第35話 金貨繚乱
いよいよ、オークションの開催日を迎える。
開催前に主催者側からの挨拶、レセプション等を経て、本番の開場は夕方から。
オークション会場となる建物前の広場には、次々と高級馬車が止まり、艶やかなドレスに身を包んだ貴婦人、皺ひとつない礼服を着こなした紳士達が、お付きのメイド、執事に導かれ会場入りをする。
赤く、夕焼けに染まるオークション会場。
その入口で、主催者としてミューレリアと婚約者のボルドが、各国から足を運んできた一人一人と挨拶を交わし、会場へと招き入れている。
そして、一人のドレス姿をした女性が、腕を組んだ男性にエスコートされ、ミューレリアの前に立ち、軽く一礼した。
ミューレリアは温和な笑顔を浮かべたまま、その挨拶に答えるよう、優雅に返礼をする。
シックなドレスに身を包んだラサラと、白いタキシード姿のアルトだ。
そして後に続くように、メイド姿のロザリンとカトレアが歩く。
若干、ロザリンの表情には不機嫌さが滲んでいた。こういう場には男女ペアが基本とはいえ、ラサラがべったりとくっ付いているのが、不満なんだろう。
ラサラは普段、見せたことも無いような笑顔を、ミューレリアに向ける。
「今宵は、楽しませて頂きますよ……たっぷりとね」
「……ええ。ゆっくりと、ご堪能くださいませ」
流し目を送り、四人はゆっくりとミューレリアの前を横切って行く。
すれ違いざま、ギリッと歯を噛み締める音が聞こえたのは、気の所為では無いだろう。
アルトは視線で、さり気なくボルドを捉える。
彼は何事も無かったかのように、紳士的な笑顔を絶やさず、列席者に対して淀みない対応をしていた。
特に怪しげな気配は、感じ取れなかった。
数日前まではラサラの職場だった場所は、今は敵地へと変わっている。
関係者らしき人間からは、敵意の籠った視線。
恐らく、ラサラが商業ギルドから除名された話を、歪んだ形で聞いた、ミューレリアやボルドと友好関係にある人々だろう。聞こえるよう、陰口を叩く人間も見受けられる。
以前、アルトがボルドと対立した時に受けた、あの状況に似ている。
胸糞悪いが、中にはラサラに対して、心配げな表情を向けるスタッフもいた。
全員の顔はわからないが、ラサラの指示の元、働いていた人々なのだろう。
まだ、オークションの時間までは早く、列席者達は一階のホールで行われている、立食式のパーティーを堪能したり、他のフロアで行われている、カジノを楽しんだりしているのだろう。
普段だったら、食べ物を見た瞬間、涎を垂らすロザリンも、周囲の敵意に満ちた視線と緊張からか、食いつく様子は無く硬い表情をしている。
あまり、周囲の視線に晒されているのも、精神状態に悪いので、場所を移動する。
その際に、アルトは小声でロザリンに問いかけた。
「……ロザリン。気配は?」
「……無い。少なくとも、この建物に、偽ハウンドはいない」
目を瞑り、暫く意識を集中させたロザリンが、そう答える。
偽ハウンド達には何故か、普通とは違う魔力の反応があるらしい。
なので、どのタイミングで連中が現れても対処出来るように、魔力の流れを読めるロザリンの活躍が重要になってくる。
シーさんことシリウスは、変装しているとはいえ立場上、人目の多い場所に姿を晒すわけにもいかない。彼女には後詰や遊撃として、外で待機して貰っている。
彼女の脚力ならば、異変が起きてもすぐに駆けつけ、単独で対処してくれるだろう。
シエロは結局、あれ以来姿を見せることは無かった。
それは恐らく、総団長の許可が下りなかったのでは無く、秘密裏にこの一件に関して探れと、指示が出たのだろう。シーさんはそう予測して、話してくれた。
彼もまた、姿を隠して何処からか、このオークションの様子を見ている筈だ。
流石に緊張しているのか、何時も強気のラサラの表情が強張っている。
それを横目で見て、何かを思いついたアルトは、ワザとらしく素知らぬ顔をすると、無防備な脇腹をツンと、人差し指で突っついてみる。
「――ひゃん!?」
不意打ちに、ラサラは飛び跳ねて驚く。
そしてすぐさま、キッとアルトを睨み付けるけれど、当の本人は悪びれた様子も無く、ニヤニヤと笑っていた。
「おお。ナイスリアクション」
「ぐぬぬ。こんな時にセクハラ行為を働くなんて、なんて性欲旺盛な駄犬なんでしょうか。ご主人様に発情するなんて、身分を弁えて頂けますか?」
「うわぁ、アルト最低、スケベ」
「さいてー」
女子連中が、こぞって白い目を向けアルトを非難する。
しかし、アルトはそんな女子達の反応を、鼻で一笑した。
「ああ、悪い悪い。触った感じは面白く無かったわ、こりゃ触り損だな」
「お前殺すぞ」
額に青筋を浮かべ、初めて敬語以外の口調を、ラサラが発する。
ドスの利いた声色は、本当に同一人物かと疑いたくなるほど、恐ろしかった。
その反応を見て、アルトはシシッと笑った。
「そんな怖い顔すんなよ。緊張は、解れただろ?」
そう言って、アルトは片目を瞑る。
確かに、緊張感は薄れたので、ラサラは不満げにしながらも、言葉を飲み込むが、アルトが取った行動に対して、カトレアは白い眼を向けたままだ。
「……アンタ、それ言えば、セクハラ行為が許されるわけじゃないからね?」
最もなご意見に、アルトはすみませんと頭を下げた。
などと阿呆なことをやっている内に、緊張しているのが馬鹿らしくなってきたのか、ラサラは大きく息を吐くと、肩の力を抜いて三人を見回した。
「ま、今更、オドオドしても仕方が無いですね。賽は投げられました。後は、徹底的に叩くのみです」
ラサラの言葉に、三人は頷く。
まだ、出会って数日しか立っていないアルト達を目の前にして、ラサラは不思議な安心感に包まれていた。
商売人である自分が、金銭的損得が無い相手に対して、信頼を預けてしまうとは、全くヤキが回ったモノだ。
でも悪い気分では無い。
こんな気分を味わえるなら、これから払う対価も、それほど高い物では無いだろう。
この世に金で買えないモノは無い。買えないモノがあるなら、それは金を払う価値が無いモノだ。
それがラサラの持論であり、今も昔も、これからも変わることも、変えるつもりも無い。
この一件が片付いた時、言うべき言葉は一つだ。
良い買い物をした、と。
気分を切り替えるよう、ラサラはパン、と胸の前で手を叩く。
「では、時間まで腹拵えでもしましょうか。今日は長くなりますからね」
諸手を上げて、料理が乗せてあるテーブルに突貫しようとするロザリンを制しつつ、四人は暫し、敵地で腹を満たした。
★☆★☆★☆
オークション会場内にある、責任者用に用意された部屋。
ソファーに腰を下したミューレリアは、両目を閉じたまま顔を天井に向け、全身を脱力させたように、ダラリと手足を投げ出した恰好をしていた。
その姿に、普段の絵に書いたような令嬢の姿は無く、糸の切れた人形のように思える。
浅く繰り返す呼吸は短く、苦しげにも聞こえた。
「……ラサラ。……ラサラ」
掠れる声で、何度も同じ名前を呟いた。
その声は何処か悲しげで、痛ましい響きに満ちている。
そっと、ソファーの後ろに誰かが立った。
ボルド・クロフォードだ。
背後からミューレリアを抱き締めて、耳元でそっと呟く。
「ミューレリア。愛しい君。さぁ、最後の仕上げだよ。君の思うまま、望むまま、全てを手に入れるんだ。地位も、名誉も、愛も、君が欲しかった物を全て。恐れる必要は無い、君にを邪魔するモノ達は、君の持つ毒が、全てを消し去ってくれるから」
蠱惑的な魅力の潜む囁きは、疲れ切ったミューレリアの心を癒す。
この癒しは、堕落。だが、心地よさ故に、本人は気がつかない。
ミューレリアはゆっくりと両目を開くと、後ろから抱かれた腕を解きながら、ソファーから立ち上がった。
振り向き、見せる微笑みは、普段通りのミューレリアだった。
「さぁ、行きましょう、ボルド様。あの娘が待っています」
「ミューレリア。もう、止めるんだ。彼女をこれ以上、追い詰めないであげてくれ」
頬を撫でるボルドは、愁いを帯びた表情で言う。
まぁ、と驚いた顔で、頬を撫でる手を取った。
「お優しいボルド様。でも、駄目ですわ。その優しさは、人を誤解させてしまいます。わたくし、とてもとても心配ですわ」
「そ、そんなことは……」
戸惑い、視線を逸らすボルドに、寂しげな笑顔を送る。
「心配なさらないで、ボルド様。貴方様はわたくしのモノ。わたくしも、貴方様だけのモノ。だから、全てに決着をつけなければなりません。わたくしから全てを奪おうとする、あの女をッ」
「――ミューレリア!」
「――ッ!?」
ボルドの張り上げた声に、ミューレリアは驚いた身体を震わせると、歪み始めた笑みを引込めた。
何が起こったのかわからない様子で、唖然としながらボルドから離れると、作り笑顔を張り付けて背を向ける。
「……時間ですわ。わたくしは、会場へと向かいます」
「……ああ。行ってらっしゃい、ミューレリア」
送り出す言葉に頷いて、ミューレリアは部屋から出て行った。
締まるドアを心配げな表情で見送るボルド。
自分の無力さに打ちひしがれるよう、下を向いて拳を硬く握りしめる。
そして、肩を震わせて、堪えていた笑い声を貰いした。
含み笑いを漏らして見上げた顔は、ドアの向こうに消えて行ったミューレリアに対しての、嘲りに満ちていた。
「人の心とは、簡単なモノだな。友情も愛情も、少し横から突いただけで、簡単に崩れてしまう。ミューレリア・アルバもラサラ・ハーウェイも、滑稽だね」
楽しげに頬を歪めて、ソファーに座ると肘を置き、足を組んだ。
「ゲームの醍醐味は予想外の展開だ。精々、俺を飽きさせない働きを期待しているよ。野良犬君。父が認めたというその実力、見せてくれたまえ」
そう嘲笑して、ボルド・クロフォードは、悪意に満ちた表情を浮かべた。
★☆★☆★☆
オークション開始まで、あと数分に迫っていた。
会場は既に満員御礼。
スタッフも直前まで慌ただしく動いていたが、全ての準備は整ったらしく、今は落ち着いた様子を見せていた。
そんな中、アルトとラサラは最前列のど真ん中に陣取っている。
流石にメイド二人を会場に連れ込むわけにはいかないので、二人は外で待機中。異変を感じれば、すぐにでも飛び込んでくるだろう。
会場にいるのは、豪華な衣装に身を包んだ、上流階級の人間ばかり。
彼らは手に持った今日のプログラムを眺め、ああだこうだと会話に華を咲かせている。
熱気が最大限に満ちた瞬間、タイミングよく壇上に司会らしき、髭の男が現れた。
喧騒が徐々に治まり、巻き起こる拍手に司会の男は一礼した。
「皆さま。大変、長らくお待たせいたしました。これより、エンフィール王国商業ギルド主催の、オークション大会を始めさせて頂きます」
言い終わると同時に、盛大な拍手が巻き起こる。
「では、開催に先立ちまして、オークションの最高責任者であるアルバ商会代表の、ミューレリア・アルバ嬢からのご挨拶があります」
言いながら司会が壇上の隅に寄ると、入れ替わりにミューレリアが、盛大な拍手で迎えられ、柔和な笑顔を振り撒きながら姿を現した。
スカートを掴み、まずは優雅に一礼する。
「皆様方。まずは、お忙しい中お集まり頂けたことを、心よりお礼を申し上げます」
そう言って、もう一度頭を下げると、再び拍手が巻き起こる。
「既にご存知の方もいらっしゃるでしょうが、オークション開催にあたりまして、様々な事件、不幸な事故が起こりました。一時は開催も危ぶまれましたが、わたくしの友人が我が身を犠牲にし、全ての責任を負ったことで、何とか開催まで漕ぎつけました」
白々しく、ミューレリアは目尻に浮かんだ涙を、ハンカチで拭う。
「わたくしは第一に、友人に感謝を捧げたいと思います」
そう言ってミューレリアは、真っ直ぐと、前列正面に座るラサラを見据え、僅かに頬を歪めた。
ラサラは無言のまま、腕を組んで彼女の言葉に耳を傾ける。
事情を知らない他の参加者達は、ミューレリアの都合の良い言葉に感動した様子で、熱の籠った視線を向けている。
「今回のオークションは、例年より素晴らしい骨董、美術品の数々が集まっております。目の肥えた方々も、きっと満足頂けるでしょう。では、最高責任者であるわたくし、ミューレリア・アルバの皆様方への挨拶を持って、オークション開催を宣言したいと思います」
最後に、もう一礼すると、会場は割れんばかりの拍手で包まれた。
アルトとラサラも、義理として手を叩く。
壇上で笑顔を振り撒くミューレリアへ向ける視線は、とても厳しい。
拍手に送られて、ミューレリアが壇上から降りるのを確認し、アルトは拍手をしながら、ラサラの耳元に顔を近づける。
「おい。んで、これからどうするんだ? 炎神の焔が出てくるまで、黙って見とくのか?」
「まさか」
正面を見据えながら、ラサラは否定する。
そして、アルトの方を向くと、意味深に笑った。
「言ったでしょう? 商業ギルドにも、ケジメをつけさせるって」
口元は笑っているが、目は完全に笑っていなかった。
今回の件、詳しい内容は教えられていないのだが、ラサラの様子を見る限り、とても穏便に済むような内容では無さそうだ。
「さよか。んじゃ、お手並み拝見と行きましょう」
ラサラの性格の悪さを信頼して頷くと、アルトは視線を正面に戻した。
壇上では丁度、司会が元の位置に戻り、最初の出品物である大きなツボが、台車に乗せて運ばれてきた。
「まずは、最初の一品をご紹介します。ナンバーその一。今から三百年前に作られた、第一次戦乱時代のツボです」
ツボはヒスイ色で、宝石のような表面が美しい。
品自体はそう、珍しい物では無いが、あの大きさは珍品と言えるだろう。
と、始まる前に、ラサラが解説してくれた。
「ではまずは最初ですので、金貨十枚から参りましょう」
そう言って、司会者はハンマーを叩く。
すると、一斉に参加者達が手を上げ、口々に値段を釣り上げていく。
二十、二十三、二十五。
値が上がるごとに、減って行く参加者達の中、ラサラが悠々とした態度で手を上げる。
「五十」
会場がどよめく。
それもその筈。事前情報では、あのツボの相場は三十前後だ。
競り合いが過熱して値が釣りあがったのならともかく、いきなり倍の値段をつけたのだから、驚くのも無理は無いだろう。
司会者も唖然とするが、他に手を上げる者がいないのを確認すると、ハンマーを叩いた。
「ご、五十! 五十で落札です!」
戸惑いながらの言葉に、周囲から拍手が巻き起こる。
だが、ラサラの表情は、満足げとは対照的だ。
不敵な笑みを浮かべ、壇上を睨み付けている。
相場を無視したラサラの行動は、どうやら会場内では景気づけだと判断したらしく、賞賛の拍手を送ると、参加者達も俄然、やる気を帯びて行く。
仕切り直して、壇上に次の商品が運ばれてくる。
今度は古ぼけた油絵の人物画だ。
「さぁ、続いての一品は、天才画家ローラン・ポロン氏の名作『鏡を見る夫人』です」
会場から「おおっ!」と声が響く。
「ローラン・ポロン画伯は生涯で数点しか絵を残さず、その多くは美術館に寄贈されています。今回ご紹介するのは、個人が所有していた一品で、希少価値は高いでしょう」
薄暗い油絵に、評論家気取りの参加者は、口々に評価をするが、アルトにはさっぱりその良さがわからなかった。
「では、こちらは金貨二十からです」
瞬間、方々で手が上がる。
が、それをラサラは一言で黙らせた。
「六十」
その言葉に、シーンと会場が静まり返す。
一度ならず二度まで。
会場内に不穏な空気が流れ、VIP席に座っているミューレリアの表情が、一瞬だけだが険しくなる。
「ほ、他にありませんか? ……では、六十で落札です」
引き攣りながらも、笑顔を崩さず司会者はそう言ってハンマーを叩く。
再び拍手が沸き起こるが、今度は僅かに戸惑いが混じっている。
この時点ではまだ、目立ちたかりの若い金持ちが、調子に乗って無茶をしている程度の認識しか、周囲の参加者達は抱いていなかっただろう。
しかし、オークションが進むにつれ、あれほど熱気を帯びていた会場が冷え込み、静寂が広がって行く。
遺跡から出土した石版も。
「三十五」
世界的なベストセラーとなった、詩集のオリジナルも。
「四十七」
名人が作り上げた楽器の名品も。
「七十三」
果ては、何故こんな物がと疑われる、謎の生物の化石まで。
「二十」
次々とラサラは即決で競り落としていく。
全てが相場の倍の値段だ。
この頃になれば、会場にいる誰もが理解し始めていた。
これは嫌がらせ以外の何物でもない。
ムキになって参加者が値を釣り上げても、ラサラは軽々とその倍の値段をつけて黙らせてしまう。
後半になる頃には、最早、手を上げるのはラサラ一人しか、存在しなかった。
故に本当なら数時間かけて、司会者のトークや落札者へのインタビューを交えながら、進めて行く筈のオークションも、たった一時間弱でもう残り数品という、ハイペースで進んでしまった。
会場は静まり返り、雰囲気はすこぶる悪い。
これがただの即売上なら、倍の値段を払っているぶん、主催者側には歓迎されるだろう。
しかし、これはオークション。値段の釣り上げや競り合いなどを楽しむ、娯楽なのだ。
その上、商業ギルドにとっては、他国の有力者とのコネを作る大切な場でもある。
これでは何もかもぶち壊しだと、商業ギルドの関係者らしき人物達は、青い顔をして頭を抱えていた。
此方は、正攻法の手段で競り落としている。
文句があったところで、強制退場させるわけにはいかないだろう。
ピリピリとした空気の中、腕組みをしながら様子を眺めていたアルトは、顔面蒼白で壇上に立つ司会者を、哀れと思いつつ、横に座るラサラに話かけた。
「お前、鬼だな」
「ええ。鬼ですよ。復讐鬼です。でも、仕方が無いじゃないですか。悪いのは、寝ている鬼を叩き起こした、ミューレリアと、それにまんまと利用された商業ギルドです」
シレッとした表情で、責任を全て押し付けた。
「商業ギルドに関しちゃ、完全に巻き添えだけどな」
「いえいえ、自業自得ですよ」
否定して、ラサラは邪悪に笑う。
「この、全てにおいてパーフェクトなボクを切り捨て、まんまとミューレリアのような頭の緩いお嬢様に利用されたお馬鹿さん集団なんて、存在していてもボクの、いえ、王国の為になりません。ちょうど、増長が激しかった頃ですし、ここらでキュッと誰かに締められておいた方がいいんです」
そう言いながら、手を上げてまた一つ、商品を落札する。
更に会場の雰囲気は冷え込んだ。
「そんなモンかねぇ」
視線をVIP席に向けると、慌てふためく関係者の中で、ミューレリアは笑顔を消し、ただ無表情でオークションの成り行きを見守っていた。
その姿に、本能に薄ら寒い予感が走る。
ラサラの彼女の異変に気がついたのか、唇を結んで表情を引き締めた。
「さぁ、ここからが目玉商品が並ぶ大詰めです……ミューレリアを、表舞台に引っ張りだしますよ?」
「ああ。その後のは、俺の仕事だな」
ラサラは頷き、壇上を見据える。
「さぁ、アゲていきますよ!」




