ちょっとしたアルバイト
A子 「ねぇねぇ。ちょっとしたアルバイトしない?」
B男 「どんなバイトだ?」
A子 「除霊」
B男 「無理だよ!?」
A子 「禍々しい人形の呪いを解くだけの簡単なお仕事です」
B男 「それ全然簡単なお仕事じゃないから!」
A子 「たった二十人の住職が匙を投げただけの禍々しい人形」
B男 「それはもはや手に負えないレベルじゃん!?」
A子 「関わった人が次々不幸になっていくだけの、禍々しい人形」
B男 「絶対関わりたくないね!?」
A子 「今なら、同じ人形をもう一つプレゼント!」
B男 「いらーん!」
A子 「とりあえず一大事だから、バイト感覚でサクッと除霊しちゃって」
B男 「そんなもんを素人に頼むな!」
A子 「『ビギナーズラック』って知ってる?」
B男 「除霊にビギナーズラックも何もないだろう!?」
A子 「とりあえず、相談者の家に行ってみよう」
B男 「俺に拒否権はないんだね!?」
A子 「この家だよ」
B男 「見た感じ普通の一軒家だな」
A子 「でも、この家には、恐ろしい秘密が隠されているんだよ……」
B男 「呪われた人形があるんだろ!?」
A子 「なぜそれを!? はっ! まさか、霊視ってヤツ!?」
B男 「違う! さっき聞いたの! お前から!」
A子 「え、私、今初めてあなたに会ったところだよ?」
B男 「怖ぇわ! じゃあさっきのヤツは誰だったんだよ!?」
A子 「実は…………さっきのも……わ~た~し~……!」
B男 「知ってたよ!? 物凄くおどろおどろしく言ってるけど、分かってたからね!?」
A子 「えっ、まさか、霊視!?」
B男 「だから違うっつうのに! もういいから、早く説明してくれよ!」
A子 「この家にはね、夜な夜な髪の毛が伸びる人形と、毎朝物凄い量の抜け毛に悩んでいるお父さんがいるの……」
B男 「後の方、いらない情報だな!?」
A子 「羨ましいったりゃありゃしない!」
B男 「お父さんの感想どうでもいいから! 人形のこと教えてくれる!?」
A子 「この人形が作られたのは明治二年」
B男 「随分古いな」
A子 「平成で言うと16年だね」
B男 「違うよ!? 明治は平成では言えないからね!」
A子 「当時薄毛に悩んでいたお父さんが、人形の頭に育毛剤を振りかけてしまったことが悲劇の始まり」
B男 「振りかけても伸びねぇよ!? 人形の毛根には働きかけません!」
A子 「それ以降、人形の呪いにより、この家の主は代々薄毛に悩み……」
B男 「人形の呪いなの!?」
A子 「人形を羨み続ける毎日」
B男 「なんか、物凄く嫌な呪いだな!?」
A子 「夏になるとね、この人形から声が聞こえてくるんだって」
B男 「うわ、それ怖いな!?」
A子 「『前髪、うっぜ~、切ろうかなぁ』」
B男 「お前がウザいわ!」
A子 「『こっちは前髪なんかないのにー!』」
B男 「お父さんはちょっと黙ってて!」
A子 「けど、髪の毛の呪いがこうもはっきり出ちゃってるから、怖くて何も出来ないんだよね」
B男 「捨てたり傷付けたりしたら、もっと酷い呪いをもらいそうだもんな」
A子 「この人形の除霊に挑んだ住職は、みんな髪の毛を失い……」
B男 「元からじゃねぇの!? 住職なんだよね!? 剃ってんじゃないの!?」
A子 「噂が噂を呼び、誰も除霊に名乗りを上げなくなり……」
B男 「だから、住職ってみんな剃ってんじゃないの!?」
A子 「そこで、毛根が壊滅しても問題ないあなたに白羽の矢が立ったわけ!」
B男 「問題あるよ!? 俺こそが問題ありまくりだよ!」
A子 「まぁまぁ。バイト感覚でサクッと除霊しちゃってくれればいいから」
B男 「だからバイト感覚で出来るか、そんなこと! もういいよ」




