第十二話・新しい仲間
食堂での支払いを済ませて
俺とヴァイスとミルクはバスターズギルドに向かっていた。
このタジンの町の建物はみな灰色や黒っぽい色の石で
作られており形は四角くがっしりしている。
テレビで見たヨーロッパやそちらの国の古い町並みを思い起こさせる
地面の道には平たくすべすべした石畳が敷き詰められており
太陽の熱気を受けて酷く暑い。
そういえばこの世界の季節がいまいち良く分からない。
今は夏辺りなのだろうか。
「そういえばミルクも来るのか?」
「護衛の途中で倒した魔物の核を換金したいし」
どうやらバスターズギルドでは換金もやっているらしい。
「なるほどなあ」
「雪平は何でバスターになろうと思ったの?」
「何で、って……理由は色々有るけど……
人を襲う怪物をほっとくわけにもいかないってのもあるし
故郷に帰りたいからだよ。その為には一番バスターが近道だと思ったんだ」
「ふうん……ヴァイスさんはどうしてバスターやってるの?」
「俺も雪平と大体同じだ。俺はなんとしても
残り七つの大冷孔を解放して故郷に帰る」
「アニキの言うとおり、どれだけ途方も無いといわれてても
俺たちにはそれしかないもんな」
俺もヴァイスの意見に賛同した。
「じゃあ二人は小冷孔や中冷孔を開放したくらいで止まるつもりは無いのね!?」
ミルクが妙に熱っぽく尋ねてきた。
「当たり前だろ」
「そこで止まったら何の意味も無い」
ヴァイスと同じく答えを返す。
何故ミルクはそんな事を聞くのだろう。
「大冷孔の解放って全てのバスターの目標で人々の願いじゃないのか?」
「教会の教義でもバスターズギルドの指針でもそうなってるわね。
でも現実はそうじゃないのよ。大体のバスターは小冷孔か中冷孔を開放したら
そこで引退しちゃうの」
ミルクはため息混じりにそう答えた。
「なんでまた?」
「それ以上の危険を冒す必要がなくなるからよ。
小冷孔の解放に成功すれば節約すればの話だけど食べるのには困らなくなるし。
中冷孔の解放に成功すれば確実にお金持ちの仲間入りか貴族の道が開けるわ。
その時点でバスターとして成功になっちゃうから」
この世界で金や名誉を幾ら貰ってもちょっと困る気がする。
一生安泰かもしれないが何の根本的解決にもならない。
そこで諦めたら俺は生きてはいけるかもしれないが……
元の世界にも帰れず、世界から怪物が消えるわけでもない。
隣で泣いてる人が居るのに一人で飯を食っても美味くないだろう。
というか、此処で諦める道を選ぶのなら
俺は最初にヴァイスに助けられた時点で
冒険も戦いも止めて町で細々と生きている。
心圧し折られたまま現実を受け入れて
何もかも諦めて生きる道を選択できるほど俺は賢くない。
怪物と戦って死んだ方がいくらかマシな気がする。
「バスターとして成功することなど興味は無いな」
「アニキに同じ!」
これだけは自信を持って言える。
「むむ……二人とも本気で言ってるわね……!!
これは見つけたかも!!」
「なにを?」
「私がパーティ組んでもいいと思える仲間をよ!!」
「はあ!?マジで言ってるのかよ!?
俺らの行く道は俺が言うのもなんだけど叶うかどうかすら分からない
ロマンはあれどただひたすらに危険で厳しい夢追っかける漢の行く道だぞ?
付いてこれんのかよ!?」
「志の低いバスターと組むよりはマシよ!
教会の現状にもバスターの現状にもうんざりしてたのよ!!
私は教会を変えて皆が怪物に脅かされない世界を見たいのよ
教義から離れてお布施の多寡と教会内の地位争いに執着する高位神官もうんざり。
ヒーラーは何処のバスターにも歓迎されるけど……
大冷孔を開放しようなんてバスターは一人たりとも居なかったわ!!
高位神官連中にも初代教皇様と同じ実績があれば誰にも文句は言わせないわ」
なんというか文字通りの羽の生えてる跳ねっ返りというかお転婆というか……
「どーするよヴァイスのアニキ?」
「……付いてきたいのなら好きにしろ。
途中で挫けようと俺は知らんがな。
お前たちがどうあろうと俺は一人でもやるつもりだ」
ヴァイスは相変わらず冷淡で端的な口調でそう言った。
まあ、アニキはこういう人だよな……
「俺も諦めるつもりはさらさらないし
ミルクが付いてきたいというなら別にいいんじゃねえの?」
「じゃあ決まりね。これからよろしく!!」
またなんか変わったお転婆娘が増えたなあ。
そんなことを話しながら俺たちはバスターズギルドに到着した。