表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/38

第4話 私はお金で買われるそうです

 理解が追いつかない私に、九条さんは分かりやすく語ってくれた。


 


 どうやら九条さんの種族は、人の生命力?を糧として、生きる種族らしい。


 人間が摂取する食事だけでは栄養を賄いきれず、人の体液を摂取しないと生きてはいけないそうだ。


 昨日、私を襲った理由も極度の空腹からだと説明してくれた。




「一応尻尾で相手に巻き付けば、体液を摂取せずとも補給は出来るんだけど、かなり効率が悪くて」


「それで私に寄生したいと」


「言い方はなんかアレだけど、まぁそういうことになるかな」




 拒否権は無い。


 従うしかないし……理由だけ聞くと、彼女も生きるために必死だというのは理解出来た。


 私にお鉢が回ってくるのは、少し……いや、とても不快だけど、こうなってしまったものは仕方ない。




「…………はぁ。分 か り ま し た !引き受ければ良いんですよね、引き受ければ!!」


「うん!そう言ってくれてすっごく嬉しいよ!ありがとう!」


「ただし、一つ変えて欲しい条件があります。私がこれ以上気分悪くならないために、絶対に必要なことです」


「……私が辛くならない条件なら、どこを変えてもらっても大丈夫だけど?」




 ……この女。


 どこまでも自分本位な言動しかしない。




「…………一万円は、だめです」


「安すぎるって事? あちゃ〜、五万円を昨日渡しちゃったのは失敗だったかな……」


「違います!!!!……高すぎるって事です!」


「え…………?」




 九条さんは、ぽかんとした顔で瞬きを繰り返していた。


 きっと、予想外だったのだろう。




 こんな人の為に、私が譲歩する必要はないかもしれないが……それでも、この少ない時間にどれだけ考えても、やっぱり答えは変わらない。




「なので……そうですね。一回2000円くらいでお願いします……」




 これでもきっと、充分すぎるほど高いと思う。


 私も最低な事をしてる自覚は勿論ある。真性の屑だ。


 だけど九条さんは、出会った日にとんでもない事をしでかしてくれている。


 それを思えば、私だってこのくらいやり返しても良いだろう。




「本当にその条件で良いの? 後悔しない?」


「後悔なんて……あの日、体調が悪い貴女を送ったことを、一生分後悔してますよ」




 私の言葉に、九条さんは一拍置いてふわりと笑った。


 


「言うね。……じゃあ、これからよろしく」




 彼女の口元に浮かぶ微笑みは、どこまでも自然で、まるで何事もなかったかのようだった。




 だけど私は、その笑みに返す言葉を持たなかった。ただ、静かに視線を逸らす。




「……おい、そこで何をしている! 」




 突然、教室の扉が勢いよく開き、担任の怒声が飛び込んできた。




 びくりと肩が跳ねる。


 反射的に立ち上がると、入り口には腕を組んだ教師の姿。


 顔をしかめ、明らかに不機嫌な様子だった。




「放課後に教室を占拠して、何を遊んでるいるんだ?」




 何も言い返せないまま、私はただ「すみません」と小さく頭を下げた。




「用が無いのならすぐに帰りなさい」


「……はい」


「は〜い」




 私達は流されるまま、昇降口まで足早に移動した。






 私達は階段を下りきり、昇降口の扉をくぐると、ふわりと湿った風が頬を撫でる。


 外はまだ、雨が降り続いていた。




「そういえばあんな場所に座ってたけど、もしかして、傘を忘れたの?」




 九条さんが横目でこちらを見る。


 どうでもいいような、でもどこか探るような声色だった。




 私は返事をするのが億劫で、ただ黙って小さく頷いた。




「ふ〜ん」




 それきり九条さんは何も言わず、ただ静かに傘を開いた。


 布地に落ちる雨粒の音が、鈍く響く。




 私はその場に立ち尽くしたまま、雨が弱まるのを待とうと、昇降口の柱にもたれかける。


 なるべく彼女とは関わらないように。これ以上、距離を詰められたくなかった。




 ……けれど、次の瞬間だった。




「ちょっと」




 不意に、手首を掴まれる。




「え……?」




 戸惑う間もなく、そのままぐいと引っ張られた。


 バランスを崩しそうになりながらも、引かれるままに一歩踏み出すと――




 気づけば、九条さんの傘の中にいた。




「な、何をするんですか?!」


「忘れたんなら一緒に帰ろうよ。家は私と近いでしょ?」


「そんなの関係無いです。貴女に借りなんか作りたくないので、一人で帰って下さい!」




 はっきりと突っぱねるつもりだった。だけど――




「まぁまぁ、固いこと言わないで。謝罪といっちゃアレだけど、帰り道でケーキくらいなら奢るよ?」




 九条さんは、お構いなしに私の手を握ったまま歩き出す。


 その声は軽やかで、まるで私の反応なんて初めから予測済みのようだった。




「…………」




 ケーキ、か。


 こんな状況でそんな誘いに揺れる自分が情けない。


 でも、雨の中を一人で帰るのは面倒だったし、何より、奢りなら……まぁ、別にいいかもしれない。




「……分かりました。仕方ないので九条さんについて行ってあげます。……でも、私は高いのをいっぱい買いますからね?」




 にべもなくそう言うと、九条さんは楽しそうに笑った。


 


「えぇ〜? さっきは一万円から二千円にしてくれるとか言ってたのに、ここで欲張るの?」


「何言ってるんですか。貴女は今日、私に腹パンしたんですよ? この件を思い返せば、これくらいの欲を出しても許されると思いませんか?」


「……ん〜、そうかも……?」




 九条さんは、私の反論を楽しむように笑いながら、傘の柄を傾けて歩き出した。


 私はその隣で、黙って足を揃える。




 雨はまだ止む気配を見せないけれど、打ちつける音は不思議と遠く感じられた。


 傘の中に、妙な時間だけが流れていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ