硫黄島守備隊、異界迷宮ヲ撃滅セリ
撃滅シリーズ第4段
昭和十九年、硫黄島。
頭上からは断続的に、腹の底を揺さぶるような重低音が響いていた。
ズウン……ズウン……。
米海軍による艦砲射撃である。まだ本格的な上陸準備砲撃ではないが、彼らは執拗に島を削り、神経をすり減らしに来ている。
だが、地下三十メートル、千田壕の最深部まではその震動も鈍くしか届かない。
むせ返るような地熱と硫黄の臭気。摂氏五〇度近い灼熱の地底で、陸軍工兵曹長、坂本鉄造はツルハシを振るっていた。
「曹長、装薬完了しました」
部下の報告に、坂本は汗で張り付いたカーキ色の軍衣の襟を正し、無言で頷いた。
岩盤の亀裂には、愛用の「黄色火薬」の束が詰め込まれている。
戦うために、掘る。生きるために、掘る。それが硫黄島守備隊のドクトリンだ。
「退避ッ!」
導火線に火を点け、坂本が叫ぶ。
ふんどし一丁の兵たちが、泥の通路を転がるように駆け戻る。
数秒後。
ドォォン!!
狭い坑道を爆風が舐め、強烈な衝撃が走った。
だが、その直後だった。
ぐらりと、島全体の重力が歪んだような浮遊感が彼らを襲った。鼓膜がツンと痛む。気圧が急変したのだ。
そして――音が、消えた。
頭上で鳴り響いていた米軍の砲撃音が、まるでラジオのスイッチを切ったように、唐突に消失したのである。
「……不発か?」
「いや、違う」
坂本は違和感に身を硬くした。静かすぎる。島の空気が変わった。
硝煙の向こう、爆破した穴の先から、ひんやりとした清浄な風が吹き込んできていた。
「警戒せよ。貫通したぞ」
***
異世界ダンジョン『奈落の顎』。
その最深部にある玉座の間で、魔王ヴェルゴは優雅に紅茶の香りを愉しんでいた。
BGMは、遠くから聞こえるスライムの這う音と、スケルトンの骨の軋み。彼にとっての安らぎの環境音だ。
だが、その平穏は突如として破られた。
ズガンッ!!
衝撃でティーカップの中身が跳ね、愛用のベルベットのマントに染みを作る。
「あちっ!? ……な、なんだ今の音は」
ヴェルゴは慌てて眼前の水晶玉を起動した。
映し出されたのは、第5階層『嘆きの回廊』の外縁部。
そこはダンジョンの「壁」だ。通路もなければ、部屋もない。構造図上の「余白」であるはずの場所だった。
そこに、風穴が開いていた。
「は? え、そこ壁だよ? 入り口ないよ?」
ヴェルゴは素で呟いた。
土煙の向こうから、カーキ色の軍服を着た薄汚れた男たちが、ぞろぞろと顔を出してくる。
剣も鎧も持っていない。代わりに、スコップやツルハシ、そして先端に鉄筒のついた木の棒を持っている。
「ドワーフの土木業者か? いや、人族だな。……おいおい、勝手に私の壁に穴を開けるな! 修繕費がかかるんだぞ!」
ヴェルゴは水晶玉に向かって抗議した。当然、彼らに声は届かない。
「ええい、不法侵入者め。玄関から入れ、玄関から! 靴を脱げ!」
彼は苛立ち紛れに指を鳴らした。
近くを巡回していたオークの分隊に指令が飛ぶ。
『行け。マナーのなっていない客人に、ダンジョンの恐ろしさを教えてやれ』
***
煙が晴れると、そこは見たこともない石造りの回廊だった。
坂本は目を細めた。硫黄島特有の黒い火山岩ではない。綺麗に切り出された花崗岩だ。天井には発光する苔のようなものが張り付き、薄気味悪い青白い光を放っている。
「曹長! 前方に人影!」
部下の鋭い警告。
坂本は瞬時に三八式歩兵銃を構えた。
「撃ち方用意ッ!」
現れたのは、米兵ではなかった。
緑色の皮膚。押しつぶされたような豚の鼻。口からはみ出した乱杭歯。身長は二メートルを超え、筋肉が異常に発達している。
手には粗末だが殺傷力の高そうな、巨大な戦斧が握られていた。
「……なんだ、ありゃあ」
古参の上等兵が呻く。
「米軍の生物兵器か? それとも見間違いか?」
「落ち着け!」
坂本が一喝する。
だが、彼の胸中も穏やかではなかった。脳裏に、少年時代に読んだ冒険雑誌『少年倶楽部』の挿絵がよぎる。地球空洞説。地底王国。
「まさか……地底人か!?」
坂本は唸った。硫黄島を掘りすぎて、未知の地底文明と接触してしまったのか。
だが、感傷に浸る時間はない。
距離、五十メートル。
緑色の巨人たちは、こちらを認めると、猛獣のような咆哮を上げて突進を開始した。言葉による警告や、意思疎通の試みはない。明白な殺意。
「友好的な接触の可能性、ゼロと認む!」
坂本は照門を覗き込み、冷静に距離を測った。
相手は密集隊形で、遮蔽物のない直線廊下を走ってくる。近代戦においては自殺行為だ。銃を知らないのか。
「射撃用意ッ! ……撃てッ!」
号令と同時に、狭い坑道に乾いた銃声が轟いた。
タン、タン、タンッ!
三八式歩兵銃の6.5ミリ弾が、オークの分厚い脂肪と筋肉を容易く食い破る。
先頭の個体の頭部が弾け飛び、腐った果実のように崩れ落ちる。
後続が怯む隙に、次弾が装填される。ボルトアクションの金属音が、死刑執行の合図のように響いた。
***
「ブッ!!」
ヴェルゴは二度目の紅茶を吹き出した。
「な、なに!?」
水晶玉の中で、オークたちが次々と倒れていく。
魔法の光も見えない。剣戟の音もしない。ただ、パンパンという乾いた破裂音が響くたびに、強靭な魔物がゴミのように死んでいく。
「魔法か? いや、詠唱していない! なんだあの杖は! 雷属性のアーティファクトか!?」
残ったオークが怯んだ隙を逃さず、カーキ色の男たちは一斉に何かを投げた。
カラン、カラン。
黒い鉄の塊が、オークの足元に転がる。
「なんだあれ。木の実……?」
ドォォォン!!
爆炎が廊下を埋め尽くした。
九七式手榴弾。至近距離での炸裂により、オークの分隊は肉片となって四散した。
ヴェルゴは立ち上がった。手が震えている。
「ひ、卑怯だぞ! 名乗りも上げず、あんな遠くから一方的に! 騎士道精神はないのか貴様ら!!」
水晶玉の向こうで、指揮官らしき男が、倒れたオークの死体を軍靴で踏みつけ、確実に死んでいるか銃剣で刺突確認しているのが見えた。
その瞳に、冒険者特有の「熱気」はない。あるのは、作業をこなす職人のような、冷徹な「処理」の眼差しだけ。
***
「撃ち方やめ! 残心!」
銃声が止む。回廊には、火薬の匂いと、嗅ぎ慣れない獣の血生臭さが充満していた。
坂本は倒れている巨体に近づき、軍靴で蹴って反応を見た。動かない。
「全弾命中。……硬いが、死なないわけじゃない」
銃剣で突いて死亡を確認し、坂本は息を吐いた。
「異常なし!」
坂本は銃を下ろし、周囲を警戒しながら前進した。
異様な姿の敵だったが、弾は通るし、血も出る。ならば殺せる。それだけだ。
そこへ、背後から多数の足音が近づいてくる。
「状況を報告せよ」
坂本は即座に直立不動の姿勢をとった。
「中将閣下!」
硫黄島守備隊最高指揮官、栗林忠道中将が、幕僚を従えて現場に到着した。
栗林は軍刀に手を添え、転がる緑色の巨体を油断なく観察する。
「……地底人、か。御伽噺の世界だな」
「はッ。我々の坑道を逆侵攻しようとしておりました」
栗林は頷き、爆破された穴の向こう、どこまでも続く不気味な回廊を睨み据えた。
「坂本曹長。地上からの通信は途絶した。砲撃音も消えた。我々は、この島は世界から孤立したのやもしれん」
周囲の兵たちがざわめくが、栗林の一瞥で静まり返る。
「敵は米軍ではなくなった。だが、我々の使命は変わらん。生き残り、勝つことだ」
彼は指で回廊の奥を指し示した。
「この穴を放置すれば、いずれまた彼らが攻め込んでくる。座して死を待つより、我々は打って出る」
栗林の目は、冷徹な計算に満ちていた。
「この先に水と食料、そして資源があるなら、それを奪う。……曹長」
「はッ」
***
「違うよぉぉぉ!!」
ヴェルゴの絶叫が玉座の間に木霊した。
水晶玉の中で、人間たちが水平器とメジャーを取り出し、几帳面に工事計画を立てている姿が映し出されていた。
「なんで測量しだすの!? 攻めてくるなら走って来てよ! なんで入念に水平測ってるの!?」
こうして、硫黄島守備隊と魔王ヴェルゴの、長い長い一日が始まったのだった。
***
硫黄島、南端。標高一六九メートル、摺鉢山山頂。
かつてここからは、見渡す限りの太平洋と、水平線を埋め尽くさんばかりの米艦隊が見えたはずだった。
だが今、栗林忠道中将の眼前に広がっていたのは、絶望的なまでの「白」だった。
「……視界ゼロ、か」
栗林は双眼鏡を下ろした。
島は、乳白色の濃霧に包まれていた。それはただの気象現象としての霧ではない。風に流れることもなく、まるで壁のように島を取り囲んでいる。
先ほど、偵察機を飛ばそうとしたが、エンジンが原因不明の不調を起こし、離陸すらできなかった。小舟を出した斥候も、霧の中へ入った瞬間に方向感覚を失い、慌てて戻ってきたという。
「海が……消えましたな」
傍らの参謀が、震える声で言った。
波の音もしない。カモメの声もしない。あの忌々しい艦砲射撃の轟音も、今はもうない。
あるのは、耳が痛くなるほどの静寂だけだ。
栗林は軍刀の柄を強く握りしめた。
これで確定した。我々は、太平洋から切り離されたのだ。
補給もなければ、援軍もない。だが同時に、米軍の上陸も、空爆もない。
「……好機、と捉えるべきか」
栗林は踵を返し、火口へと続く道を歩き出した。
「米軍の脅威は去った。地上の防空壕に張り付いている必要はない」
「閣下、では……」
「兵力を地下へ回せ。水も食料も、地下の『地底人』から徴収する」
彼の背中からは、迷いが消えていた。
「我々はこの島で生き延びる。そのためなら、地獄の底まで掘り進むぞ」
***
一方、地下深く。
魔王ヴェルゴは、玉座の間で腕組みをしながら、水晶玉を睨みつけていた。
第5階層での失態は認めよう。あれは事故だ。だが、ここからは違う。
「ふふふ……ようこそ、第4階層『欺瞞の迷宮』へ」
ここは、侵入者の「知恵」と「精神力」を試すエリアだ。
力任せのオークとは違う。巧妙な罠、隠されたスイッチ、そして高度な謎解き。それらをクリアしなければ、先へ進む扉は開かない。
特に、現在彼らが足を踏み入れた『双子の女神の間』は、ヴェルゴの自信作だった。
二体の女神像が鎮座し、扉には古代語でこう刻まれている。
――『一人は真実を語り、一人は虚偽を語る。正しき問いを投げかけよ』
古典的だが、論理的思考力が試される高尚なパズルだ。間違った像に触れれば、天井から強力な溶解液がシャワーのように降り注ぐ。
「さあ、悩め。議論せよ。人間同士で疑心暗鬼になり、仲間割れをするのも一興……」
ヴェルゴはワイングラスを傾け、優雅に観戦を決め込んだ。
「君たちの文明レベルと知性、見せてもらおうか」
***
「曹長、行き止まりです」
先頭を進んでいた兵が報告する。
坂本曹長は、ヘッドランプの光を前方へ向けた。
そこは行き止まりというよりは、奇妙な祭壇のような部屋だった。正面には巨大な石の扉。その左右に、薄気味悪い女の石像が立っている。
「……扉に鍵穴なし。取っ手もなし」
坂本は石像と、扉に刻まれたミミズのような文字を見上げた。
「文字が書いてありますが、解読不能。おそらく、地底人の宗教的な施設、あるいは呪術的な結界かと」
「曹長、石像の口元に仕掛けらしき穴があります」
部下の指摘に、坂本は目を細めた。
「なるほど。ガス噴射孔か。……いやらしい罠を仕掛けやがる」
坂本の判断は早かった。
敵地における「意味ありげなオブジェクト」は、すべてブービートラップ(設置罠)と見なすのが工兵の鉄則である。
ましてや、今は地上からの援軍は望めない。不確実な「調査」で兵を失うわけにはいかないのだ。
「触るなよ。感圧式信管の可能性がある」
「どうしますか? 迂回路を探しますか?」
「いや、そんな時間は惜しい。中将閣下からは『最短ルートでの進軍』を命じられている」
坂本は、頑丈そうな石の扉をコンコンと叩き、その厚みを推測した。
「……厚さ三十センチといったところか。黄色火薬の出番だ」
「了解。発破準備!」
工兵たちが手際よく背嚢から爆薬を取り出し、扉の蝶番とおぼしき箇所、そして「怪しい」石像の足元にセットし始める。
***
「……ん?」
ヴェルゴの眉がピクリと動いた。
様子がおかしい。彼らは謎解きの文章を読んでいない。いや、読めないのは仕方ないとしても、像に話しかけるとか、床の魔法陣を調べるとか、そういう「探索」を一切していない。
いきなり、扉に粘土のような塊を貼り付けている。
「待て。それはなんだ」
ヴェルゴは水晶玉に身を乗り出した。
その塊から、導火線が伸びている。
「おい、嘘だろ? そこは『私は嘘つきですか?』って像に聞くシーンだぞ!? 知恵比べの場面だぞ!?」
彼らは躊躇なく作業を進める。さらに、あろうことか、美しい女神像の台座にも何かを仕掛けている。
「ちょ、やめろ! その像はカッラーラ大理石の特注品なんだ! 彫刻家に三年待ってもらってやっと納品されたんだぞ!?」
魔王の叫びは届かない。
カーキ色の服を着た小男が、無慈悲に導火線に火を点けた。
「退避ーッ!」
全員が部屋の隅へ走る。
「待って! 話せばわかる! ヒントをやろうか!? 正解は右だぞ!?」
ヴェルゴが慌てて水晶玉に向かって手を伸ばした、その瞬間。
ズドォォォォン!!
凄まじい爆音と共に、映像が激しく揺れた。
煙が晴れると、そこには無残な光景が広がっていた。
重厚な石の扉は粉々に吹き飛び、美しい女神像は上半身が砕け散って瓦礫の山と化している。
天井の溶解液トラップが誤作動し、誰もいない床に虚しく液体を垂れ流していた。
***
「状況よし。ガス検知なし」
坂本は、爆煙を手で払いながら、破壊された扉の跡を確認した。
「脆い造りだな。やはり、ただの装飾か」
彼は、砕け散った石像の頭部を軍靴で跨ぎ越えた。
「工兵隊、急げ! 瓦礫を撤去しろ。本隊の通路を確保し、道を拡幅するんだ」
「はッ!」
兵たちはスコップを振るい、手際よく「元・女神像」だった美しい大理石の残骸を、道の端へと寄せていく。
その作業はあまりに事務的で、ダンジョンの神秘性への敬意など微塵もなかった。彼らにとって、ここは「通りにくい道」でしかないのだ。
***
ヴェルゴは、玉座に力なく座り込んだ。
手で顔を覆う。
「……私の、女神像が……」
怒りよりも、徒労感が勝った。
彼らはルールを破っているのではない。ルールの存在すら認識していないのだ。
将棋を指そうと盤を用意していたら、相手が盤ごとひっくり返して「この板、焚き木に使えるな」と言ったようなものだ。
しかも、彼らの背後には、あの「霧」がある。退路を断たれた獣のような、必死さと合理性がそこにはあった。
「野蛮人……いや、違うな」
ヴェルゴは深い溜息をついた。野蛮人には、まだ信仰や迷信への恐れがある。だが彼らにはそれすらない。
「あいつらは……『シロアリ』だ」
美しい城を、ただの餌場として、中から食い荒らす害虫。
芸術も、歴史も、彼らにとってはただの障害物でしかない。
もはや、生半可なトラップなど通用しない。落とし穴を作れば埋めるだろうし、動く床があれば釘で固定するだろう。
彼らは「冒険」をしに来ているのではない。「整地」をしに来ているのだ。
「……わかったよ。そういうつもりなら」
ヴェルゴはゆらりと立ち上がった。その瞳に、魔王としての、そして作り手としての意地と昏い炎が宿る。
「力でねじ伏せるしかないようだな。小細工は終わりだ」
彼は次のエリア、第3階層『赤熱の闘技場』に意識を向けた。
そこには、謎解きなどない。
あるのは、最強の武力のみ。
「行け、機甲騎士。我が軍最強の騎士団よ」
ヴェルゴは口元を歪めた。少し引きつっていたが、必死に威厳を保とうとした。
「彼らに、戦場の作法というものを教えてやるのだ」
第3階層『赤熱の闘技場』。
ここは、その名の通り、周囲を溶岩流に囲まれた円形の巨大闘技場である。
観客席には、過去にこの地で散った亡者たちが幻影として鎮座し、新たな挑戦者の血を求めて歓声を上げる――はずだった。
「……静かだ」
魔王ヴェルゴは、玉座の間で額に脂汗を浮かべていた。
第4階層の突破から、数時間。
あの緑色のシロアリたちは、工兵隊による爆破と整地で、階段をスロープに変え、狭い通路を拡張し、驚くべき速度でここまで降りてきた。
だが、ここから先は違う。小手先の爆破工作など通じない。
ここは戦場だ。
「出でよ、機甲騎士隊。我が魔王軍の誇り高き精鋭たちよ」
ヴェルゴの召喚に応じ、闘技場のゲートが開く。
漆黒のフルプレートメイルに身を包んだ、首のない騎士たち。彼らは魔界の黒馬に跨り、青白く輝く魔剣を掲げて整列した。
その数、三十騎。
物理攻撃を弾く魔法装甲と、一撃で岩をも断つ剣技。正面からの激突であれば、人間など百人いても一分とかからず蹂躙できる。
「さあ、見せてみろシロアリども。正々堂々、騎士と騎士の戦いを……!」
***
ズズズズズ……。
地響きが、闘技場の石畳を震わせた。
亡者たちの幻影がざわめく中、日本軍側のゲート――先ほど工兵隊によって強引に爆破拡張された入り口――から、黒い鉄の塊が姿を現した。
履帯が石を噛み砕く、不快な金属音。
そして、周囲の硫黄臭すら書き消す、強烈な排気ガスの臭い。
九七式中戦車「チハ」。
その砲塔ハッチから、優雅に上半身を出している男がいた。
戦車第二十六連隊長、西竹一中佐である。
「……ほう」
西は、愛用の鞭を手に、眼前の光景を見回した。
溶岩の赤光に照らされた闘技場。そして、整然と並ぶ中世の騎士たち。
「バロン西、いかがですか」
随伴する歩兵と共に現れた坂本曹長が問う。
「うむ。悪くない馬場だ。……それに、敵もなかなか礼儀を知っていると見える」
西の視線の先で、騎士団の先頭に立つひと際大きなデュラハンが、馬を進み出た。
デュラハンは、小脇に抱えた自分の首を高く掲げ、朗々たる声(首からではなく、鎧の空洞から響く魔力音)を上げた。
『我は魔王ヴェルゴ様が配下、近衛騎士団長ガウェイン! 異界の戦士たちよ、その蛮勇に敬意を表し、一対一の決闘を申し込――』
「距離、八〇〇」
西中佐は、敵の口上などBGMか何かだと思っているかのように、冷静に距離を目測した。
「敵影確認。重装騎兵と認む」
彼はハッチから身を乗り出したまま、車内の砲手に声を落とす。
「相手は密集している。狙いは中央の指揮官機だ。……一斉射撃」
「はッ、徹甲榴弾、装填よし!」
砲塔が旋回する。
四十七ミリ戦車砲の黒い砲口が、騎士団長ガウェインの(抱えられた)首と、胴体の中心にピタリと吸い付いた。
***
『――いざ、尋常に……』
ガウェインが魔剣を振り下ろそうとした、その刹那。
ドォォォォン!!
轟音と共に、戦車の砲口からオレンジ色の閃光が走った。
音速を超えて飛翔する鋼鉄の塊は、ガウェインの魔法障壁を紙のように突き破り、その黒い鎧を胸部ごと粉砕した。
ドゴォォン!
着弾の瞬間、弾頭内の炸薬が破裂。
騎士団長は「ぐ」という声すら上げる暇もなく、上半身を消し飛ばされて飛散した。
抱えていた首が、放物線を描いて虚しく地面に転がる。
「なっ……!?」
ヴェルゴは玉座から転げ落ちそうになった。
「あ、あいつ! まだ名乗り口上の途中だぞ!? 『決闘を申し込む』まで言わせてやれよ!!」
だが、鉄の野獣たちは止まらない。
先頭の車両に続き、後続のチハ車、そして九五式軽戦車が次々と闘技場になだれ込んでくる。
ズドオン! ズドオン!
次々と放たれる砲弾。
密集隊形をとっていた騎士団は、格好の的だった。一発の榴弾が炸裂するたびに、数騎の騎士が黒馬ごと吹き飛び、鉄屑へと変わる。
『ひ、卑怯な! 魔法を撃つなら詠唱をしろ!』
『散開せよ! 散開!』
生き残ったデュラハンたちが叫び、馬を走らせる。
彼らの機動力は高い。魔界の馬は壁さえ走る。肉薄して魔剣を振るえば、鉄の箱など切り裂ける――はずだった。
ダダダダダダダダダッ!!
戦車に同軸装備された重機関銃と、車体の前方機銃が火を噴いた。
七・七ミリ機銃弾の暴風雨。
接近しようとした騎士たちは、見えない死の鞭に打たれたように、次々と蜂の巣にされ、踊るように崩れ落ちていく。
***
「……鎧袖一触とはこのことか」
西中佐は、ハッチから身を乗り出したまま、優雅に土煙を眺めた。
彼の愛馬に比べれば、あの黒い馬の動きは直線的すぎた。
「前進せよ。踏み潰して構わん」
西の号令で、戦車隊が前進を開始する。
キャタピラが、倒れた騎士の鎧を、剣を、そして誇りを、無慈悲に踏み砕いていく。
バキバキと音を立ててスクラップになっていく「最強の騎士団」。
坂本たち歩兵部隊は、戦車の後ろに隠れるように進みながら、まだ動いている残骸にトドメの銃弾を撃ち込んでいく。
「掃討完了。……全滅と認む」
坂本は、地面に転がっているデュラハンの兜を蹴り飛ばした。
「……中世の騎士道ごっこか。付き合ってられんな」
彼らの背負っている現実は、もっと過酷で、余裕のない世界なのだ。名乗りを待ってくれる敵など、硫黄島の空にはいなかった。
***
玉座の間は、静まり返っていた。
ヴェルゴは、震える手で顔を覆った。
「……私の、最強騎士団が……三分……いや、一分か?」
一撃も入れることなく。剣を交えることすらなく。
ただ一方的な暴力によって、鉄屑にされた。
「あいつらは……なんなんだ」
恐怖。
初めて、魔王ヴェルゴの心に、明確な恐怖が刻まれた。
あれは冒険者ではない。英雄でもない。
あれは、ただ「殺すこと」と「破壊すること」に特化した、無機質なシステムだ。
感情も、物語も、ドラマもない。
ただ、邪魔なものを排除して進む、巨大な鉄のローラーだ。
「来る……ここへ来るぞ……」
モニターの向こう。
赤熱の闘技場を制圧した戦車隊の砲塔が、一斉にこちら――最深部へと続く大扉に向けられるのが見えた。
その砲口の暗闇が、ヴェルゴには、自らを喰らい尽くす死の深淵に見えた。
第2階層『安らぎの大平原』。
そこは、地下であることを忘れさせるような、偽りの青空と緑の草原が広がる広大な空間だった。
魔王ヴェルゴは、震える手で最後の指令を下した。
「……認めよう。あいつらは強い。個の力においては、我が軍の精鋭をも凌駕する」
騎士団が壊滅した光景は、トラウマとして彼の脳裏に焼き付いていた。
だが、戦争は「個」ではない。「数」だ。
ヴェルゴは、歪んだ笑みを浮かべた。
「いくらあの『雷の杖』が強力でも、回数には限りがあるだろう? 装填の隙もあるだろう? ならば、その隙間を埋め尽くすほどの肉の壁で押し潰せばいい」
彼はダンジョン内に生息する魔物たちをすべて招集した。
ゴブリン、オーク、オーガ、人狼、巨大蜘蛛。
その数、五〇〇〇。
統率などない。ただ「目の前の敵を喰らえ」という本能だけを刺激された狂乱の群れ(スタンピート)だ。
「行け! 津波のように飲み込め! 奴らはせいぜい数十匹、あの『鉄の獣』も数匹だ。踏み潰せ!」
地平線を埋め尽くす魔物の大群が、雄叫びを上げて疾走を開始した。
***
「……来ましたな。まことに地下とは思えません」
草原の丘陵地帯。
栗林忠道中将は、双眼鏡で地平線を真っ黒に染める魔物の群れを確認した。
「数は?」
傍らの参謀が即答する。
「概算で五〇〇〇。密集隊形で、遮蔽物のない平原を直進してきます」
「五〇〇〇か」
栗林は鼻を鳴らした。
米軍の上陸予想兵力は、数万から十数万と言われていた。それに比べれば、なんと可愛らしい数字か。
しかも、彼らには航空支援もなければ、艦砲射撃もない。ただ叫びながら走ってくるだけの的だ。
「全軍、展開完了しております」
栗林は背後を振り返った。
そこには、異様な光景が広がっていた。
見渡す限りの草原を埋め尽くす、カーキ色の津波。
硫黄島守備隊、総兵力二万一千名のうち、地下攻略作戦に投入された主戦力、一万五千名。
無数の三八式歩兵銃、九九式軽機関銃、九二式重機関銃が、整然と射線を形成している。後方には、分解して搬入された速射砲や山砲が、鎌首をもたげるように砲口を並べていた。
魔王は知らなかったのだ。
彼らが、たった数十人の冒険者パーティーなどではなく、国家総力戦を戦うために組織された「軍団」であることを。
「魔王とやらは、我々を少数だと思っているらしいな」
栗林は軍刀を抜き放ち、静かに振り下ろした。
「教育してやれ。戦争における『数』の意味を」
***
魔物たちは歓喜していた。
目の前にいるのは、柔らかそうな人間たちだ。数は多いように見えるが、所詮は餌だ。我々の暴力的な突進を止められるはずがない。
先頭のオーガが、人間の防衛線まであと五百メートルに迫る。
その時。
ヒュルルルルルル……
空気を切り裂く音が、偽りの空に響いた。
ズドォォォォン!!
オーガの身体が、爆風で宙に舞った。
それを合図に、地獄の蓋が開いた。
ドオン! ドオン! ドオン!
後方支援部隊による一斉砲撃。高性能榴弾が、密集する魔物の群れの真ん中で次々と炸裂する。
逃げ場などない。爆心地では手足が千切れ飛び、衝撃波が内臓を破裂させる。
「ガァァァッ!?」
魔物たちが混乱し、足を止めた瞬間。
ダダダダダダダダッ!!
『キツツキ』の異名を持つ九二式重機関銃が一斉に火を噴いた。
一分間に五百発の弾丸を吐き出す銃口が、横一列に百門以上。
それは「点」の攻撃ではなく、「面」の制圧だった。
見えない死のラインが平原に引かれ、そこに触れた魔物は、草を刈るように物理的に切断されていく。
五〇〇〇の魔物は、日本軍の陣地に指一本触れることすらできず、ただ血飛沫を上げて崩れ落ちていく。
***
「な……な、な……」
ヴェルゴは、水晶玉の前で言葉を失っていた。
映像の中で起きているのは、戦闘ではなかった。
作業だ。
屠殺場で行われる、淡々とした処理作業だった。
「なんだあの数は! どこから湧いて出た!?」
煙が晴れた向こう側に、ヴェルゴはようやく「それ」を見た。
地平線を埋め尽くす、一万を超える兵士の姿を。
五〇〇〇の魔物が、まるで子供の遊びに見えるほどの、圧倒的な暴力の質量。
魔王軍の「数」など、近代国家が動員する「軍隊」の前では、誤差でしかなかったのだ。
「一万……いや、もっといる……」
ヴェルゴはガタガタと震え出した。
勝てるわけがない。質でも負け、量でも負けた。
相手は勇者ではない。
この世界そのものを塗り潰しに来た、災厄の軍隊だ。
***
「撃ち方やめ」
静かな号令が響く。
草原は、赤黒い泥濘へと変わっていた。動くものは何もない。
五〇〇〇の魔物は、わずか十分足らずで「肉塊」へと変わった。
「弾薬の消費、想定の範囲内」
坂本曹長は、熱を帯びた機関銃の銃身を交換させながら報告した。
栗林中将は、硝煙の匂いを深く吸い込み、冷徹に頷いた。
「米軍相手なら、こうはいかん。」
彼は、死体の山脈の向こう、第1階層へと続くゲートを見据えた。
「だが、ここの敵は愚直だ。……楽な戦争だな」
それは、硫黄島という死地で戦う覚悟を決めていた男にとって、皮肉でもなんでもない、偽らざる本音だった。
「進め。次が本丸だ。魔王とやらに、降伏の機会を与えてやろう」
一万五千の軍靴が、一斉に地面を踏み鳴らす。
その音は、魔王ヴェルゴにとって、死神の足音のように響いていた。
第1階層『魔王の玉座』。
ダンジョンの最深部にして、最高の中枢。
かつて荘厳だったその空間は、いまやバーナーの青い炎と、無粋な金属音に支配されていた。
ガガガガガガ……!
ドォン!
黒檀の扉が焼き切られ、内側へと倒れ込む。
土煙と共に、カーキ色の軍服を着た男たちが雪崩れ込む。銃剣を煌めかせ、部屋の四隅を即座に制圧する手際は、芸術的ですらあった。
「クリア!」
「制圧!」
怒号の後、軍靴の音が響く。
入ってきたのは、陸軍中将・栗林忠道。そして、コードの束を肩に担いだ工兵・坂本曹長だ。
玉座の前でへたり込んでいた魔王ヴェルゴは、震える膝を叱咤して立ち上がった。
せめて、最後は魔王らしく。
「よ、よくぞ来た! 我が迷宮を踏破せし、異界の……」
「貴様が管理者か」
栗林の低い声が遮った。彼は魔王の顔など見ていない。その視線は、玉座の背後に浮遊する巨大な紫色の結晶体――『ダンジョンコア』に釘付けだった。
「あ、はい……魔王ヴェルゴですけど……」
「本官は大日本帝国陸軍中将、栗林忠道である。単刀直入に聞く」
栗林は、切迫した表情でコアを指差した。
「あれを使えば、元の世界――『日本』へ帰れるか?」
その問いに、ヴェルゴは瞬きをした。
彼らは侵略者ではない。漂流者だったのだ。
「か、帰る? 理論上は……可能です。現在、この島は次元の狭間で『宙ぶらりん』の状態ですから。コアの魔力流を逆転させ、元の座標へ再接続すれば……」
「よし」
栗林の顔に、安堵と決意の色が浮かんだ。
「聞いたか坂本曹長。帰れるぞ。我々の任務は、この島を死守することだ。異世界で油を売っている場合ではない」
「はッ! 直ちに帰還シーケンスへ移行します!」
坂本がドカドカと祭壇に上がり、コアに工具を当て始めた。
「ひぃッ! ちょ、ちょっと待って!」
ヴェルゴが悲鳴を上げて止めに入ろうとした。
「なにをする気だ!? 魔力流の逆転には、繊細な儀式と詠唱が必要で……」
「儀式? 詠唱? そんな御伽噺なものに頼れるか」
坂本は魔王を突き飛ばし、テスターとドライバーを構えた。
「エネルギーの流れなんざ、電気も魔力も一緒だろ。プラスとマイナスを入れ替えて、過電流を流し込めば逆流するはずだ」
「はあ!? バカなこと言うな! そんな乱暴なことをしたら……」
「黙れ! 工兵の技術をナメるなよ。俺は鉱山の排水ポンプだって直したんだ」
坂本はコアの台座を開け、発光する魔術回路に、太い銅線を無理やりねじ込んだ。
そして、持ち込んだ手回し式発電機と、大量の「黄色火薬」を用いた衝撃起爆装置を接続する。
「じゅ、準備よし! 強制帰還、やります!」
「やめろぉぉぉ! それは逆転じゃない! 『カシメ』になっちゃう!!」
ヴェルゴの絶叫。
だが、栗林は頷いた。
「やれ」
「点火ッ!」
バチバチバチッ!!
ドォン!!
物理的な電気ショックと、爆破の衝撃がコアを襲った。
繊細な魔術回路がショートし、コアが悲鳴のような高周波を放つ。
ブォン……!
空間が歪む、重い音。
栗林と坂本は、景色が日本のものに変わることを期待して身構えた。
だが。
世界は、ガクンと大きく揺れ――そして、完全に「閉じた」。
***
現実世界。
硫黄島近海。
アメリカ海軍第五艦隊、旗艦インディアナポリス。
スプルーアンス提督は、水平線を埋め尽くす大艦隊の中央で、腕時計の秒針を睨んでいた。
攻撃開始時刻(Hアワー)まで、あと五秒。
歴史的な上陸作戦が始まる。何千もの命が失われるであろう、地獄の蓋が開く。
「全艦、一斉射撃用意。……三、二、一……」
その瞬間。
提督の視界から、硫黄島が「落ちた」。
爆発したのではない。沈没したのでもない。
まるで、神が「この島はここにあるべきではない」と判断し、座標ごと切り抜いたかのように。
山も、岩場も、地下要塞も。島が存在していた空間が、唐突に「完全な空洞」へと変わった。
残されたのは、世界に穿たれた巨大な穴だけ。
「……は?」
提督が間の抜けた声を上げた、直後。
物理学の冷徹なしっぺ返しが始まった。
島の消失によって生じた、直径数キロ、深さ数百メートルに及ぶ、海上の巨大な真空地帯。
そこへ向かって、周囲の海水が一斉に崩落した。
ゴオォォォォォォォォォッ!!
数億トンの海水が、中心一点に向かって時速数百キロで殺到する。
全方位からの水流が中心で激突した瞬間。逃げ場を失った運動エネルギーは、熱と破壊的な衝撃波に変換され――海面そのものが爆発した。
ズドォォォォォォォォォン!!
計算上のエネルギー係数は、数メガトン級。
中心から天を貫く巨大な水柱が、雲を突き破って立ち昇る。
同時に発生した衝撃波と、局所的な大津波が、円周状の「壁」となって広がっていく。
島を取り囲むように展開していた第五艦隊は、その破壊のリングを至近距離で浴びた。
「総員、衝撃に備え――ッ!!」
駆逐艦は枯葉のように宙を舞ってへし折れ、戦艦は横倒しになり、空母は甲板を圧壊させて沈んでいく。
悲鳴を上げる暇すらなかった。
人類最強の艦隊が、ただの「水」の暴力によって、一瞬で鉄屑へと変わった。
***
数分後。異世界。
揺れが収まった玉座の間で、栗林は顔を上げた。
「……どうだ、曹長。戻ったか?」
坂本は、携帯していたコンパスと気圧計を確認し、そして青ざめた顔で首を振った。
「……いえ、閣下。磁場がデタラメです。それに、外の気配が……」
そこへ、髪を振り乱したヴェルゴが、幽鬼のような顔で近づいてきた。
「……おめでとうございます」
「あ?」
「あなたたちの素晴らしい『修理』のおかげで、次元のアンカーが完全にロックされました。もう二度と、元の世界には戻れません。この島は、永遠にこっちの世界のものです」
ヴェルゴは乾いた笑い声を上げた。
「あーあ! 言わんこっちゃない! 魔法を物理で殴るからこうなるんだよ!」
栗林と坂本は顔を見合わせた。
沈黙が流れる。
だが、数秒後。栗林はフッと息を吐き、軍刀を鞘に納めた。
「……ならば、仕方あるまい」
その切り替えの早さは、まさに野戦指揮官のそれだった。
「帰れぬなら、ここを新たな『本土』とするまでだ。……曹長、発電機を回せ。まずは生活基盤の確保だ」
「はッ! ……まあ、米軍と撃ち合うよりは、マシな余生かもしれませんな」
坂本もまた、ニヤリと笑って工具を握り直した。
***
その後、現実世界では大騒ぎとなっていた。
米国は「日本軍が重力崩壊兵器を使用。第五艦隊全滅」と恐怖し。
日本は「米軍が島嶼消滅兵器を使用。硫黄島守備隊全滅」と絶望した。
お互いが「相手は国を丸ごと消せる兵器を持っている」と誤解した結果、昭和二十年春、異例の早期講和が成立。
原爆も、沖縄戦も、歴史の闇へと消えた。
そして、歴史から消えた硫黄島守備隊は。
異世界の大地で、今日も元気に魔物を追い回し、畑を耕し、たくましく生きていた。
「おい課長(元魔王)! オークがサボってるぞ! 指導してこい!」
「はいはい、ただいまぁ……!」
彼らは、アメリカ艦隊をも、異界迷宮をも、そして悲劇の運命をも。
完全に、『撃滅セリ』。
(完)
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