第十四話・バスターズギルド・後編
「では倒した魔物の核を出してくだされ」
「はい」
俺は受付の老人に二つのスラの核を渡した。
「こちらの核はカード作成料として預からせていただきますので
報償の方は出ない事をご了承くだされ」
ミルクやヴァイスの出した沢山の核と見比べると小さく少ないが仕方ない。
これからどんどんビックにしていけばいいことだ。
「お名前は?」
「桜田雪平」
「サグラダ・ユキヒラと……」
また訛ってるよ……
こっちの世界の住人はどうしてこう……
「サクラダ」
此処は訂正しておかねば……
「おっと、これは失礼……バスターとしてのスタイルは?」
スタイル?
「雪平は大剣使いだ」
ヴァイスがすかさず補足した。
「でしたらクラスはファイターですな……使用できる魔法や加護の方は?」
「えーと……特にないです」
「神の加護も魔法も無しで怪物を狩ると!?」
受付の老人がびっくりしている。
「……俺が剣技を叩き込んでいる。
追々魔法や加護はつけようと思っていた所だ」
ヴァイスが説明した。
「……いやはや、普通のバスターとまるで順序が逆ですな……
武器と魔法の扱いを覚え、加護を受けてからバスターになるものですが……
それにしても是非とも最低限加護は受けてから更新に来てくだされ
加護無しで戦うのは世間的印象の目も戦闘と生存の実利面に関してもお勧めできませぬゆえ」
「はい、わかりました」
「ではカードを作るゆえ暫くお待ちくだされ」
思っていたよりずっと緩い。
もっと色々なことを聞かれたり
変な筆記試験やら何やらがあるかと思ってひやひやしていたのだが……
しばしの後、受付の老人が赤銅色の小さな金属プレートを携えて帰って来た。
「こちらがサクラダ・ユキヒラさんのバスターカードになりますな。
これはバスターの身分照明証となる金属プレートで
倒した魔物怪物・開けた冷孔の情報が記録される大事なもの。
冷孔を開放したことの無い地上の怪物を退治する者にはブロンズカード。
小冷孔を開放したものはシルバーカード。
中冷孔を開放したものはゴールドカードが発行されますな。
バスターを支援するため提示することで宿屋、武器、防具、薬店などの各種商店と
冷孔転移時での割引サービスが受けられますが
三ヶ月間魔物・怪物の討伐が無いと失効するので気をつけてくだされ」
そう説明する老人の差し出すカードを受け取った。
「あの、ところで」
「なんでございましょう?」
「大冷孔を解放した場合のカードって無いの?」
「大冷孔を開いたものは英雄と勇者と初代教皇様以外おりませぬでな……
ゴールドカード以上は存在していないのが現状で……」
「そっか……もしもの為にプラチナ用意しといた方がいいような気もするけど……」
「なるほど……ですがそれはわしの一存で決めるわけにも参りませぬ。
それとバスターのカードには冷孔を開いたときのための機能が御座います。
鬼人族の呪符魔術の技術を応用して二つの術式を封入してあります。
一つは冷孔転移術式。
最も近い地脈の繋がっている開いた冷孔に対して転移門を開くための術式。
もう一つは結界展開術式。
自動的に怪物避けの結界を展開する術式。
どちらも冷孔の魔力を利用するので魔力の心配は要りませぬ。
ただ倒した冷孔の主の核にカードを触れるだけでよいのです」
どちらも便利そうだ。
怪物を倒した後、転移でひとっとびで帰れるのはありがたいし
せっかく開いた冷孔にまた新たな怪物が居座られてはたまらない。
「冷孔の主の核?普通の核と違うの?」
「ああ、そういえば説明しておりませんでしたな。
地上をうろつく魔物や怪物の核とは違い
冷孔の主である怪物の核には
その冷孔から噴出する魔力の流れを制御する力を有しております」
「なるほど、そういえば冷孔の怪物を軍隊とかさ
バスターの大集団作って沢山の人間で叩くことって出来ないのか?」
RPGでは選ばれた勇者とかしか倒せないってのがお約束だけど
別にそんなことにこだわる必要はあんまり無いと思う。
「……それは不可能ですな。冷孔の主は噴出する魔力を使い
魔物避けの結界の逆……人避けの結界を展開しております。
どう頑張っても冷孔の結界範囲には十人しか入れませぬ。
人避けの結界が展開されているうちは外から地脈を繋げて転移することは出来ませぬしの
結束さえさせなければ人間など怪物の敵ではないといわんばかりに……
それこそが冷孔の解放が進まぬ理由。
それゆえに、冷孔の解放者は自然と一騎当千の兵に限定されるのです」
楽は出来ないってことか……
「十人の強い奴じゃなきゃ冷孔を開けられない、か。
そりゃ時間が掛かるわけだ」
「お分かりいただけましたかな。
それと、最後に一つだけ説明させて頂きますのが冷孔の開放者の権利……
魔力の制御する主の核と土地の所有権利を含めた【アカウント】は
他者に売却、譲渡する場合ギルドでの手続きが必要となりますゆえお忘れなきよう」
ああ、そっか……冷孔を開いた直後はそこに誰も住んでないはずだもんな。
主を倒して核を手に入れた奴が土地の所有者になるわけか……
そりゃ皆躍起になるわけだ。
「大体分かったぜ。ありがとう」
「いえいえ」
これで俺も晴れて見習いが取れてバスターになれたぜ。
「これからどうする?俺はとりあえずその教会ってのを見に行って
加護を受けるかどうか決めたいんだけど皆いいかな?」
「私は賛成ー」
「俺も別に構わん」
「俺は全然知識が足りないからさ、そこでまた詳しく説明してくれると助かるぜ」
「もちろん!私に任せなさい!!」
「教会、か……」
元気一杯張り切るミルクと気だるげなヴァイス。
ヴァイスは何時も無表情で冷淡だが今のは特に物憂げに見えた気がした。
俺の気のせいかな?
とりあえず次は教会か……どんなところなんだろうな?