どーしてこーなるんだろう
練習作品です。気軽にお楽しみください。
なお、理解しているとは存じますが、この作品はフィクションです。実際の個人名・団体名とは一切関係がありません。もし、同姓同名の方が居たらすみません。
日が沈み、都心とは違って街灯が少ないため、闇が支配する静岡の郊外。その暗闇に包まれる街中に”僕”はいた。
そんな”僕”の足元には血だまりがある。その血だまりの中央には、”僕”が先ほど倒した異形の生命体の死体が転がっていた。”僕”は異形の生命体の死体を一瞥すると、右手に持っている得物を掲げる。
するとその杖から周りの夜の闇よりも深い闇が現れ、その死体を呑みこんだ。闇が消えると、先ほどまで転がっていた異形の生命体の死体も、広がっていた血だまりも綺麗に消え果てる。
死体が完全に消えたことを確認した”僕”は息を吐き出すと、今の自分の服装を見る。
今の”僕”は”魔法『少女』”のような外装に身を包み、手にはこれまたアニメに出てくるような”魔法『少女』”が持っている、宝玉が付いている杖を持って、背中には『今』は1対の蝙蝠のような翼をはためかせて闇の中に佇んでいた。
…………これだけしか話さなければ、僕は女装趣味のただの変態ですね。それに加えてただの殺人鬼、いや殺生命鬼かな。
でも大丈夫です。”僕”は今は女ですから。
――――――え? どういうことかって? う~ん……どう説明したらいいかな。とりあえず原因は今から1週間ほど前の日曜日のことでした。
その日曜日の午後、いきなり目の前に現れた美少女は、誰もが見とれるであろう屈託のない笑顔を浮かべると、”僕”に向かって、同じくいきなりこう告げた。
「私はお前たちが言う、神みたいなものなんだが、そこのあんた。ちょっと”魔法『少女』”をやらないか?」
「無理です」
その美少女の見た目に反して、粗暴な口調で言われた言葉に、僕は反射的にそう答えました。
すみません。僕には無理です。
――――――そう、”僕”には。
えっと、僕の名前は如月 彼方。今年で17歳になる英雄学園高等学校(確実に名前負けしている高校名だと思うよ?)の2年生。とはいっても、なってから1月しか経っていないけど。それに17になるといっても僕の誕生日は10月だから、5月の今からはまだ先だね。
もう1度いうけど”僕”だからね? 生粋の男だよ。
…………確かに童顔・女顔で女に見られることもあるけど。しかもクラスメイトは勿論のこと、幼馴染からもね。
…………鬱だなぁ。
髪を切るのがめんどくさい・お金の無駄遣いという庶民的な考えから、お母さんから遺伝した黒髪を肩まで伸ばして、手入れをするのもめんどくさくて伸ばした睫毛。なかなか伸びずに158センチで止まった身長。
それらに加えて何故か生えてこない口髭とか脇毛。中途半端に敬語の混ざった口調の所為かなぁ?
学校の中では「生まれてくる性別を間違えたやつ」なんて不名誉極まりない呼び方までされている……らしい。らしいと言ったのは、その情報は幼馴染から聞いた話で、僕は直接は聞いていないからなんだけどさ。
…………酷いと思わない?
まぁ、流石にプールとかで女子更衣室に連れて行かれそうになったことは無いけどね。
――――――体育の担当の先生が常識人で本当によかった…………!
そんなコンプレックス持ちの僕は、5月もあと1週間ほどで終わろうかという、ある晴れた日曜日の午後。「もう週末も終わりかぁ」と考えながら、やるのを忘れていた、月曜日に提出のはずだった(と思う)英語の宿題をしていた。
自室で持ちたくもない英語のテキストを手に、「英語なんて無くなればいいのに」とか、「あの時、イギリスが負けていたら」なんて、今更どうにもならない様な事をぼやきつつ、机に向かっていた時のことだったかな?
やっと英語の宿題が終わって、僕は向かっていた机から顔を上げて、座っている回転椅子に乗ったまま、回転椅子の向きを机の反対側にした時、それが目に入った。
僕の後ろ。つまり僕の部屋の真ん中あたり。
いつの間にか、そこには見たこともない様な綺麗な銀髪を持った美少女が立っていて、僕の方に微笑んでいた。
僕より少し大きい、165くらいの背で、腰まで流れるような銀髪。整った顔つきとスレンダーな身体つき(これならモデルにもなれるんじゃないかな?)。そして微笑みを湛えた赤くて柔らかそうな唇。
さらに、珍しい虹彩異色症で右目は赤、左目は緑のオッドアイと呼ばれる瞳。下に目を向けると、大体僕の好みであるB~Cくらいで、大きくは無いけど柔らかそうな2つの物体。
…………質素な服を着ているけど、綺麗な人だなぁ。見た目も大きさも大体僕の好みの人だし。何所がとは言わないけど。
でもこの人どうやって入ってきたのかな? 音もしなかったし、窓が開いているわけでもない。まぁ、開いていたとしても、僕の部屋は2階だから入ってはこれないだろうけど。
僕の親戚にも美少女はいなかったよね? …………まさかの不法侵入?
そんな美少女を疑いつつも、つい見惚れてしまった僕に対して、その美少女の微笑みを湛えた口から、いきなりあの発言が飛び出たというわけ。
そして僕が即答して今の状況になった、というわけだ。
閑話休題
その美少女が放った発言の中の、”魔法『少女』”という単語はまず置いておいて、それよりも引っかかる単語があった。
――――――『神』。
何というか言葉にすると凄く陳腐だけど、僕は初めて神という意味を調べた時、神様は『雲』みたいだなぁと思いました。
別に雲の上にいる存在だとか、居るはずもない存在だと思ったわけじゃないよ?
ほら、みんなも小学校だとか中学校で習ったでしょう? 雲は空中にある塵やゴミが核となってそこに水蒸気が集まって出来るってさ。
つまり、神は、世界中の願望を核として、そこに信仰が集まって出来ている。
そう思わない? 思わないって? あっ、そうだよね。考え方も人それぞれだしね。
ちなみに僕は神様は嫌いです。
神を信じれば苦労は報われるっていうけど、僕は無駄に苦労ばっか背負ってるもの。だから僕は小学校4年生くらいで神を信じるのをやめました。どうでも良い? ですよねー。
ともかく、もし神様が居たとしたら訴えてやると考えていた時にこの来訪だ。
でもさ、今明らかにおかしなことを言っていたよね? この人、いや神か。
「えっと…………僕は男なんですけど…………?」
突っ込みたいところはたくさんあるけど、まずは言っておかなければならない。僕は男です。
「知ってるよ。如月彼方君」
僕の言葉に、その美少女は微笑みを湛えてそう返してきた。
――――――僕が男であると知っている? じゃあ何で”魔法『少女』”なのさ?
「疑問に思うのも仕方がないと思うが、それはあんたが最適だったからさ」
「…………何でわかるのさ?」
頭の中で考えていたことを読まれたよ。もう認めるしかないのかな。この人が神だって。
「そういわれても私は神だからとしか言えないがな」
まぁ、ここまでされたら信じるよ。これからは美少女と呼ぼう。
僕は見たもの、感じたものを現実としてみるタイプの現実主義だからね。僕のクラスにいる、自分が知っている現実しか認めない理論現実主義のクラス委員長とは違うタイプだと自負しているから。
「じゃあ早速いくぞ」
「はい?」
少し自分についての考察していると、美少女が僕に向かって手をかざした。
ちょっと!? 僕はまだ、あなたが神であることを認めただけで、魔法なんちゃらをまだやるとは言ってな…………っ!?
――――――そんな僕の思惑とは裏腹に、僕の意識は薄れていった。
「――――――はっ!」
意識の覚醒した僕はベットから跳ね起きた。外を見ると、窓の外に見える空はまだ暗い。目覚まし用の時計を見ると、深夜2時を指していた。
何故か寝汗が凄い。それに何か嫌な夢を見ていた気がする。
いきなり僕の部屋に美少女が立っていて、いきなり”魔法『少女』”にならないか?」なんて言われる夢を見るなんて…………。
自分でも気づかぬうちに外見について、過剰に気にしていたのかもしれません。
何かすごくリアルでしたし。何より人間が睡眠時に見る夢というのは、あくまで記憶の整理のために脳が見せるものであって、大抵よく覚えていないことが多いのに、今回の夢ははっきりと覚えています。何かの予兆か何かでしょうか? だったら嫌ですけど。
…………とりあえず起きますか。
そう思って僕がベットから起きようとしたときだった――――――。
「うう~ん……おっ! おきたか~?」
――――――ナニカキコエタ。シカモトナリカラ。
「どうした? まるで幽霊でも見たような面して」
僕が現実逃避を諦めて、しぶしぶ、声が聞こえてきた自分の寝ていた隣を見ると、夢に出てきた自称神様である銀髪美少女が横で寝ていた。そして、その美少女は僕が起きたのを確認すると、嬉しそうな顔をしていたが、まだ眠たいのか目を擦っていた。
…………出来れば夢であってほしかった。それと流石に服は着ていたけど。もちろん僕もね。と、言いますか、人の布団で勝手に寝ないでください。
――――――自分の服装を確認した時、思わず僕は固まった。僕の着ている服がやけに大きくて、なおかつだぼだぼなのだ。
…………おかしい。いくら僕は小柄であったといっても、今着ている服がだぼだぼなのはあり得ない。何故ならあの時、ちゃんと僕にぴったりの物を買ってきたはずだ。サイズが無くて町中の服屋を回ってまで買った記憶があるから、まず間違いないはず。
ならなんで?
そう思った僕は、ベットの上で横になりながら、こちらを見てにこにこ笑っている美少女を無視して、自分の体に手を這わせる。
手が僕の胸のあたりまで来たときに、僕はある違和感を感じて手が止まった。
――――――胸にかすかだが、柔らかい感触がある。それと同時に、もともと小さかった背も縮んでいるらしい。
…………嫌な予感しかしないのは僕だけなのだろうか。
そう思って僕が美少女の方を見ると、やはりニコニコ、いやニヤニヤしている。
――――――まるで赤子を愛でるかのように。
うん。理解しました。でもとりあえず聞いておこうかな。
「えっと…………これは一体?」
「それはな――――――」
僕の声は元々高かったけど、さらに無駄に高くなった声に眉を顰めながらそう聞いてみる。僕のその問いに、何故か美少女は勿体づけるようなかぶりを振ると、満面の笑顔でこう言い放った。
「これで君も”魔法『少女』”だ! 戦え! 彼方ちゃん!」
「はい?」
理解したと思っていた僕は首を傾げた。この人、いや神様(自称)は何を言っているの? 寝ぼけているんですかね? いや、寝ぼけているのは僕なのかな? まずい。訳が分からなくなってきた。
「とりあえず鏡でも見てきたらどうだい? 目が覚めると思うよ」
混乱してきた僕に、そう言って美少女(いい加減名前を教えてほしい。めんどくさい)が部屋の隅に置いてある姿見を指差す。
え? なんで男の僕が姿見なんて置いているのか、ですか?
幼馴染が何を思ったか、僕の誕生日に何故か業者を連れて来たかと思ったら、姿見を置いて行ったんですよ。
僕には必要ないとは思いましたけど、お母さんがその姿見を見た時、鏡の前で固まったかと思うと、僕の肩を掴んで「大事に使いなさい。絶対に」とすごい剣幕で言われました。どうやら僕ら庶民には手が出せない様な代物だったようです。まぁ、鏡は普通に高いと思うけど。
それはさて置き、とりあえず美少女に言われたように、すっかり大きくなった服の裾を引きずりながら姿見の前に立つ。するとそこには僕の見たことのない美少女が映っており、こちらを見つめて立っていた。
…………誰です? 美少女。いや、幼女かな? とりあえず僕が長袖のポロシャツの裾で隠れている右手を挙げてみると、その少女も裾で隠れている右手を挙げた。
うん。これが今の僕らしい。そう納得することにする。
現実逃避をやめて自分でも驚くくらい冷静になった僕は、姿見に映っている今の僕を改めて見る。
まず第一印象としてはものすごく小さい。135あるかどうかといった身長で、着ている黒いポロシャツの襟が、その小さな肩からずり落ちているため、右肩が丸見えになっている。僕の穿いていたズボンはすでに脱げていて、そのためか下半身がスースーする。
幸いなことに、僕が着ていたポロシャツのサイズが160だったので、ポロシャツがワンピース(シャツの裾が地面についているから、どちらかというとドレス?)のようになっているから身体は完全に隠れていて見えてはいない。
そのだぼだぼの黒のポロシャツを若干押し上げているかな? といった感じの胸は、あっても大体Bくらい? だろうか。
よく分からないけど、この身長くらいの女の子にしては大きい方なのかな?
その次に目立つのが、腰まで流れる癖のない金髪。僕の通っている英雄高校では自前の金髪を持っている人から、明らかに染めている人までいたが、その中でも僕が今まで見た中で最も綺麗なんじゃないかと思うくらいの金髪だった。
次に顔を見る。
透き通るかのように白くて、マシュマロのようにふにふにと柔らかく、若干朱に染まった頬。小さくてかわいらしい、赤くて柔らかそうな唇。そして、僕とは思えないほど無垢で純粋そうにこちらを眺めている真っ赤な瞳。
…………なんとなく幼馴染が好きそうな容姿ですね。
僕の幼馴染は小さな女の子しか愛せない(えっと、確かろりーたこんぷれっくす? だっけ。本人は否定していたけど)という変態、もとい変人なんですよねぇ。
端から見たら文武平等・容姿端麗で打ちどころがない様な人なのに、僕から見たら打ちどころありまくりの人ですからね。
なんというか、その残念な美人? まぁ、僕には理解されるからという意味でだらけているのならうれしいですけど。
閑話休題
うん。現状は完全に理解しました。あくまでも現状だけですけど。だから未だ僕に愛でるかのような目線を送ってきている美少女に聞いてみるとしましょう。
「これで僕にどうしろと?」
「だからさっきから言っているだろう? ”魔法『少女』”になってくれと。これで一段階目は完了だな。それと私は自称ではなく、神だ。名は邪神レグルスだがな」
そうからからと笑うレグルスさん(やっと名前が分かった)。って邪神? なにさ邪神って。
「ああ、それと――――――――ああ、あったあった! ほい」
僕の心を読んでいるだろうけど、レグルスさんは僕の疑問を無視すると、質素な簡易ワンピースのような服の裾から写真のようなものを2枚取り出す。そしてそれらの写真を僕に手渡してきました。
――――――一体何でしょうかね?
とりあえず僕はだぼだぼなシャツの裾をめくって、何とか受け取る。
「――――――これが彼方ちゃんに倒してほしい奴らと足止めしてほしい奴らさ」
苦笑いを浮かべながら僕にそういったレグルスさん。はい? 倒してほしい奴らと足止めしてほしい奴ら……ですか? 敵組織は2つもあるんですか? そう思った僕は、レグルスさんに手渡された2枚の写真のうちの1枚を見る。
――――――そこに映っていたのはこの世のものとは思えないような生物。いわば異形だった。
鈍く真っ赤に光る目。真っ黒な身体つきに鋭い爪。口元には鋭い牙。言ってしまえば某ロボットアニメのエイリアンにそっくりな生命体。目の色とかは違うけど、見た目はそんな感じ。
…………こいつはあれみたいに寄生とかはしてこないよね? もししてきたら嫌だよ?
「ああ。心配しなくて良いぞ? そいつは今までの中でも1番グロテスクだった奴さ。名を『メイヴ』。奴らは出現した場所によって、花だったり、岩だったりと色々な形をとるんだ。とりあえずメイヴが倒してほしい奴らさ」
僕の心配を酌んでくれたのか、そう諭すように笑いかけるレグルスさん。
…………えっと、なら良い……のかなぁ。でもなんでよりによってこの写真なのさ? まぁ、良いけど。
なーんか釈然としないけど、メイヴがレグルスさんが言う、倒してほしい奴らだって分かったし、続けて2枚目の写真を見ましょう。レグルスさんの話と流れから言って、こちらが邪魔、もとい足止めをしてほしいと言っていた方だろう。えーと……どれどれ…………?
――――――2枚目の写真を見た時、僕は思わず絶句した。その写真に写っていたのは、ある少女5人組だった。
何故服装がメイド服やナース服なのかとか、それぞれが持っている得物がどう見ても殺戮兵器にしか見えない(だってメイド服を着ている人が持っているのは長剣で、ナース服を着ている人が持っているのはでっかい注射器なんだもの)だとかいろいろ突っ込みどころ満載だが、まず目に入ったのは、その5人組の中央。つまりセンターにいる人に僕はものすご~~~~く見覚えがあるのだ。
アニメのキャラのようなアホ毛が頭から飛び出た、天真爛漫に笑みを浮かべた少女。――――――この中で唯一魔法少女のこすぷれはしているが、おそらく間違いない。
「何やってるんですかあの人は…………」
――――――僕の幼馴染である睦月 葵がノリノリでポーズをとっていたのだった。
「魔法戦隊はっぴーとりがー?」
「ああ。あいつらがそう名乗っていたのだから間違いは無い……はずだ」
説明を聞いて、呆れたような声を上げてしまった僕に、そう言って言葉を濁すレグルスさん。
まぁ、気持ちはわかるよ? だって今、彼女たちの戦い方を見せてもらった(どうやったのか分かりませんが、頭の中に直接イメージが流れてくる感じで見せられました)けど、明らかに『魔法』使ってなかったもの。メイドさん(よく見たらうちの高校の生徒会長さんでした。もしかしてこの5人は全員うちの高校の生徒なのかな? 他の3人は良く知らないから、分からないけれど)に至っては長剣で敵を叩き斬っていたもの。何所が魔法戦隊だって?
それに名前から幼馴染のネーミングセンス臭がする。なんですかはっぴーとりがーって? どこがハッピーなんですか?
それは今はほっといて、ともかく今は僕のことだ。そもそも、今の僕は自分の力のことについて何も知らない状態だ。――――――この状態では、メイヴはもちろんのこと彼女たちの足止めも出来ないだろう。
…………知ったとしてもできる気はしませんけどね。
「えっと、僕の力というか武装はなんですか?」
若干、ネガティブな思考に取りつかれながらも、レグルスさんに尋ねてみる。すると、レグルスさんは微笑みながらも無言で、紫という変わった色の宝石(アメジストかな?)の付いたブローチを差し出してきた。どうやら「受け取れ」ということらしい。
僕はいつの間にかずり落ちてきていたシャツの裾を再び持ち上げて手を出すと、そのブローチを受け取る。心なしか暖かい気がする。
――――――写真よりも先にこっちを渡すべきなんじゃないのかな? 過ぎたことはもういいけどさ。
「そいつを手にして思いを込めろ。そうすれば力が解放される」
そう言われた僕はとりあえずそのブローチに、口には出さなかったが、柄にも無く「力を貸して!」と願いかける。
すると、僕が着ていた? 黒のポロシャツが光になって消え、裸に剝かれる。かと思うと、闇が現れて僕を包むと、闇に包まれた場所からコスチュームに包まれる。…………何故か1番最初に現れたのは下着だった。まぁ、良いけど。先ほどまでのスースー感が無くなってよかった。
そんなことを考えている間に、闇が僕を完全に包み、視界が闇で黒に染まる。心なしか髪を引っ張られる感覚や背中に妙な違和感を感じるけど我慢するしかない。何故か動けないし。
そして数秒後、闇が晴れると先ほどまでは無かった、服を着ているという実感がある。
先ほどまで裸にシャツ一枚だったことを思い出して、さっさと変身すれば良かったとしみじみと思う。代わりに背中に何か違和感もあるけれど。
とりあえずどんな服装、いやコスチュームになっているのか確かめるため、姿見の前に立った僕は三度目の絶句をしてしまった。
――――――何故なら姿見に何も映っていないのだ。着ているはずのコスチュームはもちろん、先ほどまでは映っていた自分の顔や手ですら姿見には映っておらず、姿見の正面にある本棚とそれに収まっている本しか映っていない。僕は明らかにその本棚の前にいるのに。
「その服装はある吸血鬼のコスチュームさ。だからこそ鏡に映らない」
唖然として姿見と自分の体を見比べているところにレグルスさんがそう言いました。吸血鬼のコスチュームですか? このごすろりみたいな服に、胸元に先ほどのブローチと黒いでっかいリボンの付いたこれが? そう思って体を捻りながら確認していると、背中に蝙蝠のような被膜のある黒い羽根、というよりも翼が見えた。
あ、翼まであるんだ。うん。僕の思ったように動くね。
…………いやいやそれよりも――――――
「服が映らないのは解りますけど、なんで僕が映らないんですか?」
――――――こちらの方が問題だよ。服が吸血鬼の特性を持つなら、僕は映ってもいいですよね? まぁ、背中に1対の黒翼がある時点で、ある程度の予想は出来るけど。
「このブローチで変身した場合、伝説上の生命体の力を使えるんだ。尤も、今は吸血鬼の力しか使え無いけどね。メイヴを倒せば少しずつ増えていくはずだよ」
へぇ、そういう仕組みなんだ……ってちょっと待ちましょうか。吸血鬼ってことは……!
「そこも大丈夫さ。デイライト・ウォーカーの吸血鬼だからね。日光を浴びても少し皮膚がひりひりするくらいだよ」
「それもなかなか耐え難いですけど?」
レグルスさんが安心できることを言ってくれました。灰になんかなりたくはないし、昼に外に出れなくなるのは……まぁ良いけど、日差しに当たったらゲームオーバー。コンテニューは出来ませんの流れに成りかねませんからね。
それよりも――――――これ、魔法少女? 変身と同時にパワー的な意味と耐久値的な意味で人外になるのはよくあるけど、体そのものが人外になるのを魔法少女と呼んでいいんでしょうかね?
…………あ! そんなことよりも無理やり押し付けられたことによるショックで、すっかり忘れていたことがありました! たぶん魔法少女よりも大切なこと。
「家族にどう説明しよう……?」
これです。どう説明しましょう? と、言いますか、僕が如月彼方であることを信じてもらえるんですかね? 今の僕は10歳くらいの女の子なんですけど。
僕が顔を青ざめさせながら、そう考えているときにレグルスさんがなんだそのことかといった表情をすると、こう告げた。
「その点については大丈夫だ。いざとなれば男に戻れる。まぁ、同じくなりたいときに女になれるし、変身すれば勝手に女になるがね」
「は?」
なりたいときに女と男を変えられる? 勝手に女になる?
…………言いたいことや突っ込みたいことはたくさんあるけど、とりあえず1つ言わせてもらおうかな。
「だったら最初から本物に頼んでくださいよ!」
僕の(といっても幼女モードのこえだが)甲高い絶叫がしばらくの間、部屋の中に何度も木霊した。
――――――この後、僕はこの大声で、家族の誰かが起きてしまったのではないかと思い、ビクビクしていたが、実はレグルスさんがこの部屋に、遮断結界のようなものを張っていたようで、音は部屋の外には響いていなかったようだ。良かった。
ああ、だから部屋の中で声が木霊したんですね。あはは……。
…………ビクビクしていた僕が馬鹿みたいじゃないですか。
それからというもの、その日に、僕の通っている英雄学園高校に、今ではパートナーであるレグルスさんが、僕の部屋であった時と見た目が完全に違う姿で転校してきたり(何故か銀髪よりも目立つであろううすい青色の髪で、僕の少女状態と同じ真っ赤な眼だった。もちろん目立っていた)、レグルスさんの爆弾発言で教室が五月蝿くなったり(僕の許嫁とかのたまった。漫画とかでは普通だけど実際はやらないでほしい。家に帰ったら、僕の家族全員がレグルスさんを最初から知っていたような感じだったのにはさすがに驚いたけど)、2人で僕の幼馴染や他のはっぴーとりがーのメンバーの情報を集めたり(なんと、生徒会長以外は全員同じクラスだった)、自分の今使えるの力である吸血鬼の力の制御訓練をレグルスさんに付けてもらったり(レグルスさんは強すぎ。吸血鬼の力で傷はすぐに治るけど、その回復が間に合わないくらい)、学校に現れたメイヴをはっぴーとりがーが来る前に狩ったり、先に狩られたりしながら、学校に情報集めに修行、そしてメイヴ退治と、さまざまなことを頑張っていたのは記憶に新しい。と、いうよりもこの1週間の話だしね。
今日までの1週間の詳しい話は時間があったら話すとしましょう。話すと長くなりますから。
「(クランどうしたんだい? 終わったんだろう? さっさと戻ってこい)」
僕がこの1週間のことを感慨深く思い出していると、頭の中にレグルスさんの声が聞こえた。
レグルスさんは僕の部屋の中に創られた亜空間の中で指示を出している。彼女の役割、というより仕事はこういった指示や、休日に様々な場所へ仲間を集めに行ったりしているらしい。
…………仲間は誰一人として増えていないけどね。指導者の才能が無いんじゃないかな?
ちなみにクランというのは魔法少女のときでの呼び名で、クラン・レグルスと名づけられた(命名レグルスさん)。
まぁ、それは置いといて、メイヴは倒したし、処理も終わりましたからさっさと帰りますか。
「今帰るよ」
「(ああ…………っ!? クラン! あいつらが来るよ!)」
帰還しようとした僕に、あの人たちの気配を感じたらしいレグルスさんからの念話報告があった。どうやら長居し過ぎたらしい。まぁ、そろそろ丁度いいかな。まだ、彼女たちとは、戦場では顔を合わせてすらいませんし。それに――――――
「ごめんなさいレグルスさん。少し無茶をします」
――――――今の自分がレグルスさん以外の知的生命体相手にどこまでやれるかを知りたいですしね。
「(ふふっ。そうかい。じゃ気をつけなよ)」
レグルスさんは何がおかしいのか、笑いながらそういうと念話を切った。それと同時に僕の背後に数人の気配が降り立った。僕はそちらに振り向かずに言葉を紡ぐ。
「やあ、遅かったですね。もう結構前に終わりましたよ?」
「え!? 小さい女の子!?」
「はっぴーレッド、気をつけて。確かに見た目は小さな女の子だけど、この子、ただの女の子じゃないわ。隙が無いもの」
この声は幼馴染兼はっぴーレッド(服装は五人の中で唯一の魔法少女という恰好で、武器は僕と同じ杖なのに、何故か『魔力を込めて殴るのみ』という斬新な戦い方をする)こと、葵さんと生徒会長兼はっぴーブルー(服装は何故かメイド服で装備はこれまた何故か長剣)こと、水無月 楓さんだね。楓さんの言葉に、葵さんを含めた他の4人が息を呑む音が聞こえた。
吸血鬼の聴覚は本当に凄いね。聞こえすぎるのが玉に傷だけど(電車の音だとか、はるか上空を飛んでいるはずの旅客機の音だとかね)。
ああ、他の3人のことについてはまた今度ね。めんどく……脳の構造上、1度に言われると覚えにくいですからね。だから、別にめんどくさいわけじゃないよ?
それはさて置き、そんな様子(振り返らずにも様子が分かるのって楽でいいですよねー)で、こちらの動きを窺いながら、身体を緊張させている5人に僕は満面の笑顔を浮かべて振り返ると、こう告げた。
「さぁ、始めましょうか。楽しい『エンド』の始まりです」
そう言うのと同時に僕は背中にある、1対の翼を広げると、地面を蹴った。
―――――――さぁどこまでやれるかな?
――――――to be continued? yes or no?
このような作品を読んでいただき、誠にありがとうございました。練習作品ではありますが、辛口感想・評価をお待ちしています。この作品を含め、作者のすべての作品はユーザー登録していなくとも感想を送れるので、とりあえず感想お待ちしています。
図々しいとは思いますが、気が向いたらでかまわないので、作者の他の作品も読んでいただけるとまことに恐縮です。
ではまた、時間と縁があれば。
というよりあのロボットアニメを知っている人はこれを見ているのかなぁ。物理法則を完全無視したようなロボに乗った悪人が、極悪人を倒すアニメです。作者はこのアニメが大好きです。