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第十話・鳥人族の娘

「あ~しんどかった……」

全くとんでもない初陣になったと思う。

戦闘で慌しかった為じっくりこの少女を見ている暇などなかったから

改めてこの翼の生えた少女を見てみた。

白い一対の翼が背中から生えている姿を見ると本当に天使にそっくりだ。

年の頃は俺と同年代くらいか?

白くて滑らかな肌、セミショートの金色の髪は外側に跳ね、パッチリした蒼い瞳。

かわいい、といって差し支えないように思える。

「なんだか慌しくてろくに自己紹介もできなかったわね。

あたしはミルク」

快活に笑いながらミルクと名乗った少女はそういった。

「ヴァイスだ」

「俺は桜田雪平」

「ヴァイスさんにサグラダ・ユキヒラね。

ユキヒラのほうは変わった響きの名前ね……

人間族で黒髪にダークブラウンの眼ってあんまり見ないし」

ちょっとなまってるぞ、おい、でもまあいいか。

人間族って事はこの世界にはミルクの他にも人の派生みたいな種族が居るのかな。

「さっきは指示に従ってくれて感謝する」

ヴァイスがミルクに礼を言った。

「あー、いいよいいよ。

初級魔法でも詠唱を省略してあれだけガンガンぶっ放せる時点で

ヴァイスさん結構な実力者ってことだし……大丈夫?」

「この程度なら問題ない」

ヴァイスは事も無げに言った。

「続きは町に入ってからにするぞ。

とりあえずあの馬車を何とかしないとな」

「あ!そうだ!!依頼者のおっちゃん大丈夫かな?」

ミルクが思い出したように言った。

「馬が足を痛めてたみたいだけど……」

もし馬が骨折とかしてたら俺らだけじゃ

馬車を何とかすることはきついんじゃないかとふと思った。

「生きてればなんとかなるわよ。私回復魔法も使えるし」

ミルクがあっさりと言った。

そういえばこの世界回復と治癒魔法もあるんだよなあ……

「雪平、マリウスの核を拾っておくのも忘れるなよ」

「あいよっ」

マリウスの核は……あった。

スラのものより大きいテニスボールくらいのサイズの緑色の奴だ。


 ††††††††††††


三十分後、俺たちはタジンの町に帰り着いていた。

ミルクの回復魔法を見たが凄いもんだな。

蹲って苦しげに嘶いていた馬が暫く淡い光に包まれて居たと思うと

直ぐに動けるようになったのだから。

馬車の所有者の商人のおっさんには随分感謝された。

おずおずと謝礼の話を切り出す商人のおっさんに

依頼を受けていたわけでもないし勝手にやったことだから必要ないとヴァイスは断った。

おっさんは随分感激していたように見えた。

戦って腹も減ったしタジンの町の食堂で食事をすることになったのだが……

「助かっちゃったし食事代くらい奢らせてよ」

と、ミルクが言ったので彼女も着いて来る事になった。

食事はやたらに歯ごたえのあるフランスパンと

こっちで言う鳥と野菜を煮込んだクリームシチューに似ていた。

薄味だが腹が減っていたのでとても美味く感じる。

「悪いな奢ってもらっちゃって」

「気にしないでいいよ。あの商人のおっちゃんから護衛代もらって懐暖かいし」

「もぐもぐ……そういえばさ、気になってたんだけど」

俺はシチューをかみ締めながらヴァイスに尋ねた。

「冷孔ってワープっつーかテレポートっつーか……

転移ってのが出来るんだろ?何で怪物がうろつく危険な外の道を使って馬車を出すんだ?」

「あんたそんなこともしらないの?」

ミルクに思いっきり馬鹿にされたような顔をされる。

「雪平は大部分の記憶を失って森で倒れてたんだ

世間一般の常識を忘れていても仕方有るまい」

ヴァイスがフォローを入れてくれるのが本当にありがたい。

「いや、そうなんだよ……情けない話なんだが」

「あー、そうだったんだ……ごめんね」

「いいよ、知らないのは事実だし」

「雪平の為に説明するが冷孔の転移とは決して万能ではない。

幾つかの術的、社会的制約が付いている」

「ふんふん」

「雪平も知っての通り冷孔の魔力は多岐に渡って利用されている。

町に怪物を寄せ付けないための防護結界、土壌の活性化、

それに普段の生活の炊事や産業に使用される魔力……

転移というのは転送する質量に比例して

魔力を消費するからその魔力消費は多大なものになる。

町と町の徒歩移動が危険だからといって安易に転移を繰り返せばどうなる?」

「あー、なるほど分かったぜ……

町の結界とか他の部分に魔力を回せなくなるわな。

そりゃ確かに不味い」

「その通り、冷孔から湧く魔力は何れ回復するとはいえ

貯蔵している部分を使い切ってしまえば結界は維持できない。

それに冷孔の転移には世界を巡る地脈の流れの【順路】が存在し

どこでも好きなところへ、とは行かない

冷孔の転移が可能なのは大体一週間に一度くらいの頻度だ」

各駅で乗り換えの必要な電車みたいなもんか。

しかも待ち時間が一週間の……

ヴァイスの説明でようやく得心が行った。

「そういう魔法関連の問題もあるんだけどさ」

ミルクは口を挟んだ。

「冷孔の転移って一部の人しか利用できない所があってねー

冷孔転移の使用料ってたっかいのよ。物凄く」

「さっき言った冷孔転移の社会的制約だな」

「冷孔転移を使って一年かけて世界中を巡る大キャラバンや大商人とか

一部の貴族や王族、割引が使えるバスターならともかく……

一般のちっちゃな規模の中小の商人は危険を犯してでも街道を行くしかないのよ。

だからバスターを護衛に雇うのが成り立つのよ」

世知辛い話だ。

「良く分かったぜ」

「勿論町の外には怪物も溢れてるし……

しかも怪物と戦うより人の商人を襲ったほうが楽で手っ取り早いって

浅はかな考えを抱いた不心得者で不信心者でクソッタレのごろつきとか

バスター崩れが野盗化して怪物避けの結界を使って町の外で張ってる事もあるしね」

「ああ、そういう略奪者は斬っても罪にならんからな、覚えておけ」

「お、おう……」

内容に思わず軽く引いてしまう。

「捕まえて町に連れ帰った所でどうせ奴らを待つのは縛り首だ」

「そういう野盗って奴ら何考えてるかしらね。

目の前に人の敵、神の敵の怪物が今も町の外をうろついてるのに……

何で善き神はああいう奴らが生きるのを許しているのかしら」

ヴァイスは事も無げに、ミルクは怒りを露にしてそう言った。

やはり価値観の違い、死と危険の近い世界であることを実感する。

怪物ならともかくやっぱり人を斬るというのは抵抗がある。

日本の法律に照らし合わせたところでそういう奴らはやっぱり死刑だろうし

襲い掛かられたら反撃した殺害した所で正当防衛が成立するだろう。

「……なるようにしかならねえか」

その時は、その時だ。

此処は日本でもなければ甘ったれたぬるま湯の世界でもない。

殺さず、などという理想が実現出来ないだろうという事は分かっている。

そんな神業を行える実力は、俺には今の所無い。

改めて俺は密かに覚悟を固めた。

その状況が訪れたらやるべきことは相手をかわいそうとか

相手にも人生や友人があると思うことじゃない。

そんなのは皆誰だって一緒なのだ。

相手の殺意や恫喝に脅えて筋肉や体を縮こまらせることじゃない。

そういう状況で出来ることなど知れている。

体を動かし、正確に剣を振る。それだけ。

今の俺にはそれしか出来ない。

でもなあ、なるべくならそんなことは無いように願いたいぜ。

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