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小さな魔女と野良犬騎士  作者: 如月雑賀/麻倉英理也
第2部 反逆の乙女たち
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第85話 アノヒノオモイデ






 大陸最強の名を欲しいままにした竜姫。名を、声を、姿すら見たことの無い者達でも、その異名を知らない者は、大陸に存在しないだろう。

 数多の伝説を大陸各地に残しながら、その人となりを知る者は極僅か。

 いや、皆無と言っても、言い過ぎでは無いだろう。

 何故ならば竜姫は、人嫌いで有名であったからだ。


 最強を証明する騎士としての最高峰、竜の称号。

 心技体、全てを兼ね揃えた者のみが選出され、国家神との契約者、つまり一国の王数名からの推薦を持ってして、初めて得ることの出来る栄誉。ここ百年の歴史を顧みても、その数は二十人に届かない。

 実力のみならず、人格など内面にも左右される竜の称号。


 その名を受けし者達は皆、例外なく英雄として歴史に語り継がれ、勇者と名のつく者が現れる古典的お伽噺を読み解けば、ラストに竜の称号を得るのは、古典的なオチとして認可されている。

 英雄として、英傑として、勇者として。竜の称号を持つ騎士は、人々に敬われ、愛され、人の為、国の為にその生涯と剣を振るう。

 世が乱れる時に、巨悪を斬る剣なのだ。

 それが、千年以上の歴史を持つ、竜の称号の役目でもあった。


 長い歴史を顧みて竜姫は、歴代最強の呼び声が高く、また特別な立ち位置にいた。

 人の域を超えた戦闘能力のみを評価され、称号を得た只一人の人物。

 人格に問題があれど、神の領域と呼ばれる強さは、称号を与えることに反対した人間達も、二つ返事で認めるしかなかった。


 故に栄誉ある竜の騎士でありながら、人に仕えることなく、人の為に力を振るうことなく、竜姫はただ己の欲望の赴くまま、大陸を放浪し、最強と呼ばれる力を自分の為だけに振るい続けた。

 一人で生き、一人で死ぬ。それこそが唯一無二、竜姫の示す生き様だったのだろう。


 例外があるとすれば、たった一人、その側に置いた少年のみ。

 竜姫と一回りほど年齢の離れた、一人の何の変哲も無い少年。

 他人に興味を示さない竜姫が、異様とも思える執着を発揮した少年を当時、竜の逆鱗に例えて『逆鱗の少年』そう称した。

 口の悪い人間は、竜の愛人だと下品な揶揄をする者もいたが、一国の王子ですら袖にする竜姫が、時が立った今も尚、英雄として語り継がれているのは、逆鱗の少年が側にいたからに他ならない。


 そうで無ければ竜姫は、当の昔に人の世界を見捨てていただろう。

 人知を超えた力を持つ故に、深い孤独を抱えた竜姫にとって、何の力も持たない逆鱗の少年は、希望だったのかもしれない。

 逆鱗の少年の為に生き、戦い、そして死んでいった。

 最強と謳われた竜姫が、何故、死んだのか。理由は今も尚、不明とされている。

 謎と伝説の多い英雄竜姫の最後、その死の真相を知る者がいるとしれば、今は行方知れずとされている、逆鱗の少年ただ一人だろう。




 ★☆★☆★☆




 思い出すのは十五歳の頃。

 何時、何処で、どんな状況で交わした会話かは、はっきりと覚えていない。

 けれど、肌を撫でる乾いた風の感触と、目が痛くなるほど高く青い空の下かわした何気ない会話は、数年間過ごした竜姫との日々の中で、それはとても印象的なモノで、思い出せば当時の空気が、鼻の下を香るようだった。


「……アンタさぁ、わたしのこと好きなの?」


 何気ない質問を投げかけるよう、唐突に竜姫は言いだした。

 思春期を迎え、微妙な年頃だった為か、突然に確信を突いた質問にドギマギするばかりで、すぐに言葉を返すことが出来ない。


「えっ、あの……その」

「なに、口籠ってるのよ。馬鹿みたいに」

「馬鹿みたいって……急にそんな質問されたら、誰だって驚くさ」

「ふぅん」


 自分で話を振っておいて、竜姫は興味なさげに鼻を鳴らした。

 その態度が少しカチンと来て、言葉に僅かだが棘が含む。


「そもそも、何だってそんなこと聞くんだよ?」

「アンタと旅するようになって、もう四年になるわよね」

「ああ、うん。そう言えば、そうだね」


 少しだけ表情を曇らせながら、曖昧に返事をする。

 竜姫と出会う前のことは、あまり思い出したくないからだ。


「ハッキリ言って、わたしはアンタこと、ただの邪魔臭いガキとしか思ってないわ。食費は余分にかかる上、弱いから足手まとい以外の何物でも無い」

「それは、ゴメン」

「全く。何時になったら、強くなるのかしら」

「……ハルを基準に考えたらわた……俺、一生かけても弱いままだと思うけど」

「油断すると一人称が昔に戻るあたり、アンタの女々しさを表してるわね。あ~、やだやだ。こんなお子様に懐かれるなんて。いいことなんかありゃしない」

「……ゴメン」


 心底呆れた口調に、本気で落ち込み始めた。

 普通だったら慌ててフォローを入れる場面だが、竜姫にとって他人が落ち込んでいるかどうかなど、どうだって良い事柄だ。少なくとも、この頃は。


「全く。アンタを守るわたしの身にもなってよね? もしも、アンタが大魔王に攫われたら、助け出すのにどんだけ苦労すると思ってんのよ。大魔王よ、大魔王。きっと、すっごく強いんだから……会ったこと無いけど」

「……でも、助けてくれるんだよね」


 調子よく喋っていたところ、不意に漏れた言葉尻を捕まえて、ポツリと遠慮がちに突っ込むと、竜姫は数回、目をぱちくりさせた後、今更になって自分の発言に気がついたのか、カッと顔を真っ赤にした。


「ち、違ぁう!」


 竜姫は声を裏返らせて怒鳴ると、大袈裟に否定する。


「ななな、なぁに言ってるのよ!? 人の言葉を都合よく解釈しないで! 馬鹿じゃないの! ほんと、馬鹿じゃないの!」

「俺は、ハルのこと好きだよ」

「――ッ!? ……子供が、生意気なことサラッと言うなっつーの」

「ハルは?」

「……はぁ!?」

「ハルは?」

「……ぐぬぬ」


 悔しげな顔をして、竜姫が呟いた言葉を思い出すと、悲しみが枯れ果てた今でも目尻に薄らと涙が浮かぶ。


「嫌いじゃないわ……明日も、一緒に旅をしたいと思う程度には、ね」


 不機嫌そうに言った後、暫く竜姫は暫くむっつりと黙り込んだ。

 その言葉が嬉しくて、ニヤニヤしていたら、また竜姫に怒られた。


 ありし日の一ページ。これは、記憶の奥底に、セピア色となって眠っていた事柄で、実際にこのような会話があったのかは、正確では無いだろう。けれど、ゆっくりと薄れ、消えていく記憶の中で、まだ断片的な思い出は、鮮やかな色を持って心の一番痛い場所に焼き付いていた。

 十代の頃、ほぼ全ての時を共に過ごした日々は、もう帰らない。

 初恋は実らず、のちに巻き起こる戦火へと消えて逝った。

 竜姫がエクシュリオール帝国との戦いで死亡するのは、それから三年後のことだった。




 ★☆★☆★☆




 うたた寝からゆっくり瞼を開き目覚めると、最初に飛び込んで来たのは、間近に迫ったシリウスの顔だった。


「――どわっち!?」


 吐息を鼻先に感じで、驚いたアルトはバランスを崩してソファーから転げ落ちた。

 かけていた毛布に絡まり、腕が取られてしまったので、手を床に突くことも出来ず、べしゃりと顔面を床に激突させた。


「……痛ッッ」

「おはよう。アルト」


 ぶつけた鼻先を撫でながら顔を上げると、ニコリともせずシリウスが挨拶をする。

 今日は非番なのか、私服姿。それも依然とは違う、動き易い服装をしている。

 妙に眠りが深かったのか、逆に浅かったのか。眠気が完全に覚めず、意識に霧がかかったような状態だからか、アルトは鼻を打ちつけて痛みを感じつつも、すぐに何故か自宅にいるシリウスに反応を示せなかった。

 しょぼしょぼする目を擦り、眠そうな声で呟いた。


「んぐっ……驚かせるんじゃねぇよ、マリア」

 ぼんやりしている所為か、はたまた夢見が悪かったからか、欠伸をしながら、つい油断して彼女のミドルネームを呼んでしまう。

「……あ」


 ヤバイ。と口を噤んでみるがもう遅い。

 恐る恐る擦っていた手を止め見上げると、シリウスの瞳が大きく見開かれていた。

 表情こそ変わらないが、宝石のような瞳は若干潤んでいる。

 アルトは慌てて立ち上がり、両手を振り乱す。


「あーッと! 悪い! 今のは完全に油断していた。他意はねぇんだ、許してくれ!」

「……わかっているわ。寝起きの発言を真に受けるほど、残念ながら私は純情では無いの。ええ、ありませんとも」


 ソファーに乗り上げていた身体を起こし、シリウスは言葉とは裏腹、不機嫌そうに言う。

 シリウスのミドルネームであるマリアには、特別な意味があるわけでは無い。あまりメジャーな風習では無いが、地方の古い貴族ならば、未だにミドルネームをつける家系も少数ながら存在する。

 アーレン家にも、その風習が残っていただけの話だ。


 意味があるとしたら一つだけ。シリウスのミドルネームであるマリアを、家族以外で知っているのは、アルトただ一人ということ。勿論、偶然知ったのでは無く、シリウス自らが名乗り教えた。

 それを告げたことに、どんな意味があるかは、ご察し頂きたいところ。

 察しているからこそ、アルトは普段、マリアという名を呼ばないようにしているのだ。


「悪かったって……それよりお前、何だってここにいるんだ?」


 肩をボリボリと掻きながら、アルトはソファーに座り直す。

 遺跡調査を終え王都に戻ってから、かれこれ五日立つ。

 瘴気に犯された守護精霊を倒し、奥の部屋で謎の祭壇を確認した後、特に目ぼしい物も見つけることが出来なかったアルト達は、一旦、外へ出ることに決めた。

 そこでちょうど騎士団を呼んできた、カレン&ルチアと合流。騎士団の責任者との話し合いの元、より詳しい調査チームの編成を待つことにして、それまでは一度遺跡を封鎖しようという意見になった。

 その場にいる者に、そんな権限は無いので、ゲオルグ辺りの承認が必要だろうが、今頃は迅速に行動を起こして、遺跡はより厳重な警備態勢が整っているだろう。

 術式の誤作動とはいえ、危険な濃度の瘴気を溜めこんでいたのだ。当然の処置と言える。


 その後、キャンプ地で一泊して、帰りはゆっくりと歩いて、夕方には王都へ到着した。

 予定とは違ったが、レポートを書くには面白い資料が手に入ったと、三人はニコニコ顔だった。

 ただ、一つ変わったことがあるとすれば、アルトの様子がおかしいことくらいだ。

 今日、シリウスが来たのも。恐らくはその話をする為だろう。


「貴方のご機嫌がよろしくない原因は……遺跡の祭壇に刻まれていた、紋章の所為?」

「……ッ」


 アルトの表情が露骨に歪む。

 その姿を見て、シリウスは短く息を吐くと、アルトの隣りに腰を下す。

 並んで座る二人の間に、暫し無言の時が流れる。


「……何か、言いたいことがあるんじゃねぇのかよ?」


 珍しく気まずい空気に負けて、アルトがぶっきら棒に問うと、シリウスは「別に」と素っ気ない言葉を返した。


「私は七年前の戦争で、貴方とハル様の間に何が起きたかは知らないわ。天使をも打ち滅ぼしたハル様が死ぬなんて、今でも冗談にしか聞こえない」

「人は何時か死ぬ。どんなに強くたってな……ハルだって、例外じゃ無かったって話さ」

「達観しているような口ぶりは止めなさい。逆に女々しいわよ」


 厳しい口調で咎められ、アルトは不機嫌そうに舌打ちを鳴らした。


「別に誰かにムカついてるわけじゃねぇ……話を聞くことだって問題はねぇさ。だがな、目で見ちまうと思い出しちまうんだよ。追い越せなかった、追いつけなかった背中を、横から掻っ攫われた事実によ」


 自嘲気味に呟いた後、すぐに後悔するような表情を浮かべ頭を掻き毟る。

 やはり昔の夢を見た所為か、気分が滅入ってしまっているらしい。で、無ければ、こんな薄気味悪い台詞を普段のアルトが吐く筈が無い。


「ああ、もうッ!」


 吠えてから、両足を振り上げて勢いよく立ち上がる。

 睨み付けるような視線を向け、唐突な言葉をシリウスに告げる。


「飯、食いに行くぞ」

「急ね、全く」


 やれやれと腕を組みながら、シリウスは肩を竦めた。




 ★☆★☆★☆




 外に出ると既に日は高く上っており、太陽の位置から計算するに、既に昼時はとっくに回っているだろう。

 目を細めつつ得意げにそう言うと、シリウスに呆れたような顔をして、言葉も無くため息を付かれた。明け方まで飲んで、部屋に辿り着けずソファーで寝こけていたのだ。呆れられて当然だろう。

 食事をする場所といったら、何時もお馴染みのかざはな亭。

 昼時はとっくに終わっているので、今は準備中なのだが、そんなことお構いなしにアルトはスイングドアを開く。

 すると、店内は随分と賑やかな喧騒に満ちていた。


「ほらほら、プリシア。そこでフライパンの中身を引っくり返す!」

「ふえっ!? はっ、ほっ、そっ!」

「あ、崩れた」

「ちょ、ちょっとだけじゃないですかぁ!」


 厨房ではカトレア、プリシア、ロザリンの三人が並んで、わいわいと騒ぎながら料理の練習、らしきものをしていた。

 練習しているのは主にプリシアで、両手で持ったフライパンを火の上で振り回し、悪戦苦闘中だ。カトレアの指示の元、回転しながら宙を舞う、少し焦げた黄色の物体は、恐らくオムレツか何かだろう。

 どうやら、文武両道のプリシアも、料理は苦手の様子だ。


「なぁにやってんだか」


 サーベルを片手に、スケルトン達を薙ぎ払っていた勇敢な姿とのギャップに、アルトは思わず苦笑を漏らす。

 騒がしいのは厨房だけでは無い。

 テーブル席の方を見ると、カレンとルチアが教科書やノートを広げ、頭を抱えていた。


「くっそー! あれだけ苦労して結局、補習だなんて、世の中なんて理不尽なんだよぉ」

「仕方ないわ。結局、総団長閣下から秘密にするよう、言われてしまったモノだから、折角まとめた調査レポートもお蔵入り。一応、新しい遺跡を調査したことだけは評価されて、補習課題の提出だけで済むのだから、これで良かったと思うしか無いわね」

「はぁ。これが、骨折り損のくたびれ儲けってヤツかぁ」


 テーブルの上に頬杖をつき、カレンはドッと息を吐く。

 まだ戦争が終わって十年も立っていない時期に、王都の近くに帝国の紋章が刻まれた遺跡があるのは、国民感情的にも少しばかり都合が悪い。もし仮に、帝国に恨みを持つ人間が遺跡を打ち壊せば、また術式が暴走して大量の瘴気が溢れ出す可能性だってある。

 せめて、魔術式の解析が完全に終わるまで、騎士団としては遺跡の存在を公にしたくないのだろう。

 不運にもプリシア班は、その煽りを諸に受けてしまった形になる。

 大量に積み重ねられた課題を前にして、カレンは半眼で料理の練習をするプリシアに視線を向ける。


「出された課題量は同じなのに、なんでプリシアはもう終わってんのよ」

「凡人と天才の差でしょうね……はい、私もおしまい」

「はぁ!? アタシ、まだ半分しか終わってないんだけどッ!?」

「……カレンは、もう少し要領よく物事を進めることを、学んだ方がよいわね」


 ルチアは薄笑みを浮かべて、涙目のカレンを見返した。

 あっちはあっちで大変らしいと、アルトは再び視線を厨房の方へ戻す。

 どうやら、料理が完成したようだ。


「……ふむ」


 完成された焦げの多いオムレツを前にして、カトレアが小さく息をつく。

 その前で、落ち込み気味のプリシアがモジモジしていた。


「失敗ね」

「失敗だね」

「――酷いッ!?」


 料理の見た目を一言でバッサリ切り捨てられ、プリシアは涙目になる。

 真っ黒焦げとまではいかないが、明らかに黄色い部分より、焦げて黒くなった部分の方が多い。おまけに、一度崩れたのを無理やり形にしたモノだから、歪に丸められ、焦げは内部にまで進入しているだろう。


「食べられなことは無いと思うけど、人様に出すには問題が多すぎよね」

「あ、愛情ならたっぷり入ってます!」


 失敗を認めたくないプリシアは、そう言って食い下がるが、カトレアにギロッと睨まれて押し黙ってしまう。

 カトレアは指を差し、厳しい口調で咎める。


「愛情って言葉を軽々しく料理に使わない! 料理は愛情って言葉はね、愛が籠ってればどんな料理も美味しくなるって意味じゃないの。愛情を持って丁寧に、正確に、完璧に、食べる人の身になって調理することを言うの。失敗した料理、適当に作った料理に愛情なんてありません」

「……はい」


 落ち込み、肩を落とすプリシアに、カトレアは優しい笑みを向ける。


「要するに、好きな人のことを考えて、美味しいって言って貰うよう、頑張りましょって意味。ほらほら、料理の道は険しのよ? 次はロザリンの番なんだからね」

「「はい!」」


 恋する乙女二人は、元気よく返事をした。

 その光景を見て、黙って見ていたシリウスがクスッと笑みを零す。


「……愛されてるわね」

「あんなもん、麻疹みたいなモンさ。時が立てば自然と思い出に変わっちまうような、青春の淡い一ページだ」


 軽く茶化すと、シリウスは大きく呆れたような息を吐きだした。

 向けられている視線は、怒っているように感じられる。


「その麻疹は、何時治るのかしらね。私も、貴方も」

「何だよ。随分と突っかかるじゃねぇか。その言い方だと、いい年こいて初恋を引き摺っている女々しい野郎みてぇじゃねぇか」

「寝言でハル様の名前を呼んでいたわよ」

「……グッ」


 痛い一言に、アルトは二の句が告げなくなってしまう。

 と、言うか、そんな恥ずかしい寝言を呟いていたのかと思うと、今すぐに家へ帰って自室に引き籠りたい気分になった。


「――あーッ、もう! うるさいッ! 飯だ飯! 飯食って全部忘れる! そんでもって明日からまた一ヶ月ぐらいはダラダラ生活する! 決定!」


 そう叫んで、アルトは大股開きでかざはな亭へと入っていく。

 妙なスイッチを入れてしまったことに、シリウスは嘆息しながらその後に続いた。

 アルトのぐ~だら宣言も空しく、この数日後、彼らは大きな陰謀に巻き込まれる羽目になる。

 その予兆は、彼らが遺跡を見つけた時には既に、見え始めていたのかもしれない。




 そして舞台は一時、北のラス共和国へと移り変わる。






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