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転校生の女の子にぐちゃぐちゃに抱かれた挙句、体を買われるハメになったけど!心だけは絶対に屈しない!!  作者: 中毒のRemi


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第31話 恩返しはほどほどに

 そして、その日から。


 九条さんは、ほぼ毎日、放課後になると当然のように私の家へやってきて、当然のように家事をしていった。


 玄関を開ければ、彼女が先に入ってスリッパを差し出してくるし、台所に入れば、私の口出しを許さずに冷蔵庫と相談しながら夕飯の献立を決めていた。

 洗濯物を畳んでいる姿も、風呂場の排水溝にゴム手袋で立ち向かう背中も、やけに手慣れていて……

 もうなんか怖くなってくる。

 後で色々と請求されたりしそうで。


 ――どうしてこうなったのか。


 思わず問いかけたくなるけれど、問いかけたところで、彼女の口から返ってくるのは決まってひとこと。


「恩返ししてるだけだから」


 だったらもう少し遠慮してくれてもいいのに、と思う。

 けれど、九条さんの「善意」は、本人にとっては至極まっとうな義務感らしく、逆にこちらが何かを申し訳なく感じさせられるという理不尽な構造になっていた。


 最初のうちは「今日は大丈夫です」と丁重に断っていたのに、三日目にはもう私の方が折れた。

 というより、黙っていても彼女は玄関の鍵を開けて(いつの間にかスペアキーを持っていた)、「おじゃましまーす」と挨拶しながら家に上がってくるようになったのだ。


 しかも家事だけではなく、食後には紅茶を淹れたり、私が溜めていたプリント整理までしてくれたりする。


 ……いや、ちょっと待ってほしい。

 どこまでやる気なんだ。


 そう何度も思ったけれど、疲れ切った体にはその手際の良さが染み込んでいく。

 自分が一人だった頃より生活水準が高くなっていることに、ある種の敗北感を抱く日々だった。


 こんな生活が長く続くと、彼女無しで生きる事が出来なくなってしまうので、ここら辺で切っておかないと非常にまずくなりそうだ。


「く、九条さん……」


 私は料理中の九条さんに話しかける。

 

「ん? どうかした?」


 振り返ったその顔には、いつもの柔らかな笑み。

 でも今は、正面からそれを見返すのが少しだけ怖い。

 

「その、非常に言いにくいんですけど、私のお腹の傷もほぼ完治しましたし、もう毎日家事しに来なくても大丈夫ですよ」


 一拍、間が空いた。

 

「…………私の家事、下手だった?」


 くるりと返ってきた言葉に、私は目を見開き、息を飲む。

 

「いや、ちょっと待ってください!? 流石に今回は私がどう思ってるかなんて、分かってて言ってますよね?!」

「ふふ……勿論分かってるよ」


 冗談めかした声に、私は肩の力を抜いてため息をついた。

 

「だったらそのタチの悪い返しをやめて下さい。……私の心臓に悪いだけじゃないですか」

「ごめんごめん。でもね、これは私が好きでやってるの。だから今さら“もう来なくていい”なんて言われたら、私のほうが困っちゃう」

「家事の何が楽しいんですか。面倒くさいだけでしょうに……」


 恩返しという名目でこんな雑事をやらさせているのに、どこをどう楽しむ要素があるのだろう。

 私には全く理解できない感性だ。

 

 九条さんは思わず漏れた私のそんなぼやきに、首を横に振った。

 

「ううん、楽しいよ――出来るだけ長い時間、一花と一緒にいれる口実になるから。凄く楽しい」


 その言葉は、まっすぐに胸の内へ届いてきた。

 どこにも力はないけれど、優しくて、逃げ場がない。


 理由は分からないけど、視線を合わせるのが、少しだけ怖くなった。

 何かを返す言葉が見つからなくて、私はそっと視線を逸らす。


 そして静かにソファへと戻り、身を沈めた。

 スマホの画面をなんとなく開いてみるものの、目はほとんど追いついていない。


 キッチンからは、まな板を叩く音と、包丁のリズム。

 九条さんの動く足音が、遠すぎず、近すぎずに続いていた。

 

 そんな中、不意にスマホが震えた。

 画面を見ると、表示された名前に目が止まる。


 ――「琴音」


 まさか、と思いながら開くと、一通のメッセージが届いていた。


『一花ちゃん、明日休みだよね? 良かったら家に来なよ』


 ……え?


 九条さんの妹――琴音さんからのお誘い。

 予想外すぎて、指が止まる。

 けれど、それ以上に気になることがあった。


 どうして、私の連絡先を……。


 ……考えるまでもないか。

 順当にいけば、提供元は一人しかいない。

 いや、百合園さんのことを紀玲ちゃん呼びしていたから、その線もあるか。

 

 勝手に教えられたことに多少の引っかかりはあるけれど、妙に断る理由もないし、人の家に遊びに行くという経験をした事がないので良い機会かもしれない。


『分かりました。行きます』


 そう返すと、画面を伏せて、静かに息をついた。



 ---

 


 そして次の日の朝。


 朝早くから家を出て、九条さんの家に向かう。

 スマホに表示された住所を頼りに、私は住宅街を歩いていた。


「……え、ここ……?」


 表示された目的地の前で足が止まる。


 まるで一軒の屋敷。

 門構えはしっかりしていて、周囲の住宅と比べても一際大きい。

 敷地も広く、手入れの行き届いた植栽と、玄関先まで続く石畳のアプローチが視界に広がっていた。


 ここが……九条さんの家?


 改めて封筒の中の五万円を思い出す。

 初めて“あの日”に彼女が置いていった、あの金額の意味。


 ――なるほど。

 確かにあの時点で気づくべきだった。

 九条さんの家は、お金持ちの家だったのだ。

 初手でおかしな金額を叩きつけてきた理由も、これでよく理解できた。


 妙に納得しながら、私はスマホを取り出して琴音さんにL◯NEを送る。


 『今つきました』


 送信からほんの数秒。既読がついた直後――


「一花ちゃんっ!!」


 ガチャリと門が開き、勢いよく飛び出してきたのは、私服姿の琴音さんだった。


 ゆるく結んだ髪に、ラフなニットとスカート。

 この前見た姿とはまた違い、柔らかく軽やかな雰囲気をまとっている。


「やっほー! 病院ぶり〜?」


 彼女は笑顔で駆け寄ってくると、迷いなく私の目の前に立つ。


「私は関係者じゃないからお見舞い行けなかったけど、もうお腹大丈夫? ね、見せてよ」


 え? と声を出す間もなく、彼女の手が私の服に伸びてくる。


「ちょっ……ちょっと待ってください! ここ外です! 通行人とか……!」

「えへ、ごめ〜ん。じゃ、早く中入ろっか♪」


 全く悪びれる様子もなく、彼女は私の手を取って引っ張る。

 私はまだ玄関に足を踏み入れてすらいないというのに、半ば強引に屋敷の中へと連れ込まれていった。




 ---



 


 屋敷の中へ入った瞬間、空気が変わった。


 天井は高く、湿度を感じさせない涼やかな空気が肌を撫でる。

 足音は吸い込まれるように沈み、玄関ホールに響く音はほとんどなかった。

 磨き込まれた無垢の床、天井の意匠に沿って並ぶ照明、壁際には丹念に剪定された観葉植物。

 どこか寺社の拝観施設にも似た静けさと格調が漂っていた。


 こんな場所に、私は本当に招かれてしまったのだろうか。

 靴の脱ぎ方すら、どこか躊躇ってしまう。


 琴音はというと、そんな緊張感などまるで存在しないかのように、軽やかに靴を脱ぎ、先に廊下を進んでいった。

 私はあわてて後を追う。


「……あ、あの、琴音さん?」

「ん?」

「その……私、琴音さんのご家族の方に挨拶とか……しなくて大丈夫なんでしょうか?」


 初めて家に招かれたのなら、本来ならご両親にきちんと挨拶をして、迷惑をかけないように礼儀を尽くすべき――常識的には、そういうものだと思っていた。


 けれど琴音さんは、振り返って小首を傾げると、あっけらかんと笑って言った。


「なにそれ〜。別にそんなのしなくて良いでしょ? もしかして、一花ちゃん、友達の家に来るの初めてだったりする?」

「…………」


 反論はできなかった。

 図星だったからだ。


 だけど、年下の彼女にそれを認めるのは、なんとなく、歳上としての沽券に関わる気がして、私は口をつぐむ。

 琴音がじっとこちらを見ている気配を感じながらも、無言のまま靴を揃えた。


 その瞬間だった。ポケットの中のスマートフォンが震える。


 画面に表示された名前を見て、心臓が一瞬跳ねる。


 ――九条桃音。


 着信に応じると、すぐに、やや興奮気味の声が耳に飛び込んできた。


「なんで家じゃなくて、そこにいるの? Wowで位置確認してびっくりしたんだけど!」


 ……しまった。


 すっかり忘れていた。

 九条さん本人に、九条家にお邪魔することを伝えていなかった。


 てっきり、妹の琴音から話が通っているものだとばかり思い込んでいた。

 だが、どうやらそれは私の早とちりだったようだ。


 ……これはつまり、私と九条さんですれ違ったということになるのだろうか。

 Wowを開いて位置を確認すると、やはり九条さんは私の家にいた。


「す、すみません。完全に伝え忘れてました……」

「もう……! そういうのは、ちゃんと先に言ってってば。少ししたら私もそっちに戻るから」

「……はい。気をつけて」


 通話が切れると、隣で聞いていた琴音が、ケラケラと笑いながら言った。


「お姉ちゃん、けっこう驚いてたね」

「……まぁ、こっちが伝えてなかったですから」

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