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『イヤリング』

作者: 二月最中

ちょっとバッドエンド成分を含んでおります。

 銃弾がイヤリングを穿った。私は人になった。

 ガラス玉がはじけて、破片が頬をかすめる。血が流れ、私の中を痛みが駆け抜けていく。

 パラ、と髪が何本か落ちた。

 そして、私は彼を見た。彼の瞳を、彼の姿かたちをこの目でしっかりと。

「大丈夫。わかってるから」

 彼は泣いていた。よく覚えている。私の知っている優しい顔だった。銃身が震えていた。

 ああ、彼は迷っているのだ。私のせいで、前に進むことができない。だから私は一歩踏み出す。

「あのね。私、貴方に伝えたいことがあるの」

 一歩。

「初めて会ったとき、貴方はとても優しかった。その優しさが、私の初めて触れる優しさだった」

 もう一歩。

「私もそれに応えたかった。一生懸命、貴方に私を知ってもらおうって。だけどそれは嘘でしかなかったんだ」

 また一歩。彼の心音を感じる。

「夢見てた。もしかしたらそれが許されるんじゃないかって」

 身体が熱い。人から離れていくのだ。抑えられるのも、ここまでだ。

「もう……。時間がないから言うね」

そして、最後の言葉を。

「今までありがとう。ごめんね」

 彼は言った。何も聞こえないけど、私にはそれがわかった。

――お前のこと、救えなかった。

「ううん、わかってる。貴方はよくしてくれたもの」

――悔しいよ。大切な人をこんな形で。

「私も……。こんな形なんて」

――好きだ。愛してる。

「ありがとう。私も、愛してる」


 涙がこぼれる。身体の熱は増していた。もう、そろそろだ。

「最後。したいことがあるの」

   そして、私はキスをした。

 牢の中で読んだ絵本。王子様とお姫様のキスで物語は終わっていた。

 それから、彼の手が握る、その銃を私は奪った。銃はスルリと抜けてすっかり私の手に収まった。この中の銀の銃弾が、私を終わらせてくれる。私を幸せにしてくれる。

 この姿で、私で終わりたい――。


 重い。

 親指で、撃鉄を起こす。

 引き金が冷たい。火薬のにおいがする。

 精一杯の笑顔をつくる。涙がまた頬を伝う。くすぐったい。

 そして――。




「さようなら」




 一匹の狼が倒れていた。その横に、青年が崩れ落ちていた。


 砕けたガラスがキラキラ光っていた。

あっぷるピエロ様から頂いたリクエスト『イヤリング』です。

 短い文章でしたが設定がありまして、それに関してはいつかお披露目する機会があるのではないかなぁ。と思いますです。特に蛇足感が否めない最後の数行。あれは結構キーになってたりするのでどうしても必要だったのです。

 今回のヒロインはまったくの描写がないので何とも言えませんな。時代背景とかもまったく匂わせないようにしたので意図したとおりと言えばそうなのですが。

 まあ、鋭い方はなんとなーくわかるのではないでしょうか、な感じで。ここは一つ。

 というわけで、リクエストSS『イヤリング』でした。

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