立たないね!? なんかもう、諦めちゃいそうだよね!?」
A子 「『明日の給食、カレーだって』」
B男 「こっちは無人島にいるんでね!? カレーでテンション上げられないんだわ!」
A子 「使えねぇな、4巻!」
B男 「だよね!? そう思うよね!?」
A子 「別の漫画の4巻にしようか」
B男 「4巻やめない!? せめて1巻!」
A子 「無人島にマンガの1巻だけを持っていって、なんの役に立つの!?」
B男 「4巻もな!」
A子 「しょうがない。もっと別の物を持っていくといいよ」
B男 「ちなみに、お前なら何を持っていく?」
A子 「あ、私は、無人島とか意地でも行かない」
B男 「それが選択出来るなら俺もそうするわ! もういいよ」




