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第十五話・タジンの冷孔

俺たちはバスターズギルドのある商業区から

教会のある聖堂区へと向かっていた。

「タジンの町に着て暫く経つけど

こっちの通りには来た事がないなあ」

「そういえばこの町は町の中に冷孔が有るのよね」

「タジンの町はそれなりの広さの平原に偶々中冷孔があったからな。

確か聖堂通りに向かう途中に有るはずだ」

ああ、冷孔って必ずしも平原にあるわけじゃないのか……

「ちょうどいいや、見物していこうぜ」

冷孔ってのがどういうものか気になるし。

「まあ行き道だし構わないだろう」

そう言うヴァイスとミルクと一緒に暫く行くとそれらしきものが見えてきた。

「あれが冷孔だ」

「おおーっ」

見た目は小さな円形闘技場コロシアムみたいな感じだ。

町の中に数十メートルくらいの小さな公園くらいの大きさで

地面が円形、緩やかなすり鉢状に窪んでいる。

すり鉢の斜面は石段で整地されており底面は平たい。

底部の平らな場所には赤、紫、青、藍、黄 緑、白七つの石柱が配置され

それから天に向かって七色の光の柱がぼんやりと立ち上る

その周囲をこれまた七色の蛍のような薄ぼんやりとした淡い光の粒が舞っている。

すり鉢の底には石のタイルが敷かれ

その表面には複雑な魔方陣らしきものが刻まれてこれまた光を帯びている。

その他にも金属で出来た太いパイプが底面からすり鉢を上って張り巡らされ

そこからまた地面に潜っている。

近づくたびに明らかに空気が変わった。

涼しくなってくるのだ。

タジンの町の中は太陽が照りつけ暑いのに

この周囲の温度だけが下がっている。

良く見れば石段に座って涼んでいる人の姿もちらほらと見受けられる。

「あの七色の石柱は赤い炎、紫の雷、青の水、藍の空、黄の土、緑の木、白い光を示し

それぞれの神に捧げられているの。

魔方陣で怪物避けの結界を展開したり町に魔力を流したり……

パイプは氷室に向かって冷気を渡してるのね。

こういう街中に冷孔がある場所は冷気が漏れてるから

暑い時涼みに来る人は風物詩ね」

ミルクが由来やらを説明してくれた。

「町の外で解放されていない冷孔の周辺は

魔力こそ主に吸われている者の冷気は駄々漏れだからな。

季節外れに凍りついている所は冷孔が近くにある可能性が高い」

「へー」

「未発見の冷孔を見つけたが攻略できそうにないときは

その情報をバスターズギルドに買い取ってもらう事も出来る。

基本的に見つけたら開けていくつもりだがな」

ヴァイスがバスターズギルドに報告されていない

未発見の冷孔を見つけるときのコツを教えてくれた。

「ためになるなあ……」


俺は冷孔をまじまじと見つめてみた。

――誰かが、俺を見ている気がした。


なんだ……意識が……遠くなる……

「う……気持ち……わりぃ……」

何で俺、倒れて……

「雪平?」

「雪平!!」

目の前に石畳が近づいてくる……


 ††††††††††††


「何処だよ、此処……」

さっきまでタジンの町中にいたはずなのに……

辺りは暗闇に包まれている。

何もかもあいまいだ。

いかにも現実味が無い。

「何処だよ、此処……」

《扉――けよ》

「うん?」

誰かが俺に向けて語りかけてくる。

《……開けよ》

お寺の鐘のような不思議な響きだ……

「はぁ!?」

下腹に来る震えを伴う響き。

耳を済ませないと聞こえないような小さな声だ。

《――扉を――開けよ――我、夢……果てにて……待つ》

相手の声が良く聞き取れない。

しかもノイズというか空電雑音のようなのも混じっている。

滅茶苦茶電波の悪い携帯電話みたいだ。

「よく聞こえねぇよ!!」

「誰なんだよ!!おい!!」

「……」

ノイズが激しくなり、闇がさらに深くなる。

これもパラダイムで過ごしたことも夢だったらいいのに……

俺は淡い期待を抱いた。


 ††††††††††††


再び眼を覚ましたときに見たものは俺の部屋ではなく

悔しい事に石畳の埃っぽい地面だった。

間違いなく俺はまだパラダイム世界、タジンの町聖堂区冷孔前に居る。

「おい!!雪平!!」

「大丈夫!?急に倒れたみたいだけど……」

「何でもねえ、戦闘の緊張が解けて疲れが来たのかな……

それに加えて多分急に温度が変わったから

立ちくらみかなんか起こしたんだと思う」

「今日が初陣だったんだ、無理もない」

「回復魔法掛けようか?教会に行くのはまた明日にする?」

「いや、大丈夫だ、行こうぜ」

何か、大事な事があった気もしたが、起きてしまうと夢というのはよく覚えていない

曖昧模糊とした物を引きずって変に心配かけたくない。

第一そういうあやふやな夢を気にするのは俺の性に合わない。

大方立ちくらみ時に見た変な夢に過ぎないだろう。

折角ここまできたんだし……

休むのは宿に帰ってからでも出来るしな。

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