お茶点て
A子 「ねぇねぇ。お茶を点ててみようかと思います」
B男 「出来んのか?」
A子 「もちろん。英検6級も持ってるし!」
B男 「関係ない上に、あんまり自慢にならねぇよ、英検6級!」
A子 「まぁ見てなさいって」
B男 「じゃあ見せてもらおうか」
A子 「と、油断させといて目潰し!」
B男 「何しやがる!?」
A子 「昔の人は言いました。『隙あり!』」
B男 「たしかに最近の人はあんまり言わないよね、隙あり!?」
A子 「目潰しをされても、めげずに見ててね」
B男 「見ててほしいなら目を潰すな!」
A子 「それも含めての茶道ですから」
B男 「違うよ!? 含んでないからね、茶道は目潰し!」
A子 「茶道は目潰し?」
B男 「たしかにそこだけ抜き取るとおかしな言葉だよね!?」
A子 「あなたに見せてあげるよ。本当の茶道というものを!」
B男 「流派はなんだ? 裏とか表とかあるんだろ?」
A子 「リバーシブル派です」
B男 「ないね、リバーシブル派!?」
A子 「どっちでもいける!」
B男 「いけちゃっていいのか、それ!?」
A子 「茶道初心者、「ちゃしんしゃ」には分からないだろうけど」
B男 「ちゃしんしゃってなんだ!? 妙な略語を作るな!」
A子 「今は落語の話なんかしていない!」
B男 「俺もしてねぇよ! 略語!」
A子 「よく分かんないことを言うな!」
B男 「なんで分かんないんだよ!?」
A子 「いいからあなたは黙って、私のバカバカしいお話を一席聞きなさい!」
B男 「落語する気になってんじゃん!? お茶点てろよ!」
A子 「お茶を点てまして~」
B男 「お茶とかけまして~みたいになってる! 謎かけっぽくなってるからね!」
A子 「黙れ、外野!」
B男 「暴言にもほどがあるだろう!? 茶道やってるんだから、心を落ち着けて穏やかな気分でやれよ!」
A子 「メッチャ穏やかだよ。メッチャ穏やかに、あなたを苦々しく思ってる」
B男 「穏やかじゃねぇよ、その状態!」
A子 「茶道をしてるとね、まことしやかな気持ちになれるよね」
B男 「どんな気持ちだよ、まことしやか!? なんか、都市伝説とかそういうとこでしか聞かねぇよ、そのワード!」
A子 「悪いんだけど、もうちょっと静かにしてくれるかな? お下品だよ」
B男 「お下品ってなんだ!? 変なところに『お』をつけるな!」
A子 「茶道にはね、お茶を点てる方にはもちろん、点ててもらう方にもルールがあるんだよ」
B男 「まぁそうだろうな。いただく時にもマナーとか作法があるだろう」
A子 「まず、お茶を点てる人の前に来て、よく見る」
B男 「見るのか」
A子 「で、好きなフレーバーとサイズを伝える」
B男 「ちょっと待って! お前、何をよく見てる!?」
A子 「メニューですが?」
B男 「メニューとかないから! 出てくるのは一種類だけだよ!」
A子 「え、コーヒー?」
B男 「お茶!」
A子 「変なところに「お」をつけるな!」
B男 「変なとこじゃねぇよ! 最も付けやすいところのひとつだよ!」
A子 「じゃあ、ちゃちゃっと点てちゃうから待ってて」
B男 「ちゃちゃっとかよ!?」
A子 「お茶、だけに!」
B男 「うるせぇよ! 早く点てろよ!」
A子 「あ、ストロー使うならそこにあるから」
B男 「使わないよ!?」
A子 「飲んだらちゃんとあれ言ってね、『結構な板前でした』」
B男 「お手前ね! 板前さんだったらお刺身とか出てきちゃうから!」
A子 「ほら、ゴチャゴチャしゃべってないで点てるとこしっかり見てて!」
B男 「ゴチャゴチャって言うな! 見てりゃいいんだろ! 見るよ!」
A子 「と、油断させといて、目潰し!」
B男 「だから、目潰しすんなってのに! もういいよ」




