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第十三話・バスターズギルド・前編

「あれがバスターズギルドだ」

ヴァイスが指し示した建物は大体町の中央部に位置し

広い石段の付いた立派な館だった。

壁は白い漆喰で塗り固められており一目で他の建物との違いが分かる。

「へー、あれがそうか」

何度か見かけていたが行くのは初めてだ。

バスターズギルドの中は白くて清潔だった。

石造りの床は磨き上げられており

それなりの木造のテーブルとイスが置かれている。

大衆食堂や宿屋に置かれている調度品に比べて作り込みが違う。

壁には依頼らしき文字の書き連ねられた羊皮紙が張り出され

賞金首らしき野盗や怪物の絵が張られている。

中には鎧や武器で武装したバスターらしき人も何人かいた。

テーブルの羊皮紙を忙しく捲っていた受付らしき人物がこちらに気が付いた。

身なりも髪もきちんと手入れされ、薄緑色のガウンを纏って

片眼鏡を身につけた老紳士だ。

「本日はどのようなご用件で?」

「私は換金で」

「俺も換金だな」

「俺はバスター登録に来ました」

「では先ずそちらの神官のお嬢さんからバスターカードと核を出してくだされ」

「はいどうぞ」

ミルクがカードと取り出した小さな皮袋の中身を受付の老人に渡す。

ビー玉からピンポン玉サイズ、二センチから四センチくらいの

色とりどりの怪物の核が受付のテーブルに置かれた皿に広がる。

老人は置かれた核をモノクル越しに丁寧に観察する。

「ハマレイアにガル、スラ……金貨一枚と銀貨五枚といった所ですな」

受付の老人はテーブルの奥に鎮座する

蒸気機関と水晶玉を合わせたような謎の機械にミルクのカードを置いた。

水晶玉から光が放たれる。

どうやらあの謎の機械でバスターの戦闘記録をカードに焼き付けているらしい。

「さて、こちらがカードと賞金になりますぞ」

老人は丁寧にミルクにカードと渡した。

「どうもー」

「では次はそちらの剣士の方……」

ヴァイスは自分の背負っていた大きな袋を空け

そこから一抱えはありそうな皮袋を取り出した。

その大袋と自らのバスターカードを無造作にテーブルに置く。

ゴトッ、とテーブルが揺れ羊皮紙が浮きそうになる。

私物は殆ど無くて中身は全部核かよ!?

受付の老人も目を白黒させている。

ミルクもかなりびっくりしていた。

「こ、これはまた……少々お時間が掛かりますぞ」

「構わん……そうだこのマリウスの核だけは別にしておいてくれ。

二人もこいつの賞金は三等分でいいな?

倒した事をバスターカードにつけたければくれてやってもいい」

「いいよヴァイスのアニキの手柄で。俺一人じゃ無理だったし」

「んー。私もいいかな」

「協力して怪物を狩ったとなると賞金の配分や

誰のバスターカードに討伐記録をつけるかで、もめることも少なくないのですがの……」

受付の老人の言うとおり確かにこういうのはもめそうだ。

あっさりミルクが承諾してくれたのは正直助かる。

「凄いわね……あれだけで一財産よ」

ミルクが感心したように呟いた。

「核を拾うのも手間なんだがバスターカードが失効するのも面倒だ」

ヴァイスは事も無げというか興味なさげにそう答えた。

「いやはや、これはまた……

ヴァイスという名前といい銀髪紫眼の容姿といい……

英雄譚に唄われる英雄や勇者に付き従った剣士を思い起こさせますな」

「ああー、そういえばそうね」

ミルクと受付の老人はヴァイスの方をまじまじと興味深げに見た。

「ひょっとして縁のお方で?」

そう尋ねる老人に対してヴァイスは無表情で答えた。

「……初代から数えて32代目というだけだ。

人が呼ぶ血縁にも肩書きにも名誉にも意味は無い」

ばっさりと切り捨てるように、少しうんざりげにヴァイスは言う。

「まさか剣士の子孫に出会えるとは」

「実在したんだ……」

受付の老人とミルクは感心していたようだが

背景が分からん俺にはさっぱりだ。

「俺にはさっぱり事情が分からん……」

「……俺は話すつもりは無い、聞きたいのならミルクに聞け」

ヴァイスは冷たくそう言った。

「あー、悪いんだけど話してくれるかな?」

「私も詳しく知ってるわけじゃないけど……

人間族や獣人族には有名なお話のはずよ

かいつまんで話すと大冷孔を人間族の勇者にも獣人族の英雄にもお供がいたのよ。

その一人が銀髪紫眼の剣士ヴァイス。

卓越した長剣の剣技と魔法を操って、幾度も彼らの危難を払ったらしいわ。

大冷孔を開放した後、引き止める彼らの制止も聞かず

新たな大冷孔を空けるべき者を探す

そう言って礼も受け取らず去って行ったらしいわ」

約束された地位も名声も富も……

かつての仲間さえ蹴ってか……

「……それが一族の使命なだけだ」

「やっぱり私の眼には狂いは無かったわね!」

「ヴァイスのアニキがどんな人だろうと俺は最後まで付いてくよ」

「……好きにしろ」

ヴァイスの顔は相変わらず無表情だ。

アニキは自分のことは殆ど語らないから分からない。

英雄や勇者の仲間の子孫と言う肩書きが重たくは無かったのだろうか?

「終わりましたぞ」

どうやら受付の人が核を数え終わったようだ。

「こちらが賞金の金貨三十二枚と銀貨六枚になります」

「すごいの?」

ミルクを見て尋ねる。

俺はいまいちこちらの貨幣価値が良く分からない。

「バスターじゃない普通の人の月収が金貨二枚から三枚よ

贅沢しなければ一年は遊んで暮らせるわね」

金貨一枚が十万円くらいなら、こっちで言う三百二十万円くらいか?

「で、こちらがマリウスの賞金金貨三枚になります」

老人から金貨を受け取ったヴァイスは俺とミルクに金貨を一枚づつ手渡した。

ヴァイスに面倒見てもらった装備やこれまでの金は幾らになっただろうか?

返済も考えなければなあ……

「では次の方どうぞ。そちらの方はバスター登録でしたかな?」

「はい!よろしくお願いします!」

色々有ったがこれが俺の第一歩だ。

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