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転校生の女の子にぐちゃぐちゃに抱かれた挙句、体を買われるハメになったけど!心だけは絶対に屈しない!!  作者: 中毒のRemi


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第36話 男子に告白されて楽しそうな一花 (九条桃音:視点)

 バレンタインが近づいている。

 コンビニもスーパーも、ありとあらゆる売り場がチョコに染まりはじめていた。


 例年なら、そんな行事に特段の感情を抱くこともなかったけれど――今年は違う。

 何日も前から、私は下調べをして、材料を選び、試作まで済ませている。


 ……もちろん、全部、一花のためだ。


 義理でも、友達でもない。

 けれど「本命」と名乗るほどの関係でも、まだきっとない。

 だからこそ私は、その狭間を埋めるように、言い訳できない形の想いを込める。


 チョコレートの甘さに隠してでもいい。

 一花に、ちゃんと“伝える”ための準備を、私は着々と進めていた。


 そんな折、休み時間で。

 一花が鞄を少しだけ開いて、中から小さな箱を覗かせてこう言った。


「九条さん。バレンタインって、やっぱり手作りの方が嬉しいんですかね?」


 私は一瞬、思考が止まった。

 思わず反射的に、彼女の手元の箱に目が向く。


 けれど彼女は、それを気にするふうもなく、続けた。


「実は今、ちょっとだけ頑張ってて。あの子のために、友チョコ作ってみようかなって……」


 あの子。

 あの教室で、一花にまっすぐ声をかけた、あの男。


 チョコの箱は小さくて、飾り気もない。でも一花が自分の手で作った、それは間違いなく“誰かのため”の何かだった。

 友チョコ。そう言いながら、その声にはほんの少しだけ、いつもより明るい温度があった。


「でも渡すとき、変に勘違いされたら嫌ですよね。……ちょっと迷ってます」


 私は笑った。

 笑ったつもりだった。

 でも自分の表情が、きっとひどく引き攣っていたことに気づく。


「そう……。そういうの、喜ぶんじゃない? きっと、あの子も」


 口が勝手に動いた。

 歯の裏に何か苦いものがまとわりつくようで、視線を外したくて仕方なかった。


「じゃあ、やっぱり作ってみようかな。あくまで、友チョコとしてですが」


 一花は嬉しそうに笑う。


 その笑顔を見ながら、私は、手元のレシピ帳の中身を思い浮かべていた。

 一花の好きな甘さ、食感、香り――何度も試して、ようやく決めたラインナップ。

 それはたったひとつの想いに捧げるものだったはずなのに。


 今、私の中で、全部が音を立てて崩れていく気がした。


 


 ――別に、恋人じゃない。


 一花は自由だし、誰かに何かをあげようが、それは私が決められることじゃない。

 でも。


 でも、なんであの子にはあんな顔を見せるんだろう。

 なんで、私には見せたことのない、あんな“楽しそうな迷い”を抱えてるんだろう。


 私といるときは、あんなに気を遣っていたくせに。


 どうして、そんなふうに他人には心を開けるんだろう。



 ---

 


 その夜。

 私はキッチンに立ち、湯煎の中でゆっくりと溶けていくチョコを見つめていた。


 気温のせいでも、火加減のせいでもない。

 手が、わずかに震えている。


 甘さを調整するための砂糖を、一度、計量カップに注いでから捨てた。

 もう一度、計った。

 また捨てた。


 何が正解なのか分からなくなっていた。


 こんな不安定な気持ちで作るくらいなら、やめた方がいいんじゃないか。

 でもやめたら、それこそ“渡さない”という選択肢を自分が選んでしまうことになる。


 一花が、誰かに手作りを渡す。

 だったら私も、私にできる一番を差し出したい。


 ――それが報われないことだったとしても。


 でも、今さら止まることなんて、できるわけがなかった。


「……なにやってんの、さっきから」


 不意に背後から声がして、私は肩を震わせた。

 振り向かなくても分かる。琴音だった。


「何度も作り直してるみたいだけど。別に焦がしてるわけじゃないんでしょ?」


 気怠そうな足音が近づいてくる。

 ただ、それがなぜか、今の私には重く感じられた。


「……琴音には関係ないでしょ」

「そりゃそうだけど。うるさいのよ、さっきから。道具ガチャガチャさせて」


 鋭い言い方。でも、責めてるわけじゃないことも分かる。

 琴音の口調には、どこか距離を保った優しさがある。


「バレンタインでそんなに必死ってことは……好きな人、できたんだ」


 あきれ半分、探るような声。

 私は少しだけ沈黙して、ぽつりと答える。


「……一花に、渡すためのものよ」


 短く言ったその瞬間、背後の気配がわずかに止まる。

 静けさのあと、琴音が口を開いた。


「ふ〜ん。お姉ちゃんが一花ちゃん襲った話は聞いてるけど、そんなに悩むほど好きだったんだ」


「……うん」

「でも一花ちゃん、あの時、めちゃくちゃ頑張ってお姉ちゃん守ってたじゃん。相思相愛なんじゃないの? 何か問題ある?」

「……それは」


 言い淀みながら、私は一花が他の男子から告白されたこと、そしてその相手のためにチョコを作ろうとしていたことを打ち明けた。


 琴音は、目を細める。


「なるほどね。たぶん一花ちゃん、他にまともな友達いないでしょ? 初めての告白にテンション上がってるだけだよ」


 あっさりと言うその声に、私はほんの少し救われる気がした。

 でも、だからといって答えは見えない。


「……だから、どうしたらいいのか分からないの」


 思わずこぼれた言葉に、琴音はほんの少しだけ間を置いてから言った。


「……だったら、告白しなよ。お姉ちゃんが」

「えっ……?」

「してないでしょ、まだ。告白」


 私は、息を飲む。


「今のまま“なんとなく”でごまかしてたら、負けるよ。相手が男でも女でも関係ない。一花ちゃん、お姉ちゃんのために体張るくらいには想ってるんでしょ? だったら、真っ直ぐぶつけなきゃ」


 真剣な声だった。


 脅すでもなく、慰めるでもなく、ただ事実を告げるように。


「……だってさ、黙ってたら伝わらないでしょ。そんなの、ずるいじゃん。一花ちゃんに」


 ずるい。


 たしかに、私はずるかったのかもしれない。

 想いを隠して、でも隣にいたくて。

 おそらく一花が他の誰かと付き合ったとしても、今の関係は維持できるし……

 形だけの関係に、甘えていた。


 ――だったら。


 私は、もう一度、砂糖の量を見直した。

 余計な迷いを捨てるように、計量カップを持つ手をしっかりと握り直す。


 ここからが、本当の始まりだ。

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