110番する
A子 「ねぇねぇ。110番ってしたことある?」
B男 「俺、ないんだよなぁ」
A子 「逃げる一方か!?」
B男 「逃げてねぇよ! まず追われてないし!」
A子 「私はかけたことあるよ」
B男 「何か事件でもあったのか?」
A子 「『体調悪いんで、今日休ませてもらっていいですか?』」
B男 「勤めてるの!?」
A子 「『自分の部署にかけろ』って怒られた」
B男 「そりゃそうだろうね! あれ、市民の窓口だし!」
A子 「なのでもう一回110番して、『警察に横柄な態度をとられたんだけど!?』って」
B男 「クレーム入れてんじゃねぇよ! 確実にお前が悪いから!」
A子 「どんな時に電話するのが正解?」
B男 「事件があったときとか?」
A子 「『お前の娘は預かった』」
B男 「それを110番にかけるヤツは相当頭悪いよね!?」
A子 「『警察には連絡するなよ』」
B男 「お前がしてるんだけどね!」
A子 「事件ってどんなの?」
B男 「『引ったくりにあいました』とか」
A子 「『引きこもりにあいました』」
B男 「そっとしといてやれ! もしくは、頑張って外に出てくるように説得でもしてやれ!」
A子 「指名手配犯を見かけたら通報するんだよね?」
B男 「そうだな。町の中にポスター貼ってあるもんな」
A子 「『この顔に、キュンときたらそれは恋の始まりかもしれない』」
B男 「始まると困るね!? 悪い人だから!」
A子 「なんだっけ? 『この顔ににょんときたら110番』?」
B男 「にょんとはこないかな!? どういう状況かよくわかんないし!」
A子 「なんだっけ?」
B男 「『ピンときたら』だよ!」
A子 「ピンときたことある?」
B男 「ないな。もしかしたら凶悪犯とすれ違ってるかもしれないと思うと怖いけどな」
A子 「すれ違ってたら気付くでしょう?」
B男 「いや、普段は他人の顔なんかそんなに気にしてないだろう?」
A子 「向こうが言ってくれるよ」
B男 「言ってくれねぇよ! なんだ、『実は俺、凶悪犯なんだ』って言ってくるのか!?」
A子 「違うよ。すれ違いざまに『ピーン!』」
B男 「ピンときたね!? それも、物凄くわかりやすく!」
A子 「110番しなきゃ!」
B男 「そこまでわかりやすい犯人なんだったら、もう自首して欲しいけどな!」
A子 「じゃあ、ピンときたから、110番してみよう!」
B男 「犯人が逮捕されると安心だもんな」
A子 「で、110番って、何番だっけ?」
B男 「お前はアホの子か!? 110番だよ!」
A子 「あぁ、そっちか」
B男 「ほかにどっちがあるんだよ!?」
A子 「えっと、0120……」
B男 「なんでフリーダイヤルだ!?」
A子 「お金使いたくないから!」
B男 「110番は無料だから気にすんな!」
A子 「マジで!? じゃあ、ちょっと長話しても平気!?」
B男 「長話はするな! 用件だけ簡潔に言え!」
A子 「『さっき町中でにょんときたんですけど』」
B男 「にょんとはきてないよね!?」
A子 「『ピンときました』」
B男 「そしたら、どこで見かけたとか、犯人の特徴とかを伝えておけ」
A子 「『二足歩行でした』」
B男 「当たり前だ!」
A子 「『今ので、犯人の居場所が特定できました』って」
B男 「マジで!? 凄いね、日本の警察!? じゃあもう、用は済んだし電話を切るか」
A子 「待って。もうひとつ言いたいことが」
B男 「なんだ?」
A子 「『体調悪いんで、今日休ませてもらっていいですか?』」
B男 「だからそれは部署に言えって! もういいよ」