マッチ売りの少女
A子 「ねぇねぇ。『マッチ売りの少女』って知ってる?」
B男 「あぁ。悲しいお話だよな」
A子 「『雪の降る寒い夜。マッチ売りの少女はコタツでプレイステーション2をやっていた』」
B男 「なんでだ!?」
A子 「プレイステーション3を持っていなかったからよ!」
B男 「違ぇよ! マッチ売りに行けよ!」
A子 「今日はシフト変わってもらったの!」
B男 「バイトか!?」
A子 「『すいません、今日寒いんで休みます』」
B男 「気候を理由に休むな!」
A子 「春になったら頑張る」
B男 「ダメなダイエットみたいだな」
A子 「そして気がつけば夏」
B男 「春は!?」
A子 「楽しかったなぁ~」
B男 「マッチ売れよ!」
A子 「そう思ったから、真夏に重い腰を上げたんじゃない!」
B男 「じゃあ今からマッチを売りに行くんだな?」
A子 「『アイスキャンディーいかがですかぁ~?』」
B男 「マッチは!?」
A子 「このクソ暑い中マッチなんか食えるか!」
B男 「寒くても食いはしないだろう、マッチ!?」
A子 「そして、ほろ苦い思い出だけを残し、夏が過ぎていった」
B男 「ひと夏の恋でもしたのか、マッチ売りの少女!?」
A子 「天高く馬肥ゆる秋!」
B男 「結局去年からマッチ一本も売ってねぇな」
A子 「マッチ売りの秋!」
B男 「そんな秋聞いたことないわ!」
A子 「張り切ってマッチを売ります!」
B男 「過ごしやすい気候になったからな。ここらで真剣に頑張れよ」
A子 「私、頑張る! プレイステーション3のために!」
B男 「どうしても欲しいか、プレイステーション3!?」
A子 「そのためだけに生きているといっても過言ではない!」
B男 「お前の人生それでいいのか!?」
A子 「本当はそれほどでもない」
B男 「過言だったな! 『そのためだけに』は言い過ぎたよな!?」
A子 「でも欲しい!」
B男 「じゃあもう精一杯頑張れよ」
A子 「『チャッカマンいかがですかぁ~!?』」
B男 「マッチを売れって!」
A子 「便利なんだよチャッカマン!?」
B男 「知ってるよ! 石油ストーブとか焚き火の時に大活躍してもらったよ! でもお前は『マッチ売りの少女』だからさ、マッチを売ろうか!」
A子 「鶯パンだって鶯入ってないじゃん……」
B男 「そんなもんと比べるな! いいからマッチ売れよ!」
A子 「『そこのお姉さん! あなた悪いものがついてるわよ。今ならこの幸福のマッチを格安で譲ってあげるけど、どう?』」
B男 「キャッチセールスするな!」
A子 「キャッチセールスじゃない! 霊感商法!」
B男 「どっちにしてもやっちゃダメなことだろうが!」
A子 「今時マッチが売れると思う!?」
B男 「そこを頑張って売るんだよ!」
A子 「世の中ね、努力だけじゃどうしようもないことだって山のようにあるんだよ」
B男 「それでもマッチを売るの!」
A子 「売れないこと承知で?」
B男 「そうだよ! で、売れ残ったマッチに火をつけていくんだよ」
A子 「商品に手を出すな!」
B男 「仕方ないんだよ! 寒さで手が凍えてるんだから!」
A子 「いえ、この上もなく過ごしやすい気候ですが? なんなら若干暑いくらい」
B男 「今の季節ならね! でも本来マッチ売りの少女は真冬にマッチを売るんだよ!」
A子 「ヤだよ、寒い!」
B男 「寒いからマッチで温まるの!」
A子 「だったら家でオークションにでもかけるって!」
B男 「どこまでも現代っ子だなお前は!? 寒い冬に街中で懸命に頑張ってる姿に心打たれるんだろうが!」
A子 「分かった分かった。じゃあ、冬になるのを待って、それからマッチを売りに行こうか」
B男 「おう、そうしてくれ。それでこそマッチ売りの少女ってもんだ」
A子 「と、そうこうしているうちに春」
B男 「冬は!?」
A子 「楽しかったなぁ~」
B男 「だからマッチ売れって! もういいよ」




