これだけは~お弁当編~
A子 「ねぇねぇ。お弁当に『これだけは入れておいてほしい物』ってある?」
B男 「そうだな。やっぱ唐揚げかな」
A子 「『コケコッコー!』」
B男 「揚げといてくれる!? なんで素材のまま入ってんだよ!?」
A子 「新鮮な方がいいかと思って」
B男 「新鮮過ぎるよね!?」
A子 「もう、カバンの中でバッサバッサバッサバッサ」
B男 「騒がしいわ!」
A子 「『こら、授業中は携帯切りなさい』」
B男 「そんな着信音ねぇだろ!? しまいには『コケコッコー』とか言い出しかねないしな!」
A子 「『こら、授業中は目覚まし時計切りなさい』」
B男 「それセットしてるってことは、確実に寝るつもりじゃん!?」
A子 「違うよぉ! 早弁の時間に鳴るの!」
B男 「ないよ、そんな時間!? ちゃんと昼飯の時に食ってね!」
A子 「こっちは朝食の後から何も食べてないのよ!?」
B男 「みんなだよ! なんなら朝食すら食ってないヤツもいるわ!」
A子 「お前ら、修行僧か!?」
B男 「違うよ! そういう苦行じゃないから!」
A子 「でも、早めに準備しないと……、鳥の血も抜かなきゃいけないし」
B男 「だからそれがおかしいんだよ! 鳥は調理してあるヤツを持ってこい!」
A子 「その手があったか!」
B男 「その手しかないから!」
A子 「じゃあ、あなたのお弁当には唐揚げをギチギチに詰め込んどくね」
B男 「詰め込み過ぎだろ!?」
A子 「唐揚げさえ入ってればいいんでしょう!?」
B男 「いや、他のも入れろよ! 特にご飯は必須だろ!?」
A子 「そしたら『これだけは入れておいてほしい物』はご飯じゃない!」
B男 「あぁ、そうか。俺は『入ってると嬉しい物』を答えちゃったんだな。そこから勘違いしてたよ」
A子 「じゃあ罰として、鳥の血抜きをしてきなさい」
B男 「お前はどうしても俺に鳥を捌かせたいのか!? 出来ないからね、鳥の血抜きとか!」
A子 「あなた、それでも鳥商人なの!?」
B男 「違うよ! まるで見当違い!」
A子 「あなたをそんな鶏に育てた覚えはない!」
B男 「育てられてないから大丈夫! 仮にそう育てられてたら、今、俺、鶏のはずだしね!」
A子 「訳の分かんないことを言うんじゃない!」
B男 「お前のせいだよ!」
A子 「なんでもかんでも鳥のせいにして!」
B男 「鳥のせいにはしてねぇよ!」
A子 「鳥の精か!?」
B男 「別に俺、鳥関係の妖精とか精霊じゃないからね!?」
A子 「『あなたが落としたのは調理前の生きた鶏ですか?』」
B男 「なんか泉の精的なものが出てきた!?」
A子 「『それとも、調理済みの、とってもジューシーなこの唐揚げですか?』」
B男 「うわぁ、唐揚げって言いたいけど、俺が持ってたのは調理前の生きた鶏だからな。生きてる方です」
A子 「『なんて正直なんでしょう。そんなあなたには、自転車のサドルをあげましょう』」
B男 「いらねぇ! 物凄くいらない! 欲しいなって思った時がない!」
A子 「無くなって初めてその大切さに気付くタイプのものよね」
B男 「まぁ確かに、なくなると困るけどね!」
A子 「というわけで、今日のあなたのお弁当はサドルです」
B男 「お弁当になるか!」
A子 「ご飯と唐揚げがあれば、あとはなんでもいいんでしょ!?」
B男 「なんでもはよくないんだってば、だから!」
A子 「他に何がいるの?」
B男 「野菜とかも入れといてほしいだろう、そりゃ!?」
A子 「ミョウガ、ショウガ、ネギ」
B男 「薬味だらけか!? ほうれん草とかポテトサラダだよ!」
A子 「じゃあ、ほうれん草のポテトサラダね」
B男 「その二つは合体しねぇよ! 『ほうれん草の』の時点でポテトじゃなくなってるしね!」
A子 「結局何ひとつ譲らないで中身決めちゃったじゃない! 『これだけは入れておいてほしい物』って言ってるのに欲張っちゃって!」
B男 「じゃあお前はなんなんだよ、お弁当に『これだけは入れておいてほしい物』!」
A子 「お箸かな」
B男 「そこかよ!? もういいよ」




