KUCHIBIRU
A子 「ねぇねぇ。唇が紫だよ?」
B男 「あぁ、実はプールに長く入り過ぎてな」
A子 「そっか、かき氷の食べ過ぎか」
B男 「聞いてる人の話!?」
A子 「え、なに? ちょっと、電波が……」
B男 「この距離で電波なんか関係あるか!」
A子 「あるある。だってあなた、口パクよりも声が遅れて聞こえてるもん」
B男 「衛星中継か!?」
A子 「で、なんでそんなにかき氷を食べたの?」
B男 「食ってねぇよ! プールに入ってたの!」
A子 「かき氷を持って?」
B男 「持ってない!」
A子 「何してたのプールで?」
B男 「最初は普通に遊んでたんだけど」
A子 「途中から異常な遊びを始めたわけだね」
B男 「始めてねぇわ! なんだ異常な遊びって!?」
A子 「プールの水を飲み干すとか?」
B男 「体おかしくなるわ!」
A子 「片栗粉を大量に入れてとろみをつけるとか?」
B男 「プールにとろみをつけてどうする!?」
A子 「泳いでる人が、ちょっと美味しそうに見える」
B男 「とろみをつけて美味しそうに見えるのは、野菜炒めとチャーハンくらいのもんだよ!」
A子 「長崎ちゃんぽん!」
B男 「細かい料理を言い出したらきりがないから、そこは適当でいいだろう!?」
A子 「長崎ちゃんぽんだけは譲れない!」
B男 「分かったよ! じゃあちゃんぽんも追加な!」
A子 「食べたことこそないけども!」
B男 「ないのかよ!? じゃあ何でそこまで固執した!?」
A子 「私が長崎ちゃんぽんの生みの親だからよ!」
B男 「嘘つけよ!」
A子 「まぁ、食べたことこそないけども!」
B男 「絶対嘘じゃん!」
A子 「で、なんで唇が紫になるほど長崎ちゃんぽんを食べてたの?」
B男 「食ってねぇし、どんなに食っても唇紫にはならねぇよ!」
A子 「何してたんだっけ?」
B男 「プールに入ってたの!」
A子 「うん……うん……あぁ、プールにね」
B男 「声、遅れてないから! 衛星中継みたいなタイムラグないから!」
A子 「ちょこちょこ出て体温調節しないからだよ」
B男 「分かってるんだけど、ロッカーのカギを落としちゃったんだよ」
A子 「一緒に行ったロックバンドのメンバーの鍵?」
B男 「ロッカー違いだ! 着替えを入れてるロッカーだよ!」
A子 「それで仕方なく、ロッカーを破壊したわけね」
B男 「してないからこそ、唇が紫になってんだよ!」
A子 「まさか、唇の赤味と引き換えに!?」
B男 「どこでそんな取引してくれるんだ!? 唇の赤味と引き換えにロッカーを開けてくれる業者でもいるのか!? その業者は唇の赤味を集めて何をするつもりなんだ!?」
A子 「うんうん、なるほど。プールに入ってたわけだね」
B男 「なかったことにするなよ、ここまでの結構長いくだり!」
A子 「で、結局どうしたの、ロッカーのカギ」
B男 「探したよ。どこで落としたか分かんないから、プールに潜って片っ端から探したんだよ」
A子 「その時の鍵が、こちらです!」
B男 「なんでお前が持ってんだ!? ちゃんと見つけて、ロッカー開けて、置いてきたわ!」
A子 「あ、見つかったんだ」
B男 「でなきゃ、ここにいねぇよ! 着替えられないんだし」
A子 「どこにあったの? 長崎ちゃんぽんの中?」
B男 「俺、長崎ちゃんぽんの中通ってないから、そこには落とさないかな!?」
A子 「どこにあったの?」
B男 「プールの底に落ちてたよ。ホント、見つかってよかった」
A子 「結構長いこと探してたの?」
B男 「二時間くらい探したかな」
A子 「なるほど。それで疲れたから大量にかき氷を食べて、唇が紫になっちゃったんだね」
B男 「だからかき氷食ってねぇってのに!? もういいよ」




