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転校生の女の子にぐちゃぐちゃに抱かれた挙句、体を買われるハメになったけど!心だけは絶対に屈しない!!  作者: 中毒のRemi


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第32話 大失敗

 そして琴音に案内されて通されたのは、屋敷の東棟にある彼女の部屋だった。


 渡り廊下を抜けた先、古い木戸を引くと、広々とした畳の間が現れる。

 障子越しに柔らかな光が差し込み、どこか懐かしさと落ち着きを感じさせる空間だった。


 だが、部屋の奥にはベッドとデスクが据えられ、和の中に洋が巧妙に混ざり合っている。

 学習机の上には最新型のノートパソコンと、可愛らしい文具の数々。そして壁際には、アニメのポスターや推しらしきグッズがぎっしりと並べられていた。


 和と洋、落ち着きと趣味が混ざり合ったその空間は、まさに琴音そのものという感じだった。


 ――ただ、一つだけ違和感がある。


 窓際の障子の桟に、一羽のカラスが止まっていたのだ。

 艶やかな羽根に、鋭く光る双眸。まるで見下ろすようにこちらを見つめている。


「……九条さんの家ってカラスも飼ってるんですね。屋敷の雰囲気にも合ってるし、かっこいいと思います」


 私は琴音が用意した座布団に腰掛けながら、冗談半分のつもりでそんな言葉を口にする。

 すると琴音は困ったように眉をひそめた。


「一花ちゃん、それ、そういうのじゃなくて……」


 と、次の瞬間――


「――(百合園 紀玲)だ」


 カラスが喋った。

 いや、声が、響いた。

 意識に直接突き刺さるような、くぐもった低音。


 ……もう、流石に2回目となると、名乗られなくても分かる。


「……貴女だったんですか……」


 思わず肩を落とす。

 さっきまでのささやかな感動を返してほしい。

 まさか、またもやこの形で出会うとは。


「もしかして、百合園さんの今のマイブームはそれなんですか?」

「そんなわけがないだろう。本体が今、手を離せない状況にある。だから仕方なく、動物を介して会話しているだけだ」

「うん、紀玲ちゃん本人は、うちの両親と今お話してる最中なの」

「あー、そういう……」


 思い出す。

 

 九条さんの一件で、この家と百合園さんには浅からぬ縁があったはずだ。

 それにこの前、病院で琴音に出会って、話は少し聞いている。

 

 おそらくは、その定期的な連絡か――あるいは説明か。

 私が軽々しく触れていい話題じゃない。

 深入りせず、流すべきだろう。


「それで、今日はこの家で何をするんですか? 私、友達の家に遊びに行くって経験が――あっ」


 言った瞬間、後悔した。

 しまった、墓穴を掘った。


「やっぱり無いんだ〜。さっきの質問、ちょっと不自然だと思ったんだよね」


 琴音が、にこにこと悪意なく笑う


「大空一花さんは、歳上としての余裕を見せたかったそうだ。あまり突いてやるな」

「……ぐぅ……こいつら……」


 ああもう最悪。

 気遣って話題を変えようとしたのに、この仕打ち。

 恥をかくくらいなら、黙っていればよかった。


「一花ちゃん、その反応ほんと可愛いよ〜。身長差と相まって、小動物みたい」

「……っチ」


 小さく舌打ちをした私に、琴音はますます楽しげな笑みを見せる。


「まぁ、からかうのはこれくらいにして――それじゃあ、本題。お腹の傷について、詳しい内容を聞きたいな〜って」

「あぁこれですか、私は良いんですけど……」


 話していい内容かどうかの判断は私では難しい。

 というか、病院の時は話を知ってる風だった気がするけど、この感じだと全部を教えたわけじゃないのか……

 

 あの件を本当に収めたのは、兄と――百合園さんのほうだ。

 念のため、百合園さんを一瞥する。


「話したいのなら好きにすればいい。特に問題はない」

「そうですか? なら、話しましょう。別に面白い話でもないですけどね」


 そう言って私は、あの日の出来事を、静かに語ることにした。

 



 ---




 話の始まりは、11月上旬。九条さんの様子が微妙に変わり始めたころだった。

 そこから、頬を打たれたこと。クリスマスにあった、あの夜の村上の家での出来事。

 順を追って話すほどに、どんどん内容は重くなっていく。


 ――いや、正直に言えば。

 その半分は、実質的に九条さんの愚痴みたいなものだった。

 陰口と言われれば否定できない程度には、私情が混ざっていた。


 私個人としては、それほど面白い話でもないと思っていた。

 けれど、琴音はにこにこと楽しそうに聞いてくれて……そしてなぜかカラスの姿のまま、百合園さんもすぐ隣で、静かに黙って聞いている。


 話しながら私はふと、九条さんがそろそろ戻ってくるかと思っていたけれど、姿を見せる気配はなかった。

 おそらく私の部屋を片付けたり、夕飯の準備でもしているのだろう。

 ……自分で言っておいてなんだが、やっぱり通い妻か何かじゃないだろうか。


 話は次第にこの騒動の枠を越え、日常の愚痴大会へと流れていく。

 琴音が普段から感じていた九条さんへの不満をぽろりとこぼし、私もプールで話さなかった兄の最低なエピソードで応じた。

 すると百合園さんまでもが、淡々と、けれど容赦のないトーンで兄の悪行を口にし始める。


 ……なんだこのノリ。

 まるで家族の悪口だけで構成された女子会じゃないか。


 それでも妙にテンションは高かった。

 百合園さんなんて、九条家の親たちと何やらやり取りしつつ、こちらの会話にも並行して参加している。

 本当に、一人だけ処理能力が違う気がする。

 まるで、歴史の授業で教わったどこかの偉人のようだ。


「そういえば一花ちゃんは、お姉ちゃんとどこで出会ったの〜?」


 琴音がそう問いかけてくる。


「いや〜、もう最悪な出会い方ですよ。今思い出しても嫌になりますね」

「えー、気になる〜。聞きたい聞きたい!」

「それがですね。出会って一日目で、いきなり襲われて――」


 私は、あの日のことを語った。

 初日レ◯プに始まり、脅迫、そして私の身体が金で取引されるような関係へと変わっていったことまで。

 もう慣れた話だったし、兄に話したときは馬鹿みたいに笑っていた内容だ。


 だから問題ないと思っていた。

 聞く側がどう思うかなんて、あまり深く考えていなかった。


 だが――琴音の表情が、ゆっくりと変わっていく。


 さっきまでの楽しげな笑顔が、嘘のように静かに沈んでいくのが分かった。


「それで――」


 語り続けようとしたところで、彼女の声がふいに割り込む。


「……一花ちゃん、もういいよ」

「えっ……?」


 その声は、さっきまでとはまるで違った。

 どこか冷たく、けれど必死に感情を抑えているような音色。


「ごめん。ちょっと、お父さんたちに話さないといけないことができたから……席、外すね」

「……あ、はい」


 彼女は立ち上がり、何も言わずに部屋を出ていく。


「あの……百合園さん?」

「なんだ」

「私、なにか知らないうちに、悪い事でも言ってたのでしょうか? やっぱり九条さんの事を悪く言い過ぎたみたいな……」


 私には何がどうして、あんな顔で部屋を出ていったのか分からない。


「いやいや、君の話はとても良かった。私や太陽のような人間であれば、間違いなくウケている内容だったよ」

「……そう、ですか」


 じゃあ、何が原因で……


「ただ、私達のようなタイプはまだ少数派だ。あの子――琴音は、多少人の悪口を言うような子ではあるが、根は正義感の強い子だ」

「…………」

「君はあの子との関わりが少ないだろうが、何か一つくらいは印象的な出来事があるんじゃないかね?」


 覚えは……ある。

 と言っても、病室からの脱走を咎められたくらいだが。


「今回悪かった点は、人とのコミュニケーション不足に尽きる。言葉にしていいラインを大きく越えたのが、ああなった要因だ」


 そう……なんだ。

 最悪だ。こんな大事な場面で、私の未熟さが露呈するなんて。

 ……でも、これは最初から九条さんの食事事情を、百合園さんがしっかりと親御さんに伝えていれば良かったのでは?

 いや、それは無理か。

 聞いている状況的には、この家族もかなり切迫詰まっていただろうし、食性が判明したのは私が襲われる前日って聞いているのだから。


「……私が悪いっていうのは、よく分かりました」

 

 ……確か琴音は『お父さん達に話すことある』と、言っていた。

 それって、今の話の流れをそのまま親に……?

 

 なら、とりあえず九条さんが帰ってくるまでに、どうにかしなければならない。

 今すぐ追いかけて、琴音が全貌を話す前に、この部屋に引き戻せば間に合うだろうか?


 ……私は立ち上がろうとして――その瞬間、冷ややかな声が降ってきた。


「さて、大空一花さん――君の考えている事は大体予想できる。だが、もう手遅れだ」


 私は立ち止まり、振り返る。

 

「手遅れって……どういう意味ですか?」

「既に琴音は、件の一連を語り始めている。私の本体を無視してね。それに――九条一花さんも、ちょうど帰宅したところだ」

「――っ!」


 脳が一瞬、思考停止する。

 今、このタイミングで、九条さんが帰ってきた?

 よりにもよって最悪の瞬間に?


「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!! 百合園さんが目の前にいるんですよね!? だったら琴音を止めてくださいよ!! 今止めなきゃ、大変なことになりますって!!」


 思わず叫ぶ。


 だが、百合園さんは少しも動じなかった。

 声の抑揚すら変えずに、淡々と告げる。

 

「私はどうもしない。これは君の判断の結果であり、君自身の痛みだ。状況を変えたいのなら――君自身が動くんだな」


 ……そうだ。

 彼女はこういう事を言う人だった。

 

 行かないという選択肢なんて、最初から存在しない。


 私は座布団を蹴るようにして立ち上がる。

 ためらいは、最初の一歩で捨てた。

 襖を開け、音も立てずに廊下を駆け抜けていく。

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