生まれかわるなら
生まれ変わるなら、何になりたい?
人間はもうごめんだ。
人間ほど他者を気にする生き物は他にいない。他者への評価。他者からの評価。それから自分の、自分への評価。どっと疲れる。
そうね。もし生まれ変わるなら、私は鳥になりたい。君は?
夕暮れに染まる屋上の、フェンスの向こう側。
彼女は僕に背を向けて立っていた。
僕は、人間以外なら、なんでもいい。
変わらない毎日に退屈しきっていた。
ぼーっと窓から外を眺める。雲ひとつない真っ青な空を、鳥たちが気持ちよさそうに飛び回っていた。年を重ねただけで偉そうにしている大人の、教科書をなぞっているだけの授業。抑揚のない音が淡々と空気を振動させる。耳に入ってくるコトバという名の音は、するすると何のひっかかりもなく僕の中から抜け出ていった。
2週間前、同じクラスの女子生徒が飛び降り自殺をした。
彼女はどんな気持ちで飛び降りたのだろうか。想像してみる。
空に放り出され、一瞬間のスローモーション。真っ赤な夕焼けをバックに、長い髪が風に揺られている。ゆっくりとこちらを振り向いた時の彼女の表情は、逆光で黒く塗りつぶされていた。
笑っていたようにも、泣いていたようにも思える。彼女は、鳥になれたのだろうか。
唐突にチャイムが鳴り響き、現実に引き戻された。教室にざわざわと人の声が蘇っていく。
教室の隅の席に目をやった。2週間前までは人が座っていたはずのその場所に、今は花瓶だけがわざとらしく置かれている。
自殺事件が起きた次の日に全校集会が開かれた。校長は「まことに悲しい」と、困ったような声で、迷惑そうな顔で、そう言った。
僕は校長に対して何も感じなかった。どんな立場の人間であろうと、彼らはみな「オトナ」だ。人の死より世間体が心配なのも、彼らが「オトナ」たるゆえんなのだ。
クラスの数人は泣いていた。
人は、人のために泣くことができない。誰かが死んだ時人が泣くのは、その人を失った自分が可哀相だから。あるいは、そんなことで泣いている自分が好きだから。
だから僕は、決して泣かない。
彼女は、鳥になれたのだろうか。
鳥は、自分を気にしない。他者を気にしない。自分がどう見られようと、堂々と空を飛び、生きるために生きている。
うらやましいと、素直に思った。
僕は、生まれかわるなら、鳥になりたい。