北風と太陽の話
A子 「ねぇねぇ。『北風と太陽』って知ってる?」
B男 「あぁ、外国の童話だろ?」
A子 「どんな話?」
B男 「昔々、ある山道を旅人が歩いていたんだよ」
A子 「ツーステップで?」
B男 「どんないいことがあったんだ、旅人!? 普通に歩いてたの」
A子 「アイマスクをして」
B男 「してねぇよ! 何も見えない状態で山道歩いて、何の修行だよ!? 何もつけないで歩いてたの!」
A子 「何もつけないで!?」
B男 「服は着てるよ! それからマントしてる」
A子 「あぁ、飛ぶんだ」
B男 「飛ばない! マントつけてれば飛べるのか?」
A子 「まぁ、大体は」
B男 「じゃあ、ゴク少数派の飛ばない方の旅人がマントつけて歩いてたんだよ」
A子 「ザッザッザッザッ!」
B男 「行進!? そんな大群じゃねぇよ! 一人で歩いてたの」
A子 「どこを目指して?」
B男 「うっせぇな! どこでもいいんだよ!」
A子 「でも行き先が明確じゃないと歩くの辛くない?」
B男 「その旅人本人は知ってるんだよ」
A子 「ブゥーン……キキィー! お客さん、どちらまで?」
B男 「タクシー出てくんな! 山道を歩いてるの!」
A子 「はいはい。歩いてます」
B男 「で、それを見た北風と太陽が話をするんだよ」
A子 「ちょっと待って! 太陽がどれだけ遠くにあるか知ってる?」
B男 「いいんだよ、童話なんだからそういう細かいことは。空に浮かんでるもん同士話出来るんだよ」
A子 「浮かんでるって。そもそも北風は吹いているからこそ北風であって、立ち止まったらそれはもう空気じゃない。ちょっと冷たい空気じゃない!」
B男 「細かいなぁ! いいんだよ、風も空気も一緒で! 一部なんだから!」
A子 「ということは、コップの水も広い意味で言えば川なわけね」
B男 「いや違うだろう」
A子 「その理論でいくと、抜け毛も人なわけね。あ、肩に人が付いてる」
B男 「気持ち悪いわ!」
A子 「だいたい、旅人はツーステップすらしちゃいけないのに、なんで北風と太陽が話ししてんのよ! 不自然じゃない!」
B男 「童話なんか殆どが不自然なもんだろうが!」
A子 「だったら旅人もツーステップくらいしてもよくない!?」
B男 「わかったよ! じゃあ旅人はツーステップで山道歩いてることにするよ! で、北風と太陽が話しするんだよ」
A子 「おい、見ろよ。あいつ山道でツーステップしてるぜ」
B男 「お前がやらせたんだろうが!」
A子 「よし、あの旅人とダンスで勝負だ!」
B男 「違う違う違う違う! そんな勝負はしない!」
A子 「じゃあなに話してたのよ?」
B男 「どっちが旅人のマントを脱がせられるかで勝負するんだよ」
A子 「何のために?」
B男 「知らねぇよ! デザインが気に入らなかったんじゃないの!? ダッサイマント着てんだよ」
A子 「だったら放っておいても脱ぐんじゃない?」
B男 「脱がせる対決なの! で、まず北風が凄い風でマントを吹き飛ばそうとするんだ。ビユー!」
A子 「うわぁぁぁー! キラーン」
B男 「飛んでくか! どこまで軽い旅人だ! じゃなくって、風が強くなったからマントを飛ばされまいと、余計にギュッと持つんだよ」
A子 「失敗じゃん」
B男 「そう。で、今度は太陽が旅人をサンサンと照らすんだよ。そしたら」
A子 「日焼けしないようにマントで隠さなきゃ」
B男 「着込むんじゃねぇよ!」
A子 「ギュ!」
B男 「ギュじゃなくて!」
A子 「だって日焼け止めクリーム塗ってないし」
B男 「ここでマント脱がなきゃ話終わんないだろう!」
A子 「そこへ、オシャレなショップの店員がやってきて、『お客様でしたら、こちらのマントの方がお似合いかと思いますよ』」
B男 「出てくんなよ!」
A子 「すると、旅人はたちまちのうちにマントを脱ぎ捨てて新しいマントをつけましたとさ。めでたしめでたし」
B男 「めでたかねぇよ!」
A子 「つまりこの話は、ダッサイ服はやめてオシャレに生きようっていうことが言いたいのね」
B男 「全然違うから! もういいよ」